2015
08.16

「Jealousy」

かなり久しぶりの更新です!こんなこともエッジとリディアにあるんじゃないかな~と思って書きました。但しお館様の過去を捏造&R-18です。苦手な方は御遠慮下さい。






「Jealousy」








「あ~、リディア…どうしたら許してくれるんだよ…。」
「何故にこんなものを残していらっしゃったのですか!奥方様がご覧になったらご立腹されることぐらい予想できたでしょうに!」
「んな事言われたってよ…まさか残ってるなんてよ…。」





執務室で家老に窘められるエッジの机の上には、男性用のエブラーナの御守りと1通の手紙。







昨日のこと―――







「リディア、行ってくるぜ。」
「うん…行ってらっしゃい。」


今日はエッジが朝から公務で他国へ赴くため、城を1日留守にする。見送りに城門まで来たリディアは、彼の顔を見上げながらじっと見つめていた。自分を少し寂しげな表情で見つめる妻が愛おしくて、エッジの手は自然と彼女の背中と腰に回る。


「やだぁ…エッジ。」
「んだよ、お前がこうしろって顔するからじゃねぇか。」


家臣や衛兵達がいる前でぎゅっと抱き寄せられ、恥ずかしくて思わず夫の胸に顔を埋めるが、その姿がまた初々しくて、これから仕事だというのにエッジの胸は高鳴ってゆく。


「リディア…勘弁してくれよ。仕事行けねぇじゃねぇか。」
「バカ。」


自分への想いを耳元で囁かれ、愛される女の悦びと羞恥心が入り混じる。


「…行かなくていいの?」
「行くけどよ…」


もう出発しなければ仕事に間に合わないというのに、リディアを抱きしめるエッジの腕の力は弱まらない。リディアは思い切ってエッジの胸から顔を離し、彼を仕事へ送り出そうとする。エブラーナ王妃として、国王である夫への他国からの信頼を壊すわけにはいかない。



「リディア…。」
「早く行かないと…遅れちゃうよ?」


早く仕事に行けと促され、頭を掻きながらふーと大きく息をつくと、ついさっきまで愛する妻を胸に抱いて緩んでいたエッジの表情は、精悍な忍びの国の王のものに切り替わる。


「…じゃあ、行ってくる。」
「うん。気を付けてね。」
「おぅ…。そういや昨日言った仕事、頼んだぜ?」
「大丈夫よ、こないだちゃんと教えてもらったから。」
「そうか。…夕方には帰ってくるから、夜は覚悟しろよ?」
「もうっ…。」



エッジが仕事で城にいなかった日の夜は、そうでない日と比べると一層熱いものとなる。今夜もそうなることを想像してしまい、リディアの頬は赤みを帯びる。そんな姿を見たエッジの口元は緩み、ふっと笑う声が漏れる。


「じゃあ…行ってくる。」
「うん…。」







仕事へと向かう夫の背中を見送ったリディアは執務室の椅子に座り、仕事を始める。しかし、少し進めたところで必要な資料が揃っていないことに気が付いた。


「えーと、ここだったかしら?」


執務室にある本棚を覗いたり、引き出しをいくつか開けてみるが、目的の資料は見つからない。



「ん~、どこだったかしら…エッジにちゃんと聞いておけばよかったなぁ…。」



資料の在り処をあやふやにしか把握していなかったことを後悔しながら探し続けるリディア。そして大きな本棚の下部にある引き出しを何となしに開けてみると…



「あ!あった…!はぁ…見つかってよかったぁ。」


やっと目的の資料を発見し、これで何とか夫が帰ってくるまでに仕事を仕上げられそうだと安心するリディア。すると…



(この箱は…?)


引き出しの資料の間に、挟まるように入り込んでいる小さな木箱。濃紺の絹の紐で括られたその箱は、おそらく桐でできているのだろう。安物の木箱には決してない重厚さと気品が漂っているように感じられる。


木箱を手に取り、紐を解いて蓋を開けてみると、そこには深みのある青色の布地に金と銀の刺繍が入ったエブラーナの御守り。


(この色は…エッジの御守り?)


エブラーナでは御守りを持つことで神の加護を受けることができ、悪しき事から守られると信じられている。近年はそういった信仰は薄れているものの、少し前までは多くの者たちが御守りを所持し、身の安全を祈っていたのだ。



木箱からそっと御守りを取り出し、それを眺めるリディア。何と無く高貴な白檀の香りがしてくるようである。そして箱の蓋の裏側には三つ折りにされた高級な和紙。



「手紙かしら…。」



蓋の裏にある切れ込みにセットされた小さな文をそっと取り出し、広げてみると…



『親愛なるエドワード様

いつまでも貴方様と御一緒できることを願い、この守りを贈ります。』




文章の終わりには、リディアの知らない女性の名前。




寒気のような衝撃が、リディアの全身を走り出す。とても整った字で書かれたその文は、上品なエブラーナの女性が書いたのだと思わせるのに十分だった。文を持つリディアの手が微かに震え出し、胸の奥からふつふつと不快な感情が湧いてくる。









*****



「お館様、お帰りなさいませ!」

「おぅ、ご苦労さん。…あれ、リディアはいねぇのか?」

「奥方様にはお館様がもうすぐお戻りだとお伝えしたのですが…。」

「ん…そうか。」




エッジはリディアがいるであろう執務室へエッジは執務室へと向かう。そしてドアを開けると、愛しの妻の後ろ姿が目に入って来た。


「リディア~、ただいま~。」


甘えた声を出して後ろから妻をギュッと抱きすくめ、柔らかな緑の髪から香る優しい匂いを堪能する。


「あぁ~、いい匂い…たまんねぇなぁ~、ぐふふふふ。」


執務室に家臣が誰もいないことをいいことに、エッジは手をするするとリディアの胸のふくらみへと伸ばしていった。


「…何するのよ。」

「ん~?」


低い声で発されたリディアの一言は、何やらただならぬものを感じさせるには十分だった。しかし仕事を終えた後の妻の温もりの格別さに支配されたエッジの思考はあまり機能せず、そのまま柔らかなふくらみを撫で回す。



「…リールって、誰?」

「…へ?」



聞き覚えのある女性の名前を聞き、エッジの手は漸く動きを止めた。







(リールって…まさかあの…?いや待てよ、何でリディアが知ってるんだ?)







思いがけないリディアからの一言に、何があったのかとエッジの思考は急速に回りだす。



「えーと…リディア、お前何で…」
「これ、どういうこと?」
「?」



やっとエッジの方を向いたリディアの手にある御守りと手紙。手紙を手に取って読んだエッジは突然ハッとして切れ長の目を見開いた。



「こ、これは…!」



リディアの方を見ると、普段は愛らしい翡翠色のぱっちりとした瞳はエッジを睨みつけていた。彼女がそうしている理由を察したエッジは訳を話そうと口を開く。


「これは昔付き合ってた女がくれたんだけどよ、決して未練があるとかじゃねえぞ?リールは…」


リディアと出会う、何年も前の昔の彼女。やや気まずい思いをしつつも何もやましいことはないのだから、堂々と説明をしようとするエッジだが、リディアが先ほどよりも殺気立っていることに気付き、思わず話を中断してしまう。




「…何黙ってるの?」

「いや、その…そんな怒るなよ…。リールはさ、俺に…」



さらに殺気を増す妻を前に、話ができなくなるエッジ。やましいことがないのなら、何故スムーズに説明できないのかと勘繰るリディアの表情は険しく、ますますエッジは委縮し、言葉が出なくなってしまうという悪循環に陥っていく。



「あ、あの…リディア?」
「…。」


リディアは黙って俯き、エッジから視線を逸らすと身体の向きを変えてしまった。さすがに危機感を感じたエッジは、恐る恐るリディアを背後からそっと抱きしめる。




「リディア…あのさ、聞いてくれ。リールと付き合ってたのは事実だけどよ、もう20年以上も前の話で、お前と出会う前に関係は終わってたんだ。だから…」


だから何らやましいことはないのだが、現実は彼女がくれたものが残っている。いくら何もないと言われようと、その事実はリディアに不快な感情を呼び起こさせてしまう。





「…だから何?」


可愛い声がすっかり威圧感を含み、エッジは思わず後退りする。幾多の戦火を切り抜けてきた忍びの一族の長が唯一恐れている爆弾が、今まさに爆発しようとしている。


「え、えーと…いや、すまねぇ、リディア。」


エッジにしたら、妻を怒らせてしまったことを詫びるしかない。だがリディアはそんな夫とは視線を合わせず、自分の仕事道具をさっさと手に持ち、執務室を出て行ってしまった。



「お、おいリディア…!」




自分の名を呼ぶ夫には目もくれず、執務室から遠ざかっていくリディア。今までに何度も喧嘩はしてきたが、他の女性が原因となったことはなかったため、リディア自身もどう思いをぶつければいいのか分からない現実。エッジの方も、若かりし頃は多くの女性を見てきたものの、リディアと恋仲になってからは彼女一筋。本気で惚れ込んだがためにすっかり不器用になってしまい、どう対処したものか分からず、右往左往する始末。













その夜―――









(リディア…まだ起きてるよな?)



早めに仕事をひと段落させ、湯浴みを済ませて妻のいる寝室へと急ぐエッジ。夕食もリディアが別室で食べたいと申し出ていたため、話すチャンスがないままこの時間となってしまった。




(あれ?)


部屋の中はすっかり暗い。いつもならエッジが遅くなってもついているはずのベッドサイドの明かりすら消えている。忍びとして暗い中でも見えるように訓練はされているから困ることはないのだが、普段とは違うシチュエーションがエッジを何となく身震いさせる。



大きな音を立てないようにベッドに上がると、リディアはエッジに背中を向けた状態だった。特に指示されたわけでもないのに、正座してしまったエッジは、妻の背中と向き合う。そして…





「リディア…もう寝ちまったか?」


絶妙に張り詰めた雰囲気の中、思い切って声をかける。何とかして仲直りするきっかけを作りたい。





「あのさ、今日の昼間のことだけどよ、例の手紙と御守りは別に残そうと思って残してたわけじゃねえし、ましてお前以外の女と遊んでるなんてことは一切ないからな?あんなもんが残ってるなんて俺もびっくりした。もう俺には必要ないし、処分する。それでよ…」




何の反応もないリディアの背中を前に、何をどう言えば分からなくなってきたエッジ。徐々に語気が弱まり、言葉に詰まってしまった。暫し正座したまま首を項垂れた後、どうしようもなくなって布団の中に潜り込むしかなかった。




(そうだ!明日は公務でトロイアに行くから…)









******




「ではエドワード陛下、お気を付けてお帰り下さいませ。」
「おぅ、また次回よろしくな。」



翌日正午前、早々に外交の仕事を終え、トロイアの神官達に見送られて城を後にし、城下町を歩くエッジの足は、トロイアで1番の品揃えを誇るジュエリーショップへと向かう。



「いらっしゃいませ…あら、これはエブラーナのエドワード陛下!」
「よぅ。…あのさ、大陸の女の人の間で流行ってるアクセサリーがあったら見せてくれねぇか?」
「ありがとうございます。こちらはいかがでしょうか?バロンの御婦人達にも人気ですのよ。」









(よーし、これで準備万端だ…。)



帰りの飛空挺に向かうエッジの手には、ジュエリーショップで購入したネックレスが入った箱に、大陸産の紅茶とクッキーが入った紙袋。すると…




「きゃー!エブラーナのエドワード様よー!!」



俗にいう黄色い声が耳に入り、何事かと振り向いたエッジの目の前には、昼間から客引きをする、かの有名な会員制パブ・「王様」の女性店員達。エッジに群がる女性達からは、強烈な香水の香りがプンプン。慣れない女の香りに、忍びの長は顔を顰めてしまった。


「エドワード様ぁ、せっかくトロイアにお越しになったのに、もう帰っちゃうんですかぁ?」
「私達とお茶でもいかがですか?うふふ…」



バッチリ化粧に露出の多い服装の若い女性達に擦り寄られ、逃げ場を失うエッジ。男ならば普通は喜ぶシチュエーションだが、今のエッジには非常に困る状況。一刻も早く帰ってリディアと仲直りしたいのに、ここで時間を食ってしまっては余計な疑いを招きかねない。













「あー…気持ち悪りぃ…。」


何とか女性達を振り切り、全力疾走でトロイアの郊外にある飛空艇まで辿り着いたエッジは疲労困憊状態。息切れに加え、まだ鼻に残る香水と化粧の匂いの相乗効果でエッジは吐き気を覚えた。あまりに顔色が悪いので、主君を待っていた家臣たちは何事かと心配げな表情である。


「お、お館様…いかがなされました?ご体調でも悪いのでは…。」
「!い、いや大丈夫だ!それより早く出発してくれ…。」
「???はぁ…では離陸いたします。」









(ふ~…)


飛空艇のプロペラ音が響き、空高く飛空艇が舞い上がると、鼻からすっと入ってくる上空の空気がエッジの全身を晴れやかに浄化してくれるようだった。最早リディアの優しい香りに慣れたエッジに、こなれた女の匂いは耐え難い。昔ならば女の匂いがする場所へと繰り出していたというのに、自分も落ち着いてしまったものだと、飛空艇の甲板でしみじみとするエブラーナ国王の脳裏に浮かぶのは、リディアの花のような笑顔。





(リディア…待ってろよ。)


トロイアのジュエリーショップで買ったのは、エメラルドのネックレス。ダイヤモンドのネックレスを勧められたが、リディアが気に入るものをと考えたエッジは、エメラルドを選んだ。きっとリディアは喜ぶに違いない、そう確信するエッジの足取りは軽く、エブラーナ城に着くと挨拶する兵士や家臣達を尻目に颯爽と妻の元へと向かう。



「リディア、ただいま!」



意気揚々と執務室のドアを開けるが、そこは無人だった。肩透かしを食らったような気分になるエッジだが、妻と仲直りするためにはこの程度で気落ちするわけがない。おそらくリディアは気まずくて、自分とあまり顔を合わさないように別室にいるのだろう。すぐさま執務室を出て、そこから数部屋離れた書斎へと向かう。







(よし、あいつの気配がするから間違いない。)


部屋の前で深呼吸し、ドアをノックすると…


「はぁい。」


昨日からまともにリディアと会話ができていないエッジの耳に、彼女の可愛い声は大きく響く。



「リディア、ただいま!」


ドアが開き、リディアの姿が見えた瞬間、満面の笑みを浮かべるエッジは両腕で彼女の華奢な背中を包み込み、自分の胸元へと抱き寄せる。エッジにとって一番落ち着く香りがすっと全身を駆け巡り、色白のおでこや頬、瞼や耳の後ろにちゅ、ちゅ、とキスを降らせた後、ゆっくりと息を吸い、愛する妻の香りを堪能する。


「リディア、お前が好きだって言ってたクッキーと紅茶買ってきたんだ。丁度3時回ったとこだし、一緒に食おうぜ。それと、これはお前にプレゼントだ。大陸で流行ってるデザインなんだってよ。着けてやるから、後ろ向い…」

「…の匂いがする。」
「んっ??」




小さいが、怒りのこもった声に、エッジは一瞬にして固まった。


「エッジ、女の匂いがする…。」



(あの女どもの香水の匂いか…!)




リディアの言っていることを理解したエッジの全身からは、冷や汗が吹き出す。服に付いていた匂いの原因にもちろんやましいことはないが、またしても妻が機嫌を損ねる失態を犯してしまったエッジの全身に寒気が走り出す。事情を説明しようと考えたものの、激しく回転するエブラーナ国王の思考回路には、余計な疑いを生むかもしれないという懸念が浮上し、結局何も言えずに黙ってしまった。



「…トロイアに行ってたんだもんね。」



完全に自分の行動が裏目に出てしまっていることを物語るリディアの一言。石のように固まってしまったエッジからすっと離れるリディアは俯いており、表情を窺い知ることができない。







(あぁ…何でこうなるんだよ…。)



違う部屋へと移動してしまったリディアを追う力もなく、とぼとぼと執務室に戻ったエッジ。そこにいた家老に事情を聞かれ、お説教をくらったのである。



「長年お想いだった奥方様とやっと夫婦になったというのに…離縁にでもなったら、じいは自害いたしますぞ!」
「おいおい、気が早いって!何とかするから大丈夫だよ…。」




とは言ったものの、リディアはあからさまに自分を避けている。どうにかして話し合うチャンスをもてないかと思案したエッジが思い付いたのは…




(くそ~、こうなったら強行手段だな…。)














「ふー…。」



湯浴みを済ませ、ゆっくりと寝室への階段を上るリディア。今夜も夕食は別々に食べたため、エッジが今どうしているのか分からない。彼は必死で仲直りしようとしているようだが、簡単に許したくないという嫉妬心からか、今はまだあまり口を聞く気になれない。エッジが寝室に来る前に寝てしまおうと思いながら寝室のドアを開けると…



「よ、リディア。待ってたぜ。」


ベッドに寝そべっていたのは、いつもはリディアより遅く寝室にやって来るのがお決まりのエッジ。



「ほら、早く来いよ。寒いだろ?」



顔を背けてその場に立ち尽くしていると、夫は身体を起こし、腕を広げてリディアを優しく招く。



「リディア、こっち来いって。」



エッジの行動に、嫉妬で頑なになっていたリディアの心身は少し緩んだ感があった。しかし簡単に許したくないという気持ちがまだ働いていて、なかなかリディアの足はベッドへと向かおうとしない。



「…ったく、手のかかる奴だなぁ。」


エッジはドアの近くから動こうとしないリディアの元へと行き、さっと横抱きしてベッドへと戻り歩いた。



「ちょ、ちょっとエッジ…!」
「あんなとこに突っ立ってたら風邪ひくじゃねーか。布団あっためてあるからよ。」



ベッドにそっと下ろされると、目の前に座るエッジの深い色の瞳がじっと見つめてきた。





「…。」



気まずくて、リディアは顔を背けると同時に、座ったまま身体の向きも変え、エッジと目を合わさない姿勢を取った。エッジがふー、と息をつくのが聞こえたと思ったその時…



「リディア…。」





背中がエッジの体温にそっと包まれ、大きな両手がリディアの身体の前で緩く交差する。いつもならきつく抱き締められ、熱く深い口づけのひとつでも交わされるが、リディアが動こうと思えば動けるほどの優しい力加減。決して自分の気持ちを無理強いしない、そんなエッジの気遣いが伝わってくるようで、全身が温かい何かでふわりと包まれ、嫉妬と疑いの鎖で縛られていた心は確実に解放されてゆく。



「リディア…。」




再び名を呼ばれ、耳にエッジの穏やかな吐息がかかる。その微かな温もりに反応するように、リディアは僅かに視線をエッジに向けた。



「んっ…。」



色白のきめ細かい頬に、エッジの唇がそっと触れる。ほんの数秒ののち、リディアはようやく肩越しにエッジと視線を合わせた。



「…やっとお前の顔が見れた。」


リディアの視界に入ったのは、嬉しそうに微笑むエッジ。





「…身体ごとこっちに向いてくれよ。」



少し俯き気味に、いつもより弱めの声で妻にお願いするエッジ。その様子からは、今回の1件を許してもらえるのか不安な彼の心情が見て取れる。黙って少しずつリディアがエッジの方に身体を向けると、忍刀のような切れ長の彼の目は、しっかりとリディアの翡翠色の瞳を捉える。そして数秒間の沈黙を破ったのは…



「リディア、俺は断じて、浮気はしてねぇ。」



先程とは全く異なる声のトーンでそう言い切るエッジの表情は、とても真剣。その疑う余地のない正々堂々さに、リディアはたちまち釘づけ。見つめ合うふたりの瞳は一寸のずれもなく、ぴたりと視線が合わさっていた。



「確かに俺はリールと付き合っていた。けどそれはお前と出会うずっと前の話で、20年以上前の話だ。あの御守りと手紙は、もらったことも忘れていたし、残っているのも俺は知らなかった。…まぁ、お前にしたら単なる言い訳に聞こえるんだろうけどよ。」



エッジのしっかりとした口調に、リディアはただ黙って頷いた。



「それと、今日帰って来た時に女の匂いがしたのは、トロイアのパブの姉ちゃん達に絡まれたからなんだよ。ほら、あの王様って名前のでっかいとこ。仕事でトロイアにはちょくちょく行ってるから、どうやら顔を覚えられちまったみたいでさ。逃げるの大変だったぞ~。」



苦笑するエッジに、リディアは何となく口元が緩むような気がした。女の扱いに慣れているであろう夫が、こんな不器用な一面を見せるなんて、何となく愛おしく感じられる。





「…もう1つ言っておくと、リールはもうこの世にはいねぇんだ。」




予想外の夫の言葉に、リディアのぱっちりとした翡翠色の瞳は驚きを隠せなかった。



「…そう、なの?」



「あぁ。付き合って1年ぐらいたった頃、めっきり姿を見せなくなったんだ。あの子はエブラーナ貴族の娘だったし、その一族の関係者に聞いたら、病で伏せっているって。見舞いに行った時は、もう長くはないって聞かされてよ。あの時はまだ若かったし、そんな真剣に付き合ってたわけじゃねぇけど、さすがに一大事だって思ったな。」



全く知らなかった夫の過去に、リディアは驚きつつも耳を傾け続ける。



「見舞いに来た俺の姿を見た途端、病気で苦しそうな表情が一変してすげぇ嬉しそうな顔してたな。」





“エドワード様、私はいつまでも貴方様の幸せを祈っています―――”









その2日後、リールが亡くなったという知らせがエッジの元に届いた。















「…こいつが残ってたってことは、病気で死にそうになっても俺の事を気にかけててくれてた子にもらったもんを捨てるのはさすがに気が引けちまったのかもな。」




そう言ってエッジが懐から取り出したのは、あの桐の箱。



「…持ってきたんだ。」
「おぅ。…お前の手で、こいつを焼いてくれよ。」
「え??焼くって…」



エッジの言っている意味がよく分からずに戸惑っていると、桐の箱がそっとリディアの手に乗せられた。


「こないだ神社で破魔矢を焼いてたの見ただろ?あーいう縁起物は捨てずに焚き上げるんだ。…こいつを神社に持って行くのは大袈裟な気がするし、お前の手で焚き上げてもらったらいいかなって思って。」



今の俺には、お前がいる



だからリディア、その手で焚き上げて欲しい







「…いいの?木と紙だし、焼いちゃったら何も残らないよ?」


大陸育ちのリディアにとって、まだまだエブラーナの文化は理解できない部分があるだけに、何となく怖気付いてしまう。


「いいんだ。そうすりゃリールも浮かばれるだろうしよ。俺は今すげぇ幸せに暮らしてる、ってことでな。」


エッジの太陽のような笑顔は、今まさに彼が幸せ真っ只中であることを物語っていて、リディアは照れ臭くて少し目を逸らした。


「エッジ…?」



さっきと同じぐらいの力で、緩く優しくエッジの腕がリディアの身体を包み込むと、両頬とおでこ、鼻先にちゅ、ちゅ、と小さな音を立ててエッジの唇が触れてくる。じっとリディアを見つめる夫は、切れ長の目のせいで少し威圧感があって、真面目だけれど優しい表情。



「…焼くから、窓辺に行かせて。」



ベッドから下りて寝室のバルコニーへと向かい、窓を開けると、リディアの手のひらの桐の箱は月の光で白く照らし出された。一歩外に出たリディアが目を閉じて3秒も経たない内に、小さな火が桐の箱の端に灯る。



みるみる橙色の光に包まれた箱は原型を失い、小さな灰となって細い煙と共に天へと登っていく。その様子を見ながら、エッジはリディアの元へと歩み寄って行った。



燃えるところが無くなって、自然と橙色の光は消え去り、リディアの手のひらに残ったのは、数片の残骸。


「エッジ…焼いたわよ。」


リディアが背後にいるエッジの方を向いた途端、緩やかな風が華奢な手のひらの上をひゅうっと通る。


「あっ…。」


あっという間に風に攫われていった残骸。決して強くない、ふわりとした風だったが、燃え残った木と紙の欠片を吹き飛ばすには十分なものだった。


「…飛んでっちゃったね。」
「あぁ。」


喧嘩する原因となった過去の思い出は、風と共に天に召された。やや複雑そうな表情で見つめてくるリディアを、エッジは両腕でしっかりと抱きしめる。どう反応して良いか分からず、エッジの胸に顔を埋めると、大きな手がリディアの緑の柔らかな髪を撫でてくる。


「…そうだ、肝心な事を言ってなかったな。」


そう言って髪を撫でる手を止め、リディアの顔をじっと見つめる。夜の帳の中、月の光が優しく降り注ぐバルコニーで、エッジがゆっくりと口を開く。


「リディア、嫌な思いさせちまってごめんな。」


まだいくらかリディアの中に残っていた不快な感情は、エッジの真っ直ぐな言葉と視線を前に、すっと消え失せていった。代わりに何かとても心地良く、むずかゆい様な感情が湧いてきて、頰は少し薄紅色を帯びる。彼に対する言葉も浮かばず、ただ小ぶりの唇を微かに動かす。



エッジの腕に力が入ったのを感じた直後、優しくほっとする柔らかい感触が唇を温かく包み込んでいるのに気が付いた。ついさっきまで口を聞きたくなかった夫の口づけに、全身の力が忽ち抜けていってしまう。だんだんとリディアの唇を吸い上げるような力が加わってきて、鼻で呼吸していると、エッジの抱き寄せる力がぐっと増した。それとほぼ同時に、リディアの細い手はエッジの胸元にきゅっとしがみつく。


「はぁ…。」


長い長い口づけを終え、息を整えながら見つめ合っていると、お互いに口元が緩み、自然と笑い声が漏れ出す。


「もう~、苦しかったぁ。」
「何だよ、いいじゃねぇか。」


文句を言うふたりの表情は笑顔でいっぱい。エッジもリディアも、両腕を相手の背中に回し、しっかりと身体をくっつけて、愛おしい体温を感じ合う。


「…そうだリディア、今日トロイアで買ってきたネックレス、着けてやるよ。」


ベッドサイドのテーブルの上には、昼間見せられた箱。リディアが小さく頷くのを見たエッジは、彼女の肩を抱いて、夜の光で青白く照らされるバルコニーからベッドへと移動した。


「リディア、後ろ向いてくれ。」


エッジに背を向け、ネックレスを着けやすいようにと、長い緑の髪を束ねて左肩へと流した。緑の髪と色白のうなじがベッドサイドの明かりに照らされるその光景は神秘的で、尚且つ妖艶な雰囲気を醸し出す。


「…綺麗だ。」


まだネックレスを着けていないのに発された言葉に、リディアはふっと笑みをこぼす。箱からネックレスを出し、金具を留めると、エッジはリディアのうなじを舌でべろりと舐め上げた。


「やっ…!」


エッジの舌の感触に、思わずビクリとして軽く跳ね上がるリディアの身体。耳元でくくっと笑われたので、振り向いて文句のひとつでも言おうとしたら、背後から回されたエッジの両手がリディアの寝間着の襟元を大きく広げていた。


腰紐を緩めると、リディアの寝間着は華奢な肩に沿って、きめ細かく滑らかな肌をするすると滑り落ちる。


「やぁん…。」


リディアは両腕で胸元を隠したが、肩から背中はエッジの削ぐような視線に晒され、すぐさま彼の唇が肩に触れてくる。


「あっ…や…。」


肩から背骨に沿ってキスが次々と落とされ、その度にリディアの肢体は小さく跳ねて、艶かしい吐息が漏れる。腰の方へとキスが下りてゆき、リディアの寝間着はエッジが少し引っ張るだけでするする滑り落ちていった。


腰と脇腹、二の腕にもちゅ、ちゅと小さく音を立てて、隈なくキスをしていくエッジ。優しく刺激され続け、リディアは脚の間の奥が熱くなるのを感じていた。その間、エッジの器用な指が緩んでいたリディアの腰紐を解き、隠されていた色白の素肌を露わにする。そのままベッドに横たわるよう、エッジの手がリディアを促す。うつ伏せと横寝の間に近い状態となったリディアは、胸元とベッドの間にプレゼントされたエメラルドのネックレスのチャームの硬く冷んやりとした感触があるのを感じながら、脹脛から爪先に向かってちゅ、ちゅと音を立てる柔らかな刺激が与えられているのに気付く。


爪先の後は足の甲、脛、膝、太腿へとキスが上ってゆき、だんだん下腹部にエッジの顔が近付いて来て、身体の奥がいよいよ疼き、リディアは思わず身を竦めて彼を見つめる。視線に気付いたエッジは口元が緩み、リディアを仰向けにして覆い被さるように体勢を変えた。


「何隠してんだよ?」


ちょっと意地悪そうな表情で見下ろしながら、指を絡めた両手をベッドに押し付けてくるエッジ。エメラルドのネックレスは、ツンと上を向くリディアの胸のふくらみの間で色白の肌によく映える、緑の光を湛えていた。双頭の桃色の柔らかい蕾には、刺さるようなエッジの視線。もう彼からは逃れられない。一種の危機感のようなものを感じながらもぽかぽかと心と身体が温まる様な幸せな気持ち。男女の悦びを分かち合う瞬間がもうすぐそこまで来ているのだと感じながら、リディアは彼を見つめていた。


「リディア、ネックレス似合ってるぜ。すげぇ綺麗だ…。」
「ほん、と…?あッ…!」


リディアの首筋を這い回るエッジの舌と唇。温かいような熱いような刺激に、甘い声が上がる。敏感な部分に対する刺激が堪らず、リディアはイヤイヤと言うかのように首を左右に動かす。


「リディア、嫌か?」


問いかけには答えず、悦びの世界へと近付いているいやらしい女の顔で見つめるリディアを前に、エッジはもう理性を保つ余裕がなかった。


「あんッ…!」


柔らかな胸のふくらみがエッジの大きな手で揉みしだかれ、桃色の蕾は舌で弾くように舐められる。全身が甘く淫らな快感で満たされ、それに反応して蕾は硬く立ち上がる。


「お前も限界なんだな…。我慢することねぇよ。」


何度も感じる部分を揉みしだかれ、鎖骨から下腹部まで余すところなくキスをされている間、リディアは両脚を何度も捩っては、愛撫を続けるエッジを切なげな表情で見つめ続ける。彼と目が合うと、大きな手がリディアの下着の中に入り込み、秘所を覆う小さな茂みから柔らかい裂け目に器用な指が辿り着いた。


「すげぇ…ぐっしょりだ。」


誰のせいでこうなったのか、リディアはエッジを責めてやりたい気分になる。つい小一時間程前までは彼と口も聞きたくなかったというのに、今リディアの身体は愛する男性を一刻も早く受け入れたいと言わんばかりの反応。


「あっ…やだぁエッジ…!」


下着の中で花弁を指で開かれ、露わになった花芯が指の腹で何度もなぞり上げられた。溢れ出す蜜が滑りを良くしており、快感が増してゆく。


「リディア…脱ぐか?」


自分の手業に悶える妻を、さらなる悦びの世界に導こうとするエッジの言葉。その表情は優しそうで、けれど卑猥な笑みが見て取れる。度重なる愛撫で、すっかり気怠くなってしまったリディアは少し視線を反らせたが、エッジにするりと下着を脱がされ、両脚を開かれた。



エッジもすぐに着衣を脱ぎ去り、熱く張り詰めた自身の先端をリディアの花弁に触れさせる。微かにくちゅ…という花芯が割られる音がした後、自身をしっかりと包み込む、熱く潤った道を滞りなく進んだエッジは、リディアと奥深くで結合した。


「エッジ…。」
「リディア…!」


結合したふたりは互いの名を囁き合い、唇を重ね合わせると、自然と舌が縺れ合った。熱い吐息と、ちゅぷちゅぷと淫靡な音が静かな寝室内に響き、月の光で青白いはずの夜の帳は、悦びを共有する男女の色に染まる。


「気持ち…いい…。」
「…すげぇな。」


高ぶる感情の影響か、少しでも動くと、そのまま達してしまいそうなほどの快感を伴う結合に、ふたりの鼓動が少し早まり、体温はじわりと上がった。


「んッ…ふぅ…。」


細くて白い両腕がしっかりとエッジの背中に回ると、さっきよりも濃く、熱い口づけが贈られる。角度を変えながら、もっと欲しいとばかりに唇を吸い上げ、器用に舌を口腔内に侵入させてくるエッジに、リディアは自分のそれをエッジの舌の動きに沿わせ、精一杯応えた。


「リディア…愛してる。」


いつもなら恥ずかしくて目を逸らしてしまうが、肌を合わせながらの愛の言葉は、素直に受け入れる気分になる。


「ごめんな…嫌な思いさせて…。」


真っ直ぐに見つめながら再び発される詫びの言葉。エッジの手がリディアの髪を撫で、頬を優しく擦り寄せてくる。心も身体もしっかりと繋がって、胸は高鳴り、結合部がますます熱くなるのを感じるリディアは、エッジの頬にそっとキスをした。


「リディア…!」


しっかりとリディアの細い身体を抱くと、腰を揺らして温かい彼女の内部を行き来し始める。


「あっ…あ…エッジぃッ…!」


まだ激しく動かれていないのに、いつもよりエッジのそれを感じてしまうのは、自分に対する彼の想いがそうさせているのか。秘所の奥から脳髄へ、そして全身へと快楽があっという間に支配していく。身体を揺らされ、眉間に眉が寄り、眦からは涙の粒が零れてきそうな表情が、ますますエッジの征服欲を増長させる。もう妻は自らの腕の中で乱れているのに、まだ足りない。もっと強く突き上げて、2度と出られない快楽の檻の中に閉じ込めてしまいたい。


「ひ…あぁっ…い、やッ…。」


自分の意思も何も言葉にできないぐらいに、エッジの熱く硬いそれがリディアの奥を突き上げる。激しさを増す腰の動きに、リディアは自らの思考も理性も何もかもが壊れてしまいそうだった。リディアが息絶え絶えに猥らな女の声を出すたびに蜜がエッジの動きを助長し、くちゅくちゅといやらしい音が立つ。


「はうッ…あぁぁぁぁ…ッ…!」


絶え間ない刺激でリディアの意識が快楽の園へと旅立とうとしている中、律動するエッジへの締め付けが強くなる。もっと乱れさせたい、こんなあられもない姿は自分にだけ見せてほしい。支配欲に駆られるエッジのそれが、狭くなる内部を執拗に擦り上げると、エッジは締め上げが急にきつくなるのを感じた。



「あ…ッ…!あぁぁぁっ…。」


柔らかい体内が不規則な収縮を起こし、身体をびくびくとさせてリディアが達するのを見届けると、エッジはギリギリ抑えていた欲求と熱をそのまま一気に解放した―――。










リディアはすっかり体力を消耗し、エッジに寄り添いながらウトウトとしている。乱れた緑の髪を直してやると、そこにはエッジがプレゼントしたエメラルドのネックレス。
愛し合ってる最中はリディアの胸元で激しく揺れていたが、今はリディア同様、静かにその場所で落ち着いている。おでこと頬に軽くキスをすると、リディアは目を開け、エッジを見つめてきた。


「リディア、ネックレス似合ってるぜ。」
「ん…。」


恥ずかしいのかお世辞だと思ったのか、あまりはっきりとした反応がない。優しく髪や頬を撫でてやると、心地良さそうに微笑んでくる。


「何だよ~。」
「うふふ…。」


やっと見せてくれた笑顔に、エッジは安堵の気持ちでいっぱいになる。リディアの表情一つで自分の心理状態が左右されてしまうなんて、いかに彼女に惚れ込んでしまっているかを物語っている。一国の王として、忍びの一族の長としてはあるまじきことではあるが、こうして一人の男でいさせてくれるリディアは、唯一無二の大切な女性。


「…ネックレス、大事にしてくれよ?」


リディアへの大きな愛は、どんな言葉を使っても表し切れなくて、ただそう言って自分の胸に抱き寄せる。


「うん…ありがとうエッジ…。」




温かい体温に包まれるふたりの唇は夜の帳の中、優しく、そっと重なり合った。






―完―

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2014
09.14

「As King, As Queen」

TA後エジリディSS、第14弾です☆
エッジと共に執政に携わることになったリディアに早速試練が…。「Share with Me」の続きです。






「As King, As Queen」








「はぁ…どうしよう。エッジと顔合わせるの気まずいなぁ…。」



今日の仕事を終え、風呂に入った後、1人ベッドで薄明かりのランプに照らされながら何回も寝返りを打っては呟くリディア。




今日の昼過ぎのこと―――






執務室から離れた別室で仕事をしていたリディアのところに、エッジがやってきた。

「おい、リディア。」
「はぁい、何?」

笑顔でリディアは駆け寄るが、険しい表情のエッジを見てビクッとした。

「執務室まで来い。」
「え…?」
「いいから来い。」

いつもより低い声でそう言われ、リディアはますます怯えた。


(エッジ…怖い…。)


執務室に着くと、エッジは険しい表情を崩さず自分の席に座った。リディアは何を言われるのかと少し身を縮こませた。



「リディア、こないだお前が作った執政関係の書類に不備があったんだ。」
「えっ…?」

糸が張り詰めるような緊迫感に、リディアの鼓動はみるみる速まっていく。

「ちゃんと内容確認しながら作ったのか?」
「あ…いくつか分からないところがあったんだけど…。」
「誰かにどうしたらいいか相談したのか?」
「…ううん。その時誰も担当の人がいなくて…。」


その日はエッジが公務で城におらず、その上担当の家臣達も諸用で出払ってしまっていたのだ。


「じゃあ自分で判断したのか?」
「…うん。」

萎縮するリディアを前に、エッジは深く息をついた。

「…その不備が原因で、さっきまで家臣達が大騒ぎしてたんだ。それでそいつらの仕事が遅れて、他国から依頼されてた急ぎの物資の到着が約束の期日に間に合わなくなったんだ。」
「えっ…!ご…ごめんなさい…。」


自分のちょっとした怠慢が他国まで巻き込んでしまうなんて思いもしなかったリディアはますます萎縮し、どうすればいいのか分からなかった。





「リディア、俺は堅苦しいことは嫌いだし、細かい事をいちいち取り上げるのは好きじゃねぇし、そんなことをするのは時間の無駄だと思ってる。けどな、だからっていい加減にやっていいわけじゃねぇんだ。」


エッジの強い語気に、リディアは俯いてしまう。


エッジはリディアと結婚するまでミストに行くために何度も城を抜け出していたが、国の執政に影響が出ないよう仕事はこなした上でのことだった。それは非常にタフなことであったが、自由を愛しながらも責任感の強いエッジは一国を背負う者として、愛するリディアのいるミストへのお忍びと両立させてきたのである。





「…ごめんなさい、エッジ…。」




リディアの瞳からは大粒の涙が零れそうになる。いつもならエッジはここで優しく抱きしめてくれるのだが、今回ばかりは家臣や他国に大きな迷惑をかけてしまったため、そうはいかなかった。一国を統べる立場にいるからには家臣や他国との関係には常に気を配らねばならない。いくら愛しのリディアとはいえ、少しでも執政に関わっている以上、何もかも許すわけにはいかないのだ。





「…今日は担当の家臣達は城にいる。そいつらにちゃんと確認して不備を直して来い。」
「…。」




「リディア、返事しろ。」
「…はい。」





低い声で発される夫の言葉にリディアはぐっと涙をこらえ、執務室を出た。


(泣いてないで早く不備を直さなきゃ…。)



自分を叱責したエッジは、まさしく王としての顔だった。エッジのために何かしたいと思って、何も心配しなくていいというエッジの優しさに甘えたくなくて、自ら執政に関わっていくことを申し出たリディア。王妃として、彼と共に家臣や国民達、他国との良好な関係の構築のために行動せねばならない。




担当の家臣を見つけたリディアは、彼に駆け寄った。

「忙しいところごめんなさい。さっきエッジから聞いたんだけど…。」


事情を聞いた家臣は、必死に詫びるリディアに恐縮した。


「いえ奥方様、滅相もございません。確かに騒ぎにはなりましたが、私共が最初からちゃんと内容を確認すべきだったのですよ…。」
「…でも、他国へ送るはずだった物資が間に合わなかったって…。」

「あぁ、それに関しては大丈夫でございます。」
「え?」
「いえ、あの…奥方様、どうか私どもの事はお気になさらないで下さい。」

「…あ、うん…。」










そして夕刻。




「ありがとう、こういう風にすればよかったのね。次からは大丈夫だと思うわ。」
「それは何よりでございます。」

リディアと共に不備内容を修正した家臣は、笑顔で頭を下げた。



「ねぇ…さっき言ってた、間に合わなかったのに大丈夫ってどういうこと?」
「いや、それは…お館様は奥方様には言うなと…。」
「エッジにはあなたに聞いたなんて言わないわ。だから教えて?」


「…その、お館様は物資到着の遅れは全て自分が責任をもって各国に謝罪して期日の交渉を行うと…。私共外交担当のメンバーには何も影響が出ないようにするから心配するなと仰ってたのです。」





(エッジ…!)




