2014
05.18

「忍びの妻」

TA後エジリディSS第10弾です☆結婚して以来、エッジに大事に大事にされているリディア。けれどリディアの本音は…。







「忍びの妻」






冬の気配がだんだん近くなり、朝夕はめっきり冷え込むエブラーナ王国。しかしその寒さの中でも、国王エッジは朝の稽古を欠かさず、日々鍛錬に励んでいた。




そして今日も、エッジは早朝の訓練の後はエブラーナ城から少し離れた所にある、寒さと静寂に包まれた寺院の中の本堂で祭壇に向かい合い、冷え切った床の上に座禅を組み、精神を高めていた。




「…お前ら、別に俺に付き合う必要ねぇんだぞ?」



目を瞑ったまま、エッジは自分の後ろに座る四人に話しかける。


「付き合うとは、おかしなことをおっしゃる。」
「我らは自らの意志で、ここにおりまする。」
「忍びたる者、精神力は欠かせませぬゆえ。」
「いついかなる時でも、強い精神がなければ、自分も他人も守れませぬ。」


エッジ直属の部下であるエブラーナ四人衆・ゲッコウ、ザンゲツ、イザヨイ、ツキノワもまた朝の稽古後、この寺院でエッジと共に精神を高めるために座禅を組んでいた。


「へっ、相変わらず暇な奴らだな。好きにしやがれ…。」

「ありがたき幸せにございます。」


主君への忠誠を誓う四人衆の声が重なる。


うっすら目を開けたエッジの視線は、祭壇の蝋燭に灯る火に向かっていた。




火―――






エッジの身体に染み付いた火の思い出。



10数年前の月の対戦でゴルベーザ四天王のリーダー・ルビカンテに城を襲撃されたエブラーナ。若かった自分は怒りに狂って我を失い、エブラーナの洞窟で単身ルビカンテに戦いを挑み、彼の強力な炎に身を焼かれ、呆気なく敗北した。




死ぬ事など怖くなかった。

復讐を果たせるのならそれで良かった。





あの涙を見るまでは―――







『もうこれ以上死んじゃうのは嫌よぉっ!!』



美しい翡翠色の瞳から零れ落ちる涙。


見ず知らずの自分のために泣く、ふわふわとした緑の髪に、色白で華奢な美しい少女。


全身に大火傷を負い、話すことすら辛い状況の中、みるみる彼女に惹かれていった。


一国の王子という立場柄、それまで女に不自由することなどなかったのに、気付いたら彼女の事しか考えられなくなっていた。




一緒にいたい。
守りたい。
何でもしてやりたい。



だから俺は生きるんだ―――




目を瞑ると、瞼の裏にその愛しい女性の姿が浮かんでくる。






「…!」

「何者だ!?」

部屋の外の微かな気配に気付いた四人衆。


「…怪しいもんじゃねぇよ、戸を開けてやれ。」

「お館様…!?」
「いいから入れてやれ。」


ゲッコウとザンゲツが恐る恐る戸を開けると―――


ついさっきエッジの瞼の裏に浮かんでいた色白で華奢な美しい女性が、柔らかな緑の髪を靡かせながら部屋に入り、最前列に座る夫の元へと歩み寄る。


四人衆は慌てて跪き、彼女に敬礼する。


「エッジ…!」





「…リディア、何しに来た?ここはお前の来るとこじゃねぇぞ。」


目を閉じたまま、微動だにせず妻に問いかける。


「…どうして?」
「ここは忍びが精神統一をする場所だ。お前が来る必要はない。」

「…私はこの国の王妃なのに?」
「…あぁ。」

「私はエッジの奥さんなのに?」
「…。」


エッジが微かに眉をしかめた。この口調は妻が何を言っても聞かないモードになっている証拠だからだ。


リディアはエッジの隣に座った。朝夕はすっかり冷え込む季節になり、暖房設備のない寺院の中では吐く息が白い。今いる部屋の床は夜の間、冷たい空気にさらされていたため輪をかけるように冷たい。床に触れたお尻から、刺すような冷気がリディアの身体に巡る。


「冷たっ…。」
「ったく、このぐらいで弱音吐くようじゃこの先の寒さに耐えられねぇぞ。早く城に帰って身体あっためて来い。」


「…大丈夫だもん。」

唇をへの字に結び、床からの冷気に耐えるリディア。

「普段訓練してねぇ奴がこんなとこにいたら風邪引くぞ。さっさと帰れ。」
「嫌よ。エッジが精神統一終わるまでここにいる。」


どうしても自分の隣にいると言って聞かない妻。エッジはふーとため息をつく。


「あの、奥方様…これをお使い下さいませ。」

ツキノワが部屋の隅に置いてあったふかふかとした座布団をリディアに持ってきた。

「ありがとう、ツキノワ。でも私、エッジと同じようにしたいの。せっかくなのにごめんね。」


それを聞いたエッジの顔が険しくなった。


「何が『エッジと同じようにしたいの』だよ。お前は忍びじゃねぇだろ。」


夫の真顔にビクッとするリディア。

「…何でそんなに怒るの?私は忍びじゃないけど、この国の王妃だもん。エッジについていくのはいけない事なの?」

怯えながらも反発したが、エッジの表情はさらに険しくなった。


「俺の言うことが聞けねぇのか!さっさと城に戻って身体あっためろって言ってんだろ!訓練の邪魔するんじゃねぇ!」


リディアはエッジのあまりの剣幕に思わず涙が出そうになった。


「お、お館様…何もそこまで言わずとも…。」


イザヨイがエッジを宥めようとするが、彼の表情は険しいままだった。


「悪りぃな、お前らの訓練の邪魔しちまって。」
「あ、いえ…。」
「俺はこいつを城に連れて帰る。うちの嫁は言い出したら聞かねぇからな。」
「はっ…。ではお館様、今夜の野外訓練の件は後ほど…。」
「あぁ。」



「え、野外訓練…?」



リディアが不思議そうな顔をしていると、エッジが彼女の腕を掴んだ。


「さぁ、帰るぞリディア。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!野外訓練って何?そんなの聞いてない…」
「いちいち口ごたえすんじゃねぇ!!」


またしても夫に怒鳴られるリディア。いよいよ涙が零れてきた。

「うっ、う…ふぇぇん…。」


エッジは何も言わずにリディアを横抱きし、寺院を後にした。





城に戻る道中、リディアはエッジの胸の中でぐずっていた。冷たい外気に身を震わせていると、エッジは自分のマントでリディアの身体を包み込んだ。

(エッジ…優しいなぁ。)


自分が昨夜、何かエッジの気に障るような事でもしたのかと思っていたが、どうやら違うようだ。いつもは優しい夫なのに、なぜ自分が彼についていこうとするとあんなに怒られるのかが理解できない。



(エッジは私の事には何でも合わせて全部受け入れてくれるのに、どうして…?)




リディアを抱えてエブラーナ城に戻ったエッジ。その姿を見て驚いた家老が駆け寄って来た。

「お、お館様!奥方様がどうかなされたのですか!?」
「大丈夫だよ。こいつが言うこと聞かねぇからこうしてるだけだ。」
「???」


訳が分からないという顔をする家老を尻目に、エッジはリディアを抱えたまま寝室へ向かった。




ベッドの端にリディアを座らせたエッジは上着を脱ぎ、汗のついた稽古着を着替え、リディアの隣に座る。



自分が理解できないことで怒鳴られ、俯いたままエッジの顔を見れないリディア。


ちゅっ。


「!」

頬にキスされ、はっとエッジを見るリディア。するとさっきまであんなに険しい顔をしていた夫は穏やかな表情で自分を見つめていた。


(エッジ…?)