家臣達がリディアに対して不満をもつようなことがあれば、今後リディアが彼らと仕事がやりにくくなってしまう。それを見越しての家臣達への対応に、リディアの胸中は彼への感服の念で満たされていった。








そして夕食の時間。







リディアはエッジと顔を合わせたが、どう言葉をかければ良いか分からず、会話のない気まずい食事であった。


「…ごちそうさま。」



リディアは胸がいっぱいであまり食が進まなかった。


「奥方様、もうよろしいのですか?」
「うん、いいの。ちょっと食欲がなくって。」
「はぁ、そうですか…。もしお腹が空かれたら、何かご用意しますのでお申し付け下さいませ。」
「ありがとう。」

心配する侍女にリディアは笑顔でそう言って、ダイニングルームを出た。



(さっき修正した書類、エッジに渡さなきゃ…。)



書類を持ったリディアが執務室に入ると、夕食を済ませたエッジがいた。


「…!あ…エッジ…。」
「ん?」

「あの…昼間言ってた書類、修正終わったから持ってきたの…。」
「そうか。なら預かるぜ。」

「…うん。」



リディアはエッジの顔を直視できないまま今日する予定だった仕事をしようと、執務室の机の上にある書類を取ろうとした。


「リディア、それは明日でいい。」

不備を修正した書類を読みながらのエッジの言葉に、リディアはビクッとしてしまった。

「え…でも…。」
「今週中に終わればいいんだよ。もう今日は休め。」






執務室を出たリディアは風呂に入り、部屋のベッドに寝転んだ。


「エッジ…責任取るって言ってたし、また大変になっちゃうんだろうな…。」



各国の王は戦友だが、夫はエブラーナ国王としての立場と責任があるため、正式な形で対処しなければならない。そして謝罪と交渉をするとなればそれなりの時間と労力を要するに違いない。エッジが部屋に来たら、何て言おうか、どんな顔をすべきかと、リディアは考えに考えていた。



(あぁ…エッジが来る前に寝ちゃいたい。)



そう思って寝ようとするが、疲れているのに目が冴えてしまい眠れない。それで寝返りを何度も打っていた、というわけである。しかも夕食をあまり食べなかったため、今になって空腹になり、余計に眠れない。


(何か食べ物もらいに行こうかなぁ…。)


空腹感と戦いながらそう思っていると、部屋のドアが開く音がした。


「!!!」


エッジがこっちに向かってくる足音がする。リディアはもう遅いと分かりつつ、エッジに背を向けて思わず布団をかぶって寝たふりをしてしまった。


(あぁ~、どうしよう…!)


エッジがベッドに乗る音にドキドキしていると、その大きな手がそっとリディアの肩に触れた。リディアの心臓がますます速く動き出す。


「リディア、起きてんだろ?」


エッジの問いに、リディアは答えずに黙ってしまった。そして恐る恐るエッジの方を向くと…


「腹減ってるだろ?食えよ。」



エッジの手にはお皿に乗った、おにぎりが2個。

「え…エッジ…?」
「お前夕食あんま食ってなかったじゃねぇか。」
「…。」


リディアのお腹がぐぅと鳴り、エッジはプッと吹き出す。


「ほら、食えって。」
「うん…。」


起き上がって手にしたおにぎりはまだ温かくて、空腹のリディアの食欲を掻き立てる。ぱくりとおにぎりを口にすると、程よい塩味と米の甘みが口いっぱいに広がっていった。




(美味しい…!!)





リディアは夢中でおにぎりを頬張り、あっという間に平らげた。

「ほれ、茶も飲めよ。」


エッジは淹れたての緑茶をリディアに渡す。さっきまで強張っていたリディアの心と身体はすっかり解れて、体の芯がポカポカしてきた。

「はぁ…美味しかった。エッジ、ありがとう…。」


エッジは優しい笑顔でリディアを見つめていた。

「そりゃそうだ、俺が握ったんだからな。」
「え…エッジが作ったの!?」
「おぉ。だから美味いんだぞ?」

得意げな顔をするエッジ。リディアが思わず笑みをこぼすと、エッジの腕がぎゅっと彼女を抱きしめる。


「!」

エッジの唇がリディアのそれにそっと重なった。

(エッジ…怒ってるんじゃないの?)


唇を離したエッジの顔はとても優しく、リディアは思わず見惚れてしまった。


優しいキスが何度も繰り返され、リディアがどう反応すればいいか分からず、ただポーッとしてそれを受け入れていると、エッジの舌先がリディアの唇を軽くつついた。リディアがそれに応じて口を開けると、絡み合う2人の舌がちゅぷちゅぷと淫靡な音を立てる。エッジの舌はリディアの口腔内に入り込み、歯と歯茎を余すところなく舐め上げた。


「はぁっ…ふぅ…。」


息継ぎをするリディアに、エッジはにっこりと笑った。

「これで口の中、スッキリしただろ?」

エッジの一言にリディアははっとして口に手を当てた。

「う、うん…。」

自分が食べた後の始末までしてくれたエッジ。リディアは何と言えばいいかますます分からなくなって俯いてしまう。


リディアがそうしていると、エッジは彼女の柔らかな緑の髪を撫で始めた。髪を少し束にして指にクルクルと巻きつけたり、長い髪を耳にかけてやったりと愛でるようなその優しい手つきに、俯いたままのリディアはどう話を切り出そうかと必死で考えた。


「エッジ…。」
「ん?」


「エッジ、怒ってるよね…?」
「いや?」


エッジの言葉にリディアは驚き、俯いた状態で目を見開く。恐る恐る顔を上げると、エッジはじっとリディアの瞳を見つめていた。

「え…どうして?今日私のせいでエッジも皆も大変だったのに…。」
「リディア、今日の事は俺が責任を取る。だから心配すんな。」


リディアが何とか言葉を紡ぎ出すと、エッジは昼間と打って変わって穏やかな声を発し、またリディアに優しく口づけした。


(あっ…。)


エッジの優しい言葉と口づけに、リディアは身体がみるみる蕩けてしまいそうな感覚に襲われた。頬はほんのり紅潮し、翡翠色の瞳は潤み始めた。


「責任取るって…またエッジが大変になっちゃうじゃない…。」


今にも泣きそうな声でエッジに訴えると、彼の手がリディアの頬をそっと包み込んだ。

「俺は国王だから、責任を取れる権限がある。だからそうしただけのことだぜ?」


そう言ってエッジは自分の胸にリディアを抱き寄せた。決して自分を咎めず、全て受け止めてくれる夫の姿勢に翡翠色の瞳からはみるみる涙が流れ出し、色白の頬を伝いだした。


「うぅっ…エッ…ジ…ごめんなさい…ひっく…」


自分のせいでただでさえ大変なエッジの仕事を増やしてしまい、リディアは彼の背中に腕を回してしがみついて、嗚咽を漏らしながら詫びた。そんなリディアをエッジはぎゅっと抱きしめ、髪を撫で続け、時折頬を擦り合わせた。


ゆっくりとエッジの胸から顔を離して見上げると、そこにはちょっと悪戯っ気のある、リディアの大好きな彼の笑顔。

「本当にお前は手のかかる甘えん坊だよなぁ…。」
「…だってエッジがすごく頼れるから…。」


涙で頬を濡らしたまま恥ずかしそうに、少し小さな声でそう言うリディアの姿が可愛くて、エッジはますます彼女が愛おしくなる。そしてまた口づけすると、リディアの身体の奥が疼き始めた。

(あっ…やだ…この感じ…。)


唇を離すと、今度はエッジが真面目な顔をしてリディアを見つめた。

「…リディア、よく聞いてくれ。」


リディアはエッジの低い声にハッとした。


「俺はお前の執政に関わりたいって意思の強さに説得されて仕事を任せることにした。関わるからには自分の責務はしっかり全うして欲しいんだよ。俺はお前のことすっげぇ好きだし、苦労かけたくねぇって思ってるから、今日のことだって何も言わずに俺が全部解決することもできた。けどな、それじゃお前が仕事をきちんと理解できねぇだろ?家臣達だって、お前が何しても許されてんのを見たら、いい気はしねぇだろうし。」


リディアはゆっくりと頷いた。


「…もし今日のことで、お前がもう仕事したくねぇって言うんならそれでいい…。俺がその分働きゃいいことだし。けど今後も執政に関わりたいんなら、任されたことは王妃として責任もってやり抜いてくれ。」



真剣なエッジの表情。


忍刀を思わせる切れ長の両眼は、ぱっちりとしたリディアの翡翠色の瞳をしっかりと捉える。決して逃げられない、そんな圧力すら醸し出すその視線にリディアは呼吸が止まってしまいそうだった。



「リディア、どうする?」



この国の王妃として、大きな選択を迫られたリディア。このまま自分が執政に関われば、また今日のような事を起こすかもしれない。










エッジは真面目な表情を崩さず、リディアを見つめて彼女の手を握った。温かくて大きなその手の中で、色白の手は微かに震えだす。








時が止まったように、見つめ合う2人。








私のことを大事にしてくれる、あなたの力になりたい―――






「…わ、私…。」

「うん?」






そう決めたの






「エッジの…役に立ちたいの。だから…。」
「うん。」




だからお願い―――






「これからも、執政に関わりたい…。」



震える声で発される辿々しく、必死に意思を伝えるリディア。まだ震えたままのその手をキュッと握ったエッジは微笑み、リディアの髪を撫でた。


「よし、分かった。じゃあ明日からもよろしく頼むぞ?」
「うん…!」


リディアの顔に笑顔が戻った。エッジは口元が緩み、思わずリディアに口づけした。


「もう…エッジったら。」
「お前のそんな可愛い顔見たら我慢できねぇっつーの。」

2人は笑い合い、手を握り合った。


一国の王として、家臣や国民達の事を常に考えているエッジ。お調子者で口が悪くて、城を抜け出したりしたことがあっても皆から信頼されているのは、上に立つ者としての責任感と思いやりがあるからこそ。10年以上の間ミスト復興のために働き、その中で自立した大人の女性となったリディアだったが、エッジの器の大きさには到底かなわなかった。

「エッジ…。」
「あ?」

リディアはもぞもぞとエッジの肩に顔を埋めた。

「何だよ~、この甘えん坊が。仕事でそんなに甘えたりしたら許さねぇぞ~?」
「ふふふ…。」

エッジはリディアの背中を抱き、おでこにちゅっとした。

最初はリディアが執政に関わるのを何としてでもやめさせようとしていたエッジだが、辛いことを分け合える相手がいるのは大きな支え。ましてそれが愛するリディアなのだから、エッジにとってこれ以上の幸せはない。


「…ありがとな、リディア。」


王族として生まれ、エブラーナを背負う国王としての運命からは逃げられない。けれど照れ臭くて言えなかった妻への感謝の気持ちを口にした途端、その重苦しさはすっと消えていくのを感じた。


「うふふ…エッジを助けられて嬉しいな。」


夫からの感謝の言葉が、自分の決断は正しかったのだと思わせてくれる。笑顔になった2人の唇は自然と重なり、背中に回された互いの手は、ゆったりとそこを撫で合った。


「ん~、あったかくて気持ちいい…。」
「へへへ…そりゃお前への想いだぜ?」
「やだぁ、エッジ…。」
「やだとか言うんじゃねぇよ。」
「ふふ…。」

リディアの華奢な手では夫の大きな背中をなかなか撫で切れなくて、身体を密着させて必死に腕を伸ばして手を動かし、湧き上がる彼への愛おしさを精一杯伝えようとした。


「リディア…気持ちいいぜ。」
「本当?」
「おぅ。…なぁ、リディア。」
「ん?」

エッジの手が、リディアの背中からするすると腰の辺りへと下りてきた。

「…王様と王妃様の時間は終わりにして、今から夫婦の時間にしねぇか…?」

「…やだ…エッジのスケベ。」


さっきまでの真面目な顔はどこへやら、すっかり卑猥な笑みを浮かべるエッジ。彼の言葉の意味を理解したリディアは羞恥心が働き、彼から視線を逸らした。


「旦那のこういうおねだりを聞くのが、嫁さんの仕事だろーが。」
「…バカ、変態。」

王と王妃として、果たさねばならない責務と大きなプレッシャー。しっかりと絡み合う2人の指に、この人と一緒に乗り越えていきたいという想いと共に力がこもり、切れ長の目と丸くぱっちりとした翡翠色の瞳が見つめ合うと―――


ちゅっ。




最初軽く触れ合っていた唇は、どんどん深く相手のそれに侵入し、互いに顔の角度を変えながらとても熱い、扇情的な口づけへと変わり、エッジもリディアも昼間の出来事など忘れていった。


「…!んっ…やだぁ…。」
「やだじゃねぇよ。俺のこんなになってんだぞ。」

エッジが片手でリディアの寝間着の腰紐を解き始めたのに気付き、思わずリディアが唇を離すと、エッジは自分の脚の間にある、すっかり膨張して硬くなった熱いそれを下衣の上から触らせた。


「んもぅ…変態。」


そう言いながらリディアがエッジに身体を預けると、2人はそのままベッドに沈み、王と王妃から夫婦の時間へと移行していった。


仕事上のトラブルを経て、ますます信頼関係を深めたエッジとリディア。大変なことがあっても一緒に乗り越えたい―――2人の心に浮かんだ想いは、感じ合う体温を通じ、互いの身体にじわじわと沁み入っていった。


―完―

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2014
07.12

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TA後エジリディSS第13弾です。エッジを支えたいと思うリディアは…。「忍びの妻」の後日のお話です。


エロありです、ご注意下さい!









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近いようで、遠い



私はあなたの1番近くにいるはずなのに―――













「エッジ、お帰り!」


厳しくなる冬の寒さの中、1週間の公務から帰ってきたエッジを笑顔で出迎えるリディア。

「おぅ、ただいま。」

そう言ってエッジは家臣と何やら話しながら王の間へと向かって行った。


(あれ…?)


いつもなら抱きしめて笑顔でただいまのチューをしてくれるのに。




リディアが王の間へ行くと、エッジと家老、数人の家臣達が何やらピリピリした雰囲気で話し合っている。


「待てよ、最初と話が違うじゃねぇか!」
「はぁ…。先方が言うには、最初からそんな条件は聞いていないと…。」
「ったく、タチの悪い奴らだな…。とりあえず全員執務室に集合だ。」
「はっ…!」



何やらトラブルのようだ。リディアはその場に取り残され、どうしたらいいか分からなかった。




エッジと結婚し、エブラーナ王妃となったリディア。しかし独り身が長かったエッジはほとんどの執務を自分1人でこなしてきたため、結婚してからもその状態が続き、リディアはあまり責任のない仕事しかしておらず、執政に関わることはなかった。





エッジ達が王の間を去った後、リディアは執務室へと向かい、ドアをノックしようとした。すると…


「冗談じゃねぇよ!ケタが一つ違うじゃねーか!」


エッジの声が響いてきて、リディアはビクッとする。家臣達が宥めながら話を続けた。


「事前に書面で条件は全て提示してあったのでそれを出すよう頼んだのですが、今は他の者が管理しているからここに持ってくることはできないと…。」

「くそッ、完全になめてやがるな…。」

「申し訳ございません!私どもの力が至らず…。次回の交渉の時は、何卒お館様のご同行をお願い申し上げます!」

「あぁ分かった。確かそいつらの拠点はバロンだったよな?セシルにどういう奴らなのか聞いておいた方がよさそうだな…。」

「確かに…。ではセシル陛下に書状をお送りする手配をいたします。」
「ん、頼む。」
「ははっ!では私共はこれにて…。」
「あぁ、ご苦労さん。」


家臣たちが執務室を後にした。すると深いため息をつくエッジ。


(エッジ…。)


1週間の公務を終えて疲れて帰ってきた途端に内政のことでひと騒動。しかし家臣達とて国王であるエッジの判断なしでは動けない。仕方ないことなのだが、上に立つものとしての辛いところである。


様子を見ていたリディアが執務室に入ろうとすると…


「リディア、入れよ。」


こんな時でも自分の気配をちゃんと感じ取っていることに驚くリディア。執務室に入ると、エッジはさっきまで話し合っていた一件の書類らしきものに目を通している。


「あの、エッジ…。」
「ん?」

リディアは何から話せばいいのか分からず、言葉に詰まってしまう。

「何だ、どうかしたのか?」

書類に目を向けたまま、エッジはリディアの方を見ようとしない。疲れていて機嫌が悪いのだろう。元々口の悪いエッジだが、今日はそれに輪をかけるように刺々しいものを感じ、リディアは萎縮してしまう。しかし思い切って笑顔で話しかける。

「ねぇ、お茶でも飲んで休憩しない?おいしいお菓子あるのよ。」

しかしエッジは顔を顰め、俯いた。

「悪りぃ、リディア。今それどころじゃねぇんだ。後にしてくれるか?」

低い声で発されるエッジの言葉にリディアはビクッとした。

「…そう、ごめんなさい。」

いつもなら嬉しそうに話に乗るか、忙しくて無理な場合は詫びながら頬にキスの一つでもしてくれるのに。

「…ねぇ、何か私にできることない?エッジ疲れてるでしょう?」

リディアが申し出るが、エッジの視線は書類に置かれたままだ。

「…いや、大丈夫だ。お前こそ仕事終わったのかよ?」
「あ、ううん…。」
「ならそっちを先にやれ。」
「…うん。」

リディアはいたたまれなくなり、執務室を後にした。


(エッジ…。)


執政のことで大変そうな夫を目の当たりにしたリディア。故郷のミスト復興のために10年近く働き、年を重ねて自立した大人の女性となったリディアにしたら、彼のために何もできない今の状況はもどかしい以外の何でもなかった。



「はぁ…とりあえず自分の仕事を終わらせなきゃね。」







そして夕食の時間。





「あ、エッジ。」
「リディア。」

王族用のダイニングルームにいたエッジはさっきと違い、穏やかな表情だった。リディアはホッとし、思わずエッジに駆け寄る。

「エッジ、さっきの仕事落ち着いたの?」
「んー、まぁな。」
「そうなのね、良かった。」

リディアの笑顔を見たエッジは、表情が緩む。


「リディア…さっきはすまねぇ。お前がせっかく茶でも飲もうって言ってくれたのによ…。」
「ううん、いいの。私の方こそ忙しい時にごめんね。」
「いや…俺が悪かった。」

エッジは侍女や家臣達のいる前だというのに、すっと口布を下ろしてリディアを抱き寄せて頬にちゅっとした。

「ただいまのチューしてなかったよな?ごめんな。」

恥ずかしがるリディアを見てニヤニヤするエッジ。家臣達はもう見慣れたもので、微笑ましそうにクスクス笑っていた。


「さ、飯食おうぜ。腹減ったぁ~!」
「もう、バカ。」











夕食後、エッジは再び執務室で自分の留守中に提出されていた報告書をチェックしていた。リディアは様子を伺いながら執務室に入る。



「ん、リディア。」
「ねぇ、エッジ…。」
「あ?」


「さっき皆と話してたのって…何の事だったの?」

心配そうにじっとエッジを見つめる翡翠色の瞳。エッジは何となく恥ずかしくなってしまった。

「ん…な、何だよそんな顔して。」
「エッジ…私に何かできることはないの?」

彼女の美しい瞳は潤み、唇は何か言いたげに微かに動いている。どう答えようか思案していると…

「エッジが疲れてるのに、何もできないのは嫌なの…。」


色白で華奢な手が、寒さと仕事で疲れきったエッジの手を包み込む。ほんわりと伝わってくる温もりが心地良くて、精悍な忍びの一族の長の表情が緩む。

「あぁ、リディア…お前は何も心配しなくていい。俺はお前がこうしてそばにいてくれるだけで疲れは吹き飛んじまうからな。」

昔と変わらない明るい笑顔を見せるエッジだが、リディアは彼が疲れ切って無理をしているのを感じていた。

「嘘ばっかり…。」
「あ?」
「だってさっき、あんなに怖い顔してたじゃない…。」

エッジは言い返せず、頭を掻く。


「ん…悪りぃ。」
「…謝ることないじゃない。」
「…。」

「疲れてるんなら、そう言ってよ…。」

俯きながら小さな声で自分を気遣うリディア。だがエッジは嬉しいながらも、愛する妻の前では絶対弱音を吐くわけにいかないというプライドがある。



「リディア…ありがとな。今日はもう早めに仕事切り上げるからよ、後で疲れに効くツボでも押してくれねぇか?お前の指圧、すげぇ気持ちいいからな~。」

「…うん。」

「そういや、今日の仕事は終わったのか?」
「終わってるよ。」
「ん、そうか。ならもう風呂入ってゆっくりしろよ。」

そっと抱き寄せられたリディアの唇に、エッジのそれがそっと重なった。

「…1週間ぶりだから、覚悟しとけよ?」
「もう、エッジ…。」
「へへへ…さぁ、風呂入って来いよ。」








その後1時間ばかり仕事をし、エッジは執務室を出た。

「さーて、風呂入って来るか…。」

公務で他国に行くとシャワーしかないことが多いため、1週間ぶりに我が家の風呂を堪能しようと鼻歌混じりで服を脱ぎ、浴室へ入った。湯船に入っている薬草の香りが鼻を掠め、思わず深呼吸する。

「はぁ~、この香りがたまんねぇんだよな~。」

檜の風呂椅子に座って髪と身体を洗うと、ざぶんと豪快に湯船に入る。

「ふぅ~…極楽だぜ。」

湯船の淵にもたれ、目を閉じる。忙しい生活の中でリラックスできる、貴重な時間である。





『だってさっき、あんなに怖い顔してたじゃない…』




しゅんとした顔でリディアが口にした言葉を思い出し、ふーとため息をつく。


(そりゃあん時はすげぇイライラしてたけど…俺、そんなに険悪だったのか…。)


いつもは自分を尻に敷く妻に怖いと言われるような姿を見せてしまった。彼女の顔を見れば元気になれるなど、嘘もいいところである。


(小せぇなぁ、俺…。)


リディアには心配をかけまいと努力してきたエッジだが、結婚して以来、徐々にボロが出てきてるように思えて決まりが悪い。

「ここは一発、男らしく決めてやるか…。」

1週間ぶりにこの腕の中でリディアを乱れさせてやろうと、ニヤリとするエッジ。体内の欲求に満ちたどす黒い血がドクドクと脈打つ。



風呂から上がり、水分補給をしながら急ぎ足で寝室に向かうエッジ。こうしている間も自身がリディアを求めているのが分かる。

(あぁ~、もうすぐだ…!!)

ゾクゾクと欲求を高ぶらせながら寝室に着くと、リディアがベッドの上に座って待っていた。エッジの掛け布団が上げられ、すぐに横になれるように準備されている。

「お館様、1週間のお仕事お疲れ様です。どうぞ横になられませ。お疲れに効くツボを押して差し上げまする。」


ニッコリと笑い、エブラーナ言葉でエッジを迎えるリディア。可憐な花のようなその笑顔に、忍びの一族の長の精悍な顔はたちまち緩む。

「おぉ~リディア、すまぬなぁ。某は嬉しいぞ。」

エブラーナ言葉で返答し、ぴょんぴょんと小さく跳ねながらベッドへと向かってくるエッジを見たリディアはクスクスと笑う。

「もう~、子供みたいね。」
「お前からの誘いが嬉しくねぇわけねぇだろ?」

ベッドに飛び乗ったエッジは早速リディアに抱きつき、すかさず頬にちゅっとする。彼女の頬の柔らかな感触と温もりを感じ、ますます気持ちが昂ぶる。

「柔らかいなぁ~、食べちゃうぞ~。」
「バカ。ほら、横になってよ。」
「んー…。」

曖昧な返事をし、リディアと頬を擦り合わせながら、徐々に体重を彼女にかけてベッドへと沈む。

「えっ、ちょっとエッジ…待ってよぉ!」
「ダメだ、待てねぇ。我慢の限界だ。」

リディアの寝間着の浴衣の襟元をぐっと広げ、首筋から鎖骨にかけて唇を這わせる。

「やぁっ…エッジお願い…待ってよぉ…。」

夫の愛撫に反応し、身体をピクピクとさせながら必死に訴えるリディアだが、エッジはお構いなしに行為を続ける。

「ねぇ、エッジ…やめてぇ…。」
「1週間も我慢したんだぞ?もうやめられねぇよ…。」

エッジの唇は鎖骨から下へと下がってゆき、リディアの胸のふくらみの上部を食み始めた。

「くくっ…柔らかいな…。」
「あっ…エッジ…やめて…!」

必死に身体をくねらせてエッジの愛撫から逃れようとするリディア。脚をバタバタとさせて胸を腕で隠し、首を左右に振る。

「…何そんなに嫌がってんだよ?」

さすがに様子が変だと思い、愛撫をやめ、リディアと視線を合わせる。その表情はご馳走を目の前にお預けを食らった不機嫌な獣のようで、思わずリディアは身震いしてしまう。

「ご、ごめんねエッジ…。あの…。」

そう言うリディアを見つめるエッジはどこか苛立った表情。疲れている上に、行為を中断されるのは男にとって、この上なく自尊心が傷つくのだから。

「何だよ?もしかして月のもんか?」
「ううん、違うの!…エッジに話があるの。」

リディアがエッジの表情に怯えながらも何かを必死に訴えようとしているのを見て、エッジは猛っていた自分を落ち着けようと身体を起こし、頭を掻きながらふーと息を吐いた。

「…悪りぃ、リディア。何だ?」

リディアも身体を起こし、乱れた寝間着の浴衣を直しながらエッジの表情が落ち着いてきたのを見計らって話し出す。



「あのね…私…エッジの仕事をもっと手伝いたいの。」
「何言ってんだよ、もう手伝ってくれてるじゃねぇか。」

「…もっとエッジが楽になれるように、執政関係のことにも関わりたいの。」



思いがけないリディアからの申し出に、エッジは咄嗟に言葉が出なかった。

「バ、バカなこと言うんじゃねぇ!そんなもんに関わったらお前の身体がいくつあっても足りねぇぞ?」

「…ダメ?」
「ダメだ。夜遅くまでの会議もあるし、何日間もよその国に行ったり、お前1人で判断しなきゃなんねぇ場面も出てくるぞ?」

「…全部が無理でも、今よりもっとエッジの力になれることがしたいの。」


真っ直ぐに自分を見つめるリディアの言葉で、どうやら本気らしいということを感じたエッジ。執政に関わるのは非常にタフであるため、リディアの身体のことを考えると何とかして諦めさせたい。しかし先日のように高圧的に出ればまた喧嘩になってしまうだろう。



「あー…リディア。あの…。」



頭をフル回転させてどう返すべきかを思案するエッジだが、仕事で疲れ切った頭は思うように働いてくれない。



言葉につまり、時間だけが過ぎてゆく。





自分をじっと見つめる、翡翠色の瞳。





何とかして思い留まらせなければ。
そうしないと、大変な仕事でリディアが身体を悪くしてしまう。




俺はこいつを守ってやると約束したのだから―――










「私…エッジが辛そうな顔をしてるのに何もできないのは嫌なの。お人形みたいにニコニコ笑って座ってるだけの王妃になりたくないの。」

「…別に今だって仕事してるんだしよ、お人形みたいってことはねぇだろ。」
「してるって言っても、補助的な仕事ばっかりだもん…。今日だって、エッジが留守の間に私が何かできていればあんなに大騒ぎにならなくて済んだんじゃないの?」

「…ん、それはそうかもしれねぇ。けどなリディア、執政ってのはこの国の全てを背負うんだ。すげぇ責任が重いんだぞ?俺はそのせいで寝れなかったり、辛くて辛くて仕方ないこともあったぜ?」







一国を背負うということ―――







内政、外交、家臣、国民。どれも疎かにすることは許されない。







出会った頃は年齢の割に落ち着きがなく、お調子者の王子だったエッジが落ち着いた大人の振る舞いをするようになったのは、紛れもなく一国を背負う国王としての立場と責任があってこそ。本質的な彼は昔と変わらないものの、リディアは国王としての彼の姿を見るたびに、自分との距離があるのを感じられずにはいられなかった。



「私…エッジのそばにいたいの。」
「…いるじゃねぇか。」
「そういう意味じゃなくって…!」


じっとこちらを見つめていた翡翠色の瞳から、涙が零れ出した。

「エッジがね…すごく遠いの。」
「…どういう意味だよ?」

ぐずり出し、次の言葉が出てこないリディアをそっと抱きしめると、甘く優しい彼女の香りがエッジの鼻を掠める。









いつでもこうやって、私のことを受け止めてくれるあなた




大好き



だから嬉しいことだけじゃなくて、辛いことも分けてほしいの―――








リディアの背中を優しくぽんぽんと叩くエッジ。俺はいつでもお前の話を聞いてやるよ、というエッジの思いが伝わってくる。







「…エッジはね、私の旦那さんで、1番近い人のはずなのに、私はエッジが大変な時に助けてあげられなくて、すごく距離を感じちゃうの。」
「俺はもう十分助けてもらってるぜ?結婚するまでは1人でやってたことをお前に助けてもらってるし、すげぇ嬉しいぞ。」

「助けてないよ…。」
「助かってるって。」
「助けてない!」



譲らないリディアを抱きしめながら、エッジは顔を顰める。

「…俺が助かってるって言ってるのに、お前は信じてくれねぇのか?」
「えっ…?」

ゆっくりとエッジと視線を合わせると、彼の顔は真面目だけれどどこか悲しそうに見えた。

「俺は大好きなお前とこうして一緒に過ごせて、仕事手伝ってもらえて、すげぇ楽になったし幸せだし感謝してる。だからこれ以上の事は望んでねぇ。…寧ろ幸せ過ぎて怖ぇぐらいなんだ。」

「…エッジ、嘘ばっかり。」
「なっ…嘘じゃねぇぞ!」

「辛いこと全部1人で背負ってるじゃない…。少しぐらい私に分けてよ。」

「…俺はお前に辛い思いはさせたくない。」
「私だってエッジに辛い思いしてほしくないもん!」


ヘトヘトの頭で紡ぎ出した返答だからなのか、何を言っても言い返されてしまう。エッジの思考回路はもう限界に達し、首を垂れてしまった。

「…リディア、悪りぃけどその話はまた明日にしてくれねぇか?俺、もう疲れちまったよ…。」

「…分かったわ。明日必ず話してね?」
「おぅ。」

エッジがベッドに横になるとリディアは掛け布団をかけてやり、自分も布団の中に入った。


リディアの華奢な手が、エッジの手をキュッと握る。

「リディア…?」
「疲れに効くツボ押してって言ってたじゃない。」
「…あぁ、じゃあ頼む。」


リディアはエッジの掌の真ん中あたりにある、疲労回復のツボをぐっと押した。

「くっ…!!」

あまりの刺激に顔を顰めるエッジ。相当疲れが溜まっているのだ。


(この話するの、今夜じゃなくても良かったかな…余計に疲れさせちゃったよね…。)


善は急げだと思ったものの、余計にエッジを疲れさせてしまい、罪悪感を感じるリディア。

「はぁ…リディア、反対側も押してくれよ。」
「うん。」

身体をリディアの方に向けたエッジが手を差し出すと、反対側の掌のツボがぐっと押された。

「うぉっ…!!」

刺激に眉をしかめ、上半身を捩るエッジ。面白いような可愛らしいようなその姿に、リディアは思わず笑みをこぼす。

「ふふふ…効いてる?」
「…おぅ。」

リディアが掌への刺激をやめると、エッジは一気に脱力した。

「ふはぁ~、すげぇ効いたぞ。ありがとな、リディア。」

リディアの頬にお礼のチューをした後は、彼女の柔らかな緑の髪を撫でるエッジ。




こうしていると自分達は仲良し夫婦なのに、昼間は疎外感を感じなければならない現実。大好きなエッジを助けたい一心だったのに、結果的に彼を困らせてしまった。

(これって、私のわがままなのかしら…。)



「…リディア。」

自分の申し出が正しかったのかどうかとリディアが思案していたら、エッジの深い色の瞳がこちらを見つめていた。

「…うん?」
「確認したいんだけどよ、お前はどんなに大変なことがあっても執政に関わりたいんだな?」

突然の問いかけに、リディアは言葉に詰まる。

「もし単なる思いつきで言ってるんなら、俺は絶対許さねぇぞ。」

エッジにしては珍しく強い語気に、リディアはビクッとする。


「あ…えと…。」


自分をまっすぐ見つめるエッジの精悍な切れ長の目。全てを見抜かれてしまいそうな気がして、鼓動が早まる。

「…どうなんだよ?」

迷いを感じ取ったかのように問い詰めてくるエッジ。リディアの手が微かに震え出す。

「…思いつきなんかじゃ、ないよ…。」

少し俯き、視線をそらすと、エッジの大きな手がぐいっとリディアの顔を上げさせる。

「俺の目を見て言え。じゃねぇと信用しねぇぞ?」




国王としての真剣な表情。







ついて行きたい
助けたい




自分はこの人の妻だと胸を張って言いたい





「…思いつきじゃないよ。ずっともどかしくて、何とかしてエッジを助けたいって思ってたんだもの。」

エッジはじっとリディアを見つめている。






どれほどの時間が経ったか、もう分からない。次に彼の口から出てくるのは一体どんな言葉なのだろうか。リディアはそればかりを考え、布団の中でドキドキする胸に手を当てる。

「…そうか、分かった。」

「分かったって…何が?」
「お前の意思はよく分かったってことだ。」

ぐっと抱き寄せられる、リディアの華奢な身体。

「エッジ…じゃあ…」
「早まるんじゃねぇ。」

自分の言葉に対して間髪入れずに反応する低い声が耳に響き、一瞬寒気のようなものを感じ、小さく身震いする。




エッジの腕の中は、とっても温かくて、1番落ち着ける場所。



でも、どうして?


どうして今夜はこんなにさみしい気持ちになるの?