「リディア、ここ座れよ。」

ベッドの上で胡座をかいたエッジはにっこり笑って自分の膝をポンポンと叩いた。


リディアが黙ってそこに座ると、エッジは彼女の腰とお尻を優しくさする。

「ほら、こんなに冷えてるじゃねぇか。」

夫の膝と手から伝わるリディアより少し高めの体温が、寺院の床で冷えてしまったリディアの下半身を温めていく。

「エッジ、気持ちいい…。」

思わずエッジに抱きつき、彼の首の後ろに腕を回す。

「ったく、この甘えん坊が…。」

夫の顔は、実にほっこりとしている。さっきまでの険しい忍びの一族の長ではなく、リディアが大好きなエッジの顔である。

「エッジ~。」

甘えた声を出し、エッジの頬にちゅっとするリディア。

「へへへ…お前はどこまで可愛いんだよ。そんな事したら俺はお前のこと離さねぇぞ?」
「うん…離さないで。ずっとエッジのそばにいさせて?」


「…この野郎~!」


満面の笑みでリディアをギュッと抱きしめて何度も口づけするエッジ。

ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…




嵐のような口づけの後、リディアはエッジをじっと見つめる。

「…ねぇ、エッジ?」
「うん?」

「さっき、どうしてあんなに怒ったの?」
「…。」

「私、そんなにいけない事したの…?」


リディアの問いに、エッジの表情が曇り出す。

「今夜野外訓練するって言ってたけど、そんな話聞いてないよ…。」


エッジは何か考えてる様子である。


「…お前には関係ねぇことだからだよ。」

夫の一言に、リディアはムッとした。

「どうして?」
「…関係ねぇもんはねぇんだよ。」
「関係あるわよ!私、エッジの奥さんだもん!」



エッジはリディアの言いたいことは、寺にいた時から分かっていた。しかし忍びとしての訓練は過酷を極めるし、訓練の準備等も肉体労働が多い。エッジは身体の弱い召喚士であるリディアを守りたいから、どんな形であってもそれに巻き込みたくない。


「そうか、お前は夜間訓練って聞いて、今夜は俺に抱いてもらえないって思ったんだな?大丈夫だって、訓練の前にちゃんと抱いてやるよ。何なら今でも構わねぇぜ~?」


エッジは卑猥な笑みを浮かべてウインクし、リディアの柔らかな緑の髪を撫でた。しかしリディアは澄んだ翡翠色の瞳を潤ませ、可愛い唇をぐっと結び、エッジを見つめていた。




「…すまねぇ、俺が悪かった。」


リディアの真剣な表情を見て、ごまかそうとした自分に嫌気がさし、詫びるしかないエッジ。リディアは忍びの一族の長の妻として、必死に自分に寄り添おうとしているのに。


「別に訓練に参加させてくれって言ってるんじゃないわよ…。」
「…あぁ。」

「…どういう予定なのかぐらい教えてくれたっていいじゃない。それに、準備とか色々あるんでしょう?」


自分の事は何から何まで理解して尊重してくれるエッジ。なのに何故逆に彼を理解し、助けるのはいけないのか。


「…確かに、予定を伝えてなかったのは悪かった。すまねぇ。けどな、訓練の準備は重い武器や道具を訓練場所の山岳地帯まで運んだりするんだ。そんな力仕事、お前には無理だろ?モンスターだっているんだぜ?しかもあの辺は夜すげぇ冷え込むし、風邪引いちまうぞ。だからお前は来んじゃねぇ。」


エッジにそう言われ、リディアは黙って俯いてしまった。


(これで納得するだろ…。)


愛する妻に苦労をかけたくない、辛いことは自分が背負えばいい。それがエッジのリディアに対する愛情だった。


「…私には何もできないの?」


何とかして大好きなエッジの力になりたい。その思いが込められた質問にエッジは精悍な眉を顰め、どうやって説き伏せようかと思案する。





「んー、なら俺が訓練に行く時、見送りを頼む。『お館様、行ってらっしゃいませ』って言ってくれよ。ずっとお前に言って欲しかったんだよ~。」

またしてもヘラヘラとリディアの顔を覗き込むエッジ。








「…分かったわよ。」



俯いたまま、低く小さな声でリディアが返事した。

(やべぇ…逆効果だったか?)


エッジはリディアが怒っているのを感じていたが、ここはもう話を終わらせようと、笑顔でリディアを抱きしめる。

「よしリディア、頼んだぞ?いやぁ、大好きな嫁さんに見送ってもらえて俺は幸せだぜ。」


リディアの背中を優しく撫で、頬にちゅっとするエッジ。リディアはずっと俯いていたため、表情は見えなかったが、ただならぬ気配を醸し出していた。

「さぁ、朝飯食いに行こうぜ?腹減った~。」
「…。」





(これでいいんだ。何かあってからじゃ遅せぇからな…。)




朝食後、エッジとリディアは執務室で仕事を始めた。



「リディア、これを財務担当の奴らの所に持って行ってくれ。」
「…。」



黙って書類を受け取り、執務室から出て行くリディア。彼女の背中からはピリピリとした雰囲気が伝わってきた。


(怖えぇ…勘弁してくれよ…。)



家臣達がちょうど出払っているため、自分とリディアの間の緩衝材になるものが何もなく、怯えながら仕事をするエブラーナ国王だった。




財務担当の家臣に書類を渡したリディアは、城内の通路でイザヨイと数人のくノ一達が手裏剣や忍びの道具を運んでいるのを見かけた。

「ねぇ、イザヨイ!」

リディアは思い切って声をかけた。

「これは奥方様。いかがなされましたか?」

「あなた達、今夜の野外訓練の準備しているのよね?私にも手伝わせてくれない?」

イザヨイは首を横に振る。

「奥方様、それはなりませぬ。これは私共の仕事でございますゆえ。」

「…エッジから私には一切手を出させるなって言われてるのね?」
「…。」


イザヨイ達はただ黙っていた。



(エッジったら…!)










そして、エッジが夜間訓練の場所に向かう時間になった。


「おーい、リディアー?」

(あいつ、どこ行ったんだよ?見送りを頼むって言ったのに…。)

「…お館様。」
「おぅ、じいか。リディア知らねぇか?」
「奥方様は気分がすぐれないと言って、お部屋へ戻られましたが…。」
「あ…そうか。なら仕方ねぇな。」

「お館様、奥方様に訓練の準備ぐらいならお手伝いいただいてもよかったのでは…?」
「あ?…何でじいがそんな事…。」

「奥方様が悲しそうにしておられましたぞ。お館様は自分に何もさせてくれぬと…。」

(リディア…じいに喋ったのかよ…。)

顔を顰めるエッジに、家老は話し続ける。

「お館様の母上様とて、夜間訓練の時は準備を率先して行なっておられたではないですか。それに訓練に参加せずとも、先王様に同行し、怪我人の救護や細かな雑用などを引き受けていらっしゃった…。」
「お袋はお袋、リディアはリディアだ。あいつを危ない目に遭わせるわけにいかねぇ。あの辺は昔と違って、今は夜になると凶暴なモンスターが出るんだからな。」

「…左様でございますか。今はお館様の治世、先代と同じようにはいきませぬか…。」
「そういうこった。さて、俺もそろそろ行ってくらぁ。」
「はっ、お気をつけて…。」


エッジはエブラーナ城を後にした。




そして城の北にある、山岳地帯にある陣地に着くと―――



「お館様、お待ちしておりました。」

先にそこに着いていたエブラーナ四人衆がエッジに跪き、敬礼した。

「ご苦労さん。準備は整ってるのか?」
「はっ。いつでも始められる状態にございます。」

「今日は実戦経験の浅い若手の奴らがメインだ。怪我人も出るだろう。救護も頼むぞ。」

「はい、お館様。」

(ん…?)

聞き覚えのある女性の声。


エッジが振り向くと、そこには―――





緑の長い髪を一つに纏め、女性用の装束を身に付けたリディアが立っていた。



「リディア、お前…!!」


「申し訳ございません!!!」

四人衆の声が同時に響く。

「奥方様がどうしてもとおっしゃるもので…。」

ゲッコウが代表して主君に詫びた。

エッジは大きなため息をつきながら首を垂れる。

「こいつが聞かなかったんだろ?お前らのせいじゃねぇよ。」

それを聞いたリディアは不機嫌そうに腰に手を当てた。

「そうよ、ゲッコウ達は悪くないのよ。だから怒らないであげてよね!」

リディアの一言にエッジの眉がピクリと動いた。

「偉そうな口聞くんじゃねぇ!来るなって言っただろうが!!さっさと城に帰れ!!」

夫の上から目線な言葉に、リディアはカチンときた。

「私だって救護ぐらいできるもん!!ポーションや毒消しの用意ぐらいできるわよ!!力仕事しかないなんて嘘ばっかり!!」

痛いところを突かれたエッジだったが、すぐさま切り返す。

「今日は経験の浅い若手の奴らが多くて手裏剣や飛び道具のコントロールも俺やこいつら四人衆みたいに正確じゃねぇんだぞ!お前は自分のとこに手裏剣飛んで来ても避けれるのかよ!?」
「魔法使って止められるわよ!!何度も一緒に戦ってきたのに何で今更そんなに心配されなきゃなんないの!?」

「この辺はバロンやミストよりもずっと凶暴なモンスターが出るぞ?俺達は訓練の間、もしお前が襲われても助けてやれねぇぞ?城に帰るんなら今のうちだぜ?」
「黒魔法も召喚魔法も使えるし、何とでもなるわよ!!」

「じゃあこんな寒いとこにいて、風邪引いても知らねぇぞ?俺は忙しいからお前の看病なんてしてらんねぇからな!!」
「大丈夫だもん、しっかり着込んで来てるからあったかいもん!!」