エッジと自分の間にある壁。
結婚する前からずっとお互いに一番近い存在だったはずなのに。





エッジにぎゅっとしがみつくリディア。

「…何だよ、この甘えん坊が。」




「エッジ、さみしいよ…。」
「あ?」

エッジは自分が疲れていてリディアの言うことが理解できないのかそうでないのか判断できず、どう反応すべきか思案していると…


「今はこうして一緒にいてあったかいのに、また明日になればエッジは大変なことを抱えて1人で辛い思いするんでしょ?そんな姿見てたら私も辛いし、さみしいの…。」

「俺は辛くなんかない。」
「…さっき辛いって言ったじゃない。」

「それはお前と結婚する前のことだぞ。」







どうあっても自分はエッジに近付くことはできないのか?どうすれば彼を楽にしてやれるのかと考えていると…


「…エッジ?」

夫は寝息を立てていた。

(エッジ、寝ちゃった…。)


リディアはしがみついていた腕を緩め、エッジから身体を離す。疲れているのだから休ませてやらなければ、そう思って彼の掛布団を直し、ベッドサイドの明かりを消して自分の布団をかぶる。寝ようと目を閉じるが、ついさっきまで感情が高ぶっていたためか、目が冴えてしまい眠れない。寝返りを打ちたいが、音や気配に敏感な夫を起こしては悪いと思い、じっとするリディア。


(どうしよう…寝れないや。)




月の明かりもない暗闇の中で、ただ時間だけが過ぎてゆく。





聞こえてくる、規則的な夫の寝息。





音を立てないように寝返りを打ち、身体を彼の方に向ける。


(エッジが私よりも先に寝るのを見たの、初めてかも…。)

共に旅をしていた時からエッジはリディアより早く起き、夜寝るのは遅かった。結婚した今でも朝は稽古があるから早く起き、夜はリディアが寝付くまで起きててくれる。

(私、本当エッジに甘えてばっかり…。)


ふーとため息をつくリディア。すると…


「…まだ起きてんのか?」
「はっ、エッジ!…起こしてごめん。」

眠そうに目をこすったかと思うと、エッジの手はリディアの背中に伸びてきた。

「…っとにお前は手のかかる奴だなぁ…。」
「ごめん、エッジ…。」

リディアを自分の方に抱き寄せ、寝かしつけようと背中を撫でるエッジ。

「…ありがとう。ごめんね。」

エッジに身を寄せ、彼の寝間着の襟元にきゅっとしがみつくリディア。

自分が何をしても優しく包み込んでくれる夫。その分彼は自分の気持ちを抑えて我慢してくれているというのに。今だって寝ていたいに違いない。


「エッジ…寝ていいよ。」
「…お前が言うんじゃねぇよ。」
「私が寝かせてあげるから…。」
「そんな事されたら余計に寝れねぇっつーの。」

それどういう意味よ、と怪訝な顔をするリディア。

「ほれ、いい子はねんねしな。」
「もうっ…子供みたいに言わないで。」

リディアが顔を背けると、エッジは身体を起こし、彼女を見下ろした。

「本当に言うこと聞かねぇ奴だな。」

そう言うとエッジはリディアに覆いかぶさり、唇を重ねてきた。

「ん…。」

暗闇の中でほとんど何も見えず、その分いつもよりも触覚が敏感になっているのか、その柔らかさと温かさは特別な気がした。エッジの体温を感じながらすごくホッとするその感触に酔いしれ、リディアは全身がとろりと溶けそうだった。手を伸ばし、触覚を頼りに自然にエッジの首の後ろに腕が回ると、それに反応して掛け布団を片脚で蹴ってベッドの端に寄せてリディアを組み敷くエッジ。

「エッジ…?」
「…今度はやめねぇからな。」

リディアは耳元にエッジの熱い吐息がかかるのを感じた。耳朶が柔らかく噛まれたかと思うと、うっすら湿気を帯びた唇が首筋を這いながらそこを食んでいる。

「んっ…やだ…はぁっ…。」

くすぐったくて、身体を捩るリディア。寝間着の浴衣の襟元が大きく広げられるのを感じた直後、唇は鎖骨から胸元へと移動しながらきめ細かいリディアの肌を食む。エッジの表情も動きもよく見えない緊張の中、決して乱暴にせず、じっくりと優しくやってくるその刺激でリディアの身体はじわりと熱くなり、奥が疼く。

「いやぁっ…はぁん…。」

エッジの大きな手がリディアの乳房を揉みしだく。暗闇の中で微かに聞こえてくる息遣いと、汗ばんで熱のこもったその手からは、彼がリディアと触れ合う事を渇望していることが伝わってくる。


結婚するまでの10数年間、1週間ぐらい会えないのは珍しくなかったというのに、結婚してからはそれすら長く長く感じられてしまう。感じる部分を刺激され、どんどん押し寄せる快感に身を任せる。

「エッジ…気持ちいい…。」

そう言うと乳房の先端に息吹く蕾にエッジの熱い吐息がかかるのを感じ、ぞくぞくするような高揚感に駆られ、ますます身体の奥が疼いた。

「あッ…やんっ…。」

さっきまで胸元で感じていた感触が蕾を包み込み、熱く濡れた舌がねっとりとそこを舐め回す。先で弾くようにつつかれた蕾はぷくっと立ち上がり、キュッと吸い上げられた。

「あんっ!」

快感に耐えられず、高い喘ぎ声で応えるリディア。そうすると乳房が優しくさすられ、悶えるその姿を楽しむような、くくっという笑い声らしきものが聞こえてきた。

「もう…何笑ってるのよぉ。」
「お、聞こえてたのか。お前は鈍いから聞こえねぇと思ってたぜ。」


自分を見下す夫の発言に、思わず手で彼を叩こうとするが、夜の闇の中では空振りするだけだった。

「ははは、何やってんだよ。」
「…エッジ、見えてるの?」
「おぅ、見えてっぞ。忍びは暗い中でも大丈夫なように、目も発達してんだぜ?」
「…!」

ほとんど何も見えない緊張感を味わっていたのは自分だけだったなんて。何においても自分よりも優位に立つこの人を助けるなんて無理なのだろうかと思いしょぼんとしていると、もう片方の蕾が吸われているのを感じた。

「あっ…やぁん、エッジ…!」
「くくくっ…ずいぶん感じてるじゃねぇか。」

硬く立ち上がる蕾を指で摘まれ、嬌声を上げるとそれを楽しむかのようにまたリディアの乳房を揉みしだくエッジの手。

「んぁっ、やだぁっ…エッジのバカぁ…。」

身体をリディアに密着させたエッジは、脚の間でいきり立って熱を孕む自身を彼女の太腿になすりつけた。

「いやっ…。」

寝間着越しでも分かるぐらいのその存在感に、思わずピクンと反応するリディア。するとエッジの指がショーツ越しにリディアの秘所を弄る。

「お前の方はどうなんだ?」
「そんな事、言わせないで…。」

リディアの寝間着の浴衣の腰紐が解かれ、あっという間に取り払われると、ごそごそと衣擦れの音が聞こえてきた。するとリディアは臍のあたりにエッジの熱い吐息がかかるのを感じた。それはさっきよりもずっと熱く、速いペースの息遣い。御馳走が目の前で余裕がない餓えた猛獣を思わせる。


リディアも先程からの愛撫で、秘所の奥から温かな泉がとぷとぷと湧き出てきており、もういつでもエッジを受け入れられる状態にあった。エッジのうっすら汗ばんだ手がリディアの腰の辺りに触れたかと思うと、その手はショーツの両脇にかけられた。

「リディア…お前のここ、どうなってるんだよ?」


「…聞かないで、自分で確かめて…。」

エッジの手がリディアとの結合を阻んでいた薄布をずり下ろすと程よく太く、器用な指が内太腿に滑り込む。その指が露わになった小さな茂みをかき分けて秘所へと辿り着くと、空いた方の手は薄布を爪先までずらしていく。


秘所に辿り着いた指が花弁をくちゅ、と開いて熱を帯びたそこへ入り込んで少し内部を刺激すると、とろとろと蜜が溢れ出てきた。

「すげぇ…。」

低く小さな声でそう呟くと、リディアの脚を広げ、彼女の腰を掴む。潤いをたたえる花弁に熱く張り詰めた自身の先端を触れさせ、そのまま前へと腰を進めて柔らかなそこを押し広げた。

「あぁんっ…。」

圧倒的な存在感を放つ熱いそれは、1週間ぶりの結合で何となく痛みを感じさせたが、どんどん自分の奥に向かってくる内に快感へと変わり、リディアは甘く切なげな声を上げる。

「うぁ…。」

最奥に辿り着いたエッジは、よく潤った熱い内壁にぐっと纏わり付かれる快感に浸り、ため息のような声を漏らす。今夜はもうありつけないと思ったこの蕩けるような感覚に、悦びはひとしおだった。


「リディア…すげぇ気持ちいいぜ。」
「私もよ…すごく気持ちいい…。」


繋がった悦びを共有し、エッジの手がリディアの手を握って指を絡めると、熱い吐息を発し合う2人の唇が重なり合った。


夜の闇の中で何度も響く淫靡な口づけの音は、部屋の空気の色すら変えてしまいそうだった。エッジの欲求は高まり、もう止められないと言わんばかりに腰を揺らし始めた。

「んっ…んんっ、んっ…。」

唇が塞がれたまま動かれ、リディアの声はエッジの口の中でくぐもる。せり上がってくる久しぶりの快感に理性はどんどん消えてゆき、ただエッジから与えられる刺激に身を委ねようとする本能が強くなってくる。


快感に眉を寄せ、息を切らせながらエッジの腰に脚を絡めると律動は早くなり、大きな快楽の波がどんどん押し寄せてきた。


「あっ…ぁ…エッ…ジ、すごく感じちゃうっ…!」


その言葉通り、エッジへの締め付けがぐっと強まってきた。もっと深く来て欲しいと訴えるように、リディアの腰は自然とエッジの律動に合わせて彼の身体に擦り付けるように動き、内壁が彼を呑み込もうとひくひくと波打つ。


自分を求める動作に煽られたエッジの律動は止まらず、熱い存在はリディアの奥を激しく行き来して突き上げ、その刺激が脳髄に響き、意識は遠のいていく。

「あぁっ…あっ…はぁッ…。」

身体を揺らされながら必死に意識を保ち、暗闇の中で微かに見える夫の輪郭を頼りに、悶えながら彼の顔を見つめるリディア。エッジの逞しい腕が自分の身体をしっかりと抱きしめるのを感じると、リディアは手探りで彼の脇腹から手を滑らせて背中へと腕を回し、ぎゅっとしがみつく。


その動作と連動するようにエッジが擦れ合う熱と蜜が混じり合う中を激しく律動すると、内壁の不規則な収縮が繰り返された。

「あっ…あぁぁ…ッ!!」

リディアが達し、身体をビクビクと痙攣させるのを感じると、自身を締め上げられたエッジもそのまま達し、ぶるりと震えながら抑えていた欲求を吐き出した―――










「ふぅ…はぁ…。」



2人は達した時の体勢のまま、呼吸を整えていた。


エッジがベッドサイドのランプをつけると、気怠そうな表情でこちらを見つめるリディア。次第に彼女はホッとしたように微笑んだ。

「そんな可愛い顔すんじゃねぇよ~。」
「だって暗くてエッジの顔が見れなかったんだもん…。」
「へへへ…俺の顔、見たかったのか?」
「うん…ふふふ。」


笑い合い、口づけを交わした2人はまたしっかりと抱き合う。

「すごく気持ち良かった…。久しぶりで嬉しかったよ。」
「俺もすげぇ気持ち良かったぜ…。」


互いに満足していることを確かめ合うと、ちゅ、ちゅ、と軽い口づけを何度も交わす。






*****







「んー…眠い…。」

横たわり、事後の疲れに襲われるエッジがそう言うと、リディアは絶頂の余韻で程よく眠気を感じながら身体を起こし、掛け布団をかけてやった。

「疲れてるのに張り切るからじゃない…。」
「お前が寝れないって言うからじゃねぇか。」
「え…?」

「…ちょっとは眠くなっただろ?」
「…!」


リディアが言葉に詰まっていると、エッジはニヤリと笑った。

「ま、俺がしたくなったってのもあったけどな。」
「…それが1番の理由でしょ?」

リディアは恥ずかしそうに顔を背けたが、疲れて寝ているのを起こされ、眠れない自分のために体力を使わせてしまい、夫に申し訳ないという気持ちになっていた。


そっぽを向いていると、エッジの大きな手がリディアの髪を撫でてきた。

「こっち向けよ。」

黙ってエッジの方を向くと、彼はとても優しい笑顔だった。

「エッジ…。」

何も言わずにそのまま抱きしめられ、エッジの心地よい体温を全身で感じていると、彼の手はリディアの華奢な背中を優しくさする。

(気持ちいい…。)

エッジの首筋に顔を埋め、細い腕を彼の背中に回して同じように撫でると、彼がふっと笑う声が聞こえた。

「気持ちいい?」
「おぅ。…なぁ、リディア。」
「うん?」

「俺はな、仕事がどんなに大変でも夜こうしてお前を抱けばすげぇ元気になれるんだ。そうすりゃ何があったって乗り切れるし、大丈夫だ。だからお前は何も心配しなくていいんだぞ?」


自分を案ずるリディアを安心させようと、穏やかな声で発された言葉。


妻を説き伏せるのに、これ以上の言葉はないと思ったエッジが見たのは…


「何だよ、その顔は…。」


夫が辛いことをこれからも1人で我慢しようとしているのを見抜き、唇をぐっと結び、今にも零れ落ちそうな大粒の涙をいっぱいためた、翡翠色の瞳。

「うっ…うっ…。」

細い肩を震わせるリディアを見て、エッジは顔を顰める。自分がこの女性に惚れたきっかけでもあるその涙は、エッジの最大の弱点。


「少しでいいの…。」
「あ?」



「エッジの辛いこと…少しでいいから…分けて…。」



涙を流し、声を震わせながら訴える妻に、最早説き伏せるための言葉は浮かんでこなかった。







「…分かったよ。」

震えていた色白の肩は落ち着き、まだ頬に涙が残っているリディアの表情がみるみる晴れていった。

「エッジ…嬉しい…ありがとう!」

ぎゅっと夫に抱きつき、喜びを露わにするリディア。エッジは妻の背中を抱きながら精悍な眉を下げ、呆れ顔でふーと息をつく。

「お前は言い出したら絶対聞かねぇなぁ…。」
「だって…エッジが無理するんだもん。」
「してねぇよ。…それより、本当に覚悟はできてるんだな?いくらお前が相手でも、俺は執政の事となったら容赦しねぇぞ?それだけ責任が重いんだからな。」

「うん…エッジを助けられるんだもん、大丈夫!」



これでやっと、この人の妻だと胸を張って言えるようになる―――





「うふふ、エッジのほっぺた赤くなってる~。」
「…お前がそんな可愛い顔見せるからだろうが。」

花のような笑顔の妻を見て頬を赤くして視線を逸らすエッジ。何をしても愛おしいと思ってしまう妻と共に執政関係の仕事ができるのなら、もう少し穏やかな気持ちでいられるかもしれない。それも悪くないなと思っていると―――



ちゅっ。



「お館様、明日よりわたくしに執政の事をご指導下さいませ。」

にっこり笑うリディアからの口づけに、エッジの全身が熱くなった。


「…もう寝ようと思ってたのによ~!!」
「エッジ…!?きゃあぁっ!」




興奮したエッジは、第2ラウンドに突入した。














(俺…こいつには一生勝てねぇんだろうな…。)


2度の絶頂を迎え、自分の腕の中ですっと眠りに落ちた妻の安らかな寝顔を見たエッジは、ふーと息をつく。威厳のある国王となったエッジだったが、リディアにせがまれては折れるしかなかったのだから。


(でもありがとな、リディア…。)


照れ臭くて言えなかった、自分を案じてくれる妻への感謝の言葉を心の中で呟き、柔らかな彼女の髪を撫でながら自身も眠りに落ちてゆくエッジだった。



―完―

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2014
06.07

「発熱」

TA後エジリディSS第12弾です♪こんな話が出来上がっちゃいました。管理人は笑いに走る関西人だからということで許して下さい(^◇^;)






「発熱」







(うー…苦しい。暑いし動けねぇ…。)


エッジは今朝から何年振りか分からないぐらい久々の高熱に苦しんでいた。ここ最近は連日城を留守にする公務と、真夜中まで執務室にこもる多忙さに加え、日に日に厳しくなる冬の寒さも相まって、朝の稽古中にダウンしてしまったのだ。



部下達に部屋まで運ばれ、今は寝室で横たわっている。ぜぇぜぇといつもより浅く早い呼吸をするエッジの横には、美しい妻リディアが心配そうな面持ちで椅子に腰かけている。


「あー…この俺様が熱出すなんてなぁ…。」
「もう、最近あんな忙しかったんだから、体調崩さないほうがどうかしてるわよ。今日はおとなしくしててよ?」
「ん…。」


高熱のせいで会話をするのも辛い。しかも食欲がなく、リディアが解熱剤を持ってきたが、何も食べていないために服用できない。


「エッジ、何か食べられそう?」
「いや…。何か飲むもんくれ。食えそうにねぇ。」


リディアに支えられてやっとのことで起き上がる。

「ほら、飲める?」
「あぁ…。」

リディアが右手でエッジの背中を支え、左手で水の入ったコップを持ち、エッジの口元に持っていく。二口ほど飲んだ後、エッジは再びベッドで横になる。


いつもは元気いっぱいの夫だけに、リディアは心配でたまらない。そっとエッジのおでこに手を乗せると、彼を苦しめる高熱が伝わってきた。


(何も食べれないんじゃ薬飲めないし…。どうしたらいいかしら。)


とりあえずはおでこを冷やしてあげようと、リディアは寝室を出る。城の調理場へ行き、氷水とタオルを用意した。寝室へ戻ろうとすると、途中の廊下で家老と出くわす。

「おぉ奥方様!お館様のお加減は?」
「今部屋で寝ているんだけど、熱が高くて食欲がないの。何も食べていないから、薬も飲めなくて…。」
「うむむ、さようでございますか…。お館様も最近はご多忙でいらっしゃいましたからな…。」


数か月前にエッジはリディアと結婚して以来、王としての仕事に一層精を出すようになっていた。10数年想い続けた愛しいリディアが妻となってくれたのだからどんな過酷な公務も張り切って引き受けていたのだ。しかし人間には限界があるのだということを、新婚で浮かれていたエブラーナ王は忘れてしまっていたようであるが…。



しばらく考え込んだ後、家老は何か思い付いた。

「そうじゃ、あれならば食欲がなくても大丈夫ですじゃ!」
「え?何か効くものがあるの?」
「はい!しばしお待ち下され!」


そう言って家老は城の奥へと引っ込み、程なくして戻ってきた。その手には…

「奥方様、これならば大丈夫ですじゃ!」
「???これは…薬?」
「はい!座薬でございます。これをお館様に!」


ざやく?初めて聞く薬の名前に怪訝な顔をするリディア。


バロンやミスト地方では風邪や高熱の治療は飲み薬や点滴が中心で、座薬はあまりメジャーではなかったため、存在を知らない者も少なくなかったのだ。


リディアの表情に気付かない家老のもとに、執政に関わる家臣の一人がやって来た。

「お話中失礼いたします。ご家老、昨夜のエブラーナ港の建設の件ですが…。」
「何!?ならば急がねば!では奥方様、お館様をお頼み申し上げますぞ。」
「えっ?は、はい…。」


家老と家臣は会議室へと行ってしまった。


しげしげと座薬の入った袋を見つめるリディア。

「…変わった形の薬ねえ。けどこれなら大丈夫だって言ってたし、早くエッジに飲ませてあげなくちゃ。」


使い方を知らないリディアが寝室へと戻ると、相変わらずエッジはしんどそうにベッドに横たわっていた。

「エッジ、大丈夫?今からおでこ冷やしてあげるからね。」
「あぁ…。」

冷やしたタオルをエッジのおでこに乗せるリディア。


「ね、エッジ。何も食べてなくても大丈夫な薬もらってきたよ。じいやがこれなら効くって。」


そう言って嬉しそうにエッジに座薬を見せるリディア。するとエッジは高熱で苦しいながらも切れ長の目を見開く。

「そ、そうか、リディア…。入れてくれるのか。ありがとな。」

まさか使い方を知らないとは思わず、愛する妻に座薬を入れてもらえるのだと興奮したエッジの体が一段と熱くなる。

「ね、起き上がれる?」
「あぁ…。」

エッジは横たわったまま、布団の中で寝間着のズボンと下着を脱ぎ始めた。何やらもぞもぞと動く夫の様子を見たリディアは、不思議そうな顔をする。

「エッジ?何してるの?」
「何って、座薬の準備してんだよ。」
「え???準備?」


「あ?…お前もしかして、座薬知らねーの?」
「あ…うん。初めて聞いた。」


エッジは思わずニタリと卑猥な笑みを浮かべる。リディアは年を重ねる度に女性としての魅力を増しているが、純粋な心を持つがゆえに、世間知らずなところが未だに見受けられる。しかしエッジにはそれが新鮮で可愛くてたまらない。


「リディア、これはな…。」
「うん?」


エッジはリディアに座薬の使用方法を耳打ちする。



「えええええ!?お、お尻の穴に?」

顔を真っ赤にするリディア。

「そうだぜ。いやぁ、嬉しいなぁ。可愛い嫁さんに尻の穴まで見てもらえるなんて。」


そう言ってエッジは高熱でだるい体を起こそうとする。

「いやっ…!バカ!自分で入れてよ!」
「なんだよ~、旦那が病気だってのに冷てえ奴だな…。」

「だって…。」
「自分じゃうまく入れられねーよ…。なぁ、入れてくれよリディア~。うー…熱で苦しい…。」

「もう…分かったわよ。」
「うほっ!幸せだな~。」
「バカッ!」

バカという言葉もリディアに言われると嬉しいエッジは掛布団をベッドの端に寄せ、四つん這いになってリディアに尻を見せる。リディアは座薬を一つ手に取り、エッジの尻と向かい合う。


(やだぁ…エッジのお尻の穴がひくひく動いてる…。)


エッジはリディアに尻の穴を見られて興奮が止まらない。もっと見てくれと言わんばかりに、尻を左右に振っているように見えるのは気のせいか。



深呼吸してリディアは腹を決める。


「…エッジ、入れるよ?」
「おぉ。」


リディアは座薬をエッジの肛門に挿し込んだ。ひんやりとした刺激がエッジの肛門を満たす。


「ぬほっ…!くはぁっ…!」
「へ、変な声出さないでっ!う~ん、もうちょっと奥まで入れないと…。」

座薬を正しい位置に入れようと、リディアは人差し指の先をきゅっとエッジの肛門に押し込む。


「おおおぅっ!」


リディアの指が自分の尻の穴に入ったのを感じ、またしても奇声を発するエッジ。


「…はい、座薬入ったよ。」

恥ずかしそうにリディアが言う。



「はぁ~っ、ありがとなリディア。」
「もうっ…。早くパンツ履いてよ。」


四つん這いになっていたエッジはベッドに仰向けになり、リディアに視線を送る。


「な、何よぉ。」


下半身裸の夫を直視できず、顔を背けながら答えるリディア。


「なぁ、パンツ履かせてくれよ。」
「…!自分でしなさいよっ!」

「いいじゃねーかよー。今日は安静にしろってお前が言ったんじゃねーか。」
「そ、そうだけど…。」

「履かせてくれよぉ…。夜のエッチの後はあんなに優しいのに。」
「バ、バカッ!…しょうがないなあ、今日は特別だからね!」


リディアはエッジに下着とズボンを履かせ、掛布団をかけてやった。


「リディア…ありがとな。大好きな嫁さんにこうやって世話してもらえて、俺は幸せもんだよ。」

そう言われて、リディアは照れ臭そうに顔をそむける。


「…病気なんだし、世話するわよ。」


照れ臭さに加え、夫の尻の穴を見た上に中に指まで入れてしまうという、リディアにはショッキングな体験が続いたため、素っ気ない返事をしてしまった。




気付くとエッジは一連の騒動(?)で疲れてしまったのか、眠りに落ちていた。










数時間後。



「エッジ、気分はどう?」


仕事の合間を縫って夫の様子を見に来たリディア。


「ん…大分楽になったぜ。」
「薬効いてきたのかしらね。熱測りましょう。」


呼吸も表情も落ち着き、自分で起き上がれるようになったエッジ。


「お、微熱になったな。」
「あら本当ね。何か食べれそう?」
「あぁ、腹減ったぞ。何か食わせてくれねぇか?」
「じゃあ何か作ってくるわ。待ってて?」
「おぅ…。」




およそ30分後…



「エッジ~、お待たせ。」


リディアの持つお盆の上には、熱々のお手製たまご粥。

「う、美味そうだな…。」
「ふふ、美味しいわよ?じゃ、ここに置いておくわね。」


リディアがお盆をベッドサイドのテーブルに置こうとすると…


「なぁ、リディア…。」
「ん?」


「…食べさせてくれよ。」

「なっ…何甘えてるのよ!自分で食べてよっ!」


甘えまくりな夫に檄を飛ばすリディア。

「いいじゃねぇかよ~。」
「もう微熱まで下がってるんだから自分で食べれるでしょ?仕事しないといけないのにっ!」


リディアに突き放され、エッジは悲しげな表情になってゆく。


「ひでぇなぁ…俺、病気なのに…。」


声を震わせ、捨てられた子猫のような目で妻を見つめるエッジ。


「んもう…しょうがないわねぇ。」
「食べさせてくれんのか?嬉しいなぁ、ぐふふふふ。」


エッジの隣に座り、熱々のたまご粥をスプーンに取ったリディアは、それをそのまま彼の口元へともって行った。


「お、おいおいおい!ふーふーしてくれよ!火傷するじゃねぇか!」
「も~、わがままねぇ。」
「お前わざとやってんだろ!」



仕方なくリディアが息を吹きかけてたまご粥を冷まし、エッジの口元へともって行くと…


「リディア…『エッジ、あーんして♡』って言ってくれよ~。」
「もう!どんだけ注文が多いのよ!?」
「注文って何だよ?病気の旦那に対する愛だろーが。」
「そんなの恥ずかしいもん!」
「いいじゃねぇか~、ずっとやって欲しかったんだよ。」


病気なのをいいことに甘えたい放題の夫に呆れるリディア。


「まったく…1回しか言ってあげないからね?」
「言ってくれるのか?嬉しいなぁ~。」


リディアは照れ臭そうに息をつく。


「はいエッジ、あーんして?」

エッジが満面の笑みで口を開けると、リディアはスプーンに乗ったたまご粥をそこに入れてやった。もぐもぐと口を動かし、ごっくんと飲み込むエッジ。

「ん~、美味いなぁ!」
「もう、バカ。」


エッジのおねだり通りにリディアはたまご粥をエッジの口に運んでやると、あっという間に平らげた。


「あぁ…美味かったぞ。」
「本当?よかった。」
「ありがとな、リディア。」


愛する妻の手料理を食べさせてもらえたエッジはほっこりとした顔でリディアを見つめる。

「そんなに見つめないで…。ほら、薬飲んで寝なさいよ。」
「おぅ…。」



褒められて満更でもないリディア。エッジが薬を飲んで横になる姿を見届けると、再び仕事に戻った。











そして、翌朝。



リディアが目を覚ますと、隣のベッドには、すっかり元気になって服を着替えるエッジがいた。

「お、起きたか。おはようリディア。」
「お…おはようエッジ。もう大丈夫なの?」
「おう。すっかりよくなったぜ。」

それを聞いてほっとするリディア。

「よかったぁ。」

自然と笑顔がこぼれる。その可愛い笑顔を見て、思わずエッジはリディアにちゅっと口づけする。

「んっ…。もう、病み上がりなのにこんなことしてぇ…。」

翡翠色の瞳を潤ませ、頬を真っ赤に染めるリディアが可愛くて、エッジはますます嬉しくなる。

「お前のおかげで元気になったよ。ありがとな。」

エッジはリディアをそっと抱き寄せ、今度はおでこと頬にキスをする。

「何といっても、座薬入れてくれたからな。」
「そうよ、あんな恥ずかしいことさせて…。」


ニヤニヤするエッジに頬を膨らませて不機嫌な表情を見せるリディア。

「そんな怒るなって。今度お前が熱出したら、俺が座薬入れてやるからさ。」
「…!!いいもんっ、飲み薬で何とかするもん!」
「そんな照れるなよ~。もう何回もお互いの裸見てるじゃねえか。尻の穴ぐらい…」
「バカッ!!!!」


リディアの拳がエッジの頭に直撃した。







今日も、エブラーナの平和な一日が始まる…。


―完―
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2014
05.23

「饅頭怖い!?」

「夜の八重桜」の中に出てきた、エッジとリディアがおやつのお饅頭のことで喧嘩になった時の話を書いてみました( ̄▽ ̄)







「饅頭怖い!?」







ある日の昼下がりのエブラーナ城。





(あ、もう1個しかないや…。エッジと半分こね。)

3時のおやつにエッジと饅頭を食べようと箱を開けたら1個しかないことに気付いたリディア。箱から饅頭を取り出してお皿に乗せ、お盆に乗せて執務室まで持って行った。


執務室に入ると、エッジはいなかった。

(あれエッジ、トイレかな?)


「そうそう、お茶淹れて来なくちゃ。」

リディアは饅頭を乗せた皿を机に置き、調理場へと向かった。




一方その頃、リディアと入れ違いにエッジが執務室に戻ってきた。


(ふー、今日はなかなか疲れるぜ。)


そう思っていると、机の上に置かれた饅頭がエッジの目に入る。


「お!リディアの奴、3時のおやつを用意してくれたんだな。」










調理場にいるリディアは、エッジの好きな玉露の缶を取り、2人分のお湯を沸かす。

「エッジ、このお茶好きなのよね~。」

忙しいエッジの仕事の合間のティータイムは、彼と一緒に過ごせるリディアの大好きな時間。自分達の湯呑みを出し、夫の喜ぶ顔を浮かべながらお茶を淹れる。


淹れた玉露の香りは独特で、その味は渋いながらも絶妙な甘みと旨さ。ミストやバロン地方で飲まれている紅茶とは全く違う美味しさである。エブラーナに住んでからは文化の違いを感じることが多く、リディアにとっては何もかもが新鮮だった。



お盆に湯呑みを乗せ、鼻歌混じりで執務室へと戻るリディア。


(エッジ、戻ってるかなぁ…?)


ドアを開けると、エッジがいた。

「あ、エッジ。お茶淹れてきたわよ。」
「おぅ、ありがとな。」

エッジは立ったまま書類を手に持ち、何やら口をもぐもぐさせているので、まさかと思ったリディアがお饅頭を乗せていたお皿を見ると…


「あっ、お饅頭がない…!」
「ん?」
「それ最後の1個だからエッジと半分こしようと思ってたのに…!」


リディアがそう言った途端、エッジの喉がゴクリと動いた。















非常に気まず~い空気が2人を包み込む…。







「わ…悪りぃ、リディア…。」
「そんなぁ…!私も食べようと思ってたのに…。」


仕事の疲れが出てくる時間帯の糖分補給と夫との会話は、リディアのとても大事な時間。せっかくの楽しみをぶち壊され、今にも泣き出しそうなリディアの顔を見たエッジは、どう弁解しようか必死に頭を巡らせる。



「あ、いや…その…お前はもう自分の分は食ったもんだと…。」
「何よそれ!いつも一緒に食べてるじゃない!1つしかないのに、おかしいと思わなかったの!?」
「あ、あぁそうだな…。」


(や、やべぇ…殺される…。)


この世界で1番の黒魔法の使い手とも言えるリディアから、何やら殺傷力のありそうな魔力が放出され始めているのを感じるのは気のせいか。慌てたエッジはリディアを宥めようと、彼女の肩を優しく撫でる。


「リ、リディアすまねぇ…!今すぐ調理場の子に饅頭買いに行ってもらうように言ってやるよ!」
「担当の子には買っておくの明日のおやつの時間まででいいからって言ってあるもん。そんな事したら忙しいのに気の毒じゃない!」
「う…そ、そうか。なら、他に茶菓子がねぇか見てきてやるよ!」
「…もう何もないわよ。さっき見てきたもん。」


何を言っても空回りしてしまう残念なエブラーナ国王。怒って低い声で話すリディアからはデスの魔法が放たれそうな空気が漂っている。必死にどうやってこの場を乗り切るか考えを巡らせるエッジだが、戦闘の時以上の緊迫感の中、変な汗が身体中から吹き出てくるだけだった。



「あ、えーと…その…。」
「もういいわよ!」



必死に何かを言おうとする夫をピシャリと遮り、持っていたお盆を机に置いて自分の湯呑みを取って椅子に座り、立ちつくすエッジを尻目に仕事を再開するリディア。彼女からは背後にいるエッジに向かって、近寄るんじゃねぇ話しかけたらぶっ殺すぞてめぇオーラが発されていた。




エッジはそれに対抗し、申し訳ございませんもう2度といたしませんお許し下さい王妃様オーラをリディアに向かって放ってみる。しかしあっという間に彼女の殺気立ったオーラにかき消されてしまい、デスの魔法で現れる死神がエッジを睨みつけているのが見えた。


(ひ~…!!!まだ死にたくねぇよ…!)


何とか一命をとりとめた(?)エッジは、リディアの淹れてくれたお茶を飲もうと、お盆の上の湯呑みを手に取り、自分の椅子に座った。



ここは仲直りするきっかけをつかもうとお茶を啜り、チラリとリディアを見ながら…




「あー、美味い!大好きな嫁さんに淹れてもらった茶は最高だな~!」
「…。」














余計に気まずいだけだった。







エッジの身体からは変な汗が再び吹き出てくる。戦いの時は冷静な判断を下せるようになったエブラーナ国王だが、相手がリディアとなるとまるっきりそれが不可能だった。詫びのキスをしようにも、リディアの身体に触れようものなら即死しそうな雰囲気である。


(まさに、食べ物の怨みは恐ろしいってやつだな…。)







リディアから絶え間無く放たれる殺気立ったオーラは、ビシビシとエッジの身体を突き刺す。




(あ~、誰か決裁のサインでももらいに来てくれねぇか…このままじゃ俺死んじまう…。)





すると、執務室のドアがノックされた。

「!!おぅ、入っていいぞ!」
「失礼致します!」


入ってきた数人の家臣達は、気まずい雰囲気の中にいるエッジの目には光り輝く救世主に見えた。



「ご苦労さん。どうした?」
「はっ!新施設建設現場の測量の結果なんですが、先程現場の者から報告書が届きまして…」
「おっ!早いじゃねぇか。んでどうだったんだ?」
「建設にあたっては特に問題はないかと思われますが。」
「んー、そうか。そういやあの辺は地震とかは大丈夫なのか?昔、大地震があったって聞いた気がするぜ?」
「そうですか…記録を見てみないと分かりかねますので、お持ち致します!」

「!!あ、なら俺が記録を見に行く!お前らの部屋にあるのか?」
「いえいえ、こちらにお持ち致します!」


せっかくのこの気まずい雰囲気から逃れるチャンスだというのに、家臣達の丁寧さはエッジにしたらありがた迷惑だった。


「いや、俺が行く!お前らも忙しいだろ?」
「はぁ…ではお越しいただけますか?」
「お、おぅ!」


(ふ~、助かったぜ!次回のこいつらのボーナス増額しておくかな…。)


エブラーナ国王よ、それは職権濫用に該当しないか。エッジは執務室を後にし、家臣達にひょこひょことついていった。







そしておよそ1時間後…



「さて…。」



記録を確認し終わったエッジはキョロキョロと周りを見渡しながら中央塔の出口に着くと、音を立てずに屋上へと飛び上がる。そして気付かれないように外壁を飛び越えてこっそり城を出ようとすると…


「お館様!」

家老が気付き、エッジを呼び止める。

(じい…何でいつもこのタイミングで…)

苦い顔をするしかないエッジ。

「どちらに行かれるのですかな?」
「あ、いや…ちょっと野暮用ってやつだ。」
「はい?」
「心配すんなって!すぐ戻って来るからよ!」
「そう言っていつも長時間帰って来られないではないですか!もうミストに行く用事もないというのに、一体どちらへ行かれるのですか!」
「いや、本当にすぐ帰って来るって!30分かそこらだからよ!」

「…そうでございますか。ではお気をつけて…。」
「お、おぅ!すまねぇな、心配かけて。」



家老が城内に戻って行くのを見届けると、エッジは忍者としての脚力を活かして目にも止まらぬ速さで走り出した。




(早く行かねぇと…!)












「はぁ…。」


執務室にいるリディアがため息をつく。糖分補給ができなかったせいで頭にエネルギーが回らず、仕事が捗らない。


「もうすぐ夕食だし、それまでの我慢よね…。」




リディアは再び書類と向き合い、仕事を続けた。






そして…









リディアがエネルギーを使い果たした身体を引きずり、王族用のダイニングルームに行くと…


「おぅ、リディア。」
「…。」


エッジの呼びかけには応えず、下を向いて自分の席に座り、空腹も手伝ってか、リディアは再び殺気立ったオーラを放つ。



いつもは豪快に組んでいる脚をきちんと閉じ、手は膝の上、椅子に深く腰掛け、縮こまるエッジ。





(頑張れ、俺…もう少しの辛抱だ。)





食事が配膳されると、無言の夕食が始まった。エッジはチラチラとリディアの様子を見ながら食事を口へ運ぶが、リディアはエッジの方を全く見ようとしない。




(お、東利の柴漬け!これ美味いんだよな~。)


エッジがお気に入りの漬物が出されているのに気付き、食べようと箸を伸ばした。すると、何ということかリディアの箸と重なった。重なった箸からも寒気がするような殺気が伝わってきて、思わず身震いするエッジ。



「…あぁ、悪りぃ。先に取れよ。」



リディアは無言で漬物を先に取る。




饅頭1つの事で、ここまで怖い思いをするはめになったエブラーナ国王は、黙って食事を続ける。



「ごちそうさまでした。」


リディアは食事を終え、エッジなど気に留める様子もなく席を立とうとすると…



「奥方様、本日は食後のデザートがございますよ。」

「え!?」



侍女のデザートという言葉を聞き、3時のおやつにあり付けなかったリディアの目がキラキラと輝き出した。


「こちらでございます。」


侍女がニコニコしながら持ってきたのは、お皿に乗せられた3本のエブラーナ菓子・みたらし団子だった。老舗のエブラーナ菓子屋で売られており、濃厚なタレとコシのあるもちもちとした団子が特長で、他国からも注文が来るほどの人気なのだ。


「わぁ…!!このお団子、また食べたいと思ってたの!」



リディアは婚約期間中、エッジに店に連れて行ってもらったことがあり、そこで1度このみたらし団子を堪能したことがあった。しかし国内外で大人気なために品切れが続き、リディアがエッジにまた食べたいとおねだりしていたのだが、その後は入手が不可能だったのだ。



「いただきまーす!」



リディアは満面の笑みでみたらし団子をぱくっと口に入れた。程よく醤油味のついた甘いタレと、団子のもちもちとした食感がリディアの口の中で絶妙なハーモニーを織り成す。


「ん~、おいしーい!!」


幸せそうなリディアを見て、エッジは微笑む。


「美味いか?」
「うん!」


さっきまでの殺気立ったオーラは消え去り、すっかりご機嫌のリディア。1本だけでは足りず、もう1本手に取ると、それもあっという間に平らげる。


(ん~幸せ~!)




最後の1本のみたらし団子を前に、リディアはちらりとエッジを見た。


「いいぞ、好きなだけ食えよ。」


にっこり笑う夫を見たリディアは、さっと最後の1本を手に取る。もぐもぐと幸せそうに団子を食べるリディアを、終始笑顔で見つめるエッジ。


「はぁ~、おいしかったぁ。お菓子買っておくの、明日のおやつの時間まででいいって言ったのに。それにこのお団子、よく手に入ったわね?」



それを聞いた侍女はにっこりと笑う。



「奥方様、みたらし団子はお館様がご用意されましてございます。」

「えっ!?」



リディアがエッジを見ると、彼は照れ臭そうに少し視線を逸らしながら微笑んでいた。




(エッジ…!)







2人はダイニングルームを出た。

「リディア。」
「ん?」
「…執務室で待っててくれねぇか?」
「…うん。」




(エッジ…あんな遠くまであのお団子買いに行ったの?)




リディアが執務室で待っていると、エッジがお茶の入ったリディアの湯呑みを持ってきた。


「ほら、飲めよ。甘いもん食ったし、喉渇いてるだろ?」
「うん…。」


夫が淹れてくれたお茶を啜ると、リディアの身体いっぱいに温もりが広がっていき、幸せな気分になってくる。


「おいしい…。」
「へへへ、そりゃ良かった。」



自分の椅子をリディアのすぐ横に寄せてそこに座り、彼女をじっと見つめるエッジ。



丸く見開かれたリディアの大きく透き通った翡翠色の瞳がぱちぱちと瞬きし、長い睫毛が揺れ、その美しさにエッジの胸は高鳴る。



鍛え上げられた腕がリディアの背中に回り、ギュッと彼女を抱き締めた。


「エッジ…?」


妻と視線を合わせたエッジはゆっくりと彼女と唇を重ねる。



ちゅっ、ちゅぷ、ちゅぶっ…



口周りからねぶり上げるような夫の口づけを、リディアはポーッとしながら受け入れる。


エッジの舌はリディアの上唇と下唇をぐるりと舐め上げ、両方の口角も舌先でぺろりと舐める。


顔を離すと、リディアの頬はほんのり赤らんでいた。昼間の出来事のせいで、何となくエッジと視線を合わせづらくなり、少し俯くリディア。


「へへ…お前の口周りがみたらし団子のタレだらけだったからな。」
「…嘘ばっかり。」



どう反応すれば良いか分からず、もじもじするリディア。するとエッジが彼女の手をそっと握る。



「リディア…今日はすまなかった。饅頭食っちまってごめんな。」
「…。」


「俺が悪かったよ、ごめんな?」


エッジの顔を見ると、真面目だけれどとても優しげな表情で、リディアは胸がドキドキしてしまう。




ゆっくりと重なってくる夫の唇。ふんわりと柔らかくて優しくて、そっと自分の唇を食むようなその動きに、リディアは全身が蕩けてしまいそうな気がした。


握られていた手の指が絡み合い、エッジの唇がだんだん深く侵入してきた。


「ん…エッジ、やめてぇ…。」



きつく当たったのに優しくされて、気まずいリディアは思わず顔を背けるが、そうされてもエッジは色白の頬にちゅっちゅっとキスをし続ける。


「お前のほっぺた、あのみたらし団子みてぇにもちもちしてるな。食ったら美味そうだな~。」
「んもう…何言ってるのよ。」


嬉しそうに自分にキスする夫の顔を見て、リディアは恥ずかしくなってますます顔が赤くなり、彼に背中を向けた。


「リディア…こっち向いてくれよ。」
「嫌っ…。」



リディアの機嫌が治っているのを分かっているエッジは、後ろから彼女を抱きすくめる。妻の柔らかな緑の髪から香る、甘く優しい匂いをゆっくり鼻で呼吸して堪能し、耳朶をかぷっと噛む。リディアがピクッと身を竦めるのを見て、今度は首筋にそっとキスをする。

「やぁっ、エッジ…!」

リディアが首を竦めるが、エッジは強引に唇を彼女の首筋に割り込ませ、柔らかなキスを繰り返す。


「んっ…もうっ…!」


そう言うと、エッジは首筋へのキスをやめ、さっきよりもギュッとリディアを抱き締めた。じっとしているリディアの背中からは、心臓がドキドキしているのが伝わってくる。


「リディア、すまねぇ…。愛してるぜ。」


耳元で夫に愛の言葉を囁かれ、リディアの鼓動はますます早まった。


(やだぁ…恥ずかしいっ…!)