何を言っても言い返してくるリディアに、エッジは大きなため息をついた。

「ったく、この頑固女が…。勝手にしろ!!」
「言われなくてもそうするわよ。」


リディアの一言にまたカチンときたエッジだったが、部下達の手前、ぐっと抑え込んだ。


「あの、お館様…訓練を開始してもよろしいでしょうか…?」

ゲッコウの一言に、エッジはハッとした。

「ん?あぁ、悪りぃ。よし、始めるか。」
「はっ、では…。皆の者、集まれ!」


ゲッコウの合図で、訓練に参加する忍び達がエッジ達の前に集まった。

「皆の者、今宵の訓練はそなた達の強い要望に応え、お館様にも御参加頂く!貴重な機会であるゆえ、心して臨むのだぞ!!」

「ははーっ!!」


全員がエッジに向けて敬礼するのを見て、思わずリディアの背筋はピンと伸びた。


(エッジ…本当に皆から慕われているのね…。)


エッジの隣に立つリディアは、ただうっとりと彼を見つめた。出会った頃は王子らしからぬ口の悪さやいい加減な行動が目について仕方なかったのに、今やすっかり威厳のある国王なのだから。自分の前では今でもスケベなお調子者だが、結婚して以来、こういうギャップを見るたびにリディアはドキドキしてしまう。


「では全員配置につけ!!」


エッジの合図で集まった忍び達が目にも留まらぬ速さで散り散りになった。


「ツキノワ、頼む。」
「はい!」


ツキノワが笛を吹き、モンスターを呼び寄せる音色を響かせた。
その音に反応し、周りの木々からざわざわという音とともにモンスター達の気配が漂ってきた。


緊迫した空気がエッジ達を包み込む。



エッジは目を閉じ、耳を澄ませてモンスター達の気配を感じ取る。


「来るぞ!」


エッジの声と共に、モンスター達が一気に忍び達に襲い掛かった。


「放てー!!」


後方に構える忍び達から手裏剣、弓矢、くないがモンスター達に向かって放たれた。同時に接近戦を得意とする者達が刀を手にモンスター達に切りかかる。明かりがないとほとんど見えない暗闇の中、若手と言えど五感を鍛えられた忍び達は襲い掛かるモンスター達に応戦する。


「ギャオオオオオッ!!」


耳を劈くようなモンスターの断末魔の叫びが響き渡る。

「よし、仕留めたぞ!」

数人の若い忍び達が歓喜の声を上げた。

「!」

エッジは彼らを背後から襲おうとしていた別のモンスターに、素早く愛用の刀を抜いて飛び掛かり、一瞬にして切り裂いた。

「お、お館様!」
「さ、さすがでございます…!」
「お前ら、油断すんじゃねぇ!!俺を煽ててる暇があるんなら神経を集中させろ!まだモンスターは全滅してねぇぞ!!」
「は、ははっ!!」
「来るぞ!構えろ!」


若手と共に、次々と襲ってくるモンスターに応戦するエッジ。


「エッジ…すごいなぁ。」


夫の姿を陣地から眺め、惚れ惚れとしてしまうリディア。


「これは奥方様、お館様に惚れ直していらっしゃるのでは?」

リディアの言葉を聞いていたザンゲツが微笑みながら話しかける。

「えっ…あ、うん。ねぇ、この夜間訓練って、最近始まったのかしら?今まで聞いたことなかったんだけど…。」
「いえいえ、これは昔からずっとやっておりますぞ。」
「そうなのね…。エッジはあんまり自分の仕事とか、大変なことは私に全然話してくれなくって。」
「最近は我ら4人が中心になって行っておりましたゆえ、お館様が参加されるのはかなり久しぶりなのです。何かと理由をつけて参加なさらなかったのですが、奥方様との時間を大事にしたかったのでしょうな。」

笑顔でザンゲツにそう言われ、リディアは思わず頬を赤らめた。

「もう、エッジったら…。そういえばさっきゲッコウが言ってたけど、若い子たちがエッジに訓練に参加して欲しいって言ってたのよね?」
「はい。真月の戦い以降、お館様の活躍に憧れて兵士を志願する者が増えましてな。当初はお館様にご指導いただくにはまだ早すぎると言って我らで対応していたのですが、そろそろ実力も伴ってきたということでお館様に頼み込んだのでございます。最初お館様は自分はそれほどの者ではないとご謙遜なさっていたのですが、ついに若手どもに押し切られたご様子で…。」


そんな事が自分の知らないところで起こっていたなんて。エッジの事を何も知らずにいた自分が恥ずかしくなるリディア。




「エッジはどうして私にそういう事を話してくれないのかしら…。」


部下たちの前で、思わず本音をこぼすリディア。


「…分かりかねる部分はありますが、お館様は奥方様に余計な心配をかけたくないのでしょう。今日のことにしても、夜間の危険な場所での訓練ですゆえ。」
「それはそうだけど…。準備も何もさせてくれなくて。」

表情を曇らせるリディアに、ツキノワが話しかける。

「僕たちにはあんなに厳しいお館様でも、奥方様のこととなると途端に弱くなりますからねぇ。こないだなんか…」
「…お前ら、何を話している。」

ツキノワが何かを言おうとしたその時、しかめっ面のエッジがリディア達のいる場所に戻ってきていた。

「わっ、お館様!」
「おぉ、これはお館様!奥方様がお館様に惚れ直したと仰せですぞ。」

ザンゲツの言葉で、エッジの頬が何となく赤らむ。

「く、くだらねぇこと言ってねぇで訓練中の奴らを監督してやれ!お前らが無駄話してっから俺が動かなきゃなんねーんだぞ!」
「こ、これは申し訳ございません!」

そう言ってザンゲツとツキノワは飛び上がり、訓練場所を見渡せる高い木の上へと姿を消した。

「ったく、どいつもこいつも…。」

(ふふ…エッジ。)



エッジは赤らんだ頬をリディアに見られまいと、彼女に背を向けた。その姿を見たリディアは、笑みをこぼしながら思わずエッジの近くに歩み寄る。


リディアが陣地の松明に照らされたエッジの顔をよく見ると、彼は額やこめかみに汗をかいていた。

(エッジ…大丈夫かしら?)

リディアは持っていた柔らかい布でエッジの汗を拭ってやった。

「あぁ、すまねぇ…。」

エッジは目を閉じ、耳を澄ませる。周りのわずかな音に全神経を集中させ、危険にさらされている者がいないか気を張り巡らせているのだ。訓練とはいえ、モンスター達が相手であるから死傷者が出る可能性は十分にある。忍びの一族の長として、ここにいる者達全ての命を預かる責任を果たさねばならぬのだ。

「!」

エッジは遠くから聞こえるかすかな悲鳴を聞き、すぐさま木の上へ飛び上がる。場所を確認すると、木々の間を素早く飛び渡ってそこへと向かった。


「エッジ…!」








「うわぁぁぁぁっ!!」

強力なモンスターを前に、若手の忍び達が次々と倒れていく。近くにいたゲッコウとイザヨイが加勢していたが苦戦していたため、ザンゲツとツキノワも加勢する。

「くそっ…なぜここにグリーンドラゴンが…!」

ゲッコウがここには生息していないはずの強力なモンスターの存在に疑問を投げかける。

「そんな事を言っている場合ではないぞ!早く仕留めねば!」

イザヨイが素早い動きでグリードラゴンの注意を引き、ザンゲツが大凧に乗り、空中からジャンプ攻撃をする。

「放てーー!」

ツキノワの合図で他の忍び達が一斉にグリーンドラゴンに手裏剣を投げる。


「グギャァァァ!!」


攻撃を食らったグリーンドラゴンが悲痛な叫びを上げた。

「やったか…?」

目を閉じ、動きが大人しくなったグリーンドラゴンを見たゲッコウが呟いた。


訪れた静寂の中、皆が胸を撫で下ろしていると―――



「まだだ!構えろ!」


駆け付けたエッジの声が響くと同時にグリーンドラゴンが目を開け、強力な稲妻を落としてきた。

「ぐぁぁぁぁっ!!!」

稲妻を食らった忍び達が力なく倒れてゆく。

「くそっ、このままじゃ全員やられちまう…!イザヨイ!怪我人の救護を頼む!」
「はっ!」

エッジが加勢し、グリーンドラゴンに斬りかかった。かつてバブイルの塔で苦戦を強いられたモンスターであるため、一瞬の油断も許されない。


回復の術を使えるイザヨイが負傷者の救護にあたっていると、強力なモンスターの気配を感じたリディアがそこにやって来た。


「奥方様!!」
「イザヨイ!私も救護を手伝うわ!」

リディアは持ってきたハイポーションを使って怪我人の救護を始めた。


「ねぇ、イザヨイ…。」
「はい?」
「夜間訓練って、いつもこんなに激しいの…?」
「いえ…普段はもっと穏やかです。今夜は何故かあのグリーンドラゴンが現れたもので…。」


かつてバブイルの塔でエッジと共にグリーンドラゴンと戦ったことのあるリディアは、その恐ろしさを知っていた。


エッジの投げた手裏剣はグリーンドラゴンの背中に命中した。痛みで素早さが半減したところを目掛けて、エッジは単身至近距離から何度もグリーンドラゴンの急所目掛けて斬りかかり、その近くに刀を突き刺すことに成功した。しかし痛みに我を失ったモンスターの鋭利な爪で反撃を喰らい、エッジは胸から腹にかけて深い傷を追い、巨大な尻尾で叩き飛ばされた。