「なぁ、こっち向いてくれよ。お前の顔が見たいんだ。」



もうこれ以上夫からは逃げられないと思ったリディアは、ついに身体を彼の方に向けた。するとエッジの顔がみるみるほころぶ。


「ん~、可愛いお顔だなぁ。」
「何なのよ、バカ。」
「あ?可愛いから可愛いって言ってるんだぞ?」




エッジが裏表のないストレートな性格なのを知っているリディアは、お世辞じゃないことを分かっていたのだが、喧嘩した手前、簡単に喜びを表現できなかった。


「リディア…許してくれよ。」


エッジは許しを乞いながら、再びリディアの手を握る。


「…エッジ。」
「ん?」

「あのお団子、いつ買いに行ったの?」
「お前と喧嘩して、昔の記録確認しに行った後だぜ?」
「え?飛空挺の音、何も聞こえなかったのに…。」


以前店に行った時は遠いからと飛空挺を使ったのだが、空いていた執務室の窓からはそれらしい音が全く聞こえた覚えがない。もし歩いて行ったのならば往復で半日はかかる距離なのに…とリディアが不思議に思っていると、エッジはニタリと笑った。


「俺を誰だと思ってんだ?忍者の俺が全力で走れば、30分で帰って来れるってーの。」
「!?」




「前はお前と一緒だったから飛空挺使ったけどよ、今日は俺1人だったからな。」
「…うん。お団子、売れ残ってたの?いつも売り切れで、エッジから注文してもらっても手に入らなかったのに。」
「おう、今日はラッキーだったぞ。もし売り切れてたらもう他の店に違う茶菓子買いに行っても閉店してるぐらいの時間帯だったから、ヒヤヒヤしたけどな。」


リディアと仲直りするために、エッジは一か八かの賭けに出ていたのだ。リディアの翡翠色の瞳が少し潤む。


(エッジったら無茶ばっかりして…。)


たかが饅頭1個のことであんなに怒ってしまったリディアは自分が恥ずかしくなった。


「リディア…俺が悪かったよ、ごめんな。」


深い目の色で見つめられたリディアはもう目を逸らせなかった。最早口にできる言葉は、ただ一つだけ。









「エッジ……私こそ…あんなに怒っちゃってごめんね?」






エッジの表情は一気に緩み、リディアは強く強く抱きしめられた。


「やだぁエッジ、苦しい~!」
「ん~リディア~、許してくれてありがとな。」
「だって仕方ないじゃない…。私のためにそんなに頑張ってくれたんだもん。」


やや不貞腐れたような言い方をするリディアに上目遣いで見つめられたエッジは、鼻血が出そうな程の衝撃を受けた。




(あぁ…可愛い過ぎるぜ。そんな事したら、俺は何でも許しちまうぞ。)




「じゃ、じゃあリディア…ここに仲直りのチューを…。」



エッジがニヤニヤしながら自分の頬を指差した。

「もう~、手のかかる子ねぇ。」
「お前の旦那だぞ?責任持って面倒見ろよ?」
「はいはい。」





ちゅっ。



「!!!」


エッジが驚いて唇を手で覆うと、リディアはにっこり笑っていた。


「うふふ、特別サービスよ?」


興奮して熱い血がエッジの身体中を巡り出し、顔が真っ赤になる。



「くそっ、リディアてめぇ…!」
「きゃあぁぁっ!」



リディアが身動きできないぐらいにギューっと抱きしめるエッジ。


ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…



顔の角度を変えながら、猛烈な連続キスをリディアに浴びせていく。その気持ち良さにリディアの身体からは力が抜けていった。



「んっ、んっ、ん…。」


リディアがキスの僅かな合間に鼻で呼吸していると…



ちゅぅぅぅぅっ…!!



最後は強力に唇を吸い上げる口づけが待っていた。


「はぁっ、はぁ…。」



口づけの後、呼吸を整えながら自然に見つめ合い、笑いがこぼれる2人はまた唇を重ねながら会話を始める。


「んふぅ、エッジ…お団子美味しかったよ。」
「ん…美味かっただろ?俺の愛がこもってるんだからな。」
「うん…ふぅ、エッジ、ありがとう…。」





すっかり仲直りしたエブラーナ国王夫妻。この後も執務室の中で、饅頭よりも、みたらし団子よりもずーっと甘い甘い口づけが続きましたとさ…。




ー完ー

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2014
05.18

「忍びの妻」

TA後エジリディSS第10弾です☆結婚して以来、エッジに大事に大事にされているリディア。けれどリディアの本音は…。







「忍びの妻」






冬の気配がだんだん近くなり、朝夕はめっきり冷え込むエブラーナ王国。しかしその寒さの中でも、国王エッジは朝の稽古を欠かさず、日々鍛錬に励んでいた。




そして今日も、エッジは早朝の訓練の後はエブラーナ城から少し離れた所にある、寒さと静寂に包まれた寺院の中の本堂で祭壇に向かい合い、冷え切った床の上に座禅を組み、精神を高めていた。




「…お前ら、別に俺に付き合う必要ねぇんだぞ?」



目を瞑ったまま、エッジは自分の後ろに座る四人に話しかける。


「付き合うとは、おかしなことをおっしゃる。」
「我らは自らの意志で、ここにおりまする。」
「忍びたる者、精神力は欠かせませぬゆえ。」
「いついかなる時でも、強い精神がなければ、自分も他人も守れませぬ。」


エッジ直属の部下であるエブラーナ四人衆・ゲッコウ、ザンゲツ、イザヨイ、ツキノワもまた朝の稽古後、この寺院でエッジと共に精神を高めるために座禅を組んでいた。


「へっ、相変わらず暇な奴らだな。好きにしやがれ…。」

「ありがたき幸せにございます。」


主君への忠誠を誓う四人衆の声が重なる。


うっすら目を開けたエッジの視線は、祭壇の蝋燭に灯る火に向かっていた。




火―――






エッジの身体に染み付いた火の思い出。



10数年前の月の対戦でゴルベーザ四天王のリーダー・ルビカンテに城を襲撃されたエブラーナ。若かった自分は怒りに狂って我を失い、エブラーナの洞窟で単身ルビカンテに戦いを挑み、彼の強力な炎に身を焼かれ、呆気なく敗北した。




死ぬ事など怖くなかった。

復讐を果たせるのならそれで良かった。





あの涙を見るまでは―――







『もうこれ以上死んじゃうのは嫌よぉっ!!』



美しい翡翠色の瞳から零れ落ちる涙。


見ず知らずの自分のために泣く、ふわふわとした緑の髪に、色白で華奢な美しい少女。


全身に大火傷を負い、話すことすら辛い状況の中、みるみる彼女に惹かれていった。


一国の王子という立場柄、それまで女に不自由することなどなかったのに、気付いたら彼女の事しか考えられなくなっていた。




一緒にいたい。
守りたい。
何でもしてやりたい。



だから俺は生きるんだ―――




目を瞑ると、瞼の裏にその愛しい女性の姿が浮かんでくる。






「…!」

「何者だ!?」

部屋の外の微かな気配に気付いた四人衆。


「…怪しいもんじゃねぇよ、戸を開けてやれ。」

「お館様…!?」
「いいから入れてやれ。」


ゲッコウとザンゲツが恐る恐る戸を開けると―――


ついさっきエッジの瞼の裏に浮かんでいた色白で華奢な美しい女性が、柔らかな緑の髪を靡かせながら部屋に入り、最前列に座る夫の元へと歩み寄る。


四人衆は慌てて跪き、彼女に敬礼する。


「エッジ…!」





「…リディア、何しに来た?ここはお前の来るとこじゃねぇぞ。」


目を閉じたまま、微動だにせず妻に問いかける。


「…どうして?」
「ここは忍びが精神統一をする場所だ。お前が来る必要はない。」

「…私はこの国の王妃なのに?」
「…あぁ。」

「私はエッジの奥さんなのに?」
「…。」


エッジが微かに眉をしかめた。この口調は妻が何を言っても聞かないモードになっている証拠だからだ。


リディアはエッジの隣に座った。朝夕はすっかり冷え込む季節になり、暖房設備のない寺院の中では吐く息が白い。今いる部屋の床は夜の間、冷たい空気にさらされていたため輪をかけるように冷たい。床に触れたお尻から、刺すような冷気がリディアの身体に巡る。


「冷たっ…。」
「ったく、このぐらいで弱音吐くようじゃこの先の寒さに耐えられねぇぞ。早く城に帰って身体あっためて来い。」


「…大丈夫だもん。」

唇をへの字に結び、床からの冷気に耐えるリディア。

「普段訓練してねぇ奴がこんなとこにいたら風邪引くぞ。さっさと帰れ。」
「嫌よ。エッジが精神統一終わるまでここにいる。」


どうしても自分の隣にいると言って聞かない妻。エッジはふーとため息をつく。


「あの、奥方様…これをお使い下さいませ。」

ツキノワが部屋の隅に置いてあったふかふかとした座布団をリディアに持ってきた。

「ありがとう、ツキノワ。でも私、エッジと同じようにしたいの。せっかくなのにごめんね。」


それを聞いたエッジの顔が険しくなった。


「何が『エッジと同じようにしたいの』だよ。お前は忍びじゃねぇだろ。」


夫の真顔にビクッとするリディア。

「…何でそんなに怒るの?私は忍びじゃないけど、この国の王妃だもん。エッジについていくのはいけない事なの?」

怯えながらも反発したが、エッジの表情はさらに険しくなった。


「俺の言うことが聞けねぇのか!さっさと城に戻って身体あっためろって言ってんだろ!訓練の邪魔するんじゃねぇ!」


リディアはエッジのあまりの剣幕に思わず涙が出そうになった。


「お、お館様…何もそこまで言わずとも…。」


イザヨイがエッジを宥めようとするが、彼の表情は険しいままだった。


「悪りぃな、お前らの訓練の邪魔しちまって。」
「あ、いえ…。」
「俺はこいつを城に連れて帰る。うちの嫁は言い出したら聞かねぇからな。」
「はっ…。ではお館様、今夜の野外訓練の件は後ほど…。」
「あぁ。」



「え、野外訓練…?」



リディアが不思議そうな顔をしていると、エッジが彼女の腕を掴んだ。


「さぁ、帰るぞリディア。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!野外訓練って何?そんなの聞いてない…」
「いちいち口ごたえすんじゃねぇ!!」


またしても夫に怒鳴られるリディア。いよいよ涙が零れてきた。

「うっ、う…ふぇぇん…。」


エッジは何も言わずにリディアを横抱きし、寺院を後にした。





城に戻る道中、リディアはエッジの胸の中でぐずっていた。冷たい外気に身を震わせていると、エッジは自分のマントでリディアの身体を包み込んだ。

(エッジ…優しいなぁ。)


自分が昨夜、何かエッジの気に障るような事でもしたのかと思っていたが、どうやら違うようだ。いつもは優しい夫なのに、なぜ自分が彼についていこうとするとあんなに怒られるのかが理解できない。



(エッジは私の事には何でも合わせて全部受け入れてくれるのに、どうして…?)




リディアを抱えてエブラーナ城に戻ったエッジ。その姿を見て驚いた家老が駆け寄って来た。

「お、お館様!奥方様がどうかなされたのですか!?」
「大丈夫だよ。こいつが言うこと聞かねぇからこうしてるだけだ。」
「???」


訳が分からないという顔をする家老を尻目に、エッジはリディアを抱えたまま寝室へ向かった。




ベッドの端にリディアを座らせたエッジは上着を脱ぎ、汗のついた稽古着を着替え、リディアの隣に座る。



自分が理解できないことで怒鳴られ、俯いたままエッジの顔を見れないリディア。


ちゅっ。


「!」

頬にキスされ、はっとエッジを見るリディア。するとさっきまであんなに険しい顔をしていた夫は穏やかな表情で自分を見つめていた。


(エッジ…?)


「リディア、ここ座れよ。」

ベッドの上で胡座をかいたエッジはにっこり笑って自分の膝をポンポンと叩いた。


リディアが黙ってそこに座ると、エッジは彼女の腰とお尻を優しくさする。

「ほら、こんなに冷えてるじゃねぇか。」

夫の膝と手から伝わるリディアより少し高めの体温が、寺院の床で冷えてしまったリディアの下半身を温めていく。

「エッジ、気持ちいい…。」

思わずエッジに抱きつき、彼の首の後ろに腕を回す。

「ったく、この甘えん坊が…。」

夫の顔は、実にほっこりとしている。さっきまでの険しい忍びの一族の長ではなく、リディアが大好きなエッジの顔である。

「エッジ~。」

甘えた声を出し、エッジの頬にちゅっとするリディア。

「へへへ…お前はどこまで可愛いんだよ。そんな事したら俺はお前のこと離さねぇぞ?」
「うん…離さないで。ずっとエッジのそばにいさせて?」


「…この野郎~!」


満面の笑みでリディアをギュッと抱きしめて何度も口づけするエッジ。

ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…




嵐のような口づけの後、リディアはエッジをじっと見つめる。

「…ねぇ、エッジ?」
「うん?」

「さっき、どうしてあんなに怒ったの?」
「…。」

「私、そんなにいけない事したの…?」


リディアの問いに、エッジの表情が曇り出す。

「今夜野外訓練するって言ってたけど、そんな話聞いてないよ…。」


エッジは何か考えてる様子である。


「…お前には関係ねぇことだからだよ。」

夫の一言に、リディアはムッとした。

「どうして?」
「…関係ねぇもんはねぇんだよ。」
「関係あるわよ!私、エッジの奥さんだもん!」



エッジはリディアの言いたいことは、寺にいた時から分かっていた。しかし忍びとしての訓練は過酷を極めるし、訓練の準備等も肉体労働が多い。エッジは身体の弱い召喚士であるリディアを守りたいから、どんな形であってもそれに巻き込みたくない。


「そうか、お前は夜間訓練って聞いて、今夜は俺に抱いてもらえないって思ったんだな?大丈夫だって、訓練の前にちゃんと抱いてやるよ。何なら今でも構わねぇぜ~?」


エッジは卑猥な笑みを浮かべてウインクし、リディアの柔らかな緑の髪を撫でた。しかしリディアは澄んだ翡翠色の瞳を潤ませ、可愛い唇をぐっと結び、エッジを見つめていた。




「…すまねぇ、俺が悪かった。」


リディアの真剣な表情を見て、ごまかそうとした自分に嫌気がさし、詫びるしかないエッジ。リディアは忍びの一族の長の妻として、必死に自分に寄り添おうとしているのに。


「別に訓練に参加させてくれって言ってるんじゃないわよ…。」
「…あぁ。」

「…どういう予定なのかぐらい教えてくれたっていいじゃない。それに、準備とか色々あるんでしょう?」


自分の事は何から何まで理解して尊重してくれるエッジ。なのに何故逆に彼を理解し、助けるのはいけないのか。


「…確かに、予定を伝えてなかったのは悪かった。すまねぇ。けどな、訓練の準備は重い武器や道具を訓練場所の山岳地帯まで運んだりするんだ。そんな力仕事、お前には無理だろ?モンスターだっているんだぜ?しかもあの辺は夜すげぇ冷え込むし、風邪引いちまうぞ。だからお前は来んじゃねぇ。」


エッジにそう言われ、リディアは黙って俯いてしまった。


(これで納得するだろ…。)


愛する妻に苦労をかけたくない、辛いことは自分が背負えばいい。それがエッジのリディアに対する愛情だった。


「…私には何もできないの?」


何とかして大好きなエッジの力になりたい。その思いが込められた質問にエッジは精悍な眉を顰め、どうやって説き伏せようかと思案する。





「んー、なら俺が訓練に行く時、見送りを頼む。『お館様、行ってらっしゃいませ』って言ってくれよ。ずっとお前に言って欲しかったんだよ~。」

またしてもヘラヘラとリディアの顔を覗き込むエッジ。








「…分かったわよ。」



俯いたまま、低く小さな声でリディアが返事した。

(やべぇ…逆効果だったか?)


エッジはリディアが怒っているのを感じていたが、ここはもう話を終わらせようと、笑顔でリディアを抱きしめる。

「よしリディア、頼んだぞ?いやぁ、大好きな嫁さんに見送ってもらえて俺は幸せだぜ。」


リディアの背中を優しく撫で、頬にちゅっとするエッジ。リディアはずっと俯いていたため、表情は見えなかったが、ただならぬ気配を醸し出していた。

「さぁ、朝飯食いに行こうぜ?腹減った~。」
「…。」





(これでいいんだ。何かあってからじゃ遅せぇからな…。)




朝食後、エッジとリディアは執務室で仕事を始めた。



「リディア、これを財務担当の奴らの所に持って行ってくれ。」
「…。」



黙って書類を受け取り、執務室から出て行くリディア。彼女の背中からはピリピリとした雰囲気が伝わってきた。


(怖えぇ…勘弁してくれよ…。)



家臣達がちょうど出払っているため、自分とリディアの間の緩衝材になるものが何もなく、怯えながら仕事をするエブラーナ国王だった。




財務担当の家臣に書類を渡したリディアは、城内の通路でイザヨイと数人のくノ一達が手裏剣や忍びの道具を運んでいるのを見かけた。

「ねぇ、イザヨイ!」

リディアは思い切って声をかけた。

「これは奥方様。いかがなされましたか?」

「あなた達、今夜の野外訓練の準備しているのよね?私にも手伝わせてくれない?」

イザヨイは首を横に振る。

「奥方様、それはなりませぬ。これは私共の仕事でございますゆえ。」

「…エッジから私には一切手を出させるなって言われてるのね?」
「…。」


イザヨイ達はただ黙っていた。



(エッジったら…!)










そして、エッジが夜間訓練の場所に向かう時間になった。


「おーい、リディアー?」

(あいつ、どこ行ったんだよ?見送りを頼むって言ったのに…。)

「…お館様。」
「おぅ、じいか。リディア知らねぇか?」
「奥方様は気分がすぐれないと言って、お部屋へ戻られましたが…。」
「あ…そうか。なら仕方ねぇな。」

「お館様、奥方様に訓練の準備ぐらいならお手伝いいただいてもよかったのでは…?」
「あ?…何でじいがそんな事…。」

「奥方様が悲しそうにしておられましたぞ。お館様は自分に何もさせてくれぬと…。」

(リディア…じいに喋ったのかよ…。)

顔を顰めるエッジに、家老は話し続ける。

「お館様の母上様とて、夜間訓練の時は準備を率先して行なっておられたではないですか。それに訓練に参加せずとも、先王様に同行し、怪我人の救護や細かな雑用などを引き受けていらっしゃった…。」
「お袋はお袋、リディアはリディアだ。あいつを危ない目に遭わせるわけにいかねぇ。あの辺は昔と違って、今は夜になると凶暴なモンスターが出るんだからな。」

「…左様でございますか。今はお館様の治世、先代と同じようにはいきませぬか…。」
「そういうこった。さて、俺もそろそろ行ってくらぁ。」
「はっ、お気をつけて…。」


エッジはエブラーナ城を後にした。




そして城の北にある、山岳地帯にある陣地に着くと―――



「お館様、お待ちしておりました。」

先にそこに着いていたエブラーナ四人衆がエッジに跪き、敬礼した。

「ご苦労さん。準備は整ってるのか?」
「はっ。いつでも始められる状態にございます。」

「今日は実戦経験の浅い若手の奴らがメインだ。怪我人も出るだろう。救護も頼むぞ。」

「はい、お館様。」

(ん…?)

聞き覚えのある女性の声。


エッジが振り向くと、そこには―――





緑の長い髪を一つに纏め、女性用の装束を身に付けたリディアが立っていた。



「リディア、お前…!!」


「申し訳ございません!!!」

四人衆の声が同時に響く。

「奥方様がどうしてもとおっしゃるもので…。」

ゲッコウが代表して主君に詫びた。

エッジは大きなため息をつきながら首を垂れる。

「こいつが聞かなかったんだろ?お前らのせいじゃねぇよ。」

それを聞いたリディアは不機嫌そうに腰に手を当てた。

「そうよ、ゲッコウ達は悪くないのよ。だから怒らないであげてよね!」

リディアの一言にエッジの眉がピクリと動いた。

「偉そうな口聞くんじゃねぇ!来るなって言っただろうが!!さっさと城に帰れ!!」

夫の上から目線な言葉に、リディアはカチンときた。

「私だって救護ぐらいできるもん!!ポーションや毒消しの用意ぐらいできるわよ!!力仕事しかないなんて嘘ばっかり!!」

痛いところを突かれたエッジだったが、すぐさま切り返す。

「今日は経験の浅い若手の奴らが多くて手裏剣や飛び道具のコントロールも俺やこいつら四人衆みたいに正確じゃねぇんだぞ!お前は自分のとこに手裏剣飛んで来ても避けれるのかよ!?」
「魔法使って止められるわよ!!何度も一緒に戦ってきたのに何で今更そんなに心配されなきゃなんないの!?」

「この辺はバロンやミストよりもずっと凶暴なモンスターが出るぞ?俺達は訓練の間、もしお前が襲われても助けてやれねぇぞ?城に帰るんなら今のうちだぜ?」
「黒魔法も召喚魔法も使えるし、何とでもなるわよ!!」

「じゃあこんな寒いとこにいて、風邪引いても知らねぇぞ?俺は忙しいからお前の看病なんてしてらんねぇからな!!」
「大丈夫だもん、しっかり着込んで来てるからあったかいもん!!」

何を言っても言い返してくるリディアに、エッジは大きなため息をついた。

「ったく、この頑固女が…。勝手にしろ!!」
「言われなくてもそうするわよ。」


リディアの一言にまたカチンときたエッジだったが、部下達の手前、ぐっと抑え込んだ。


「あの、お館様…訓練を開始してもよろしいでしょうか…?」

ゲッコウの一言に、エッジはハッとした。

「ん?あぁ、悪りぃ。よし、始めるか。」
「はっ、では…。皆の者、集まれ!」


ゲッコウの合図で、訓練に参加する忍び達がエッジ達の前に集まった。

「皆の者、今宵の訓練はそなた達の強い要望に応え、お館様にも御参加頂く!貴重な機会であるゆえ、心して臨むのだぞ!!」

「ははーっ!!」


全員がエッジに向けて敬礼するのを見て、思わずリディアの背筋はピンと伸びた。


(エッジ…本当に皆から慕われているのね…。)


エッジの隣に立つリディアは、ただうっとりと彼を見つめた。出会った頃は王子らしからぬ口の悪さやいい加減な行動が目について仕方なかったのに、今やすっかり威厳のある国王なのだから。自分の前では今でもスケベなお調子者だが、結婚して以来、こういうギャップを見るたびにリディアはドキドキしてしまう。


「では全員配置につけ!!」


エッジの合図で集まった忍び達が目にも留まらぬ速さで散り散りになった。


「ツキノワ、頼む。」
「はい!」


ツキノワが笛を吹き、モンスターを呼び寄せる音色を響かせた。
その音に反応し、周りの木々からざわざわという音とともにモンスター達の気配が漂ってきた。


緊迫した空気がエッジ達を包み込む。



エッジは目を閉じ、耳を澄ませてモンスター達の気配を感じ取る。


「来るぞ!」


エッジの声と共に、モンスター達が一気に忍び達に襲い掛かった。


「放てー!!」


後方に構える忍び達から手裏剣、弓矢、くないがモンスター達に向かって放たれた。同時に接近戦を得意とする者達が刀を手にモンスター達に切りかかる。明かりがないとほとんど見えない暗闇の中、若手と言えど五感を鍛えられた忍び達は襲い掛かるモンスター達に応戦する。


「ギャオオオオオッ!!」


耳を劈くようなモンスターの断末魔の叫びが響き渡る。

「よし、仕留めたぞ!」

数人の若い忍び達が歓喜の声を上げた。

「!」

エッジは彼らを背後から襲おうとしていた別のモンスターに、素早く愛用の刀を抜いて飛び掛かり、一瞬にして切り裂いた。

「お、お館様!」
「さ、さすがでございます…!」
「お前ら、油断すんじゃねぇ!!俺を煽ててる暇があるんなら神経を集中させろ!まだモンスターは全滅してねぇぞ!!」
「は、ははっ!!」
「来るぞ!構えろ!」


若手と共に、次々と襲ってくるモンスターに応戦するエッジ。


「エッジ…すごいなぁ。」


夫の姿を陣地から眺め、惚れ惚れとしてしまうリディア。


「これは奥方様、お館様に惚れ直していらっしゃるのでは?」

リディアの言葉を聞いていたザンゲツが微笑みながら話しかける。

「えっ…あ、うん。ねぇ、この夜間訓練って、最近始まったのかしら?今まで聞いたことなかったんだけど…。」
「いえいえ、これは昔からずっとやっておりますぞ。」
「そうなのね…。エッジはあんまり自分の仕事とか、大変なことは私に全然話してくれなくって。」
「最近は我ら4人が中心になって行っておりましたゆえ、お館様が参加されるのはかなり久しぶりなのです。何かと理由をつけて参加なさらなかったのですが、奥方様との時間を大事にしたかったのでしょうな。」

笑顔でザンゲツにそう言われ、リディアは思わず頬を赤らめた。

「もう、エッジったら…。そういえばさっきゲッコウが言ってたけど、若い子たちがエッジに訓練に参加して欲しいって言ってたのよね?」
「はい。真月の戦い以降、お館様の活躍に憧れて兵士を志願する者が増えましてな。当初はお館様にご指導いただくにはまだ早すぎると言って我らで対応していたのですが、そろそろ実力も伴ってきたということでお館様に頼み込んだのでございます。最初お館様は自分はそれほどの者ではないとご謙遜なさっていたのですが、ついに若手どもに押し切られたご様子で…。」


そんな事が自分の知らないところで起こっていたなんて。エッジの事を何も知らずにいた自分が恥ずかしくなるリディア。




「エッジはどうして私にそういう事を話してくれないのかしら…。」


部下たちの前で、思わず本音をこぼすリディア。


「…分かりかねる部分はありますが、お館様は奥方様に余計な心配をかけたくないのでしょう。今日のことにしても、夜間の危険な場所での訓練ですゆえ。」
「それはそうだけど…。準備も何もさせてくれなくて。」

表情を曇らせるリディアに、ツキノワが話しかける。

「僕たちにはあんなに厳しいお館様でも、奥方様のこととなると途端に弱くなりますからねぇ。こないだなんか…」
「…お前ら、何を話している。」

ツキノワが何かを言おうとしたその時、しかめっ面のエッジがリディア達のいる場所に戻ってきていた。

「わっ、お館様!」
「おぉ、これはお館様!奥方様がお館様に惚れ直したと仰せですぞ。」

ザンゲツの言葉で、エッジの頬が何となく赤らむ。

「く、くだらねぇこと言ってねぇで訓練中の奴らを監督してやれ!お前らが無駄話してっから俺が動かなきゃなんねーんだぞ!」
「こ、これは申し訳ございません!」

そう言ってザンゲツとツキノワは飛び上がり、訓練場所を見渡せる高い木の上へと姿を消した。

「ったく、どいつもこいつも…。」

(ふふ…エッジ。)



エッジは赤らんだ頬をリディアに見られまいと、彼女に背を向けた。その姿を見たリディアは、笑みをこぼしながら思わずエッジの近くに歩み寄る。


リディアが陣地の松明に照らされたエッジの顔をよく見ると、彼は額やこめかみに汗をかいていた。

(エッジ…大丈夫かしら?)

リディアは持っていた柔らかい布でエッジの汗を拭ってやった。

「あぁ、すまねぇ…。」

エッジは目を閉じ、耳を澄ませる。周りのわずかな音に全神経を集中させ、危険にさらされている者がいないか気を張り巡らせているのだ。訓練とはいえ、モンスター達が相手であるから死傷者が出る可能性は十分にある。忍びの一族の長として、ここにいる者達全ての命を預かる責任を果たさねばならぬのだ。

「!」

エッジは遠くから聞こえるかすかな悲鳴を聞き、すぐさま木の上へ飛び上がる。場所を確認すると、木々の間を素早く飛び渡ってそこへと向かった。


「エッジ…!」








「うわぁぁぁぁっ!!」

強力なモンスターを前に、若手の忍び達が次々と倒れていく。近くにいたゲッコウとイザヨイが加勢していたが苦戦していたため、ザンゲツとツキノワも加勢する。

「くそっ…なぜここにグリーンドラゴンが…!」

ゲッコウがここには生息していないはずの強力なモンスターの存在に疑問を投げかける。

「そんな事を言っている場合ではないぞ!早く仕留めねば!」

イザヨイが素早い動きでグリードラゴンの注意を引き、ザンゲツが大凧に乗り、空中からジャンプ攻撃をする。

「放てーー!」

ツキノワの合図で他の忍び達が一斉にグリーンドラゴンに手裏剣を投げる。


「グギャァァァ!!」


攻撃を食らったグリーンドラゴンが悲痛な叫びを上げた。

「やったか…?」

目を閉じ、動きが大人しくなったグリーンドラゴンを見たゲッコウが呟いた。


訪れた静寂の中、皆が胸を撫で下ろしていると―――



「まだだ!構えろ!」


駆け付けたエッジの声が響くと同時にグリーンドラゴンが目を開け、強力な稲妻を落としてきた。

「ぐぁぁぁぁっ!!!」

稲妻を食らった忍び達が力なく倒れてゆく。

「くそっ、このままじゃ全員やられちまう…!イザヨイ!怪我人の救護を頼む!」
「はっ!」

エッジが加勢し、グリーンドラゴンに斬りかかった。かつてバブイルの塔で苦戦を強いられたモンスターであるため、一瞬の油断も許されない。


回復の術を使えるイザヨイが負傷者の救護にあたっていると、強力なモンスターの気配を感じたリディアがそこにやって来た。


「奥方様!!」
「イザヨイ!私も救護を手伝うわ!」

リディアは持ってきたハイポーションを使って怪我人の救護を始めた。


「ねぇ、イザヨイ…。」
「はい?」
「夜間訓練って、いつもこんなに激しいの…?」
「いえ…普段はもっと穏やかです。今夜は何故かあのグリーンドラゴンが現れたもので…。」


かつてバブイルの塔でエッジと共にグリーンドラゴンと戦ったことのあるリディアは、その恐ろしさを知っていた。


エッジの投げた手裏剣はグリーンドラゴンの背中に命中した。痛みで素早さが半減したところを目掛けて、エッジは単身至近距離から何度もグリーンドラゴンの急所目掛けて斬りかかり、その近くに刀を突き刺すことに成功した。しかし痛みに我を失ったモンスターの鋭利な爪で反撃を喰らい、エッジは胸から腹にかけて深い傷を追い、巨大な尻尾で叩き飛ばされた。

「ぬがぁぁぁっ!!」
「エッジ!!」


リディアはグリーンドラゴンに向けてフレアの詠唱を始めた。

「リディア、手を出すんじゃねぇ!!」

傷を負いつつも再びモンスターに飛びかかり、刀を振りかざすエッジの声で、リディアは詠唱を止めた。

「ど、どうして…!?」
「これは訓練だぞ!お前が仕留めちまったら、こいつらのためにならねぇだろうが!!」
「で、でも…!!」

「奥方様、お館様のおっしゃる通りです。どうかここは堪えて救護に専念して下さいませ。」

イザヨイが頭を下げた。


「…分かったわ。」

リディアは気が気でないまま、再び救護活動を始めた。

(エッジ…死んじゃいや…!!!)



救護を受け、回復した忍び達は、次第に反撃を始めていった。彼らの刀が強靭なグリーンドラゴンの皮膚を切り裂いていき、そこに投げた手裏剣やくないが確実に深手となり、モンスターの苦しみの声が響き渡る。


「皆の者、もう少しだ!堪えよ!」

ゲッコウの声が響き、忍び達の士気を高める。エッジは自分の傷を庇いながらもう一本の刀でグリーンドラゴンに立ち向かった。





「喰らえーっ!!」

若手の忍びが空中からグリーンドラゴンの首に向かってくないを投げた。


しかしそれは命中せず、グリーンドラゴンの脇をすり抜け、救護活動中のリディアの方向へと向かっていく。


「奥方様!!」


イザヨイがリディアに呼びかけるが、リディアが気付いた時にはもう逃げられないところまでくないが飛んで来ていた。


(あぁっ、もうダメ…!!!)




目を強く瞑り、激痛を覚悟した。








ドスッ…








(…?あれ、痛くない…?)



くないが刺さる音がしたのに、と不思議に思いながらリディアが思わず瞑った目を開けると…




「くっ…!」






リディアの目に映ったのは、自分を庇い、肩にくないが刺さったエッジだった。



「いやぁぁぁぁっ、エッジ!!!」
「リディア…大…丈夫か…?」



精悍な顔を歪めながらリディアを見つめるエッジ。


エッジが肩に刺さったくないを抜くと、そこからは血がどくどくと流れ出した。先程の傷のダメージもあり、エッジはその場に倒れこんだ。


「お館様!」


イザヨイが駆け寄り、回復の術の詠唱を始めた。

「イザヨイ、俺は大丈夫だ…早くあのグリーンドラゴンを仕留めろ!でないと皆やられちまうぞ…。」
「し、しかし…!」
「こいつが持ってるハイポーションがあるから心配すんな…。」


リディアはハッと我に返り、持ってきた袋の中を探る。

「あぁ、もうハイポーションがない…。エッジ、待ってて!確かすぐそこに予備のハイポーションが置いてあったはずだから取ってくるわ!」


リディアは立ち上がり、自分の数メートル斜め後ろにある木を目指して走り出した。するとイザヨイがハッとする。


「奥方様、お待ち下さい!!その辺りには訓練用の落とし穴が…!!!」



「えっ…!?」



リディアが返事した時はすでに彼女の足元は崩れていた。身体が宙に浮き、あっという間に暗闇に包まれていく。


「きゃああああーーーーっ!!」
「奥方様ーーーー!!!」























瞼越しに、柔らかな光を感じた。





(あれ、何でこんなに明るいの…?)



ゆっくりと目を開けると、もう朝だった。エッジがリディアの顔を覗き込んでいる。


「リディア…!」
「奥方様、気が付かれましたか!」

リディアが見渡すと、そこは寝室で、家老と四人衆、数人の若手の忍びの姿も見えた。



「あれ…私…?」

「申し訳ございません!!私が奥方様に落とし穴の場所をお伝えしていなかったばかりに…!!」
「私こそ、自分の未熟さが原因でお館様にお怪我を負わせ、奥方様をこのような目に合わせてしまい、お詫びの言葉もございません!!」


イザヨイとくないを投げた若手の忍びがリディアに頭を下げて詫びる。




「…リディア、覚えてるか?俺にハイポーションを取ってこようとしてお前は落とし穴に落ちて気を失ってたんだ。」


エッジに言われて思い出し、起き上がって彼の腕を掴むリディア。

「エッジ、怪我は大丈夫なの!?」
「…俺は大丈夫だ。イザヨイが治療してくれたからな。」


「おかげさまでグリーンドラゴンを仕留めることができましたよ。奥方様の救護、心より御礼申し上げます。」

若手の忍び達がリディアに礼を言うと、エッジが顔を顰めた。


「礼には及ばねぇ。こいつは俺の言うことを聞かずに勝手について来て、勝手に落とし穴に落ちてお前らに迷惑かけたんだからな。」


エッジの言葉に、リディアはビクッとして身体から血の気が引くような感覚に襲われた。


「お、お館様!そのような言い方、ひどすぎでは…!」
「そうですよ!奥方様がいらっしゃらなかったら救護の手が回らなかったのですよ!」

ゲッコウとツキノワが宥めようとするが、エッジの顔はますます険しくなった。



次の瞬間、パンッという音と共に、リディアの頬に痛みが走った。



「痛っ…!」
「お、お館様!!」


「…こいつはこれぐらいしねぇと分からねぇんだ!」


王妃に対する国王の叱責に、その場にいた全員が凍り付いた。



「イザヨイ。」
「…はっ!」
「戦いながらの救護、ご苦労だった。次回も大変だろうが、よろしく頼むぞ。」
「…身に余る光栄にございます。」

「グレン。」
「ははっ!」
「俺に詫びる暇があったら訓練しろ。正確に敵を仕留められるようになることが俺の怪我への償いだと思え。」
「も、もったいなきお言葉…!!」


「ゲッコウ、ザンゲツ、ツキノワ、お前達もご苦労だった。お前らもそこにいる奴らも昨夜は寝てねぇんだから、今日は休息しろ。」

「しかしお館様とて昨夜は一睡もしておられませぬ。我らだけ休息するなど…。」
「俺は大丈夫だ。これからこいつを説教しねぇといけねぇからな。」


ゲッコウの言葉に対して、エッジはそう言いながら険しい表情でリディアをの腕を掴んだまま、彼女をチラリと見た。

「お、お館様…何卒奥方様にはご温情を…。」

リディアの本音を聞いていたザンゲツが精一杯エッジに訴えかけた。


「…ご苦労だった、下がってくれ。」


エッジがそう言うと、家老が目配せをし、全員寝室を出た。





「さて…。」



エッジはリディアを睨みながら口布を下ろした。彼の震える拳を見たリディアは、どんな叱責を受けるのかと身を竦めながらビクビクとしている。



「…お前は勝手な事して皆に迷惑かけやがって…!!!」



いつもより低いエッジの声がリディアの耳に響き、堪えていた涙が翡翠色の瞳からこぼれ出した。すると次の瞬間―――



「エッジ…?」



リディアの身体はふわりとエッジの体温に包まれていた。

「お前は何で人のことばっかり気にして、自分の心配できねぇんだよ…!?」

リディアを抱きしめながら耳元でそう言うエッジの声は震えていた。


自然とリディアの腕が、エッジの背中に回る。





「エッジ……ごめんなさい。でも私、どうしてもエッジの力になりたくって…。」
「そんな気遣いいらねぇんだよ!お前は何も心配しなくていいんだ!そんなことよりお前に何かあったら、俺は…」


「私だって…!私だってエッジに何かあったら嫌よ!もう1人で危険なこと背負っちゃ嫌って言ったじゃない!なのに昨日、エッジはまた1人で無茶なことして怪我したじゃない…。」

そう言ってリディアはエッジの胸とお腹に手をそっと当てる。



「…俺がああしなきゃ、あの場にいた全員生きて帰って来れなかったかもしんねぇぞ?」
「…。」

「それに、お前が来てなかったら俺は肩に怪我を負うことはなかったんだぞ?何かあっても自分でどうにかするって言っておいて、できなかったじゃねぇか。」
「なっ…!」


何て意地の悪い一言だろう、間違いなくリディアは心を痛めるだろうに。エッジはそう思いつつもリディアを説き伏せるため、敢えて口にした。




紛れもない事実に、俯くリディア。






「…どうして?」
「え?」
「エッジは私のこと理解して何でも合わせてくれるのに、どうして逆はいけないの?」
「…。」

「エッジのこと、もっとちゃんと知りたいよ…。」
「…お前はもう俺の事、十分知ってるじゃねぇか。」
「知らないもん!昨日私の知らないエッジがいっぱいだったもん!少しぐらいエッジが背負ってるもの、私に分けてよ!」



リディアの言い方は感情的で、棘があった。だがエッジは心の中の一国を背負う者として避けられない重苦しさが消えていくような気がした。今やもう自分は独り身ではなく、自分を心配し、苦楽を共にしようとしてくれる愛しい妻がいるのだから。



「…私、そんなにエッジの奥さんとして頼りないの?」
「よく言うぜ。俺の事ばっちり尻に敷いてるくせによ…。」
「じゃあどうしてなのよ!!」



やり切れない思いと共に、リディアの翡翠色の瞳から一旦止まっていた涙が再び溢れ出す。




"もうこれ以上死んじゃうのは嫌よぉっ!!"