「ぬがぁぁぁっ!!」
「エッジ!!」


リディアはグリーンドラゴンに向けてフレアの詠唱を始めた。

「リディア、手を出すんじゃねぇ!!」

傷を負いつつも再びモンスターに飛びかかり、刀を振りかざすエッジの声で、リディアは詠唱を止めた。

「ど、どうして…!?」
「これは訓練だぞ!お前が仕留めちまったら、こいつらのためにならねぇだろうが!!」
「で、でも…!!」

「奥方様、お館様のおっしゃる通りです。どうかここは堪えて救護に専念して下さいませ。」

イザヨイが頭を下げた。


「…分かったわ。」

リディアは気が気でないまま、再び救護活動を始めた。

(エッジ…死んじゃいや…!!!)



救護を受け、回復した忍び達は、次第に反撃を始めていった。彼らの刀が強靭なグリーンドラゴンの皮膚を切り裂いていき、そこに投げた手裏剣やくないが確実に深手となり、モンスターの苦しみの声が響き渡る。


「皆の者、もう少しだ!堪えよ!」

ゲッコウの声が響き、忍び達の士気を高める。エッジは自分の傷を庇いながらもう一本の刀でグリーンドラゴンに立ち向かった。





「喰らえーっ!!」

若手の忍びが空中からグリーンドラゴンの首に向かってくないを投げた。


しかしそれは命中せず、グリーンドラゴンの脇をすり抜け、救護活動中のリディアの方向へと向かっていく。


「奥方様!!」


イザヨイがリディアに呼びかけるが、リディアが気付いた時にはもう逃げられないところまでくないが飛んで来ていた。


(あぁっ、もうダメ…!!!)




目を強く瞑り、激痛を覚悟した。








ドスッ…








(…?あれ、痛くない…?)



くないが刺さる音がしたのに、と不思議に思いながらリディアが思わず瞑った目を開けると…




「くっ…!」






リディアの目に映ったのは、自分を庇い、肩にくないが刺さったエッジだった。



「いやぁぁぁぁっ、エッジ!!!」
「リディア…大…丈夫か…?」



精悍な顔を歪めながらリディアを見つめるエッジ。


エッジが肩に刺さったくないを抜くと、そこからは血がどくどくと流れ出した。先程の傷のダメージもあり、エッジはその場に倒れこんだ。


「お館様!」


イザヨイが駆け寄り、回復の術の詠唱を始めた。

「イザヨイ、俺は大丈夫だ…早くあのグリーンドラゴンを仕留めろ!でないと皆やられちまうぞ…。」
「し、しかし…!」
「こいつが持ってるハイポーションがあるから心配すんな…。」


リディアはハッと我に返り、持ってきた袋の中を探る。

「あぁ、もうハイポーションがない…。エッジ、待ってて!確かすぐそこに予備のハイポーションが置いてあったはずだから取ってくるわ!」


リディアは立ち上がり、自分の数メートル斜め後ろにある木を目指して走り出した。するとイザヨイがハッとする。


「奥方様、お待ち下さい!!その辺りには訓練用の落とし穴が…!!!」



「えっ…!?」



リディアが返事した時はすでに彼女の足元は崩れていた。身体が宙に浮き、あっという間に暗闇に包まれていく。


「きゃああああーーーーっ!!」
「奥方様ーーーー!!!」























瞼越しに、柔らかな光を感じた。





(あれ、何でこんなに明るいの…?)



ゆっくりと目を開けると、もう朝だった。エッジがリディアの顔を覗き込んでいる。


「リディア…!」
「奥方様、気が付かれましたか!」

リディアが見渡すと、そこは寝室で、家老と四人衆、数人の若手の忍びの姿も見えた。



「あれ…私…?」

「申し訳ございません!!私が奥方様に落とし穴の場所をお伝えしていなかったばかりに…!!」
「私こそ、自分の未熟さが原因でお館様にお怪我を負わせ、奥方様をこのような目に合わせてしまい、お詫びの言葉もございません!!」