リディアの涙が、初めて出会ったあの時のことをエッジに思い出させる。



こいつのためなら、何でもしてやりたい。


望むようにさせてやりたい。









(そうか…簡単なことじゃねぇか。)











「…っとに、お前は何を言っても聞かねぇんだな。」
「何よ…。」


エッジは大きく息をつく。

「…ツキノワの言ってた通り、お前がいなかったら救護の手は回らなかった。それにお前が俺の汗を拭いてくれた時、すげぇ嬉しかった。もう俺にはこうしてそばにいてくれる嫁さんがいるんだからな。」

「…うん。」

「ありがとな、リディア。」

急にエッジに感謝され、リディアが照れ臭くなって視線を逸らすと、エッジは彼女の両肩をそっと掴む。


「…次回の訓練の時は、準備するの手伝ってくれるか?」



その言葉と一緒に、肩から伝わってくるエッジの体温がリディアの胸のやきもきした気持ちを晴らしてゆく。



「エッジ…。うん!!」


満面の笑みを浮かべるリディアを見て、エッジは穏やかな表情を浮かべて頷いた。




「ただし、だ。」

リディアは急に真顔になったエッジにビクッとする。




「訓練の場所には来るんじゃねぇ。城の出口で俺を見送ってくれ。」






しばしの静寂。





リディアの表情は、明らかに何か考えている様子。エッジはリディアがどう反応するかとドキドキしながら彼女を見つめていると…






「…はい。」



リディアの身体が、再びエッジの体温にふんわりと包まれる。

「ありがとな、リディア。」

リディアの頬にちゅっとするエッジ。

「…エッジのバカ。」
「ちゃんとお前の意思を汲んでやったんだぞ~?感謝しろよ?」
「何よ、こっちだってエッジに怪我させちゃったし妥協したんだからね!」
「…っとに口の減らねぇ奴だな。」



リディアの顔を見ると、不満げながらも明らかに先程よりかは落ち着いた表情。




「リディア…俺はお前が俺のことを気にかけてくれるだけで幸せなんだぜ?これ以上のもんをもらったら、俺バチが当たっちまうよ…。」
「…何言ってるのよ。私が訓練の場所にいないからって、無謀な事するんじゃないわよ?」


厳しい一言に、苦笑するエッジ。

(俺、完全に尻に敷かれてんなぁ…。)



こうやって素直に相手への気持ちを伝えれば、ぶつかることもなかっただろうに。リディアを大事に想っていたとはいえ、高圧的になってしまった自分は幼かったかと思うエッジだった。



「エッジ。」
「ん?」
「私、すごく嬉しいの…。」
「…そうか。」


「これで少しはエッジの奥さんらしくなれるかな?」



自分のために何かしたいと必死になってくれたリディアの言葉に、エッジは照れ臭くなる。


「お前は最初から俺の嫁さんだってーの。」


エッジが目を少し逸らしてそう言うと、リディアの唇がエッジのものと重なった。

「!!」
「ありがとう、エッジ…。」
「ん…ありがとな、リディア。」


エッジは自分の胸に顔を埋めてきたリディアをぎゅっと抱きしめた。




何かあったら、一緒に乗り越えて行くのが夫婦。辛いことは全部自分が背負えばいいと思っていたエッジだったが、その言葉の意味が、何となく分かったような気がした。




エッジの思惑を感じ取ったのか、リディアが顔を上げてにっこりと微笑んだ。


(くそ~、こいつはマジで小悪魔だぜ…。)


普段は冷静さと闘志を併せ持つ忍びの長も、ベタ惚れの妻には敵わない。


そしてふと、エッジは自分の身体が汗で汚れ切っていることを思い出した。

「リディア、俺は風呂に入ってくらぁ。昨日入ってねぇからな。」

「あ…私もお風呂入ってないや。」
「ん…あぁそうか。ならお前は先に入って来いよ。俺は後から入るからよ。」


それを聞いたリディアは、何やらもじもじしだした。


「…あの、エッジ。」
「あ?」

「よかったら…」


















「む、あれは…!」

ザンゲツの声で、ゲッコウ、イザヨイ、ツキノワが振り向く。

「どうした?」
「あれを…!」

エブラーナ四人衆の視線の先には…





「お館様と奥方様が…!」

「何だかんだ言って、2人は仲良しですねぇ~。」




四人衆に見られているとはつゆ知らず、2人仲良く地下にある王族用の風呂に向かうエッジとリディアだった。







「リディア…入るか?」
「うん…。」


服を脱いだ2人は、寄り添いながら湯気の中へと歩いて行った。





喧嘩して、危険な野外訓練を終えてまた喧嘩して絆を深めた2人の疲れを癒したのは、甘い甘~い朝のバスタイム…。




―完―

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2014
05.12

「愛しくて…」 ★

TA後エジリディSS第9弾、前回の「Before Her Period」の続きです。またしてもエロ有りです。ご注意下さいf^_^;






「愛しくて…」








「あぁ…やっぱり。調子悪いなぁと思ってたのよ…。」



声の主はトイレで俯くリディア。昨夜あたりからお腹が痛くなり始め、身体もしんどかった。今日はエッジが仕事で早朝から城を留守にしているため、頼まれている仕事がいくつかあったのだが、捗らず、痛みがひどくなりだしたので、トイレに行ったところ月のものが来ていたのだ。


(はぁ…仕事終わらせられるかなぁ。)




「しょうがないよね…。こんな事で弱音吐いてちゃ、エッジを困らせちゃうわ。」


そう言って、執務室に戻るリディア。


自分の椅子に座り、書類と向かいあう。しかし徐々に集中力はなくなり、文字を書こうとすると頭痛がしてくる。

(うーん…しんどい…。)

腹痛もひどくなり、顔色も悪くなっていく。

「奥方様、どこか具合でも悪いのですか?」

異変に気付いた家臣の1人がリディアに声をかける。

「い、いえ…大丈夫よ。」
「そ、そうですか…。先程から顔色が悪いなぁと思っていたもので。ご無理はなさらないで下さいね。」
「うん、ありがとう。」


(あぁ、エッジがいてくれたらなぁ…。)


気分転換にお茶を飲んだり、城内の回廊を歩いたりしてみるが、あまり効果がない。何とか午前中の仕事は終えたが、まだ午後も仕事がある。


昼食もあまり食べられず、午前の疲れからか、身体が重たくなってきた。


(はぁ…横になりたいなぁ。けどもう仕事始めなきゃ…。)


ひどくなる生理の症状と戦いながら、執務室へと歩く。


「うっ…。」


急に身体がずんと重たくなり、吐き気がしてきた。リディアはその場にうずくまってしまう。呼吸が浅くなって脈が速くなり、息が苦しい。はぁはぁと言いながら立ち上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。


「はぁっ…エッジ…助けてぇっ…!」


そう言ってリディアは倒れこんでしまった。


そこを家老が通りかかった。


「奥方様!奥方様、大丈夫ですか!?…誰か!誰かおらぬか!」


イザヨイと数人の侍女達が現れ、リディアを寝室まで運ぶ。





数時間後―――





すっかり日が暮れたころ、寝室のベッドで休んでいたリディアはようやく回復し、身体を起こした。そこへイザヨイが現れる。


「奥方様、大事ありませぬか!?」
「うん、だいぶ良くなったわ。ありがとうね。」
「それは何よりでございます。…あの、奥方様…御家老がおめでたではないかと騒いでいらっしゃるのですが…。」

「!!違うの!あの…生理で…。」
「あ…そ、そうですか…。あれは辛いですものね…。」
「…ね。女にしか分からない辛さよね。今日はエッジがいなくて、家臣達にも言えなくって…。」
「お察し致します。…では、御家老への報告はいかが致しましょう?私がお伝えすることもできますが…。」

「うーん…大丈夫、私から直接言うわ。」
「承知致しました。では何かあれば私めをお呼び下さいませ。」
「ありがとう、イザヨイ。」

イザヨイが部屋を出た後、リディアはふーっと息を着く。



「おめでた、かぁ…。」




プロポーズされた時、エッジからは自分達の子供ができずとも、世継ぎはどうにでもなるから心配するなと言われていた。結婚した今でも、エッジがリディアにその事でプレッシャーをかけてくることはない。それどころか、とても大事にしてくれる。リディアはそんなエッジが愛しくてたまらない。


「エッジ…もうすぐ帰ってくるかなぁ。」



リディアがベッドから出ようとした時、寝室のドアが開く音がした。

「リディア~!!!」

仕事から帰ってきたエッジだった。家臣からリディアの事を聞き、すっ飛んで来たのだ。



「エッジ!おかえり!」
「おかえりじゃねーよ!お前が倒れたって聞いてこちとら心臓が止まるかと思ったんだぞ!!」
「あ…ごめんねエッジ。」

「謝らなくていいっての。で、一体どうしたんだ?」
「あ、その…生理で…。」
「そうか、今日来ちまったのか。」

「うん…。だからエッジに頼まれてた仕事、全部できてなくて…。」
「んなもん気にすんな。後は俺がやるからよ?」

「エッジ…ありがとう。」

リディアはたまらずエッジに抱きつく。愛する夫の腕の中は、とても落ち着くリディアの大好きな場所。ずっとこうしていたい―――と思っていたその時。


「お館様!!」
「!?」
「おおぅ、何だよじい!ノックぐらいしろよ!」


家老が寝室に入って来た。


「あぁっ、失礼致しました!…で、奥方様のお加減はいかがで?」
「うん、休んだおかげで良くなったわ。心配かけてごめんね。」

家老は胸を撫で下ろす。

「それを聞いて安堵いたしました。ところで、その…今後の安産の祈祷や腹帯などは…いかが致しましょう…?」

「!!!」
「はぁ?安産?何の話だ?」
「いや、何、その…奥方様が悪阻ではないかと…。」

「悪阻って…。じい、何を勘違いしてんだよ?」
「ち、違うのですか…?」
「…あぁ。月のもんで具合が悪かったんだよ。」


家老はそれを聞いてうなだれた。


「あぁ…ついにお世継ぎができたかと思うたのに。これは大変失礼致しました…。」


家老が寝室を後にする。エッジはため息しか出ない。


「ったく…じいは世継ぎ世継ぎってうるせえんだよ…。」
「…エッジ、私…」


リディアが何か言おうとしたが、エッジが遮る。

「リディア、気にしなくていいんだからな。」
「え…?」

「世継ぎのことだよ。じいみたいにあんな事をいう奴もいるけど、何も気にする事はねぇぞ?プレッシャーかけてくるような事を言う奴がいたら、俺に言え。何とかしてやるから。」


エッジの優しい言葉にリディアは胸が熱くなる。


「うん…ありがとうエッジ。…大好きよ。」


それを聞いたエッジは顔が赤くなり、普段は精悍な顔立ちの口元が緩んで何ともマヌケな顔になる。


「あぁ…リディア、愛してるぜ。」
「うふふ。」

2人は再び抱き合い、口づけを交わす。







その夜、執務を手早く終わらせ、風呂から上がったエッジは、寝室へと急ぐ。


「リディア。」
「ん…エッジ。お風呂早かったわね。」


リディアは先にシャワーだけ浴びて、寝室のベッドに腰掛け、休息していた。


「調子はどうだ?腹痛てぇか?」
「うん…。腰の辺りも痛いな。」
「そうか。」

そう言ってエッジはリディアの隣に座って腰を抱いてやり、リディアの下腹部を優しく撫で始めた。

「エッジ…。」
「冷えると良くねぇんだろ?ちゃんとあっためねぇと。」
「うん…。あったかくて、気持ちいい。」

エッジのおかげで、心も身体もぽかぽかしてくる。ほっこりとしたリディアは、エッジの肩に寄りかかって甘える。


「…っとに、お前は可愛いやつだよなぁ。んなことしたら、とって食っちまうぞ?」
「うふふ。」

エッジはリディアの頬にキスした。


(エッジ…優しいなぁ。結婚してからも、結局いつもしてもらってばっかり…。)


リディアはエッジと結婚し、彼のために何かしたい、10年以上も自分が甘えた分、これからは甘えてもらいたいと思っていた。だが現実はエッジに頼ってばかり。エッジはリディアに甘えてもらうのはこの上なく嬉しかったが、リディアは何とかしてお返しがしたい。


(今日は生理でできないし…。代わりの方法でも、エッジは喜ぶかな?)


リディアは恥ずかしいと思いながらも話を切り出す。


「エッジ…。」
「あ?」
「ごめんね、今日…なっちゃったし、その…エッジがいっぱい優しくしてくれてるのに、何もできなくて…。」

エッジはくっと笑いを堪える。

「謝るとこじゃねぇだろ。それより、今日は早く寝た方がいいんじゃねぇか?」

「…エッジ、疲れてる?」
「いや、俺は平気だけどよ…。お前はゆっくり寝た方がいいかなと思って。」


(うーん…。聞いてみるのは別に構わないよね?)


「あのね…私、エッジにしてあげたいことがあるの!その…あの…。」

「ん?何してくれるんだ?お礼のチューか?」
「そ、それもなんだけど…えっと…。」
「ん?何だよ?」



「…いつもとは違う方法なんだけど、エッジを気持ち良くしてあげたいの。」


「うん…んっ??」


エッジはリディアの言ったことがすぐに理解できなかった…いや、都合のいいように解釈していいものか判断がつかなかった。



(それって…もしかして…あれか!?リディアがしてくれるのか?いやいや、待てよ。俺が勘違いしてる?)



大いなる期待と疑惑を抱いたエッジは、リディアを見てどう返せばいいのかしばし悩んでみた。



「えーっと…リディア、それってもしかして…。」

リディアは頬を赤らめて、エッジを見つめる。

「…ダメ?」
「いや、あの…お前が言ってるのって…その…こ、ここで…?」

エッジはリディアの唇に軽く指を当てた。

「うん…。今までしたことないから、上手くできるか分からないんだけど、ほとんどの男の人は嫌がらないって言うし…。」



(間違いねぇ…!!!)




切れ長の目を大きく見開いたエッジの下半身が疼き出した。幾度となく身を重ねてきたが、エッジはリディアが嫌がると思い、それをしてくれと頼んだことがなかったのだ。


「リディア…ほ、本当にしてくれるのか…?」
「うん。エッジは嫌じゃないの?」
「全っ然嫌じゃねーぞ!」


「よかった…。じゃあ、あの…。」

そう言ってリディアはエッジのズボンの端をきゅっと掴む。


「お、おぅ!ちょっと待ってくれ。」


そう言うとエッジは立ち上がり、腰の紐を外し、寝間着のズボンを脱ぐ。そして下着も脱ごうとすると…


「あ、待って。…脱がせてあげる。」


(マ、マジかよ…!?)


リディアの一言はエッジにしたら大興奮ものだったが、あくまで平静を装う。


「そ、そうか?なら頼む…。」


リディアはエッジの下着に手をかけ、脱がせ始める。すると先程からそそり立っているエッジのモノが引っかかる。

「やだ…エッジったら。」

そう言ってふっと微笑むリディアの顔は、艶かしい女のものだった。引っかかった部分を外して下着をするすると下ろす。


(そんなエロい顔…勘弁してくれよ…。)


そそり立つエッジのモノは、今にも破裂しそうなほど膨らんでいる。エッジがベッドの真ん中に座り、膝を立てて脚を開くと、リディアがそこに入り込んで来た。

「じゃあ、エッジ…痛かったりしたら言ってね?」
「あぁ…。」

リディアの顔が自分のモノに近付いて来て、エッジは心臓が飛び出そうになる。するとリディアの唇がそっと先端部分に触れる。


ちゅっ、ちゅっ…


(おおおおおお…!!!)


小鳥のようなキスに、エッジはゾクゾクとした。


ちゅっちゅっ、ぺろっ、ぺろぺろっ……


「あぁ…。」

リディアは先端部分にキスをして、括れた部分を舐めた。エッジは思わず声を出す。


(リディアがこんな事してくれるなんて…。)


愛しい妻が、自分の股ぐらに顔を埋めて脚の間にあるモノを舐めている。エッジはそんなリディアが愛おしくて、髪を優しく撫でてやった。するとリディアが舐めながらちらりと上目遣いでエッジを見る。その姿がいやらしくて、エッジはますます興奮した。


(こ、こいつ…エロい!!)


リディアは先端を大きなキャンディを舐めるように口に含んだり、裏側の筋に沿って根元から括れに舌を這わせたり、横から咥えたりと、多彩な方法でエッジを慈しむ。ぎこちないが、それが逆にエッジを興奮させた。


「あぁ、リディア…すげー気持ちいいぜ…。」
「本当?嬉しいな。」
「口だけじゃなくて、手も使ってくれたら、もっと気持ち良くなれるんだけどよ…。」
「え~?どうやるの?」
「こうやって、手で握って上下にしごきながら先っぽ舐めたり、吸い上げてくれよ。」
「んー…やってみる。」


リディアはエッジに教えられた通り、手でエッジのモノを握ってしごき、先端を口に含み、そこを舌でつついたり吸い上げたりする。


「くはぁ…リディア、すんげーいいぜ…。」


(エッジが喜んでくれてる。嬉しい…。)


普段は自分が喘ぎ声を発するばかりで、エッジがこんなに気持ちいいと声を出すことはあまりないため、リディアはエッジを気持ち良くしてあげているのが嬉しかった。リディアは一心不乱にエッジのモノを慈しみ続ける。



ちゅぱっ、ちゅぱちゅぱ…



リディアはしごくスピードを上げて先端部分を口に含んでは出したりして、さらに強く吸い上げる。

「うっ…。」

エッジは快感のあまり、気を抜くと思いっきり発射してしまいそうになった。

「エッジ、痛いの?ごめんね。」
「いや、違うんだ。あまりに気持ち良くって。もっとしてくれよ…。」
「うん…。」

リディアは再びエッジの足の間に顔を埋め、ちゅぱちゅぱと音を立てる。

(くぅっ…たまんねぇ…。)


ついにエッジの身体の奥から熱いものが湧き上がってきた。エッジはそのまま絶頂へと昇りつめて行く。

「あっ…リディア…出るぞっ!」
「んっ!?」

エッジは思わず、先端を口に含んでいるリディアの頭を手で両脇から押さえた。

「そのまま先っぽ口に入れててくれっ…!くぁっ…!!!」


エッジは軽く痙攣しながら、何度も生暖かいものをリディアの口腔内に放出した。


(ん~、変わった味…。)


「はぁ…すげぇ気持ち良かったぁ…。ほれリディア、これに口の中のもん出せよ。」


放出し終わったエッジはそう言って、ティッシュを数枚リディアに取ってやった。するとリディアの喉がゴクリと動く。


「!リディア、お前…!」
「…飲んじゃった。」
「あ…そ、そうか…はは…。」

エッジが苦笑しながら自分の下着を取ろうとすると…

「あ、エッジ待って。」

そう言うとリディアはまたエッジの股ぐらに顔を埋めて、萎みつつあるエッジのモノをしごきながら先端を吸い上げ、じゅるっとその内部に残る精を抜いた。

「ぬおっ…!あぁ…!」


リディアの行為で、エッジは腰の力が抜けた。


「はぁっ…エッジ、気持ち良かった?」
「あぁ、めちゃくちゃ気持ち良かったぜ。お前がまさかこんな事してくれるなんてなぁ…。」
「良かったぁ~!」

笑顔になるリディア。下着とズボンを履いたエッジがリディアを抱き寄せる。

「ったく、どこでこんな技を身に付けて来たんだか…。お前も好きなんだなぁ。」
「別に好きなわけじゃないわよ。ただエッジに喜んでほしかっただけだもん。」
「いやぁ、こんなにお前がエロいとはなぁ。これからは淫乱王妃と呼ばせてもらおうか。」
「淫乱じゃないもん!そんな事言ったらもうしてあげないから!」
「何だよ~、そんな事言わずにこれからもしてくれよ。」
「このエロ忍者!」

リディアがエッジを腕で叩こうすると、エッジはひょいっとリディアの腕を掴み、リディアに口づけした。


(ん~!!悔しいけど気持ちいい…。)


エッジが唇を離すと、リディアは唇をへの字に結び、不機嫌そうにエッジを見つめていた。するとその顔をじっと見ていたエッジがプッと吹き出した。


「何よぉ。」
「いや、可愛いなぁと思って。」


(もう…何やってもこうやって片付けられちゃう。)


笑顔で見つめられたリディアはだんだん恥ずかしくなり、頬をぽっと赤らめて少し下を向いた。

「こっち見ろよ。…お前の可愛い顔、見せてくれ。」

エッジに少し低めの声で囁かれ、リディアはドキドキした。目線を上げると、そこには自分をじっと見つめるエッジ。彼の深い目の色は、リディアの華奢な身体も心も、全て吸い込んでしまいそうだった。


「リディア、俺を見てくれ。…俺だけを見てくれ。」


さりげないエッジの言葉に、リディアの胸は高鳴るばかり。リディアがじっとエッジを見つめていると…



ちゅっ。

(あぁ…。)


柔らかくって、温かいエッジの唇。甘くて優しい口づけに、リディアは身体が蕩けそうだった。



このまま離さないで―――




リディアは自然にエッジの背中に腕を回してしがみつく。エッジはリディアのお腹や腰を温めてやろうと、自分のお腹をリディアのそれにぴったりと密着させ、腰を優しく撫でた。彼の心地よい体温と鼓動を感じ、リディアは生理の痛みなどもう感じなかった。





この人となら、何があっても大丈夫―――





そんな安心感がリディアの中に過った。


しばし抱き合った後、エッジはリディアの髪を撫でてやり、優しく微笑んだ。リディアもにっこり微笑むと、2人の唇は再び自然に重なった。すると仕事の疲れと事後の疲労感が重なり、急に睡魔がエッジを襲ってきた。


「あぁ、やべぇ…眠い…もう寝るか?」
「うん!」


布団に入った後も、エッジはリディアの腰周りを撫でていた。


「エッジ、ありがとう。もう痛くないよ…。」
「そうか、そりゃ良かった。」


(リディア、次もしてくれっかな…。)
(エッジ、来月も優しくしてくれたらいいな…。)



リディアの髪を撫でながら、彼女のおでこにちゅっとするエッジ。お互いに次回への期待を膨らませながら布団の中で温め合い、エブラーナ国王夫妻は夢の世界へと落ちていった。






―完―

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2014
05.07

「Before Her Period」 ★

TA後エジリディSS第8弾です☆前回の「Full Moon in Late Autumn」ではリディアが好きすぎて情けない姿を見せてしまったエッジでしたが、今回はリディアへの深い愛をもって汚名挽回(?)です。エロありですのでお気を付け下さい!





「Before Her Period」













「エッジのバカッ!!大っ嫌い!!」

エブラーナ城の一角で、王妃リディアの声が響いた。

「す、すまねぇリディア…俺が悪かった。許してくれよ~。」


その声を聞いていた家臣や侍女達は、リディアの大声には驚いたものの、どうせまたお館様が何かしでかしたのだろうという感じで流していた。

「うっ、うっ…私急いでたのに…。」

リディアが泣き出したので、エッジは優しく抱きしめてやる。

「ごめんな、リディア…。すまねぇ。」

エッジは詫びながら、リディアの柔らかな緑の髪を撫でてやった。


(あー…そういや確か今月もそろそろだな…。)

自分の胸の中でぐずる妻を宥めながら、エッジはあることに気付いた。


朗らかな性格のリディアだが、月に1度のことが近くなると、ちょっとした事でイライラしたり落ち込んだりしてしまう。家臣や侍女相手には当たり散らしたりしないのだが、相手がエッジとなると気が緩んで先程のように容赦無く怒鳴ったり泣いたりするのだ。


結婚前も時々そういう事があり、最初は何が何だか分からないエッジだったが、長い付き合いの中でリディアが女性として避けられない現象なのだということを理解していった。


詫びながらリディアを抱きしめ、背中をポンポンと優しく叩いてやるエッジ。こうすれば彼女のイライラが治まるのだ。


泣き止んだリディアがエッジの胸から顔を離した。そこを見計らって、エッジはリディアのおでこと頬にちゅっとする。

「リディア、ごめんな。俺が悪かった。」
「…うん。」

(ふぅ…やっと治まったか。)


原因は何かと言うと、エッジがさっき城内の通路でリディアとすれ違う時に、うっかり彼女の着ている丈の長いローブの裾を踏んでしまい、ふらつかせてしまったのだ。急いでいるところを邪魔され、しかも相手がエッジだったために爆発してしまった…というわけである。


「エッジ、私急いでるから…。」
「ん?あぁ、そうか。」

夫に宥められ、イライラが治まったリディアは走り去って行った。

(はぁ~、男にゃ分からねぇなぁ…。)

男性には理解し難い女性特有の現象。しかしそれも愛する妻の一部。

(リディア、俺はお前の旦那だからな。)

リディアの後ろ姿を見ながら心の中でそう呟き、妻の生理現象を受け入れている自分を誇らしく思うエッジだった。




昼食後。



リディアは執務室でエッジの仕事を手伝っていた。

「エッジ、その書類取って。」
「ん?これか?ほれ。」




「ねぇエッジ、この文章の意味分かんない。」
「あ?どれだよ?」
「ここ。どういう意味?」
「あぁ、これは…。」

「…ふーん、そういう意味かぁ。」





「ちょっと、こんなとこに湯呑み置かないでよ!ここに読み終わったやつ並べていこうと思ってたのに…。」

たまたま今日は執務室に誰も家臣がおらず、気を遣う必要がないため、リディアは生理前のイライラを次々と露わにする。

「あぁ、すまねぇ。あっちに置くよ。ごめんな。」

(うーん、俺の方が立場上なんだけどなぁ…。)

逆に自分がリディアの仕事を手伝っている状態である。完全に尻に敷かれるエッジは内心苦笑するが、妻の機嫌が悪くならないように気を遣う。



(こりゃ一発仕返ししねぇとな…。)



ご機嫌斜めの妻に八つ当たりされた時のストレス対処法について、既婚男性の大先輩であるセシルからとある助言をもらっていたことを思い出すエッジ。






そして夜。




エッジは仕事もそこそこに済ませ、風呂に入るといそいそと寝室に向かった。

「リディア~。」

妻がいるかと思い、呼んでみたがいなかった。









約1時間後。


風呂から上がったリディアが寝室へとやって来た。明かりを点け、ベッドに腰掛ける。

(ふぅ…なんかすごく疲れちゃった。生理近いしなぁ…。)

昼間夫に当り散らしたことは自覚していないリディア。

脚がむくみがちなのでストレッチして、うつ伏せになって脚を上げたり下げたりする。何となく気分が落ち着かず、枕を抱いてコロコロとベッドの上を転がる。自分が寝ているベッドから、くっつけてあるエッジのベッドへと転がり、そしてまた自分のベッドに戻る。


(エッジ何時に来るか分かんないし、もう寝ちゃおう。)



そう思い、何となくエッジのベッドの方を見ると…


「きゃああああっ!!!」




エッジがニヤニヤしながらリディアの目の前に寝転んでいた。

「エ、エッジ…!?いつの間に…。」

リディアは軽くパニックである。


「お前がここに来る前からいたぞ?本当に鈍い奴だな~。」
「ど、どこにいたの!?」
「天井に張り付いてたんだけど?」
「!!!」

リディアは驚くが、そういや忍者はそうやって身を隠したりする一族だということを思い出した。


エッジはすかさずリディアに抱きつく。

「リディア~!」
「!!何なのよ変態!」
「変態だと?てかお前、俺が来る前に寝ようとしてたんじゃねぇのか?」

リディアはギクリとするが、いつもよりも気が立っているため、夫に言い返す。

「いいじゃない!だってエッジ何時に来るか分かんないんだもん!」
「何だと?俺の夜の楽しみを奪うつもりか?」
「もうっ、スケベ!」

抱きつかれたリディアは必死に抵抗し、エッジから逃れようとするが、鍛え上げられた夫の力には敵わない。

「エッジ、離してよぉ~!」
「やなこった。ほら、大人しくしろ。」

エッジはリディアに覆いかぶさり、両脚で彼女の脚をしっかりと挟み、手首を掴んでベッドに押し付けた。

「もうっ、離してぇ…!」

不機嫌なリディアは身体に力を入れてエッジに反抗する。

「リディア、じっとしてろ。」


真面目な顔をしたエッジの唇がゆっくりとリディアのそれに重なった。

「んっ…。」

柔らかなエッジの唇の感触が、リディアの小ぶりの唇から全身に伝わるような気がして、力が抜けていった。


唇を離したエッジは、優しい笑顔でリディアを見つめた。

(やだ…エッジ。)

さっきまで反抗していたリディアは照れ臭くて夫の顔を直視できず、顔を背けた。するとエッジがリディアの首筋に顔を埋め、そこに何度も優しくキスを降らせた。その度に華奢な身体はピクピクと小さく震える。

「…大人しくしてねぇと、跡ついちまうぞ?」

耳朶を唇で食まれ、リディアはぴくりとしながら身体がじんわりと熱を帯びてきているのを感じた。

「あっ…。」

自然に艶かしい吐息が発せられる。それに反応するかのようにエッジの唇がまた重なってきた。

「んっ…!」

角度を変えながら、リディアに深く侵入してくるエッジ。力強い、けど決して強引でなくて、どこか慈しむような口づけ。


唇を離されたリディアは、軽く息継ぎをしながらエッジを見つめる。ふと目線をずらすと、そこには彼の前合わせになった寝間着の襟元から覗く、鍛え上げられた逞しい胸元。エッジは微笑みながらリディアの頬を撫でる。

「俺の身体、見てぇのか?」
「…別に。」

素っ気ない返事をするリディアだが、エッジにしたらそれも可愛い妻の仕草。

「じゃあお前の身体、見ていいか?」

ニヤニヤしながらそう言うエッジに、リディアはまた少し不機嫌になり、そっぽを向いた。

「ダメか?」
「…。」
「リディア?」




「…ダメって言っても脱がせるくせに。」


エッジはニタリと笑い、その通りと言わんばかりにリディアの寝間着の浴衣の胸元を押し開いた。ぷるんと姿を現した彼女の形のいい柔らかな乳房を、エッジはすぐさま揉みしだいた。

「やぁっ、あぁん、エッジ…!」



快感に耐えられず、乳房に佇む桜色の蕾はツンと立ち上がる。エッジはそこを舌全体でねっとりと舐め尽くし、ちゅくちゅくと音を立てて吸う。

「あ…ぁぁぁんっ…!」


リディアが肩を竦めながら艶かしい声で夫の愛撫に応えていると、彼の親指が舐め上げられたばかりのそこをくりくりと撫で回す。

「もうっ…エッジのバカぁ…!」
「あぁ悪りぃ。反対側もちゃんとしてやるよ。」

くくっと笑いながらもう片方の蕾も同様に慈しむエッジ。脚をがっちりと挟まれて動けないリディアは、喘ぎながら身体の芯が疼くのを感じた。

「いやぁんっ!」

ぷっくりとした蕾を親指と人差し指で摘ままれ、悩ましげな表情で高い声を上げるリディアは、昼間エッジを尻に敷いていた強い妻ではなく、自分の腕の中で快楽に溺れつつあるか弱い女だった。

(セシルの言う通りだな…。)

機嫌の悪い妻に当たり散らされた時のストレス対処法、それは自分が優位に立てる夜のベッドの上でしっかりと発散することだった。


快感に悶えて軽く息を切らせ、切なげな表情で口を少し開けたまま自分を見つめるリディア。その姿がエッジの男としてのプライドを漲らせた。


エッジはリディアの髪を撫でてやり、優しく口づけする。彼女の寝間着の浴衣の腰紐を解き、身に付けているもの全てを剥ぎ取ると、リディアは両手で下肢の間にある茂みを隠した。

「隠すな。」
「やだぁ…。」
「ったく、お前は聞き分けがねぇなぁ…。」

「何よ、エッジが悪いんじゃない…。」


妻の反抗的な言葉がエッジの支配欲に火をつけた。

エッジはリディアの脚を広げて素早く間に割り込み、茂みを隠す両手を片手で押さえ、空いた方の手の人差し指と薬指で花弁をくっと広げ、露わになった小さな蕾を中指でなぞりだした。

「やっ、あっ、あっ…!」
「言うこと聞かねぇ悪い子はお仕置きだ。」

抵抗しようと、押さえられたリディアの手に力が入るが、非力な召喚士の力では鍛え上げられた忍者の力には到底敵わなかった。エッジがそこをなぞるたびにリディアは嬌声を出し、とろとろと蜜を溢れさせてゆく。


エッジは早くリディアを激しく自身で犯したいという欲求に駆られ、かなり余裕をなくしていたが、ここはもっと妻を乱れさせたいという思いが勝る。


なぞっていた中指を花弁の中へと差し込んでいくと、潤った柔らかいそこはするする奥まで受け入れた。侵入した指は、リディアの敏感な部分へと辿り着き、そこを擦り上げる。エッジの指が動くたびにリディアの身体はピクンと跳ねた。

「あっ、あっ、やめてぇ…!」
「そんな色っぽい声出されたらやめられねぇよ…。」


人差し指も入れ、さらに執拗にそこを掻き乱すと、悲鳴のような声が上がった。くちゅくちゅという淫靡な音色と共に色白の華奢な身体は仰け反り、快楽を求めてエッジの指を深く飲み込もうと腰が浮いてくる。

「はぅっ…!はぁっ、ぁっ…。」
「イッちまえよ、そんな我慢すんなって。」

指で犯しながら、眉を寄せて必死に耐えようとするリディアの理性を取り払ってやると中がぐっと狭くなった。

「ほら、もう少しだ…。」

エッジが激しく指を動かすと、リディアは悶えながら、されるがままに昇っていった。

「あっ、ぁ…あぁぁ…ッ!!」

絶頂に達したリディアは艶かしい声を上げ、身体を弓なりに反らせた後、くったりと脱力し、エッジに押さえられていた両手は茂みに軽く添えられているだけになっていた。


はぁはぁと息を切らせ、トロンとした翡翠色の瞳がエッジを見つめる。

「ん、何だ?もっとして欲しいのか?」
「違うもん…!」

からかわれて不機嫌な気持ちを夫にぶつけたいが、絶頂の余韻で思考がうまく回らず、頬を赤くしてそう言うのが精一杯だった。


その姿を見てくくっと笑うエッジはリディアを天から見下ろす形で彼女の柔らかい髪を撫でる。

「して欲しいんなら、素直に言えって。」
「エッジのバカ…嫌いッ!」


完全に優位に立ったエッジは、ご機嫌斜めのリディアの罵倒の言葉を聞いてニヤリと笑う。

「俺のこと嫌いか?」
「嫌い…。」

そっぽを向くリディアの手を握り、指を絡めながら頬に優しくキスをする。

「リディア、俺のこと嫌いか?」
「…嫌い。…んっ。」

そっと口づけすると、リディアはエッジの唇を食むように唇をもごもごと動かした。

「俺のこと…嫌いか?」
「…。」

リディアの翡翠色の瞳を見つめ、優しい表情で語りかける。

「俺はリディアのこと大好きなんだけどな。」
「…。」

恥ずかしくて目を逸らしたいが、リディアの華奢な身体など全て包み込んでしまいそうなエッジの深い目の色に見つめられてできない。

「…そんなに…見ないで。」

精一杯紡ぎ出した言葉にエッジは優しく微笑むと、今にも互いの唇が触れそうなほどに近付き、囁くように再び問いかける。

「リディア、俺のこと嫌いか…?」



問いに対する答えはただ一つ。今まで何度も口にしてきた言葉なのに、今日は素直になれなくてドキドキしてしまう。








「……大好き。」

もじもじする可愛い唇から発された小さなその声を、聴覚の発達した忍者であるエッジが聞き逃すはずがなかった。絡めていた指にぐっと力がこもり、リディアの唇を貪るように食む。

ちゅっ、ちゅうっ、ちゅくっ…

「んっ、んふぅ…。」

呼吸すら許されないような、絶え間なくリディアを責めたてる扇情的な口づけ。昼間優しかった夫の変貌ぶりに、リディアは戸惑うばかり。


エッジの唇がリディアの胸元へと移動し、乳房の上部の柔らかい部分にキスのシャワーを浴びせていく。くすぐったいような気持ちいいような感触に小さな吐息が漏れる。


絡まっていた指が離れてゆき、エッジはリディアの下半身へと、身体を後退りするようにして移動していく。エッジの顔がお腹の上あたりに来たかと思うと、臍にキスが落とされた。思わずピクリとするリディアを見て気を良くしたのか、エッジは彼女のキュッと括れたウエストをそっと撫でながら臍の周りに舌を這わせる。

「はぁぁん…やだ、くすぐったい…。」

堪らず身体をくねらせ、エッジの頭に手を添える。

徐々にエッジの舌が臍周りから下腹部を這い始める。秘所に近い、臍の下から下肢の茂みのすぐ上までを彼の舌がゆっくりと動く。その絶妙な感触に花弁はキュッと締まり、奥の蜜源が疼く。

「んっ…あっ…ダメぇ…。」

リディアが両脚を捩っていると、茂みのすぐ上の柔らかな部分に何度もキスが落とされる。甘い刺激に花弁だけでなく、子宮までキュッとなるようだった。


さっきまでのイライラなど、もうすっかり消えてしまった。心地良くなったリディアはエッジの行為に見入りながら、添えていた手で彼の髪を優しく撫でる。するとエッジがちらりとこちらを見たので、リディアは艶かしい笑顔で応えた。

「はぁー、やっと笑ってくれたな。」

嬉しそうなエッジの言葉に、リディアはハッとした。今日は自分でもあまり気分が良くないのは分かっていたが、そんなに険悪な顔をしていたのだろうかと思わず頬に手を当てる。

「ったく、お前今日はほんっと機嫌悪かったよなぁ。」
「…私、機嫌悪かった?」
「おぉ。」
「だって…。」

「月のもんが近いんだろ?」
「!」
「はっはっは、俺がお前の身体のこと分かってないとでも思ってたのか?」


リディアの柔らかな緑の髪を撫でてやると、彼女の表情はみるみる緩み、頬はほんのり赤くなった。

(エッジ…分かってたんだ。だから優しかったんだ。)

どうしようもない理由で気分がすぐれない自分を受け止めてくれた夫の優しさに、胸がキュンとなるリディア。その様子を見ていたエッジはリディアに優しく口づけしながら彼女の内太腿に指を滑り込ませ、秘所の状態を探った。


そこは熱く、しっかりと潤んでいた。ずいぶん前から張り詰め、準備万端のエッジはもう一刻も早くリディアと繋がりたい。


秘所に触れられ、ピクリと反応するリディアを見て、エッジは寝間着の上衣を脱ぎ、腰紐を解き、下衣と一緒に下着を脱ぎ去る。両脚の間から太腿の裏に滑り込ませた手でリディアの片膝を曲げさせ、自分の腰の位置を合わせると、熱く膨張した肉塊を潤い溢れる柔らかな花弁に押し当てた。リディアがその重量感ある存在に気づいて息を飲んだ時、花弁はぐっと押し広げられ、2人の身体が繋がった。


「あっ…エッジ!」



よく潤ったそこはあっという間にエッジを受け入れ、リディアが声を出した時にはすでに奥まで到達していた。


昼間の仕返しという名目があるため、エッジはリディアに有無を言わせまいと早速腰を激しく揺らす。


「えっ、やっ、あぁっ…!エッジ、速い…!」

あまりに自然に入ってこられた驚きを表す間も無く、感じる部分を的確に突くエッジの熱さと重量感から繰り出される快感に、リディアは堪らず首を仰け反らせて眉を寄せる。エッジが彼女の手を握って指を絡めてやると、縋るようにギュッと握ってくる。

「いやっ、あぁぁん、エッジぃ…!」


激しい律動で揺れ動くリディアにどんどん迫ってくる快楽の波。何一つ考えることができず、ただ眉を寄せてその流れに身を任せるだけの妖艶な裸体から発されるのは、エッジをますます猛らせる喘ぎ声。


乱れさせたいというエッジの思惑通り、見事なまでの妻の溺れっぷり。

「くくくっ…気持ちいいか…?」

もう返事する余裕がないリディアに口づけする。

「んんっ、んっ、んふぅっ…。」

エッジの口の中でリディアの声がくぐもるのと並行して、破裂しそうなほど膨らんだ熱い肉塊を包み込んでいた柔らかなリディアの内部がひくひくと波打ちながら狭くなっていく。

「締まってきたぞ…リディア、我慢すんな。」


自分の限界を感じながらも、どんどん締まってくる内部に逆らうように律動を続けるエッジ。その動きにもう耐えられなくなったリディアの身体の奥がぐっと狭まった。

「はぁっ…あ…あぁぁっ…!!」

リディアが悩ましげな声と共に、痙攣しながら2度目の絶頂に達した。

「うっ…く…!!」

強烈な締め付けがエッジを襲う。勢い良く果ててしまってもおかしくない状況の中、理性を保って歯を食いしばり、寸前の所で抑え込む。




耐え忍んだ数秒の後、エッジの目に映ったのは、うっすらと汗ばみ、軽く息を切らせて力なく自分の手に指を絡ませるリディア。


エッジは汗で首筋や頬に張り付いた髪を外してやり、優しく口づけする。唇を離すと、リディアは2度の絶頂の余韻でポーッとした表情でエッジを見つめていた。


何か言いたげな、少し開いた可愛い唇。それを優しい眼差しで見つめたエッジの腰は、再び律動を開始した。

「あっ…!ぁっ、ぁ…。」

間髪入れず連続して攻められ、もうリディアの声には芯がない。


「ひゃぁんっ!あっ…!」

律動しながらエッジは腰を回す動きを加えてリディアの内部を軽く抉るようにぐりぐりと刺激すると、眉を寄せて仰け反る華奢な身体からはか細くも悲鳴のような声が上がった。




エッジは上半身を倒し、身体を密着させ、唇を重ねる。すでに狭くなってきている中を激しく行き来し、粘膜が擦れ合い、ぐちゅぐちゅと音を立てる。


もっと快楽に溺れる妻を見ていたいが、きつくなる締め上げにもう限界だとエッジが思ったその時。




「……ぁッ!!」


リディアの3度目の絶頂の叫びは、微かなものだった。じわりと上がったリディアの体温を感じながら、自分をぐっと押し包んでピクピクと波打つ内部に身を任せ、エッジは勢い良く果てた。










夫に腕枕をしてもらっているリディアは、トロトロと現実と夢の世界を行ったり来たりしていた。その様子が堪らなく愛おしくて、エッジは妻の髪を優しく撫でる。


昼間は強気だったリディアは3度も自分の腕の中で果て、力無く横たわり、縋るようにこちらに身を寄せてきた。男としての威厳を見せつけ、優越感に浸るエッジは優しく微笑みながら彼女を抱きしめる。


「リディア…寝ていいぞ。」
「ん…。」


気怠さと眠気に襲われつつ、リディアはエッジをじっと見つめて何やらもごもごと言いたそうにしている。

「…何だよ?」
「…何でもない。」

リディアはふっと微笑みながら、心地よさに身を任せ、気持ち良さそうに眠りに落ちていった。

(寝ちまったか…。ったく、どうあっても可愛い奴だぜ。)


尻に敷かれても愛おしい妻リディア。自分が優位に立っても心底惚れた女性には結局敵わないのだと軽く苦笑しながら自らも眠りに落ちていくエッジだった。



―完―

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2014
04.27

「Full Moon in Late Autumn」★

リディアが好きで好きでたまらない病のエッジ。「The Expiration」の続きです。エロシーンありです、ご注意下さい。






「Full Moon in Late Autumn 」





「ねぇ、エッジ。」
「ん?」
「忙しいところごめんね。あの…。」
執務室で仕事をしているエッジにリディアが遠慮がちに話しかけてきた。
「何だよ、聞いてやるから言えよ。」
笑顔でリディアを見つめるエッジ。するとリディアが話し出す。



「私…ミストに帰りたいの。」




「え…?」


驚くエッジに、リディアは話を続ける。
「久しぶりにミストに行って思ったの。やっぱり私はミストに住みたいんだって。」
エッジの身体が震えだした。

「リ、リディア…そ、それは…。」
言葉に詰まるエッジを見て、リディアはふっと笑った。

「エッジ、短い間だったけどありがとう。すごく幸せだったよ。」
リディアは左薬指の結婚指輪を抜き始めた。

「ま、待ってくれ!!…俺、何かお前の気に入らねぇことしたか!?」
リディアは首を横に振る。

「じゃあエブラーナでの暮らしが気に入らなかったのか?もしそうなら言ってくれよ!俺が何とかするからよ!」

次第にリディアが無表情になっていく。

「誰だって自分の故郷が1番に決まってるじゃない。エッジだって、エブラーナが1番でしょう?」

そう言われ、エッジはビクッとする。
「そ、そりゃそうだけど……なぁリディア、考え直してくれよ…お前がここにいてくれるなら俺は何でもする。だから頼むよ…!」

結婚指輪を抜き終えたリディアは、それをエッジに渡した。エッジはどうしていいか分からず、ただリディアの足元に縋り付き、涙を流す。

「リディア…ミストに帰らねえでくれ…エブラーナに…俺のそばにいてくれ…!」

好きで好きでたまらなくて、やっと結婚できたのに。必死に訴えるエッジを振り払い、リディアはすたすたとその場を去っていく。



「リ、リディア…待ってくれ…リディアーーー!!!」











「…?」

リディアの姿が見えなくなった後、ぼんやりと見覚えのある天井が見えた。

(あれ…?)

瞼が重い。そして身体も何となく重い。


ゆっくりと呼吸したエッジは、自分がベッドの上にいることに気付く。



ふと隣を見ると、リディアが寝息を立てていた。


(なんだ、あれは夢か…。)


夢など大抵目を覚ますと忘れてしまうというのに、内容が内容だけに、エッジの脳裏に染み付いている。魘されて汗をかいてしまったようで、寝間着の襟元と背中がうっすら湿っていた。


今何時かと思い時計を見ると、そろそろ朝の稽古の時間だった。

(はぁ…起きるか。)


目覚めが悪く、身体が重い。エッジはいつもよりもゆっくりとしたペースで着替え、寝室を出た。


稽古場へ向かう途中、エッジはあんな夢を見てしまうなんて何と自分は情けないのだろうと思った。昨日のミストからの帰り道、リディアが名残惜しそうな表情をしているのを見て、もしかしたら本当はミストに帰りたいのではと不安な気持ちにはなっていたから、それが夢になって現れたと考えれば不思議ではないのだが。



もう結婚したというのに、今でもエッジは時々リディアが自分の手の届かない遠くへ行ってしまうのではないかと不安になることがあった。自信家で前向きな性格のエブラーナ国王だが、リディアのこととなると事情が違う。


好きで好きでたまらなくて、どうしても失いたくない。だからふとしたことで不安になってしまう。


(あんな夢見るなんて…俺、完全に病気じゃねぇか…。)


ため息を付きながら、朝の稽古を始めるエッジだった。






そしてその日からエッジは仕事が立て込み、深夜まで執務室にこもる日が3日ばかり続いた。






「さて、今日はこのへんにしておくか…。」


夕食後2時間ばかり仕事を進めた後、キリのいいところでエッジは風呂へと向かった。


リディアはもう風呂には入ったのだろうか?今何をしているのか?と、仕事からひと段落し、気が緩んだ途端に彼女の事を考えるエッジ。無意識にそうしている自分にハッと気付き、ため息をつく。完全にリディアが好きで好きでたまらない病である。



「ちょっと頭冷やすか…。」



風呂から上がったエッジは少し気分を落ち着けようと、城の屋上に上がり、晩秋のひんやりとした夜の空気に当たっていた。


空を見上げると、そこには美しい満月。


(きれいだな…。)


満月を見ていると、何か不思議なパワーをもらっているような気になる。科学的根拠はないらしいが、人間は月の満ち欠けに精神的な影響を受けると言われるのはあながち間違いでもないのだろう。



月の光を浴びている内に湯上りの身体から程よく熱がひき、エッジは寝室へと向かった。








部屋に入ると、明かりは消えており、ベッドのすぐそばにある窓から差し込む満月の光だけが部屋を照らしていた。


(あれ、リディア…もう寝てんのか?)


部屋の奥へと歩いて行くと、リディアがベッドの上に座って窓の方を向いてるのが見えた。

「あ…エッジ、今日は早かったのね。」
「よう、リディア。」

リディアも満月を見ていたようである。

「エッジ、今夜はきれいな満月よ。」
「ん、あぁそうだな。」


エッジもリディアの隣に座り、一緒に満月を見る。


「きれいだな。」
「うん…。」




特に会話を交わさずとも、リディアと一緒にいるだけで幸せな気分になってくるエッジ。ふと、リディアの方を見ると、彼女は美しい翡翠色の瞳でじっと満月を眺めている。


(こいつは今…何を考えてるんだ?)


自分は今この瞬間は幸せなのだが、リディアはどうなのかと思ってしまう。


(これじゃ俺、リディアの事を疑ってるだけじゃねぇか…。)


愛する妻を信じていない自分の器の小ささに、内心呆れるエッジ。


「エッジ?」
「ん?」
「…どうかしたの?」

「あ?…何でもねぇよ。」


あんな夢を見たなんて知られたら、リディアのことを何でも受け入れてやると言っておいて、何と器の小さい奴かと思われるに違いない。何となくリディアの顔が直視できず、再び顔を上げて月を眺めるふりをするエッジ。





「エッジ…。」
「うん?」


リディアがエッジの手にそっと触れた。


温かい―――。


リディアの手の温もりを感じていると、彼女はエッジに身を寄せ、彼の右腕にキュッとしがみつき、自分の胸元に引き寄せた。


(おぉ…?)


リディアの胸のふくらみの柔らかい感触に、思わずエッジの下半身の一部が反応する。伏し目がちにしていたかと思うと、すっと上目遣いでエッジを見つめた。


あまりの可愛さにドキドキのエッジは、身体をリディアの方に向け、思わず左手で彼女の頬を包み込む。触れた色白の頬はきめ細かい肌で、エッジの手に吸い付くような感触。


じっと見つめ合っていると、リディアが静かに目を閉じた。




それを見たエッジはリディアを抱きしめ、優しく口づけした。するとリディアは物足りないと言わんばかりにエッジの首の後ろに腕を回し、角度を変えながら唇をより深く重ねてきた。

ちゅうっ、ちゅくっ、ちゅううぅっ…

(すげぇ吸い付きじゃねぇか…たまんねぇ…。)

満月の影響なのか、いつもは自分からしているような扇情的な口づけを今日はリディアがしてきてくれる。エッジはリディアの背中に回した手を腰の辺りへと下げていき、腰からお尻にかけてをゆっくり撫で始めた。


「あっ…エッジ…。」

リディアがピクンと反応した。

「ん、気持ちいいのか?」
「うん…。」

エッジはリディアの下半身を撫でながら、再び口づけをする。舌をリディアの口腔内に侵入させ、彼女の舌と自分のものを絡めようとすると、リディアもそれに応じた。

ちゅぷっ、ちゅぷ、ちゅぷ…

いやらしい音が響き、エッジもリディアも気持ちが高ぶっていく。さっきまでリディアの腰周りを優しく撫でていた手は、弄るように動き出す。舌を絡め合っている間、リディアの手がエッジの寝間着の襟元に伸びてきた。

(お…?)

リディアはエッジの寝間着の胸元を押し開いた。エッジの鍛え上げられた上半身が露わになると、リディアは彼の肩から腕や胸、お腹を撫でるように自分の白い華奢な手を滑らせた。

「あぁ…。」

思わずため息のような声を出すエッジ。リディアの細い指がエッジの乳首回りをゆっくりとなぞる。

「うぉ…。」
「…気持ちいい?」
「ん…。」

(あぁ…リディア、俺は幸せだぜ…。)


リディアのことが好きで好きで、何度も夢に見た彼女からのアプローチ。


エッジはいつも夢から覚めるたびに、ふわふわとした緑の髪をなびかせる色白で美しい翡翠色の瞳に長い睫毛の愛しい女性の事を想い、虚しさだけが増した。



いつかエブラーナに妻として迎え、一緒に暮らせる日が来ることをただ願い続けた10数年の思い出が頭を過った。




(夢じゃ…ねぇんだよな…?)




エッジはリディアをぎゅっと抱きしめる。そして彼女が今、自分の妻としてここにいることを確かめる。



リディアから香ってくる、甘く優しい匂い。



トクントクンと伝わってくるリディアの鼓動。




夢じゃない。




リディアは確かに俺の腕の中にいる―――





エッジの目頭に何か熱いものが込み上げてくる。



思わず目を瞑った。





「…エッジ?」

リディアの細い指が、エッジの頬をなぞる。


ゆっくりと目を開けたら、リディアの顔が霞んで見えた。



「エッジ…泣かないで。」


リディアの一言で自分が涙を流していることに気付き、慌てて拭った。

(俺、何で泣いてんだよ…だせぇな…。)

「…悪りぃ。何でもねぇよ。」
「…。」



ふと、3日前の悪夢を思い出す。



(リディア…俺のそばにいてくれ…!)



そんなことを考えていると、リディアはエッジの手を握り、自分の胸の前にもってきた。彼女の左薬指にある自分と揃いの結婚指輪が、月の薄明かりに照らされて光っている。


(くそっ、何であの夢を思い出すようなことばっかり…。)



リディアの結婚指輪を見つめるエッジに、彼女はふっと微笑んだ。

「エッジ、泣かないで。私はここにいるよ。」

「え…?」


自分の心を読まれたのか?いや、まさか…


「私はエッジのそばにいるから大丈夫よ。」


そう言ってリディアは握っていたエッジの手を、自分の胸に当てる。

「ほら、ね?」



柔らかい
温かい



エッジは手から伝わってくるリディアの胸の温もりを感じ、全身が痺れてしまいそうだった。


リディア

リディア…

リディア…!!




愛しい女性の名を、何度も心の中で叫ぶ。




リディアは、俺のそばにいる―――





「あっ、エッジ…。」
「はぁっ、リディア…!」


リディアがここにいることをもっと感じたい一心で、エッジは彼女の素肌に触れようと寝間着の浴衣を肩からずり下げ、そこから姿を現した形のいい豊かな胸のふくらみを必死に揉みしだいた。



「はぁっ、エッジ…!」



リディアは悶えながらも両手でエッジの頬を包み込み、彼に口づけする。

「んっ…ふぅっ…!」


口づけしながら鼻から抜けるリディアの吐息は艶かしく、エッジを猛らせていく。





リディアの柔らかなふくらみをしばらく揉みしだき、エッジは次第に平静さを取り戻した。
するとリディアが再びエッジの首の後ろに腕を回し、身体を密着させ、彼の唇に自分のそれを深く侵入させてきた。


(リディア…?)






リディアがやっとのことで唇を離した。エッジはなぜ彼女が今夜こんなに積極的なのか疑問をもった。



「…お前、今日どうしたんだよ?すげぇエロいじゃねぇか。」




リディアは何か考えた様子で話し出す。



「…だって、エッジはしばらく仕事大変だったし、私も寂しかったし、今夜はエッジといっぱいしたくって…。」



「…それだけか?」



勘のいいエッジは、リディアの言葉の裏を的確につく。リディアは何となく、エッジから視線を反らした。


「…何だよ、言えよ。」




「……ミストに行った日の夜中に、エッジが魘されてたから…。」
「…え?」



エッジはギクリとする。


「エッジが泣きながら、『リディア、ミストに帰らねえでくれ。俺のそばにいてくれ』って…。」

リディアは魘されるエッジの頬を伝う涙を拭ってやり、静かな寝息を立てるようになるまでずっと彼の手を握り、見守っていたのだ。






「マジかよ…。」


自分が譫言を発していたなんて。話を聞いたエッジは自分からリディアをミストに連れて行っておいて、決まり悪い以外の何でもなかった。


(俺…小さ過ぎるな…。)


エッジは思わず下を向いて顔を両手で覆う。こんな器の小さい自分を見せていたなんて。どう弁解しようか悩んでいると、リディアがそっとエッジの身体に身を寄せた。


「だから、私はエッジに安心してほしくて…。」

大きな翡翠色の瞳を潤ませながらエッジを見つめるリディア。


「そうかそうか、器の小せえ旦那が泣いててあまりに可哀想だからサービスしてあげなくちゃって思ったんだな?」

妻に気を遣われ、自嘲するしかないエッジ。

「エッジ…ごめんね。私がエッジに都合良く甘えてるから…。」
「…いや、お前は謝らなくていい。俺の問題だ。」

リディアを直視できないエッジ。さっきまで高ぶっていた気持ちも、どこかへ行ってしまった。


(くそっ…かっこ悪りぃ。どうすりゃいいんだよ…。)


ちゅっ。



リディアの唇が、エッジの頬に触れていた。エッジがはっとリディアの顔を見ると、リディアの翡翠色の瞳は潤み、形のいい可愛らしい唇は、何か言いたげに微かに動いている。

「あぁ、リディア…俺のことは気にすんな。またミストに行こうぜ。」


自分の元に来てくれたリディアを信じてやらねば―――。


エッジはにっこりと笑い、リディアのふわふわとした緑の髪を撫でた。だがリディアはエッジを真っ直ぐに見つめたままだ。


「リディア?」


「…もう、それ以上言わないで…!」

リディアはベッドの上で膝で立ち、細く白い腕を広げ、はだけた自分の胸にエッジを抱いた。


ふわふわと温かく柔らかな感触がエッジを包み込んだ。


リディアの手が、優しくエッジの髪を撫でる。


「…もう何も言わないで。笑顔なんて作らないで…!」

エッジはいつもリディアの事となると、自分の気持ちを押し殺してしまう。このまま話し合っても、彼は意地を張るだけだと思ったのだ。


リディアはエッジと頬をすり合わせ、何度も口づけした。

「リディア…?」




私はずっと、あなたと一緒にいるよ―――




その想いをエッジに感じて欲しくて、リディアは再びエッジと唇を重ねた。
それはとても優しく、何度も繰り返された。


ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…


エッジはただリディアの行為を受け入れ、すがるように彼女の背中に腕を回した。


言葉で伝えようとすると素直になれなかったり、ぶつかったり。だから、今はこうして自分の想いをエッジに伝えたい。



いつもは、あなたが包み込んでくれるけど、今日は私にそうさせて―――











エッジはリディアの胸に抱かれたまま目を閉じていた。やわらかな月の光の下で、彼は穏やかな表情でゆったりと呼吸している。リディアはエッジが眠ったのかと思い、そっと顔を覗き込むと、エッジは忍者として鍛え上げられた感覚でその気配を感じ、目を開けた。

「はっ…エッジ。」

「…忍びの長をなめんじゃねーぞ。お前の動きは全部感じてんだぜ?」

驚いたリディアを見てエッジはふっと笑う。

エッジはリディアに預けていた身体を起こし、じっと彼女を見つめた。

「俺がお前に抱きしめられるなんてなぁ…。」

少し笑いながらも、どことなく決まり悪そうな表情。

「…ダメだった?」
リディアはしゅんとした顔でエッジを見つめた。

「んー…たまにはいいかもしんねぇな。」

頭を掻きながらそう言うエッジを見て、リディアはベッドに腰を落とす。どう会話を続ければいいかリディアが思案していると、エッジの手がいつの間にかリディアの腰周りを撫でていた。

「きゃっ、エッジ…!」
「お前は本当隙だらけだよなぁ。そこが可愛いんだけどよ。」

そう言ってニヤリと笑うエッジ。自分の気配に気付かれないように動くことは、忍びとしての基本であるため、エッジにしたら何てことはなかった。

「やだぁっ、エッジのスケベ…。」
「自分から誘っといて何言ってんだよ、分かんねぇ奴だな。」


ちゅっ、ちゅぅぅっ、ちゅくっ、ちゅぅぅぅ…


エッジは頬を赤らめるリディアをぎゅっと自分の方に抱き寄せ、さっきリディアがしたよりもずっと深く、熱い口づけをした。

(やだ…蕩けちゃいそう…。)



エッジの唇がリディアの耳朶から首筋を食んでいく。くすぐったさに、リディアはピクピクと反応した。

「…もっと感じたいか?」

エッジが耳元で囁いてきた。リディアがコクンと頷くと、エッジはリディアの寝間着の浴衣の腰紐を外して脱がせ、ショーツもするりと脱がせてそのままベッドに組み敷いた。



今夜は自分がリードして奉仕して、エッジを安心させたいと思っていたのに、もう主導権を握られてしまった。


エッジはリディアの両手首を掴んでベッドに押し付け、彼女の胸のふくらみに佇む蕾を口に含み、何度も舌先で弾くように舐めた。

「やぁぁぁっ…!」

リディアはたまらず腰をくねらせ、秘所の奥が疼き両脚を捩る。刺激に耐えられず、リディアの蕾はぷっくりと硬さを増した。エッジは反対側も同じように舌先で弄ぶと、硬くなった蕾を指できゅっと挟んでやった。

「よく感じてるじゃねぇか…しっかり立ってるぜ。」

満足そうにニヤニヤとするエッジ。その手がリディアの両脚の間にそっと伸び、小さな茂みに触れた。それにピクンと反応するリディアに気を良くしたエッジは、指をするすると彼女の秘所に滑り込ませていった。するとエッジの指先には温かく、とろりとした蜜が絡みつく。

「…すげぇ。こんだけ濡れてりゃ気持ち良さそうだな、くくくっ…。」


己の性欲のままに言葉を発するエッジは、満月の夜に雄叫びをあげる狼そのもの。さっきまでの決まり悪そうな表情など、見る影もなかった。


次の瞬間、エッジは寝間着のズボンと下着を一気に脱ぎ去り、何も言わずにリディアの両脚を広げて押し入ってきた。

「あぁぁぁっ…!」

あっという間に奥まで貫かれたリディアは、エッジの熱さと硬さに身震いした。それを見たエッジはリディアの肩を掴み、満足そうな表情で腰を揺らし始めた。


たっぷりと自分に絡むリディアの蜜が滑りを良くし、ぬぷぬぷと中を行き来するエッジの身体に快感が次々と流れ込んでゆく。


「あぁっ…すげぇ気持ちいい…!」


リディアも結合部からどんどんせり上がってくる快感に浸り、もうこのままエッジと一緒に果てていこうと思い、目を閉じた。





「うっ…。」


エッジの小さく、低い呻くような声がリディアの耳に止まった。リディアが翡翠色の瞳をそっと開くと、エッジは律動を停止し、首を垂れていた。エッジの表情がどこか苦しそうに見えたので、リディアは何が起こったのかと心配になった。


「…エッジ?どうしたの?」
「…いや、何でもねぇ。」


そう言って再び律動するが、またすぐに動きを止め、俯き、深く息を吐きながらリディアの肩に顔を埋めてきた。

「エッジ…どこか痛いの?」


リディアが軽く息を切らせるエッジの頭を撫でながら尋ねても、彼は何も答えない。

「黙ってないで教えてよ…。どうしたの?」

エッジがゆっくりと身体を起こし、今までになく余裕のない表情でリディアを見つめた。そしてか細い声で話し始める。


「…すまねぇ、リディア、俺…。」
「うん?」


リディアはエッジを優しく見つめた。するとエッジが口にしたのは…



「悪りぃ…俺…もうイッちまう…。」



苦しさの中に、情けなさを含んだようなエッジの表情はもはや雄々しい狼のものではなかった。数日間ご無沙汰だったのと、愛する妻に決まり悪い姿を見られて精神的に参ってしまったからなのか。リディアはエッジの顔を見て、思わずふっと笑みをこぼした。

「もう、エッジったら…。」

そう言ってリディアはエッジの首の後ろに腕を回して自分に引き寄せ、彼にそっと口づけした。



「…我慢しないで。」

エッジを縛る理性の箍を外してやろうと、耳元で囁く。

「いいのか…?」

リディアは小さく頷いて優しく微笑んだ。

「…たまにはいいじゃない。」

そう言って、エッジの首の後ろに回した腕にきゅっと力を込める。

それを感じたエッジは、ゆっくりと腰を揺らし始め、徐々にスピードを上げていく。結合部はリディアの蜜とエッジのモノが擦れ合い、もうぐちょぐちょである。

「んっ、あっ、はぁっ、エッジ…!」
「リディア…リディア…!」

リディアを突き上げるエッジの先端は彼女が感じる部分を捉えていたが、どことなく切ないような気持ちをはらんでいて、それは快感と共に、リディアの身体にじわりじわりと伝わってきた。


エッジは精悍な顔を歪めて歯を食いしばり、ますます苦しそうだった。我慢しなくていいと言葉で分かっていても、まだ男としてのプライドや理性が働いているようだ。


「くはっ…!はぁっ…はぁっ…!」


いつもより早い、大きい快楽の波に呑まれそうになりながら必死に耐えているのが分かるような息遣いのエッジ。

リディアはそんな姿を見て、早くエッジを楽にしてやりたいと思い、彼の背中をさすってやる。

(エッジ…!)

速度の落ちたエッジの腰の動きが、また早くなってきた。


リディアの耳元で響く、エッジの必死な息遣い。彼が自分にもたらす快感に悶えながら、どうすればエッジを解放してやれるか考える。


「あっ、あぁっ、エッジ…わ、私…。」


リディアの声を聞き、エッジが彼女の顔を見つめた。


「私…んんっ…エッジのこと…大好きだから…全部受け止めたいの…っ!!…あぁんっ!…だから…。」


だから、もう苦しまないで―――




それが声になったかなってないか、快楽の真っ只中にいたリディアにははっきり分からなかったが、その直後、エッジの表情はすぅっと落ち着き、汗ばんだ彼の手がしっかりとリディアの肩を掴んだかと思うと、彼女を突き上げる速度が吹っ切れたように上がった。結合部の温度が上がり、繋がっている2人の身体が揺れ動き、その振動でベッドからはギシギシと音が出る。リディアはしっかりとエッジの背中にしがみつき、彼の腰に両脚を絡めた。


「はぁぁぁぁっ、エッジ…!!」

「リディア…もうダメだ…うっ…くぁっ…!!!」

エッジの絶頂の叫びを聞いた瞬間、リディアは彼を強く強く抱きしめた―――








「はぁ…ふぅ…。」

深く呼吸するエッジは、リディアに背中をポンポンと優しく叩かれながら、繋がったまま彼女の肩に顔を埋めていた。



しばらくしてエッジが両手をリディアの両脇に付くと、顔を上げて彼女と視線を合わせた。


まっすぐエッジを見つめる翡翠色の瞳が瞬きするのに合わせ、長い睫毛が揺れ動く。それに魅入っていると、リディアの両手がそっと、うっすら汗ばんだエッジの頬を包み込む。



「はぁ…リディア…。」

エッジは何か言おうとしているが、果てたばかりでうまく思考が回らないのだろう。

「エッジ…何も言わないで。もう、何も…。」

言葉が出てこないエッジの頬を撫で、ぎゅっと自分に抱き寄せた。

リディアに抱きしめられたエッジは脱力し、彼女の胸に顔を埋め、その温もりにしばらく酔いしれた。






布団をかぶり、事後の倦怠感でエッジは片腕で自身の顔を覆っていた。リディアがそっと彼の手を握ると、それに反応してエッジは彼女の方を見た。

「リディア…すまねぇ、俺…」
「どうして謝るの?…エッジ、何も悪いことしてないじゃない。」

真面目な表情で話しかけてきたエッジを、リディアは遮った。

「違うんだ、聞いてくれ。」
「え…?」

そう言って自分の手をぎゅっと握り返すエッジ。リディアの方に身体を向け、少し身を乗り出して、彼女に語りかける。


「…俺は、お前を信じてなかったんだ。こうして結婚してるってのに、またどっか遠いとこに行っちまうんじゃないかって時々不安になってた。こないだミストに行った時もそうだった。本当は俺と暮らすよりも、ミストに帰りたいんじゃねぇかって疑っちまってたんだ。」

リディアは静かにエッジの話を聞く。

「すまねぇ、リディア。お前が俺の事をどう思おうと構わねぇ。だけど、俺はお前を失うのだけは耐えられねぇんだ。だから…だから……」

そう言って、エッジは言葉に詰まってしまった。


リディアはどうエッジに言葉をかければよいか分からなかった。こんなにも愛する男性を不安にさせていたなんて。結婚するまで自分を長い間想い続けて、自分に合わせてくれて、傷ついたこともたくさんあっただろうに、今でもまだ自分のことで苦しんでいる。


リディアとて、エッジを失いたくない。彼は今やリディアにとって、あまりにも大きく、かけがえのない存在となっているのだから。



「けどリディア…ありがとうな。お前があんな情けねぇこと言った俺を受け止めてくれるって聞いた時、すげぇホッとしたんだ…。」

「エッジ…。」


器の小さい奴だと思われたくなくて、見せなかった心の影。リディアのことが好きで好きでたまらないが故の意地。




「すまねぇ、リディア…俺が悪かった…。」

「エッジ、もう謝らないで…。」

そう言ってリディアはエッジを抱きしめた。エッジなら何かあってもどうにかしてくれる、自分に合わせてくれると都合よく甘えていたがために彼にそう思わせてしまっていたのだから。


リディアに抱きしめられたエッジは、思わず彼女にしがみつく。その行動が可愛くて、リディアは笑みをこぼしてエッジの頭を撫でてやった。


「よしよし、いい子だね。私はエッジとずっと一緒にいるから、大丈夫だよ?だからもう泣いちゃダメよ~?」


エッジは軽く苦笑した。いつも自分の腕の中にいるリディアが、今は自分を包み込んでいる。けどそれも悪くない、そう思っていると―――


「私もエッジのこと、失いたくないよ。エッジのそばにいるから、だから…もう苦しまないで…。」


リディアの言葉が、潜んでいたエッジの心の影をすっと消し去った。

「リディア、ありがとな…ありがとう…。」

どんなにカッコ悪いことをしても、自分を受け止めてくれるリディア。エッジはそう呟きながら彼女の温もりに包まれて目を閉じた。



「…またミストに行こうな?」

エッジにそう言われてどう反応すれば良いか、リディアが考えていると、彼は曇りのない笑顔でこっちを見つめた。それを見たリディアも自然に笑顔になる。

「エッジ…。」
「もう…大丈夫だ。お前は一生俺の女だもんな?」

「はい、お館様。わたくしはあなた様と一生添い遂げとうございまする。」

エブラーナ言葉でリディアが誓うと、エッジはプッと吹き出した。

「何笑ってるのよぉ。せっかく勉強して言えるようになったのに。」
「いや…まさかこの場でそんな風に言われるとは思ってなかったからよ。」

「んもう…。」

リディアが不機嫌そうに唇をへの字に結んだ。するとエッジが嬉しそうに笑った。

「本当にお前は可愛いなぁ~。満月の夜にそんな事したら、オオカミさんが食べに来るぞ~?」

「もう、バカ…。」



笑いながらしっかりと手を握り合う2人の左薬指の揃いの結婚指輪は、満月の光に照らされ、微かな光をたたえていた―――


―完―

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2014
04.12

The Expiration

こないだの反省を踏まえて書いたエジリディTA後SS第5弾です。これで少しはクオレをエブラーナへ連れて行かなかった償いになるでしょうか…?






「The Expiration」


「あ、エッジ。もう仕事終わったの?」
「おぅ、今から風呂行ってくるわ。」

エッジより先に仕事を終え、寝間着姿でベッドにいたリディアは、本を読んでいた。

「エッジ…今日もお疲れ様。」
リディアがエッジの頬にキスをした。
「…お前もな。」
エッジはリディアに口づけした。
「んっ、もう…。」
「へへへ…。」

ニタリと笑ったエッジは風呂へと向かった。



「はぁ、エッジ…。」

ベッドに座ったリディアは、自分の体の奥が疼き、体温がじわりと上がるのを感じていた。もうすぐエッジと抱き合うのだから。


本の続きを読もうとしても集中できない。エッジが来るのを待つことにした。




「リディア。」
「エッジ…。」

風呂から上がってきたエッジをリディアの艶かしい笑顔が彼を出迎えた。ベッドに上がり、リディアに笑いかけながら彼女の髪を撫でると、その表情に精悍な忍びの一族の長の表情が緩む。

「っとに可愛いなぁ。もう大人の女だってのにな。」
「そうよ、もう子供じゃないんだからね。」

リディアは軽く唇を尖らせた。月の大戦の時、エッジは最終決戦の前にリディアを子供扱いし、安全のため地上に残らせようとした。あれは彼なりの自分に対する愛情だったのだが、当時はあまり理解できずに苛立ったものだった。あれから10数年が経ち、リディアも成熟した女性となった。故郷のミストもエッジの支えで復興し、そのおかげで今はこうして彼の妻としてエブラーナにいる。

「さみしくねぇか…?」
「えっ?」

そう言ってエッジはリディアを抱き寄せる。

「…クオレに会いたいか?」

エッジの一言にドキッとする。

真月の戦いの際、崩れゆく真月には置いていけないと衝動的に連れて帰ったマイナスの幼少体のクオレ。リディアが引き取ってミストで暮らしていたため、エッジはプロポーズの際、クオレもリディアの家族としてエブラーナへ、と申し出た。しかしリディアがいなくなるミストの守りを盤石なものにするために、幻獣王夫妻の保護下の元、ミストに残ったのだ。

「ん…そうだね、元気にしてるのかな。」
「手紙のやりとりはしてんだよな?」
「うん。」

リディアが俯きながら小さく頷いたのを見たエッジは、優しく微笑んだ。

「…ミストに行くか?」
「えっ?」
「行こうぜ。お前の里帰りだ。」

リディアはエッジの申し出に驚いた。

「でも…エッジ忙しいし…。」
「んなもん何とかなるって。今まで俺がどうやってミストに行ってたと思ってんだ。」

自分を見つめるエッジの真面目な表情に、リディアは息が止まりそうになる。

「…じゃあ、行こうかな。」
「よし、また日を決めようぜ?明日仕事がどうなってるか確認すっからよ、お前もそうしてくれるか?」
「うん…。ありがとうエッジ。」

エッジはにっこりと笑った。
「俺はお前のことなら何でも受け止めたいんだよ。」
「…もう、バカ。」

そう言ってリディアはエッジに抱きついた。

「リディア。」
「ん?」

ちゅっ。

エッジがリディアに口づけした。するとリディアの頬がみるみる赤く染まった。
「もう、エッジ…。」
「へへ。」

本当ならばこの寝室にクオレも居て、3人で仲良く寝ているのだろうが、現実は自分とリディアの2人。エッジはそれはそれで幸せだったが、リディアがどう感じているのかが気がかりだった。無理矢理にでもクオレも連れてくればよかったのかもしれないが、ミストのためにとアスラに言われた手前、それはできなかった。ならばせめて時々クオレに会わせてやろうとエッジは考えたのだった。

「…俺にはこれぐらいしかお前とクオレにしてやれることはねぇからな。」
「…。」

リディアはエッジの気遣いを嬉しいと思いつつも、こうしてエブラーナに来てからも自分の故郷のことで気を遣わせていることを申し訳なく思った。

「エッジ…ありがとう。嬉しいよ。」

にっこり笑うリディアを見て、エッジはそっと彼女を抱き寄せ、柔らかな緑の髪を撫でてやった。2人は口づけを交わすとそのままベッドに倒れ込み、いつものように愛の営みを始めた。






―――数日後


「リディア、そろそろ行くぞ。準備はいいか?」
「うん。」

バロン国王セシルの厚意により、エブラーナに進呈された飛空艇が城の前に準備されていた。2人は飛空艇に乗り込み、エッジが舵を取った。

「よし、離陸するぞ。しっかりつかまっとけ。」

すっかり涼しくなった晩秋の空に飛空艇は舞い上がり、ミストへと航路を取った。




数時間後、エッジとリディアはミストに到着した。


春にここを離れて以来だったリディアは、すっかり秋の色に染まった故郷の景色を見て、感慨深い表情を浮かべた。

(リディア…ここはいつまでもお前の大事な故郷なんだな。)
エッジはリディアの表情をじっと見つめていた。


「…リディア?」
その声に振り向くと、真月の戦いの際、村を守った召喚の力を持つ少女だった。
リディアは駆け寄り、少女を抱き締める。

「久しぶりね!元気だった?」
「うん!今ね、クオレと遊んでたのよ。」

そう言って少女はリディアの手を引いた。するとリディアの姿を見たクオレは走ってリディアに抱きついた。
「クオレ、久しぶりね。元気?」
「元気だぞ。エッジは来ているのか?」

相変わらずの口調だが、エッジへの好意は前と変わらないようだ。
「ふふ、もちろんよ。」
「ようクオレ、しばらくだな。」
「遊んでくれ。」
「よし、分かった。けどその子も一緒にだぞ?」
「分かった。」

召喚の力を持った少女も加わり、3人は仲良く遊び始めた。その姿を見たリディアは、微笑みながら眺めた。

「リディア。」
リディアが振り返ると、そこには幻獣王夫妻がいた。
「幻獣王様、王妃様!お元気でしたか?」

リディアが2人に駆け寄った。
「おおリディア…しばらく見ない間にますます綺麗になったのう。」
「エッジ殿と仲良くやっていますか?皆あなたの幸せを願っていますよ。」

育ての両親と再会し、リディアは嬉しさでいっぱいだった。
「はい、エッジと仲良くやっています。王妃としてはまだまだですが…。」
「なに、焦ることはなかろう。エッジ殿はいいお方じゃ、きっとおぬしのことをしっかり支えてくれるじゃろう。」
「ほんと、いっぱい支えてもらってて…。クオレもみんなも元気そうで何よりです。」
「リディア、ミストの事は何も心配することはありません。あなたは今までこの村のために働いた分、これからは自分の幸せをつかむのですよ。」


幻獣王夫妻と話した後、リディアは久しぶりに会うミストの村人達と会話をし、里帰りを楽しんだ。結婚以来、大きな事件などはなく、いたって平和であることを知ったリディアはただただ安心した。この10数年の間に2度も月による被害を受けたため、平和な生活を送れることがどれだけ幸せであるかを噛みしめた。




時間はあっという間に過ぎ、日が暮れ始めた。もうすぐ晩秋の季節を迎えようとする空の色は、リディアがミストを離れた春と違い、ずっと暗い色だった。

クオレは久しぶりにエッジと目いっぱい遊び、ご満悦の様子だった。
「リディア、今日もエッジといっぱい遊んだぞ。」
「そう、よかったわね。」

娘のようなクオレの頭を撫でてやり、嬉しそうに話すリディア。その姿を見たエッジは胸をなで下ろす。これで少しはリディアとクオレを引き離してしまったことへの償いになっただろうか?ミストの幼い召喚士たちが成長した暁には、クオレをエブラーナへ呼び寄せることもできるかもしれない、エッジはそんな事を考えていた。


「なぁリディア、俺そろそろ帰らねえといけねえんだけど、お前はどうする?」
「えっ…あ、そうね。もういい時間よね。」

それを聞いたクオレはエッジの顔を見上げる。
「エッジ、もう帰るのか?」
「あぁ、一国一城の主は忙しくてな。…リディア、もしよかったら、お前は今晩ミストに泊まったらどうだよ?」

エッジの思いがけない申し出に、リディアは驚く。
「え?そんな…私も帰るわよ!」
「せっかくだしクオレともっと話したらどうだよ?次いつ来れるか分かんねぇんだし。何なら明日また迎えに来てやるぜ?」

リディアは心が揺れた。そうしたいところだが、自分はエブラーナの王妃。いくら国王である夫が許してくれるとはいえ、自分の故郷で油を売るなど許されないだろう。



「ううん、帰る!だって仕事あるもん。」
「…いいのかよ?」
「うん…。クオレ、ごめんね。私、もう帰らないといけないの。」

相変わらず表情は変わらないが、クオレは何か考えている様子だった。
「…リディア、またエッジと一緒に来てくれ。」
「うん。また来るわ。」


そこへ一人の女性がやって来た。外部から召喚魔法を習いに来ているというアリッサだった。
「アリッサ!」
「リディア、引きとめちゃってごめんね。クオレ、もう暗いんだから家に帰りなさい。」
「分かった。」

リディアは自分がミストを去った後も、クオレがどうしているか気がかりだったが、こうして自分の代わりに誰かがクオレの面倒を見てくれているのを見るとそんな気持ちも和らいだ。

「リディア、元気そうで何よりだわ。また来てね。」
「えぇ。そういえばもう幻獣王様と召喚の契約を交わしたのよね?すごいじゃない!」
「いえいえ、おまけしてもらえたのよ。」
そう言って笑うアリッサ。彼女もまた、ミストにとっての大きな希望であった。

新しい召喚士が確実に育っている。故郷の復興のために働いてきたリディアにしたら、自分の手から離れていってしまうのが少しばかりさみしい気もした。

「リディア…帰るか?」
エッジが声を掛けるとリディアは頷いた。エッジとリディアが帰ろうとすると、幻獣王夫妻やミストの村人達も見送りにやって来た。

「リディア、気を付けてね!」
「またいつでも来てね。」

変わらない温かな故郷の人々の言葉に、リディアは胸が熱くなる。

「みんな、今日はありがとう!また来るわ。クオレ…元気でね。」
「うむ。エッジも来てくれ。」
「ありがとな、クオレ。」
エッジは笑顔で答えた。



エッジとリディアは飛空艇に乗り、ミストを後にした。

名残惜しそうな表情で甲板に佇むリディアを見たエッジはどう言葉をかけてよいか考えた。するとリディアがエッジの隣にやって来た。
「エッジ、今日はありがとう。すごく楽しかったわ。」
「…そうか、ならよかった。」

自分のことを気遣い、里帰りを申し出てくれたエッジ。月の大戦後はミストの復興という自分の望みのために支援をしてくれ、真月の戦いの時は封印されてしまった幻獣達を憂うリディアを励まし、そして結婚した今でも自分の意思を汲み、尊重してくれる。クオレとは離ればなれになってしまったものの、リディアはもう数えきれないぐらいの幸せをエッジからもらっている。少し冷たいぐらいの夕暮れ時の秋の風に吹かれながら、今自分がこうしていられるのは、まぎれもなくエッジのおかげだとリディアが思っていると―――


「リディア。」
「ん?」
「また…ミストに行こうな。」

笑顔でそう言うエッジを見たリディアは、満面の笑みで頷いたのだった。


―完―

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2014
04.10

ちょっと反省…。

先月から、エッジとリディアのTA後の妄想を吐き出すためにこのブログを立ち上げ、いくつか作品を載せてみたのですが…。ちょっと反省と言うか、とある方のエジリディTA後のSS(エッジとリディアが結婚し、クオレもエブラーナへ行く)を読んで、自分の発想がいかに浅くて稚拙かということを痛感しまして…。

私はエッジとリディアが結婚する際、クオレもエブラーナへ行き、3人で仲良く暮らす、というパターンのストーリーも考えたのですが、それなら他の人も思い付くだろうし、違う方向に持っていきたいという考えから、かつてのミストの村の悲劇や、エンディングでの幻獣王夫妻のクオレに対する反応、まだ新しい召喚士達も幼いという観点から、エッジにはリディアと結婚するからにはクオレも引き取るという覚悟がありながらも、リディアがエブラーナへ行くならクオレがミストに残って守りを固める…という流れにしました。


ですが、リディアとクオレは家族なんですよね…。その方のストーリーは、エッジもリディアもクオレという家族ができたがために、自分達の関係を今後どうするべきなのか悩み、そしてお互いにその事をなかなか言い出せず、時間をかけて少しずつ道を見出して、セシルとローザ、ヤンとシーラの様に夫婦になってから子供をもつ、という所謂普通の家族ではなく、最終的には新しい形の家族として3人で暮らす道を選ぶという内容でした。それが非常に深くて、エッジとリディアの細やかな心の描写がとても素敵だったんです。それを読んでいると、自分の発想があまりに単純過ぎて情けなく思ってしまったわけです…。しかもエロ多めだし(苦笑)

私がエンディングを見る限りでは、クオレはよりエッジとリディアの距離を縮めたのは間違いないにしろ、リディアはクオレを我が子同然に育てている、というよりも真月には置いていけないという衝動的な気持ちで連れて帰って、ミストの村にいる子供達と同様に愛でている様な感じに見えたので、一緒に暮らすようになり、そこまで深い、無償の愛を注いでいたのかはちょっと判断しかねたんですが、その方の感受性というか、深い視点に感銘を受け、こうして反省しております。

いっそのことTAの続編が出て、公式でエッジとリディアのその後がはっきりすれば、こんなに考え込むこともないのに~!!もちろん結婚しているといるということでお願いしたいですが(^^)

続編、もう出ないかなぁ…。


色んな方の、色んなストーリーがあるエジリディは奥が深いですね。くだらない日記になっちゃいましたが、読んで下さった方、本当にありがとうございます。そして私のエジリディSSに拍手を下さった方、ありがとうございます。とっても嬉しかったです!

これからも稚拙で浅はかな私のエジリディSSで良ければ読んでやって下さいね~( ´ ▽ ` )ノ





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2014
04.05

「誓い」

TA後のエジリディss第4弾です。今回はほのぼの系ですよ(^^)







「誓い」



久しぶりに行ってくるか―――



「じい。」
「はっ、お館様。」
「ちっと墓参り行ってくるわ。決裁が必要なもんは、机の上に置いといてくれ。」
「かしこまりました。…奥方様も御一緒に行かれるのですか?」
「いや、俺1人でいい。場所が場所だからな。」
「そうですか…。ではお気を付けて。」


月の大戦の折、エブラ―ナを襲撃したルビカンテの部下・ルゲイエによって魔物に改造されたエッジの両親。エッジは彼らを苦しみから救うため、自らの手で両親の命を絶った。


あれから10数年が経ち、エブラ―ナは復興し、真月の戦いの際はイフリ―トの襲撃を受けたものの、エッジとリディアの活躍によって大事には至らなかった。現国王であるエッジの元、エブラ―ナは先王の時代よりも着実に発展している。エッジはどんなに自国が栄えても、自分を育ててくれた両親への感謝の気持ちと失った悲しみを忘れたことはなく、王となった今でも、墓参りを欠かさなかった。


エッジは墓のあるエブラ―ナの洞窟に行くため、部屋に戻って黒装束を身に付け、愛用の刀2本を腰に付けた。平和になったとはいえ、洞窟内はモンスタ―がいる。

「さてと、行ってくるか。」

エッジは城の出口へと向かった。すると城門には…

「エッジ~、お散歩行くんなら私も連れてってほしいな~。」

妻リディアが待っていた。
「わっ、リディア!」
エッジは思わず飛び上がってしまった。

何やらリディアは不満げな顔をしている。
「…何だよ?」
「何だよじゃないわよ。どうして1人で行くの?」
「…危ねぇからだよ。」
「危ないんならなおさら1人で行っちゃダメじゃない…。」

エッジは頭を掻いた。
「言っとくけど、ただの散歩じゃね―ぞ?エブラ―ナの洞窟に行くんだぞ?」
「…ご両親のお墓参りでしょ?」
(じいや…俺1人で行くって言ったじゃねぇか…。)

「エッジ?」
「ん?あぁ、そうだぜ。」
「…私も行く。」
「いや、だからエブラ―ナの洞窟に行くから危ないって―の!」

そう言われたリディアの瞳は潤み出した。
「何でそんなに私のこと足手まといのように扱うの?私だってモンスタ―と戦えるのに…。」
「…だから、その…。」

エッジは自分の両親のことだからと、リディアに気を遣わせたくないのだ。しかも墓はモンスタ―の巣食う場所にあるため、大事なリディアに怪我などさせたくない。

「エッジのご両親は、今は私の両親でもあるのよ。エッジは私のお母さんのお墓参り、何度もしてるのに、私はエッジのお父さんとお母さんのお墓参り行っちゃダメなの?」

エッジはもう言い返せなかった。リディアはこうと決めたら聞かない性格なのを知っているからだ。

「ん―、分かったよ。じゃあ一緒に行こう。」
リディアはぱっと笑顔になった。
「やったぁ、嬉しいな!」
「…その代わり、俺から絶対離れるなよ?モンスタ―がいるんだからな。」
「うん、離れないよ…。」

(おぉ…。)

リディアはそう言って、エッジの腕にぴったりとくっついた。こういう行動がエッジをドキドキさせる事を自覚していないあたりが小悪魔である。

「行くぞ?」
「うん。」



2人はエブラ―ナの洞窟に着いた。薄暗い道を警戒しながら奥へと進んで行く。すると…

「…!!」
「…出たな。」

不死系のモンスタ―がウヨウヨと現れた。リディアがファイラの詠唱に入ろうとした時、
「リディア、下がってろ。」
「え?」

「……火炎陣!!!」

エッジが放った大きな炎がモンスタ―達を包み込み、あっという間に焼き尽くした。

「ど―だ、すげえだろ?」
エッジが得意気にリディアを見た。
「…うん。」
「お?認めるのか?」
「だって詠唱の時間が黒魔法よりもずっと短いのに、この威力なんだもん…。エッジ、すごいね。」

リディアに素直に褒められて、エッジは複雑だった。以前なら調子に乗るなこのバカと一蹴されていたというのに。

「ん―…何かお前にそう言われると調子狂うなぁ。」
「何で?褒めちゃいけなかった?」
「いや、そうじゃねぇけどよ。いつもならバカって言われてたなぁと思って。」

そう言われたリディアは、ほんのり頬を赤らめた。真月の戦いの時からエッジの忍者としての実力、そして一国の王としての器の大きさを目の当たりにして、リディアはエッジをますます慕うようになったのだから。

「だって、本当にすごいんだもん。エッジ何でもできるし、それに…。」
「それに?」
「…恥ずかしいから言わない。」
「な、なんだよ。」
「いいじゃない。ほら、行こうよ。」


その後もモンスタ―達が襲ってきたが、エッジの素早い応戦で、リディアの出る幕はなかった。
(エッジ…すごいな…。)


そしてしばらく進むと―――


「ほら、着いたぞ。ここだ。」

蝋燭にうっすら照らされた大きめの空洞に、墓標があった。2人は墓標の前に行って跪き、手を合わせた。

(親父、おふくろ…俺は元気にやってるからな。どうかこれからも見守っていてくれ。)

エッジは心の中で両親に話しかけた。リディアはずっとその姿を見ていた。
(エッジ…。あんな形でご両親亡くしたんだし、本当に辛かったよね。)

リディアは同じ親を亡くした者として、両親を自らの手で討ったエッジの姿を鮮明に覚えていた。どんなに時間が経ち、親を失った悲しみは小さくなることはあっても消えることはない。リディアはそれが痛いほど分かるだけに、エッジに寄り添いたい気持ちになる。

「親父、おふくろ…。」
エッジが声に出して両親に話しかけ始めた。
「こいつは俺の妻のリディアだ。月の大戦の時からずっと好きで好きで堪らなくて、最近やっと結婚したんだ。こいつのおかげで俺は今、すげぇ幸せに暮らしてる。親父とおふくろが仲良くしてたように、俺はリディアと死ぬまで仲良くしたいと思ってる。だからどうか、俺たちの事を見守っていてくれよ…。」

そう言って、再びエッジは墓標に手を合わせた。
「エッジ…。」
リディアはエッジの言葉に胸がきゅっとなり、頬はみるみる真っ赤になった。それを見たエッジはふっと笑う。
「まだお前を正式に親父とおふくろに紹介してなかったからな。」
「そうだったね…。もう、エッジったらあんな大げさに言って…。」
そう言って、恥ずかしそうな顔をするリディア。

「大げさじゃねぇぞ?あれは俺の本心だからな。」
「…バカ。」
「いいじゃねぇか…。」
「ふふ…。ねぇ、エッジ?」
「あ?」
「どうしてここにお墓作ったの?もっと陽のあたる、あったかい場所があるのに…。」

「…親父とおふくろは、生前から影に生きる忍びの一族として、自分達が死んだら影となる場所に墓を作って欲しいって言ってたんだよ。俺はお前の言うように、陽のあたる場所に作ってやりたいと思ったけど、2人の遺志は無下にできねぇと思ってさ。だからここに作ったってわけよ。」

リディアは神妙な面持ちで頷いた。死後も忍びとしての道を選んだエッジの両親。それにはただただ敬服するしかなかった。

「エッジは…もし死んだら、お父さんやお母さんと同じように、この洞窟の中にお墓作って欲しい?」
「う―ん、まだ全然考えてねぇけど…俺はお天道様が好きだし、陽のあたる場所がいいかな。あんまり忍びらしくねぇけど。」
エッジは苦笑した。

「そっかぁ…。」
「…何だよ?もう俺が死んだ後のこと考えてんのか?」
エッジが軽く笑いながら言った。

「ううん、どうなのかなって思って。」
「ふ―ん。お前は?」
「え?」
「お前はもし自分が死んだら、どこに墓作って欲しいんだ?」
エッジにそう聞かれると、リディアは胸がドキドキしてきた。
「あ、えっと…私はね…。」
「やっぱり、ミストか?」
「ううん…あの…。」
「?」




「エッジと一緒なら…どこでもいいよ…?」



もじもじとしながら紡ぎ出されたリディアの答えに、エッジは胸を撃ち抜かれたような気持ちになり、精悍な顔がみるみる緩んでいった。

「そ、それは…あの世に行っても俺と夫婦でいてくれるってことか…?」
エッジにそう言われて、リディアはコクリと頷いた。エッジはリディアの手を握る。

「ありがとな、リディア…。」
「うふふ。…エッジこそ、天国に行っても、私の旦那さんでいてね?」
「…当たり前だ。」

2人は再び墓標に手を合わせた。

(エッジのお父さん、お母さん、私はエッジと結婚できてすごく幸せです。お2人のように、これからもずっと仲良くしていきます。どうか見守っていて下さい。)

リディアは義両親に、心の中でそう話しかけた。これから自分はエッジの妻として、彼に寄り添って生きていくんだという思いが湧き上がってきた。

「リディア、そろそろ帰るか?仕事しなきゃな。」
「うん。」

リディアはエッジにぴったりとくっついた。
「ったく、お前は甘えん坊だな。」
リディアの頬をエッジが指でつつく。

「…エッジが離れるなって言ったんじゃない。」

「…そうだな。じゃ行くぞ?」
「うん!」

2人は洞窟の出口に向かって歩き出した。



亡き両親の前で、永遠に夫婦でいると誓ったエッジとリディア。この先何があるか分からない。それでもこの人となら一緒にいたい、その想いが2人の中にある限り、エブラ―ナ王国の平安は守られるだろう。


―完―

















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2014
03.27

「君は僕だけのもの」 ★

TA後結婚したエジリディSS第3弾です!エッジを喜ばせようとしたリディアの行動にエッジは…?


ややコメディ×エロ有りです。ご注意下さいm(_ _)m





「君は僕だけのもの」




エブラーナ城では、今日もエッジとリディアが仕事に励んでいた。結婚してから、少しずつリディアも仕事を覚え、王であるエッジの負担は以前よりも軽くなっていった。

しかしここ数日、余裕ができたせいなのか、気になるようになったものがある。



それは、リディアのとある習慣…。





(あぁっ、まただ…。くそっ、リディア、勘弁してくれよ。)

エッジの視線の先には、数人の男性家臣と仕事の話をするリディア。美しく朗らかな王妃は、家臣からも国民からも好かれる存在。エッジはそんなリディアが愛しくてたまらないし、誇りに思う。

(いや、だから俺の前でだけにしてくれよ…。頼むから!)

今度は城内で道具屋を営む男性店主と話をしている。おそらく労いの言葉をかけているのだろう。


最初それは気のせいだと思ったのだが、見れば見るほど、それは明らかだった。


エッジが気になるもの、それは…。




「おい、リディア。」
耐えかねたエッジがリディアを呼ぶ。

「はぁい、何?」
夫に呼ばれ、笑顔で駆け寄ってくるリディア。



(あぁ~、間違いねぇ。)

「ちょっとこっち来い。」
「え、な、何よぉ。」



エッジはリディアの腕を掴み、人のいない城の一角に連れて行く。リディアを壁に押し付け、エッジは両手を壁につき、リディアを逃げられないようにする。

「リディア。」
「何よぉ、こんなとこに連れて来て。」

「お前さぁ、今日ブラジャーしてる?」
「へ!?な、何聞いてるのよ!スケベ!」
「いいから答えろ。ブラしてんのか?」

「…し、してるよ?」
「本当か~?」

エッジが気になるもの、それはリディアの胸だった。



リディアはエッジと結婚するまでは魔力を高める素材で作られた、露出度の高い服を好んで身につけていた。それらはデザイン上、ブラジャーを着けずに着用するものだった。またリディア自身がブラジャーは窮屈であまり好きではなく、魔法を詠唱する時の心理的な妨げになるからと、着けないのが習慣だったのだ。


エッジと結婚することになり、一国の王妃となるからには、露出度の高い服は御法度となり、リディアはこっちに来てからはエブラーナ様式の長袖ロングスカートの衣装類を纏うようになった。同時に王妃の身だしなみとして、毎日ブラジャーを着けるようにエッジから口酸っぱく注意された。そしてエッジはリディアが窮屈だと感じないようにと、彼女の体型に合わせたブラジャーを何枚も作らせたのだ。


それ以来リディアは言われた通り、ブラジャーを着けていた。エッジは安心していたのだが、ここ数日、不自然に仕事中でもリディアの胸がぷるんぷるんと揺れていたし、服の上からでも乳首の形が見える時もあったのだ。リディアが大好きで、他の男の目に彼女の魅力を晒したくないエッジは気が気でなかった。

「本当にブラしてるんだな?」
「う、うん。してるよ。」

エッジはリディアの目を見て、嘘をついているのがすぐに分かった。正直なリディアは、嘘をつくのが下手だった。そこがまたエッジにとっては魅力的ではあるが。


「そうか。何色?」
エッジの尋問は続く。

「えと…白地にピンクの花の刺繍が入ったやつよ。」
「お、俺のお気に入りのブラじゃねぇか。…見せてくれよ。」
ニタリと笑うエッジ。

「い、嫌よ。こんなところで。」
「見せてくれねぇの?」
「…嫌っ。」
「何だと~?じゃあこうしてやる。」


そう言ってエッジは両手でリディアの形のいい乳房を服の上から弄り始める。
「あんっ…やだぁ、エッジ。」

エッジが乳房を揉みしだくと、リディアはさらに悩ましげな声を出す。

「あぁんっ…はぁっ…エッジ、こんなとこで…だめぇ…。」
「あぁ、柔らかくって気持ちいいぜ…。お前の胸、最高だよ。」


エッジが乳房を揉みしだきながら親指で乳首を探り当て、くりくりと撫で回すと、リディアはますます感じたようで、乳首が固くなり始めた。今日着ているシンプルなデザインのドレスは薄手なので、脱がなくても乳首の形がくっきりと見える。


(ブラ着けてんなら、こんなに乳首が露わになるわけねぇだろ…。もう少しお仕置きしてやるか。)


エッジはリディアの乳房を手で下からたぷたぷと揺らし始めた。

「おおぉ、大きいから揺れるねぇ。たまらねぇなぁ~、くくくっ。」


卑猥な笑い声を出し、エッジはリディアの胸に顔をうずめた。

「いやぁん、エッジのばかぁ…。」

次第にリディアの表情が、艶かしい女のものへと変わっていった。

(まだ白状しねぇか…。強情なやつだな。)

エッジはさらにお仕置きする。

「ブラ着けてんのにすげぇ生々しくって燃えるぜ。ここでヤッちゃうか?」
「!いやっ…そんな…やめてぇっ。」
「いいじゃん、お前もその気になってんだろ?」
「んもう、夜まで我慢してよぉっ。…今夜はエッジが満足するまで頑張るから、ね?」

上目遣いでそう言われ、エッジは卒倒しそうになったが、何とか堪える。

「うーん、どうしようかな…じゃあ服の上からでいいから、吸わせてくれ。」
「えっ!?だ、ダメよ、エッジの口の跡が服についちゃうじゃない。」
「じゃあ直接吸わせてくれ。なら大丈夫だろ?」

そう言ってエッジはリディアの両乳首を服の上からきゅっと摘む。

「はぁあんっ!お願い、やめてぇ…。」

自分の身体を熟知しているエッジに感じやすいポイントを攻められ続けたリディアは頬を赤らめ、翡翠色の美しい瞳を潤ませて夫に懇願する。だがエッジは自分の言い付けを守らなかった妻が素直に白状しようとしないので、お仕置きをやめる気はない。


エッジは口布を下ろし、リディアの胸に顔を近づけ、舌をペロペロとして見せた。まさしく獲物を喰らおうとする獣である。夫の姿を見てリディアは恐怖感を覚える。

「へへへ…。」
「エ、エッジ…?い…や…。」

エッジがリディアの着ているエブラーナ様式のドレスの、着物のように前で合わせた襟元に手をかけた。

「きゃ…んむっ。」

悲鳴をあげようとしたリディアだったが、エッジが彼女の唇に深く自分のものを重ね、口を塞ぐ。

次の瞬間、エッジは襟元をぐいっと左右に広げ、リディアのドレスの上半身部分を両肩からずり下ろした。

「!!」

リディアは驚くが、口が塞がれて声が出せない。そしてドレスの中から現れたのは、何にも覆われていない、白くて弾力のある、ぷるんとした柔らかな妖艶な二つのふくらみと、程よいピンク色の乳首であった。


エッジはリディアから唇を離すと、獣のような顔から一転し、真顔になった。
「…リディア、お前ブラ着けてるって言ったよな?」
「え…えっと…。」

夫の真顔にリディアは怯える。

「何で着けてねぇんだ。着けろって言っただろ?お前は王妃様なんだぞ。こんなふしだらなことをしてもらっちゃ困るんだよ!」
「…。」

リディアはエッジに怒鳴られ、しゅんとして俯く。

エッジはさらにリディアを問い詰める。
「…あの作ったブラ気に入らねぇのか?」
「ううん…。デザインも可愛いし、着け心地もいいよ。」
「あ?じゃあ何でだよ?」

「…だって。」
「ん?」

「だってエッジが…。」
「俺が何だよ?」

「こないだの夜、私のおっぱい大好きだし、いつでも眺めてたいって言ったじゃない…。」


「…へっ?」


夜、というのはもちろん、エッジとリディアの夫婦の時間のことである。

数日前の夜、2人はいつものように寝室のベッドの上で一糸纏わぬ姿となり、愛の営みを繰り広げていた。

「あっ…はぁっ、はぁっ、エッジ、気持ちいいっ…!あんっ!」

豊かな乳房をエッジに揉みしだかれ、乳首を舌でつつかれ、吸われたリディアは快感に悶えていた。

「いい声出すなぁ…。もっとして欲しいか?」
「…うん。お願い…。」

快感に襲われ、とろんとした目と半開きの口でエッジを見つめるリディア。
「よしよし、素直でいい子だ。」

エッジはリディアの柔らかい緑の髪を撫でてやる。そして親指でリディアの美しいふくらみの頂点にある乳首をくりくりと弄ぶ。

「きゃあん!やぁっ…感じちゃうっ!」
「くくっ、ここ感じやすいよな。あぁ、お前の胸、すげーいい…。大きくて柔らかくって、綺麗な形してて。しかもこの乳首、桜の蕾みたいで可愛い。たまんねー…。」

出会った頃と比べて成熟した、妖艶なリディアの身体。エッジはそんなリディアのふくらみを弄り続ける。

「はぅっ…エッジ…私のおっぱい、そんなに好き?」
「あぁ、大好きだよ。ずっと眺めていたいぜ…。お、ずいぶん濡れてきたな。もう入れちゃうか?」
「うん…来て…。」



……うーん、そういやそんな事言ったっけなぁ…。



エッジはリディアに言われ、ぼんやりと数日前の夜の事を思い返した。しかし愛し合ってる最中はもはや別世界へとふっ飛んで行ったようなもので、何をどう言ったか一字一句覚えているわけではない。ベッドの上でないと口にできない卑猥な言葉や愛の囁きもあるし、無意識に口走っていることも多い。エッジは公私をきっちり切り替えるタイプなので、あくまであれはプライベートに限ってのことだと捉えてもらいたかったのだが、どうやらリディアはエッジの言葉をそのまま受け取ってしまったようである。


「…うん、そうだな。確かに俺はそう言った。」
「思い出した?」
「おぅ。」

「だから私、ブラしなかったらエッジが喜んでくれると思ったの。私はブラ着けないの慣れてるし、着けろって言ったのは建前で、エッジの本音じゃなかったんだって思って…。」


エッジは返す言葉を失い、呆然とした。
「エッジ、聞いてる?」
「ん!?あぁ、聞いてるよ。」

ふとリディアを見ると、両腕で露わになった乳房を隠し、どうしてそんなに怒るの…?と悲しげな表情でエッジを見つめていた。その姿は、まるでいつもは優しい飼い主に突然叱られて、キューンと鳴く子犬のようだった。そしてリディアの瞳からは今にも大粒の涙が零れ落ちそうになっていた。こうなるとエッジはもうお手上げである。

「あぁ、リディア…。すまねぇ、手荒なことして悪かった。」

エッジはリディアのドレスを元通りに着せてやり、自分の胸元へ抱き寄せた。するとリディアは糸が切れたかのようにぐずり始めた。

「うっうっ…ふぇぇぇん…。」

あぁ、泣かせてしまった…。こいつは悪気なんてなかったのに。エッジは罪悪感に苛まれる。

エッジはリディアの髪を撫でながら、背中をポンポンと優しく叩いてやる。
「ごめんな、リディア。泣かせちまって。」

リディアの耳元で詫びの言葉を囁くエッジ。ぐずるリディアから香る甘く優しい匂いがエッジの鼻から全身を駆け巡り、眩暈がしそうになる。

(こいつは何をやっても俺を虜にできる小悪魔だ…。)

このままずっと抱いているのも悪くないなと思い始めた時、リディアがエッジの胸から顔を離し、エッジの顔を見上げた。

「ん、落ち着いたか?」

リディアの目に入ったのは、さっきまでの怖い顔とはうって変わって、優しい表情のエッジ。リディアは安心感を覚える。

「うん…。」
「ほんとに、しょうがねぇ奴だなぁ。」

そう言ってエッジはリディアの頬に残る涙を拭ってやる。
「エッジ…。」
「ん?」
「…あれは、嘘だったの?」
「いいや?本心だぜ?」
「じゃあどうして…?」

エッジはふーっと息をつく。

「あのな、俺がブラジャー着けろって言ったのは、王妃の身だしなみとしてだけじゃねえんだよ。俺は大好きなお前の女としての魅力を他の男の目に晒したくない。男ってのはしょうもない生き物で、女の胸見ただけで簡単に欲情するんだよ。そうなったらお前はその男に襲われるかもしれねぇし、俺はお前が他の男から気を持たれるのは嫌なんだ。お前は俺の大事な嫁さんなんだからな。」

エッジの思いを聞いたリディアは神妙な面持ちで頷いた。
「…エッジ。そんな風に思っていたのね。」
「そういう事だ。…つまり、お前の女の部分を見せるのは俺の前だけにしてくれってこった。」
「…うん。ねぇ、エッジ?」
「ん?」


ちゅっ。


リディアはエッジに口づけした。

「!!!!!」

リディアからキスされるなんて予想していなかったエッジは真っ赤になる。

「おぉぉぉ、びっくりした!」
「うふふ。エッジが私のことをそんなに好きでいてくれるなんて嬉しいな。」

「ん…。分かってくれたならそれでいい。」

エッジは頷きながらも、照れ臭くてリディアの顔を直視できない。

「うん。」
そう言ってリディアはにっこりと微笑む。

(こいつには敵わねえなぁ…。)

そう思いながら苦笑するエッジ。するとリディアがどこかへ行こうとする。

「あ?どこ行くんだ?」
「部屋に行くの。ブラ着けてくる。」
「おお、そうか。」

そう言ってエッジはリディアの後についていく。
「エッジ、何でついてくるの?」
「お前がちゃんとブラ着ける姿を見届けに行くんだ。」
「そんなことされなくてもちゃんと着けるわよっ!」
「いや、俺も一緒に部屋に行く。」
「も~、エッジのばか。」
「バカで結構だ。」


部屋に着いたリディアは、クローゼットの中にある引き出しからブラジャーを1つ取り出す。そして上半身裸になり、ブラを着けた。その姿をエッジは仁王立ちして眺めていた。

リディアがドレスを元通りに着ると、エッジは満足げに頷いて、

「よし、これで大丈夫だな。さぁ、仕事に戻るか!」
「うん。」

執務室に向かう2人。するとエッジが口を開く。

「さぁ~、頑張るぞ。今夜はリディアがばっちり相手してあげるって言ってくれたからな!」
「へ?な、何の話よっ!」
「あん?お前さっき言ってたじゃねーか。『今夜はエッジが満足するまで頑張るから。』って。」

はっとしてリディアは頬に手を当てて、顔を真っ赤に染める。

「ち、違うもん!エッジがあの時やらしい事するの止めてくれるならって意味だもんっ!…エッジ、あの後また触ったしドレス脱がせたし…。」
「いやぁ、俺はそんな話聞いてねぇな。だからお前のあの言葉は有効だ。」

エッジがニタリと笑う。

「エ、エッジのバカ!!こ、今夜は私1人で寝る…んっ。」

リディアの唇にエッジのそれが重なっていた。

「…今夜は楽しみにしてるぜ。」
そう言ってエッジはリディアのお尻をするりと撫でた。

「…もうっ、バカ!」


こうして2人は執務室へと戻った。




そしてその夜、国王夫妻の寝室からは、普段よりも一段と艶めかしい声が響いてきたという…。


―完―




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2014
03.23

「初夜」 ★

エジリディ小説第2弾!!「ずっと一緒に」の続きの話です。タイトル通り、性的描写ありです。苦手な方はご遠慮下さいませm(_ _)m



「初夜」







エブラーナ国王夫妻の披露宴が無事に終わり、エブラーナ城は少しずつ静けさを取り戻していた。祝福に訪れた仲間達は、今日中に帰国する者もいれば明日以降に帰国する者もいるため、エッジとリディアを始め、城の者達は見送りと客室の世話でバタバタとしていた。


それらが一段落した後、一生に一度の大イベントを終えたエッジとリディアには、次なる儀礼が待っていた。


これから2人の新婚初夜が始まるのだ――。




エッジは宴となると酒をこれでもかというほど飲むのがお決まりだったが、今日ばかりは違った。長年恋い焦がれた愛しのリディアと、晴れて夫婦となった記念すべき日。アルコールに呑まれて失態を犯すわけにはいかなかったのだ。

(パーティーで酒を控えるなんて、俺も落ち着いたもんだよなぁ…。)


内心自画自讃するエッジ。30代後半になり、以前の無謀さは影を潜め、慎重な判断を下すようになった。戦の時も、討ち死にするより、生き残ることが大事なのだと考えるようになった。そしてリディアと結婚したからには、余程のことがない限り、城を抜け出す理由もない。これからはやっと、落ち着いた王様になれるのだろうか――。


(どっしり構えた王様なんて、俺の柄じゃねぇよな…。)



色々な思いを巡らせるエッジ。結婚すると価値観が変わるというが、自分もそうなのだろうか?エブラーナという国に加え、守るべき女性をもった今、これまでのような気ままな事は許されないだろう。自由にやってきたエブラーナ国王も、朧げながらそれを理解しつつあった。


「若様…いえ、お館様。」

「おう、じいか。何だよ、やっとお館様って呼んでくれんのか。」
「えぇ。本日をもちまして、お館様と呼ばせていただきますぞ。」
「はっ、やっと結婚したからか?」
「それもございますが…。何よりリディア様との婚礼が決まってからのお館様の働きぶり、じいは嬉しゅうございましたぞ。」

「じいが俺を褒めるなんてなぁ…。あの世行きが近いなんてことはねーよな?」
「ほっほっほ、かもしれませぬな。」
「おいおい、やめろよ。縁起でもない。」
「まぁいずれにせよ、今後のお館様と奥方様のご活躍をお祈り申し上げますぞ。」

「ありがとな、じい。」
「もったいなきお言葉。さぁお館様、初夜の儀の準備をなされませ。」
「あぁ。」





一方、リディアは――


「奥方様、お館様がお部屋に来られたら、お教えした通りにご挨拶なさって下さいね。」
「は、はい。」


初夜の儀に向けて、リディアは数人の女官達に連れられ、城の地下にある王族用の大浴場で体を清めていた。


髪と体を入念に洗われ、浴槽で温まった後は、白のエブラーナ様式の寝間着を着せられ、薄化粧を施された。

「ちなみに奥方様、本日は月のものではございませんね?」
「えっ…はい。」
「それはようございました。」


リディアは女官長の露骨な質問にビクッとしながらも答えた。


(恥ずかしい…。けど、初夜の儀…って、そういうことだもんね。)



リディアは先に部屋に着き、ベッドの上に座り、エッジが来るのを待っていた。その間、教えられたエブラーナ言葉での挨拶をブツブツと呟くように練習する。


「あぁ、上手く言えるかしら…。失敗したらエッジに笑われちゃうだろうな。」

挨拶の事を気にしながらも、これから始まる初夜の儀で行うことを考えると、顔が火照ってくる。



エッジも湯浴みを済ませ、リディアと同じ白の寝間着を着て部屋に向かう。


(別に初めてのガキでもないってのに…。くそ、胸がドキドキしてやがる。)


エッジは部屋の前で一呼吸し、ドアをゆっくりと開けた。

部屋に入ると、奥のベッドにリディアが座っているのが見えた。リディアもエッジが来たのに気付き、体をこちらに向けた。



エッジがベッドに近付いていくと、リディアが姿勢を正し、両手を揃えて手の先をベッドにつけ、頭を下げた。そしてエッジが自分の前に腰掛けると…


「…お館様、この度はわたくしを妻としてお迎えいただき、心より御礼申し上げます。今宵は何卒お館様のご寵愛を…」
「だーっ!そんな堅苦しい挨拶いらねえって!!」


エッジはリディアのエブラーナ言葉での挨拶を遮った。


「ええっ?だって女官長様にこうやって挨拶するようにって言われたんだもん。」
「いや、それがうちの伝統なんだけどよ…。もう俺達付き合い長いんだから、いいじゃねぇか。」
「う、うん…。」



エッジは白い寝間着姿のリディアをまじまじと見る。



しっとりとした緑の髪に、きめ細かく白い肌、長い睫毛に透き通るような翡翠色の瞳。うっすらと施された化粧が、彼女の美しさを引き立てていた。そしてその左薬指には、自分と揃いの結婚指輪。


(俺達、やっと夫婦になれたんだな…。)


何度も夢に見たことが実現したのかと思うと、エッジは感無量だった。掌でリディアの頬にそっと触れる。


「まぁ、その…何だ。リディア、これからよろしくな…。」
「うん。こちらこそよろしくね…。」



2人は笑い合う。





「なんか、恥ずかしいね。」
「なんだよ、緊張してんのか?」
「何ていうか、こうやってお膳立てされちゃうと恥ずかしいなぁ。」
「まぁでも新婚初夜ってこんなもんなんじゃねーの。」

「そっかぁ…。」

ぎこちない会話をする2人。


(俺…今日は何でこんなにのんびりしてんだ?待ちに待ってたってのに…。)


エッジは小さく息をつき、
「リディア。」
「ん?」

「…もっとこっち来いよ。」
「…やだぁ、恥ずかしい。」
「言い訳すんな。来い。」


リディアはもじもじしながらエッジに近付く。

「きゃっ!」
「…捕まえた。」


エッジはリディアを抱きしめて、自分の膝に座らせる。



温かい――。




エッジの体温が、リディアの体に伝わってくる。もう何度も抱きしめられているけど、飽きることのない心地よさ。

(ドキドキする。でも落ち着くなぁ…。)



リディアの背中に回されていたエッジの手が、徐々にリディアの腰の辺りに下りてきた。そしてその手は腰回りをゆっくりと撫で始める。

(あっ…。)



自分の腰回りにエッジの手の温もりを感じたリディアは、体の奥が少しずつ熱くなってくるような感覚を覚えた。




「エッジの手、あったかいね。」
「お前への想いだよ。」
「…そんなこと言われたら恥ずかしいよ…。」


リディアはほんのり頬を赤らめて下を向く。その姿があまりに愛おしくて、エッジの理性は崩れ始める。


リディアはゆっくりとベッドに横たえられ、エッジに組み敷かれた。


エッジはリディアの顔の両脇に肘をつき、覆いかぶさるような体勢になり、彼女の唇に自分のものを重ねた。角度を変えながら何度も繰り返し、徐々に濃厚なキスへと変わっていった。

ちゅっ、ちゅうっ、ちゅくっ…。


キスの音が耳に響く。エッジは舌をリディアの口腔内に入れ、彼女の舌を絡め取ろうとする。リディアがそれに応じると、エッジは舌を蛇のように小刻みに動かして、彼女の舌を刺激する。

「やぁっ…。」

エッジのいやらしい舌の動きに、リディアの身体の芯がさらに熱くなる。



エッジはさっきとは打って変わって、リディアの唇を貪るように激しく深いキスをし始めた。お互いの舌を絡め、淫靡な音を立てる。


ちゅうっ、ちゅぷ、ちゅぷっ…。

「んっ、んふぅ…はぁ、はぁっ。」


リディアは激しいキスから解放され、必死で呼吸を整える。キスが気持ち良くて、エッジの理性がどんどん崩れていく。リディアの首筋が舌でちろちろと舐め取られ、思わず身体を捩る。


「あっ、やぁ…くすぐったい。」



するとエッジはリディアの首筋を甘噛みし始める。



「キスマーク、付けていい?」
「ダメっ…。」
「俺は付けたいんだけどな。」
「やだっ、付けないで…。」

そう言うと、リディアはエッジが自分の首筋を吸うのを感じた。


「!!」
「あー、ちょっと強くしすぎちまったかな…。」


そう言ってニヤニヤと笑うエッジ。

「キスマーク…付けたの?」
「おぅ、付けたぞ。」


リディアはそこを手で押さえ、恥ずかしさのあまり、顔が赤くなる。


「やだぁっ…。ひどいよ、エッジ…。こんなとこ服で隠せないじゃない。恥ずかしいっ…!」
「恥ずかしいか?」
「恥ずかしいよぉ…。」

「じゃあ俺にも同じようなの付けたらいいじゃねぇか。そうすりゃお揃いだぜ?」
「そういう問題じゃないもんっ…!もう…。」

リディアがそっぽを向くと、エッジは笑い出す。


「ほんっと、可愛いなぁ。冗談だよ。跡付いてねーよ。」
「…!」


リディアはからかわれたのが悔しくて、組み敷かれたままエッジを腕で叩こうとするが、簡単に腕を掴まれてしまい、抵抗のしようがなかった。


「もうっ…エッジのバカ。」
「それがお前の選んだ旦那だぞ?」


笑顔でそう言うエッジにリディアは何も言い返せない。エッジのペースに巻き込まれたのが悔しくて口をぱくぱくさせる。



エッジはそんなリディアの顔を見てますます興奮し、彼女の豊かな胸を寝間着の上から撫で始める。


「あっ…エッジ。」



大きく円を描くようにさすり、指でふくらみの頂点にある蕾をつつく。蕾が硬さを増してきたのを確かめると、エッジはリディアの寝間着の前合わせになっている襟元からするりと手を中に入れ、ふくらみを揉みしだく。


「あんっ…あっ…やぁっ…。」
「さっきの硬くなってたのは、ここか?」


そう言って、寝間着の中に手を入れたまま蕾をきゅっきゅっと摘む。


「きゃんっ!」



エッジはその声に欲情し、リディアの寝間着を肩からずり下げ、形のいい、成熟した二つのふくらみを露わにさせる。すっかり硬くなった程よいピンク色の蕾を口に含み、舌でつつき、舐め、吸い上げる。そして反対側のふくらみを揉みしだきながら、その蕾を親指でくりくりと撫で回すと、リディアは艶かしい声を出す。


エッジはしばらくその動作を繰り返した後、反対側も同じように愛撫する。

「あああん…もうっ…エッジぃ…!」


次々と襲い来る快感に、リディアは意識が飛びそうになる。もう何度もエッジとはこういった行為を重ねているというのに、慣れることがない。


エッジはリディアが先程から自分の愛撫を受ける度に腰をくねらせ、両脚を捩っていることに気付いていた。
リディアの下半身へと手を伸ばし、寝間着の裾から手を入れて彼女の太腿を撫で回す。


「ぁっ…。」


声にならない声で、リディアがぴくんと反応する。エッジは後退りするように、自分の身体を彼女の下半身へと移動させる。もう片方の手も裾の中へと入れ、両太腿を優しく撫でる。


撫でている内に、裾がはだけ、リディアの秘所を覆う、小さな茂みが少しずつ見えてきた。


「お、下着着けてねーのか。」
「…着ける必要ないからって言われたんだもん。」


エッジはふっと笑い、リディアの両脚を開いた。


秘所に触れると、もうそこは潤いが溢れそうになっていた。そこに中指を少し挿し込んで中の肉芽をいじると、リディアの身体にビリビリとするような刺激が走る。エッジはわざと、ぴちゅぴちゅと音を立てるように指を動かす。


「いやぁっ…はぁぁっ!」

リディアは仰け反り、シーツを掴んで刺激に耐える。


「もうずいぶん濡れてるじゃねぇか…。お前、やればやる程感じやすくなってるよなぁ。」
「誰の…せいだと思ってるのよぉ…。」



エッジはリディアの寝間着の腰紐を解いて脱がせ、それをベッドの端に置く。そして中指と人差し指を使ってリディアの花弁をくっと開き、露わになった肉芽に舌を這わせると中から蜜が溢れ始めた。


「あぁぁぁぁっ…!はぁっ、はうっ…。」
「すっげーいっぱい出てるぜ…。どうすんだよ、こんなに出して。」


卑猥な笑みを浮かべ、意地悪な質問をするエッジ。

「もうっ…!エッジのばかぁ…。」


快感に悶えるリディアに口づけしながら、エッジは自分の寝間着を脱ぎ去り、もはや何物にも覆われていない身体をリディアと密着させる。リディアは自分のお腹の上に、すっかり膨張し、熱く固くなったエッジのものがあるのを感じた。


「…エッジの、すごく熱くなってる。」
「あぁ、そろそろ限界だ…。リディア、いいか?」
「うん…。」


エッジはリディアに口づけする。

「…いくぜ。」



くぷっ…



エッジは自身をリディアの秘所にあてがい、彼女の腰を掴んで中へと進めた。するとリディアの内壁は何の抵抗もなくずぶずぶとエッジを受け入れ、あっという間に最奥へと導いた。


「ああっ…エッジ!」
「おぉ…いっぺんに入ったぜ。」


お互いに驚き、顔を見合わせる2人。

「…初めは痛くて、なかなか入らなかったのにね。」
「はは、そんなこともあったな…。」


リディアはエッジと初めて身体を合わせた日のことを思い出す。破瓜の痛みでなかなかエッジが奥へと進めなかったのだが、彼が根気良く、ずっと優しくしてくれたおかげで、何とか最後までこぎ着けたのだ。


「あの時、嬉しかったよ。私が痛い痛いって言ってわめいてたのに、エッジはすごく優しくしてくれて…。」

「…そりゃあ、惚れた女とだからな。どんなに時間かかっても苦じゃねぇよ。」
「ふふ…。エッジったら。」


エッジが動かずにいる間に、リディアの内壁はすっかりエッジに馴染み、それを程よい圧力で包み込んでいた。こうして繋がっていると、お互いとても満たされた気分になれる。

「あぁ…お前の中、すげぇいいぜ。」
「エッジ…。」


リディアが目を閉じて口づけを求めると、エッジは彼女の唇にキスを落とす。そして少しずつ腰を動かし始めた。


「あっ、んんっ、やぁっ…あっ、エッジ…!」


下腹部から快感が全身に走り始める。溢れるほど蜜が出ていたため、くちゅくちゅといやらしい音が響く。


「…やだぁ、こんなに音出してぇっ…。」
「お前が悪いんだぞ?リディア。」
「もうっ…!あぁっ…エッジ、気持ちいい…。」

エッジはリディアの言葉を聞いて徐々に律動速度を上げる。リディアは奥を突かれ続け、ますます快感に襲われる。リディアの悩ましげな声に反応して、エッジは彼女の唇を食む。


「んっ、ふぅ、んんっ…。」


リディアはエッジの首の後ろに両手を回す。すると口づけはますます深くなり、エッジは舌を中に割り込ませ、リディアの口腔内を隅々まで舐め回す。


「あうっ…はぁっ…。」

リディアが軽く息を切らせていると、エッジは自身を出し入れしながら秘所にある肉芽を指で弄り出す。


「あっ!やだっ、そこは感じやすいのおっ…!」
「感じてくれよ…。お前の可愛い声、もっと聞きてぇよ…。」

エッジがリディアを抱きしめると、彼女は腕を彼の背中に回してしっかりとしがみつき、それを合図にエッジは腰を激しく揺らした。


「はぁっ、あぁんっ、ああっ!エ、エッジ…!!」
「はぁっ、リディア…!」


互いの名前を呼び合い、感じ合う2人。次第に己の限界が近付いてるのを感じるエッジだったが、気を張って律動を続けた。


嬌声と共に、リディアの内壁がエッジのものを締め付け始める。大きな快感がエッジを襲い、思わず射精しそうになるが、必死で堪える。

奥を突かれ続け、リディアは一歩一歩絶頂へと登り続ける。その表情は今にも快楽の園へと旅立ちそうな、切なげながらも艶かしい。

「ふぁっ、あっ、あぁぁっ…!」
「リディア…何も…我慢しなくていい。そのまま感じてくれっ…!」


エッジの言葉に、リディアの理性は吹き飛ばされた。締め付けがぐっと強まる。



「リディア…俺を…全部受け止めてくれるか…!?」
「うんっ…全部…全部受け止めるよぉっ…!!!」


その言葉を聞いたエッジの理性は完全に消え去り、全力で何度も腰を打ちつける。抱き合う2人の身体がベッドの上で激しく揺れ動く。



「…あっ…ふあっ、あっ、あぁぁ……っ!!」


リディアが絶頂を迎え、軽く痙攣しながら身体を弓なりに反らすと、エッジはきつく締め上げられた。


「くぁっ…!リディア…ぬぁぁぁっ!!」


エッジはビクビクと痙攣し、彼女の中で白濁とした液を解き放った―――







「はぁ、はぁ、はぁっ…。」


共に絶頂を迎え、静かに息を切らせたまま見つめ合うと、自然に唇が重なり合う。





事後処理を終えたエッジはリディアの隣に横たわり、彼女に掛布団をかけてやる。身体を彼の方に向けたリディアは、しばしエッジの顔を見つめた後、穏やかに微笑む。


「エッジ…。」
「うん?」

「すごく…気持ち良かったよ。」
「そうか…。」

「こんなに時間かけてするの、初めてよね…?何か今、幸せな気分でいっぱいなの…。」
「そりゃ今までは、限られた時間内でやってたんだからな…。時間を気にせずにできるってのはいいもんだ。」


事後の疲労感に見舞われながら、エッジはリディアの方に身体を向ける。

「そうだね…。いつもエッジは忙しい中、私に会いに来てくれてたんだもんね。」

リディアがぽそりと呟くと、エッジは彼女の髪を撫でた。


「これからは、俺の手がすぐ届くところにいてくれよ?ミストや幻界に帰るとか…言わねぇでくれ…。」


消え入りそうな声のエッジ。今まで彼に辛い思いをさせていたのは自分なんだと、リディアは胸が痛んだ。


「どこにも…行かないよ。エッジのこと、大好きだもん。」
「リディア…。」


「エッジこそ、もう1人で危険な事、背負ったりしちゃ嫌よ…。」


リディアはエッジにぴったりとくっつく。


エッジがリディアを抱き寄せると、お互いの体温が心地良くて、何とも言えぬ幸福感が2人を包み込む。


離れない、離さない―――





2人は同じ思いと共に、そのまままどろみ、眠りへと落ちていった。


―完―



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2014
03.22

「ずっと一緒に」 後編

エジリディ小説、第1弾の後編です。

どうぞ最後までお付き合い下さいませ☆






「ずっと一緒に」 後編












大事なのは、自分の気持ちなのに。







「クオレは寝たか?」
「うん、エッジがいっぱい遊んでくれたおかげでぐっすり寝ちゃったわ。」
「そうか。」
「ふふ。」


ふーと大きな息をつくエッジ。


「ごめんね、疲れたでしょ?」
「うーん、さすがにな。」
エッジは苦笑した。



リディアが入れてくれたお茶を飲みながら、2人は他愛もない会話をしていた。こうして2人きりでゆっくり話すのはいつぶりだろうか。王としての仕事に明け暮れ、精神的に参ってしまう事もある。だがミストに来て、リディアの笑顔を見るとそんなものは吹き飛んでしまうのだ。



このままリディアを連れて帰りたい。






だけどこいつにはミストがある。










愛する人の大事なものを捨てさせるなんてできない――












ふと、会話が途切れた。




エッジはリディアの翡翠色の瞳をじっと見つめる。リディアもエッジの目を見つめ、にっこり微笑む。














その瞬間




エッジの中で、何かが崩れ去った。


胸が高鳴り始めた。














大事なのは、自分の気持ち。


こいつと一生一緒にいたい。




守りたい。
幸せにしたい。


リディアにはミストがあるから。


そんなのは言い訳だった。

ただ相手に拒絶されることが怖いだけだった。




…俺は、リディアが好きだ。







「なあ、リディア…。」
「ん?」



「…エブラーナに来ないか。」
「え…?」





エブラーナに行く?遊びに?それとも…





リディアの中に、色んな疑問が湧き上がる。




「遊びに来いって意味じゃねーぞ。」
「…。」

リディアの心臓がどくんどくんと鳴り響く。手足がかすかに震えだす。






恐る恐る口を開く。




「そ、それって…。」








「…俺と、結婚してほしいんだよ。」







長い長い間、何度も口にしようとしては心にしまい続けてきたエッジの言葉が、リディアの本心を縛っていたものをみるみる溶かしていった。全身が温かい気持ちに包まれる。







身分なんて、関係ない。








大切なのは、自分の心。
偽ったら、苦しいだけで、幸せはやってこない。





当たり前のことなのに、分かっているのに、見て見ぬふりをするようになっていた。





だから苦しかった。





湧き上がってくるエッジへの想いと一緒に、リディアの翡翠色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ始めた。





「おいおい、何で泣くんだよ?」


リディアの涙の意味が分からず、うろたえるエッジ。



「エッ…ジ!」
リディアは立ち上がり、エッジに抱き付く。



リディアを優しく抱き締め、自分の胸で泣きじゃくるリディアの柔らかな緑の髪を撫でてやる。愛する女性のぬくもりを感じ、エッジはとても満たされた気分になる。






「それで、返事は?」
「…。」


「『いいえ』だなんて言うんじゃねーぞ。」


強気な発言だが、その声には『断られたらどうしよう』っていう不安がいっぱい。ミストの復興を抱えたリディアに拒絶されてしまって、こうして会うことすらできなくなることが怖くて怖くて仕方なかったのだから。



「…もう、何言ってるのよ。」




「…ミストのことが落ち着くまで、こんなに長い間待ったんだぞ?」




震えた声で発される、エッジの想いの全てがこもったその一言に、リディアははっとする。
(そうか…私、エッジを待たせていたんだ。)




自分だけが苦しい思いをしていると思っていた。だがエッジがこの10数年の間どんな思いで自分のもとに通っていたかなんて、考えた事がなかったことに気付いたのだ。



エッジの方が、何倍も苦しい思いをしていたというのに。

「そうだね、ごめんね…。」


「リディア?」
「…いいの?」
「何が?」
「私…エッジの赤ちゃん産めないかもしれないよ。」



リディアの一言に、エッジはため息をつく。


「…お前はうちのじいやかよ?」




召喚士一族は召喚の力を保つため、血族結婚を繰り返してきた。そのせいで身体が弱い傾向にあり、不妊となる者もあった。一国の王妃が子を産めないのは大問題になりうる。





「んー…自分の子供がいらないってわけじゃねぇけどよ…世継ぎなんて、どうにでもなるさ。んなもん、王様の子供じゃないといけないんだったら、今のバロンやファブールの王はどうなるんだよ?」
「…。」



エッジはそういうことを気にする人間じゃない。養子でも何でも、能力のある者が国を治めればいい。王の実子が適任であるとは限らないのだから。古い考えに縛られていては、国は繁栄しない。エッジは王となり、色んな経験をする中で、そう思うようになっていた。現にバロンは議会制で選ばれたセシル・ローザ夫妻が国を治めているし、ファブールではヤンの人格と実力を認めた先王が彼に王位を譲っている。



「もちろん、クオレも一緒に来たらいい。」
「…うん。」



エッジはリディアの養い子であるクオレを引き取る覚悟はできていた。





これから先、思いもよらぬ不幸が待っているかもしれない。人生、何もかもうまくいくなんて、夢物語に等しい。悲しませる事もあるかもしれない。だけどリディアのことなら、全部受け入れたい。



「俺は、必ずお前を守ってやる。だから、一生一緒にいてくれよ…。」



そう言って、エッジは優しい眼差しでリディアを見つめた。翡翠色の美しい瞳が、再び涙で潤み始める。








「…はい。」
「ん?」


「エッジと…結婚します。」







その言葉を聞いた瞬間、エッジはリディアを強く強く抱き締めた。




もう絶対離さない

これからは、ずっと一緒にいられる――

「リディア…。」
「エッジ…!」

身体が蕩けてしまいそうな、熱く深い口づけを何度も交わす。息が止まるぐらいに――







「はあっ…エッジ…。」
「そんな顔したら、ここで押し倒しちまうぞ?」
「…もう、バカ…。」






エッジの唇が再びリディアのものと重なり、濃厚なキスは何度も何度も繰り返された。2人はしっかりと抱き合い、いつまでもお互いを離そうとしなかった――








*****




翌朝、結婚の約束をした2人は、一緒に朝食の準備をしていた。

「クオレ、おはよう。」
「お…はよう。」


眠い目をこすりながら、クオレは2人を見上げる。


「クオレ、今日はエッジも一緒に朝ご飯を食べるわよ。」
「うむ。」


3人で食卓を囲み、朝食を食べる。エッジはタイミングを見計らって、クオレに話しかけた。


「クオレ、リディアは俺と結婚して、エブラーナに住むことになった。クオレも来るか?エブラーナには遊んでくれる奴らがいっぱいいるぞ。」


エッジはクオレに笑いかけた。


「エブラーナへ…?」
「そうだ。俺の国だ。」
「行ってもいいぞ。」
「そうか、よかった。じゃあ今度迎えに来るから、それまでにエブラーナに来る準備しといてくれよ?」

「分かった。」




(エッジ…ありがとう。)



朝食後、エッジが帰り支度をしていると、クオレが寄ってくる。


「エッジ、帰るのか?」
「あぁ、王様の仕事があるからな。」


そう言ってエッジはクオレを抱き上げる。


リディアに帰る事を告げようとすると、寂しくてたまらないという表情でエッジを見つめていた。

「…そんな顔するなよ。帰れねーじゃねぇか。」
「だって…。」
「1か月後に迎えに来るってーの。」
「…絶対来てね?待ってるから。」
「来るに決まってるだろーが。お前こそ、気が変わったなんて言うんじゃねーぞ。」
「そんなこと、言わないよ…。」



昨夜2人で話し合い、式の日取りなどは後日決定するという事で、1か月後にリディアはクオレと共にエブラーナに行くこととなった。



「来月は俺と一緒に正式な挨拶まわりだな。」
「そうだね。」




「…じゃあ、またな。」
「気を付けてね。」






1か月後――



「エッジ様がいらっしゃったぞー!」



エッジが数名の兵を連れて飛空艇から降り、ミストに到着すると、リディアとクオレ、ミストの村人達、そして幻獣王夫妻が出迎えた。


「エッジ、皆に結婚の報告したらね、とっても喜んでもらえたのよ。」


「そ、そーか。そりゃよかった。」

満面の笑みのリディアに、エッジは思いがけずドキドキとする。



「リディア、お幸せにね。」
「時々はミストに来いよ。」


村人達が次々と祝いの言葉を贈ると、リディアは頬を紅潮させ、幸せそうに頷く。



「エッジ様、リディアとのご結婚おめでとうございます。」


長い黒髪の精悍な女性が出てきて祝いの言葉を述べた。


「エッジ、この人はこないだ話した外部から召喚魔法を習いに来ているアリッサよ。まだここに来て数か月なんだけど、すごい早さで魔法を身に付けていってるの。バロンの士官学校出身で、剣術もすごいのよ。」
「あぁ!あんたが…。」

「エッジ様、リディアがエブラーナに行った後は私もミストの皆も、力を合わせて村を守ります。なので、どうぞ安心してリディアをお連れ帰り下さいませ。」
と言って、アリッサはにっこり微笑んだ。


「そ、それはそれは…。」


リディアとそう変わらない年恰好の女性にそんなことを言われては、エッジはただただ恐縮するしかなった。


幻獣王夫妻とクオレもエッジの元へとやって来た。


「エッジ殿、わが娘をよろしく頼むぞ。」
「もちろんだ。俺の一生かけてリディアを幸せにするさ。」
「リディア、よき方と結ばれましたね。幸せになるのですよ。」
「はい、王妃様。」


エッジは幻獣王夫妻と一緒にいるクオレに笑いかけ、しゃがんで彼女の目線に合わせる。


「クオレ、準備はできてるか?いよいよ今日、エブラーナへ行くぞ。」


そう言うと、アスラが口を開く。


「エッジ殿、その件ですが…。」
「?」

「エッジ、クオレはミストに残るぞ。」

「え?残るって…。」




クオレの一言に、エッジが不思議そうな顔をしていると、アスラが説明し始めた。



「…クオレは非常に強い魔法の力を持っています。優れた召喚士となるでしょう。我々幻獣としては、このミストには一人でも多くの優秀な召喚士にいてほしい。以前のような悲劇がまた起こらないとも言い切れません。村を守り、繁栄させるためにも、クオレにはミストに残ってもらいたいのです。」


クオレも来るものだと思っていたエッジは驚いた。


「いや、アスラの言う事は分かるんだが…。リディア、お前はいいのかよ?」
「うん…、残念だけど、ミストの将来を考えたらそれが一番かなって。この村の発展は、私の望みでもあったから。それに、二度と会えなくなるわけじゃないんだし。」

「…それは、そうだけど。」


複雑な心境のエッジ。そんなエッジを尻目に、クオレの表情は変わらない。

「リディア、クオレはリディアに代わってミストを守るぞ。」
「クオレ…ありがとう。」

「エッジ、また遊びに来てくれ。」
「…あぁ、またリディアと来るさ。」

エッジはそう答える他なかった。


「さぁリディア、そろそろ行きなさい。エブラーナの迎えの方達がお待ちでしょう。」
「はい。…それでは、行ってまいります。」




アスラに促され、リディアはエッジの元へと歩み寄る。


「リディアー!元気でね!」
「気を付けてね!」


村人達がリディアに声をかける。


「ありがとう、みんなも元気でね!…エッジ、お待たせ。」
「あぁ。…じゃあ、行くか。」



エブラーナ兵達がリディアの荷物を飛空艇に運び終え、離陸の準備が整った。リディアは甲板からミストの者たちに大きく手を振った。


「みんなー!ありがとうー!またねー!」



歓声が沸き起こる中、飛空艇は空高く舞い上がり、エブラーナへと航路を取った。




「なぁリディア、本当にクオレを置いてきて良かったのかよ…?」
「うん…。だってこれからエッジがいっぱい幸せにしてくれるんでしょ?」
「…そりゃそうだ。まぁ、そこまで言うんなら大丈夫か。」

(エッジには…言わない方がいいわよね。きっと気を遣わせちゃうわ。)





エッジがあの日帰った後、リディアはミストの村人達と、幻獣王夫妻に結婚の報告をし、クオレと共にエブラーナへ行くことを告げた。すると――



「…リディア、あなたは一国の王妃となり、エッジ殿と共に生きていくとはどういう意味か、分かっているのですか?」
「え…?」


リディアはアスラの質問の意図が分からず、困惑した。



「エッジ殿は一国の王。大きなものを背負っておられる。それを支える王妃となるあなたがクオレを連れて行っては、エッジ殿の負担を増やしてしまうことになりますよ。」

「負担だなんて…!エッジはクオレも一緒に来たらいいと言ってくれてるんです!」

「それはエッジ殿があなたを好いているから、そう言ってくれているだけのこと。あなたがクオレと共にエブラーナへ行けば、エッジ殿はあなただけでなく、クオレの今後のことにまで責任をもたねばならぬのですよ?」
「…!」


「エッジ殿は今までミストに多大な支援をしていたのでしょう?これ以上彼の優しさに甘えては…」


「ならクオレをどうしろというのですか!?」

「クオレの事は、わしらが責任を持つぞい。」
幻獣王が答える。

「クオレは強い魔法の力を持っている。きっと優秀な召喚士となるでしょう。私達幻獣はもちろん、ミストの者たちも、できるだけ多くの召喚士がここにいることを望んでいるはず。クオレがここに残ることは、村を守ることにも繋がるでしょう。クオレには私達から話をします。」
「…。」


「…リディア、エッジ殿が迎えに来るまでまだ時間はあります。よく考えるのですよ。」






―――悩んだ末、リディアはエッジに今まで甘えていた分、これからは彼のために何かしたいし、負担を増やしてはいけないと思い、クオレをミストに残すことを了承したのだった。








半年後、秋晴れの空の下でエブラーナ国王夫妻の婚礼の儀が、エブラーナ城にて執り行われた。バロンからはセシル・ローザ国王夫妻、王子セオドア、赤き翼隊長カインと飛空艇技師シドが、ミストからは長老とクオレ、ダムシアンからは国王ギルバートと秘書のハル、ファブールからはヤン国王夫妻と王女アーシュラ、ミシディアからは長老、パロム・ポロム姉弟とレオノーラ、ドワーフ王国からも王と王女ルカが祝いの席に招待された。



婚礼までの間、エッジは国王の仕事に邁進し、リディアは王妃になるための教育を受けていたため、お互いに忙しかったが、夫婦となる当日の2人は幸せいっぱいだった。結婚式では仲間達が見守る中、エブラーナ王族の正装姿のエッジがこの上なく凛々しい姿で誓いの詞を述べ、その隣には、美しい色打掛を着たリディアがいた。





披露宴ではリディアが純白のウェディングドレスに着替えて登場した。ポロム、レオノーラ、ルカを始め、年ごろの未婚の娘達はその美しさにうっとりするばかりだった。


「あぁ、リディアさん、綺麗です…。」
ポロムが思わずため息をもらす。


「ホントに…。私もあんな風になりたいです。」


「あら、レオノーラはもうすぐ着れるんじゃないの?パロム次第だけど!」
「なななな、何を言うんですか!」

笑顔でレオノーラに突っかかるルカの言葉を聞いていた他の仲間たちは笑っていたが、唯一パロムだけは苦笑するのだった。


披露宴では新郎新婦の周りを仲間達が囲み、祝いの言葉と共に酒を飲み交わす。


「エッジ、リディア、おめでとう!」
「エッジさん、リディアさん、ご結婚おめでとうございます!」
「ほんと、おめでとう。それにしてもエッジ、あなたリディアと結婚するのに時間かかりすぎよ!」


セシル達バロン国王一家が言葉をかける。


「な、何だよローザ。いーじゃねえか、色々事情があったんだよ…。」


「ローザ、エッジはね、私が結婚できるようになるまで待っててくれたのよ。いっぱい辛い思いしただろうから、これからは幸せあげたいな…。」


エッジはリディアの言葉に目頭が熱くなる。


「リディア…。嬉しいこと言ってくれるじゃねーか。」


エッジはリディアを抱き寄せて口づけをした。


「おおっと!」
「わぁ!」
「まぁ!セオドア、見ちゃいけません!」


「もう~、みんな見てるのに!」
「いいじゃねーかよ、俺達夫婦なんだぜ?」


顔を真っ赤にして怒るリディアだが、エッジにはそれも可愛くて仕方が無い。

「…相変わらずだな、エブラーナのエロ王様よ。」
「だっ…カイン、うるせーよ!へっ、お前は結婚しねーのか?」
「…ほっておけ。」


赤き翼の隊長となったカインは祝いの席でもクールだった。そこへ酒が入り、上機嫌なシドが割って入る。

「エッジ、よくもまぁリディアをモノにできたのう!」
「失礼だぞジジイ。祝いの言葉ぐらい言えねーのか。」
「おおこれは失礼!エブラーナ王妃リディア様、この度はご結婚おめでとうございます。」
「ありがとう、シド。飛空艇のことで何かあったらよろしくね。」

「…ったく。」






「エッジ、リディア、結婚おめでとう。」
優しい笑顔でギルバートが2人に話しかける。


「おう、ギル!ありがとな。」
「リディア様、なんてお綺麗なのでしょう…。」
「ありがとう、ハル。ミスト支援の手配、ありがとうね。おかげでミストは復興したわ。」
「そんな…リディア様のご努力の成果ですよ。ねぇ、陛下?」
「そうだね。また何か困ったら連絡するんだよ。」
「うん、ありがとう!」






「エッジ殿、リディア。お二人のご結婚、心より祝福申し上げます。」
「エッジさん、リディアさん、今日はお招きいただき、ありがとうございます。」
「夫婦円満のコツは、いかに夫を尻に敷くかだよリディア!」


ファブール国王一家が2人を祝福する。

「ヤン、シーラさん、アーシュラ、ありがとう。」
「いやいやシーラさん、いきなりそんなアドバイスを…。」

ファブール王妃の唐突な助言にエッジは苦笑するしかなかった。


「そうだ、ヤン。…あの時は励ましてくれてありがとうな。」
「あの時?はて…。」

首を傾げるヤンに、エッジは耳打ちする。

「ほら、真月で『王が夢を見れぬようでは、民も幸せになれない』って…。」
「あぁ、そういえば!お役に立ったようで何よりですぞ。」
「ま、あんたがあの時どういう意図で言ったのかは分からんがな…。」
「いやいや、そういう意味ですとも。」

「…!」

エッジは軽くよろめいた。



「え、何?何の話?」
「わっ、リディア!なんでもねーよ!」

「とにかく、本日は誠におめでとうございます。」


ヤンは笑顔でそう言って下がっていった。



ミシディア組がエッジとリディアのもとへやってくる。


「エッジ殿、リディア殿、本日は誠におめでとうございます。」
「長老殿…お体がすぐれないのに来ていただいてありがとうございます。」
「大丈夫だって!そんな簡単に死なねぇって!」

「パロム!口を慎みなさい!エッジさん、リディアさん、ご結婚おめでとうございます。」
「ありがとうポロム。ミシディアはどう?」
「おかげさまでうまくいってます。レオノーラも色々助けてくれるので。」
「ポロムさん、私は何も…。あぁリディアさん…お綺麗です…。」

「ふふ、レオノーラにはかなわないわよ。ところでパロムとはうまくいってるの?」
「リ、リディアさんまで!やめてくださいっ!」


1人気まずそうにするパロムを見て、くっと笑うエッジ。


「まあまあリディア、まだこいつらは若いんだし、これからだって!」
エッジが弟のようなパロムに助け舟を出す。


「へっ、ありがとな、エブラーナの王様!」
(…進展あったら知らせろよ。)
(余計なお世話だっ!)


小声で交わされた密約に、気付く者はいなかったようだ。



最後にやってきたのはドワーフ王とルカ、ミストの長老とクオレだった。
「リディア、エッジ、おめでとう!」
「よう、ルカ。地底からはるばるご苦労さん。」

「あら、ファルコンがあればひとっ跳びよ!ね、父上。」
「うむ。それにしても、セシル殿ローザ殿の結婚式に劣らぬ豪華な式ですな。」

「ありがとうございます、ドワーフ王。今日は楽しんでいって下さいね。」



「リディアー!」
「クオレ!来てくれてありがとう。元気にしてる?」
「うむ、クオレの村のみんなも元気だぞ。」


母娘のような2人を見て、エッジはいささか複雑な気分になった。自分との結婚が原因で、リディアはクオレと離ればなれになってしまったともとれる状況だったからだ。


「長老、はるばる来ていただいてありがとうございます。」
「いやいや、おやめ下され。おかげさまでわしらは平和に暮らしておるのですから。そうじゃリディア、アリッサが幻獣王夫妻と召喚の契約を交わしおったぞい。」

「アリッサが!?まだミストに来てから1年も経っていないのに。あの子、すごいわね…。」

「召喚士の血を引いておらずとも、訓練次第で召喚士になれる者もおるということじゃな。これからは外部との交流も大事にせよということかもしれんのう…。」
「そうですね…。保守的な村だったけど、ミストも変わるべき時がきたのかしら。」

「リディア、ミストにはクオレもいるから大丈夫だぞ。」
「そうね。クオレも頑張るのよ。」

そう言ってリディアは微笑んだ。2人の会話を聞いていたエッジも微笑む。自分のしてきたことは、リディアのためだけにとどまらず、ミストの住人達全てを救うことにつながったのだから。




賑やかな宴が続いた後、エブラーナ王エッジの挨拶により披露宴はお開きとなった。その後も城下では、国王の結婚を祝福する国民達の歓声が絶えなかった。





出会ってから10数年の時を経て夫婦となったエッジとリディア。皆の祝福を受け、幸せいっぱいの2人の生活はまだ始まったばかり…


―完―続きを読む
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2014
03.22

「ずっと一緒に 」 前編

ついに初投稿です!TAエンディング後のエッジとリディアのストーリー第1弾。性的描写はありません。どうぞお楽しみ下さい(^^)


「ずっと一緒に」 前編






真月での戦いが終わり、再び平和を取り戻した青き星。各国に戻った仲間達は自国の復興に他国の支援、多忙な生活を送っていた。マイナデスによる攻撃や流星による被害は大きかったものの、世界最大の軍事国家バロン、商業国家ダムシアンを中心に着々と世界の復興は進んでいる。


そんな中、いち早く復興を遂げたエブラーナ王国では、今日も家老の声が響く。


「若様!若様の決裁待ちの案件が大量だというのに、どちらへ行かれるのですか!」
「ちょっと修行の旅にな。ちゃんと戻ってくるから心配すんなって。」


そう言って、家老をかわして城を出ようとするエブラーナ王エッジ。


「あぁ、平和になったと思ったら…!またもや若様の放浪癖が…。」


そう嘆く家老であったが、行き先は予想がついているのだ。


「そんなに想っておられるのなら、早くエブラーナにお連れすれば良いではないのですか…。」


城を出ようとしたエッジにつぶやく家老。


「あ?何だって?」

「一国の主ともあろう若様が、かような行為を10年以上も続けるなど嘆かわしい…。最早我ら執政を行う者どもも、国民も反対することはありますまい。何せあのお方は若様と共に2度も我が国を救った恩人でございますゆえ。」

「な、何のことを言ってるんだよ。」


はぐらかそうとするエッジだったが、口布を着けていても分かるぐらい顔を赤らめている。


「まぁ若様がこのままでよいと言うのならば、無理にとは申しませんが。」

そう言って家老は城へと引っ込んで行った。



「そうは言ってもよ…。あいつにはミストがあるじゃねぇか…。」


かつてバロン王国の策略によって焼き払われ、壊滅状態だったミストの村。だが月の大戦後、リディアを始め、各国からの支援を受けて復興が進み、真月の戦いの時には召喚の力を持つ子供達がいたことが判明した。その子供達のおかげで被害はほとんどなく、リディアが真月に赴いている間、召喚の力を持たぬ者たちも協力し合い、村を守った。もはやリディアは最後の召喚士ではない。だからリディアがミストを離れることに大きな問題はないはずなのだが…。


(くそっ…俺は一体どうすりゃいいんだよ…。)



リディアが好きで好きでたまらない。
結婚して一生添い遂げたい。



自分の気持ちは明らかなのに、踏み出せない。リディアは何度もエブラーナに来ており、国民達とも親交がある。彼女もエブラーナを気に入ってるようだ。



"王が夢を見れぬようでは、民は幸せになれませぬーーー"



真月でのヤンの言葉が頭を過る。



何が邪魔しているのか?身分の違い?お互い自分の国でやるべきことがあるから?



(早く行かねぇと、日が暮れちまうな…。)


エッジの足は、ミストへと向かい始めた。


一方、ミストでは…。



今日はエッジが来る日だからと、リディアがエッジに食べてもらう食事を用意していた。




「こないだ来た時、美味しいって言ってもらえたしね。今日のメニューも気に入ってもらえるかな。」

エッジの顔を思い浮かべながら、鼻歌混じりで料理をするリディア。



いつからだろう、エッジに会えると思うと胸が躍るようになったのは。



エッジは口が悪くてお調子者。だけど本当は正義感が強くて心優しく、飾らずにストレートに自分の思いをぶつける。純粋で素直な性格のリディアには、彼のそんな性格が心地いい。一緒に過ごし、エッジが帰る時間になると、寂しくてたまらなくなる。だから真月の戦いの時は、不謹慎ながら彼の側にいれることが嬉しかった。もちろん、それをあからさまにできるリディアではなかったが…。



真月の戦いが終わってからも、エッジはミストに来てくれる。けれどこのままずっと同じ関係が続くのかと思うと、何故か胸が苦しくなるようになった。



リディアも分かっているのだ。自分はもはや最後の召喚士ではない。今は幼いながらも新しい召喚士達がいる。また、エッジのおかげで幻獣王リヴァイアと王妃アスラが幻界とミストを行き来するようになり、村を守るために自分が気を張らねばならぬことはなくなった。母代わりであるアスラからは、これからは1人の人間として、女としての幸せを見つけなさいと言われた。



だけど…。





(私…この気持ちをどうしたらいいのかな。どうやったらこの胸の苦しさから解放されるの?)



「リディア!」
「クオレ。」
「リディア、元気がないではないか。どうしたのだ?」
「ううん、何でもないわ。もうすぐエッジが来るわね。」
「うむ、今日もたくさん遊んでもらうぞ。」


真月から逃げる際、連れ帰ってきたマイナスの幼少体、クオレ。リディアと一緒に暮らしており、エッジが来るといっぱい遊んでもらえるため、彼の事を気に入ってるのだ。






そして数時間後…





「よっ、リディア!」
「エッジ!いらっしゃい。」
「クオレ、元気か?」
「元気だぞ。今日もいっぱい遊んでくれ。」
「あぁ。魔法は勘弁してくれよ?」
「分かっている。」
「リディアも外に出ようぜ。いい天気だ。」
「そうね。行きましょ。」



外に出ると、春の日差しが3人を包み込む。鳥達がさえずり、美しい空が広がっている。リディアの家から少し離れたところに公園のようなスペースがあり、その奥には森があり、格好の遊び場なのだ。



早速エッジとクオレが遊び始める。リディアは近くのベンチに腰掛け、2人の様子を微笑みながら見守る。



(エッジ…大丈夫かしら。仕事の合間を縫ってミストに来て、帰ったらまた仕事あるだろうし…。)






しばらくして、エッジとクオレがリディアのいるベンチのところにやってきた。


「なあリディア、俺もクオレも腹減ったんだけど、何か食わせてくれねーか?」
「うん!ご飯用意してあるよ。家に帰りましょ。」


3人はリディアの家へと向かった。


クオレがリディアに話しかける。
「リディア、さっきあっちの草むらできれいな花を見つけたぞ。」
「そうなの?じゃあお昼ご飯食べたらどこに咲いてるか教えてよ。」
「うむ。エッジがさっき、リディアに似合いそうなきれいな花だと言っていたからな。」
「えっ…。」
「…。」


エッジは少し顔を赤くして、視線をそらした。


(もう、エッジったら…。)





リディアの家で、昼食を取る3人。


「うーん、うまい!」


エッジがそう言うと、リディアは満面の笑みでエッジを見つめる。こうやってエッジに喜んでもらえることが、いつからかリディアの喜びになっていた。この人と一緒になれたら、どんなに幸せだろう。



しかし、こうして自分の元へ来てくれるとはいえ、エッジはエブラーナの王。どこかの貴族や王族の出身でもない自分が、彼の元へ行くことが許されるのだろうか。エッジが身分やしきたりを気にするような人ではないということは分かっていつつ、リディアは年を重ねるにつれて、そういった社会的な柵があるのだということを学んでいた。そしてそれは、本人達の気持ちだけではどうにもならないことがあるということも―――


食事を終えた3人は、再び公園へと向かう。


「ねぇ、エッジ。今日は何時ぐらいまでいられるの?」
「んー、そうだなぁ。」


リディアは勇気を出して切り出す。


「…もし、エッジが大丈夫なら、今夜はうちに泊まっていかない…?」
「え……あ……い、いいのかよ…?」
「うん…。だって最近はこっちに来ても、あんまり話す時間がないし…。」
「…そうだな。」

クオレがミストに来て以来、リディアがエッジと会話する時間はめっきり減った。クオレがエッジとの遊びに満足するころには、エッジがもう帰らねばならぬ時間になってしまうのだ。

「あっ、帰らなきゃならないなら帰ってくれていいの!エッジには王様の仕事あるんだもん…。」
「いや、別にそれは何とでもなるし…。」


嘘である。自分の執務室には決裁待ちの書類が山積みだ。しかし願ってもないリディアからの申し出に、エッジは戸惑いながらも全身が喜びに満たされているのを感じた。



――少しでも一緒にいたい。叶わぬ恋だと分かっているけれど。




公園についた3人は、さっきクオレが言っていた花を見に草むらへと入る。そこには可憐なピンク色の花びらをたたえる花が何輪も咲いていた。


「わぁ、きれいね。」
「リディアはこの花、好きか?」
「うん、好きよ。」
「ならこの花は、家に持って帰るぞ。」
「そうね。玄関に飾りましょう。」
「エッジもエブラーナに持って帰るか?」
「ん?あぁ、そうだな。」


エッジとリディアはクオレが摘んだ花を渡される。エッジは渡された花の中から1輪取り、リディアを見つめる。そして、彼女の緑色の美しい髪にそっと挿す。リディアがきょとんとしていると、


「やっぱり似合うな。」

「もう…、ふふ。」




(エッジ、大好き。)






やがて日が暮れ始め、リディアは夕食の準備をするために、先に家に戻った。
今夜はエッジと共に過ごせる。そう思うと胸が高鳴った。その後に訪れる、別れの寂しさが大きくなると知りつつも。



「ただいまー。」





「おかえり。あれから何して遊んだの?」
「森の中でかくれんぼして、それから…。」


リディアはクオレの話を聞いてやる。


リディアとクオレに血のつながりはない。だがその姿は母親と娘そのもの。エッジはそれを微笑ましく眺める。


「エッジ、ご苦労様。ご飯の前にシャワー浴びる?」
「あぁ、そうさせてもらうよ。悪りぃな。」
「うん、着替え用意しておくね。」

さすがのエッジも疲れたようだ。超人的な身体能力を持つクオレの遊び相手ができるのは、忍者としての鍛錬を受けたエッジだからこそ。並みの人間には不可能だ。


シャワーを浴びて戻ってきたエッジの目の前には、リディアが作った夕食が並んでいた。


「おぉ、こりゃまたうまそうだな!」
「えへへ、いっぱい食べてね。」

3人は談笑しながら食事をした。エブラーナであった出来事や、ミストには数か月前から外部より召喚魔法を学びに来ている者もいて、なかなかの腕前であること、そしてクオレが魔法を使ったがためにあわや大きな山火事が起こりかけたことなど、話題が尽きなかった。



こうしていたら、自分達は本当の家族みたい。こうやって一緒に過ごすことが、こんなにも幸せだなんて。
エッジもリディアも、幸せな気持ちでいっぱいだった。


(ミストは、リディアの大切な場所なんだな。)
(エッジ、王様として頑張ってるんだな。)

2人の心の片隅には、どうしても、素直な想いを止めてしまう何かがあった。そんなものは建前に過ぎないのに。



(後編へ続く)


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