イザヨイとくないを投げた若手の忍びがリディアに頭を下げて詫びる。




「…リディア、覚えてるか?俺にハイポーションを取ってこようとしてお前は落とし穴に落ちて気を失ってたんだ。」


エッジに言われて思い出し、起き上がって彼の腕を掴むリディア。

「エッジ、怪我は大丈夫なの!?」
「…俺は大丈夫だ。イザヨイが治療してくれたからな。」


「おかげさまでグリーンドラゴンを仕留めることができましたよ。奥方様の救護、心より御礼申し上げます。」

若手の忍び達がリディアに礼を言うと、エッジが顔を顰めた。


「礼には及ばねぇ。こいつは俺の言うことを聞かずに勝手について来て、勝手に落とし穴に落ちてお前らに迷惑かけたんだからな。」


エッジの言葉に、リディアはビクッとして身体から血の気が引くような感覚に襲われた。


「お、お館様!そのような言い方、ひどすぎでは…!」
「そうですよ!奥方様がいらっしゃらなかったら救護の手が回らなかったのですよ!」

ゲッコウとツキノワが宥めようとするが、エッジの顔はますます険しくなった。



次の瞬間、パンッという音と共に、リディアの頬に痛みが走った。



「痛っ…!」
「お、お館様!!」


「…こいつはこれぐらいしねぇと分からねぇんだ!」


王妃に対する国王の叱責に、その場にいた全員が凍り付いた。



「イザヨイ。」
「…はっ!」
「戦いながらの救護、ご苦労だった。次回も大変だろうが、よろしく頼むぞ。」
「…身に余る光栄にございます。」

「グレン。」
「ははっ!」
「俺に詫びる暇があったら訓練しろ。正確に敵を仕留められるようになることが俺の怪我への償いだと思え。」
「も、もったいなきお言葉…!!」


「ゲッコウ、ザンゲツ、ツキノワ、お前達もご苦労だった。お前らもそこにいる奴らも昨夜は寝てねぇんだから、今日は休息しろ。」

「しかしお館様とて昨夜は一睡もしておられませぬ。我らだけ休息するなど…。」
「俺は大丈夫だ。これからこいつを説教しねぇといけねぇからな。」


ゲッコウの言葉に対して、エッジはそう言いながら険しい表情でリディアをの腕を掴んだまま、彼女をチラリと見た。

「お、お館様…何卒奥方様にはご温情を…。」

リディアの本音を聞いていたザンゲツが精一杯エッジに訴えかけた。


「…ご苦労だった、下がってくれ。」


エッジがそう言うと、家老が目配せをし、全員寝室を出た。





「さて…。」



エッジはリディアを睨みながら口布を下ろした。彼の震える拳を見たリディアは、どんな叱責を受けるのかと身を竦めながらビクビクとしている。



「…お前は勝手な事して皆に迷惑かけやがって…!!!」



いつもより低いエッジの声がリディアの耳に響き、堪えていた涙が翡翠色の瞳からこぼれ出した。すると次の瞬間―――



「エッジ…?」



リディアの身体はふわりとエッジの体温に包まれていた。

「お前は何で人のことばっかり気にして、自分の心配できねぇんだよ…!?」

リディアを抱きしめながら耳元でそう言うエッジの声は震えていた。


自然とリディアの腕が、エッジの背中に回る。





「エッジ……ごめんなさい。でも私、どうしてもエッジの力になりたくって…。」
「そんな気遣いいらねぇんだよ!お前は何も心配しなくていいんだ!そんなことよりお前に何かあったら、俺は…」


「私だって…!私だってエッジに何かあったら嫌よ!もう1人で危険なこと背負っちゃ嫌って言ったじゃない!なのに昨日、エッジはまた1人で無茶なことして怪我したじゃない…。」

そう言ってリディアはエッジの胸とお腹に手をそっと当てる。



「…俺がああしなきゃ、あの場にいた全員生きて帰って来れなかったかもしんねぇぞ?」
「…。」

「それに、お前が来てなかったら俺は肩に怪我を負うことはなかったんだぞ?何かあっても自分でどうにかするって言っておいて、できなかったじゃねぇか。」
「なっ…!」


何て意地の悪い一言だろう、間違いなくリディアは心を痛めるだろうに。エッジはそう思いつつもリディアを説き伏せるため、敢えて口にした。




紛れもない事実に、俯くリディア。






「…どうして?」
「え?」
「エッジは私のこと理解して何でも合わせてくれるのに、どうして逆はいけないの?」
「…。」

「エッジのこと、もっとちゃんと知りたいよ…。」
「…お前はもう俺の事、十分知ってるじゃねぇか。」
「知らないもん!昨日私の知らないエッジがいっぱいだったもん!少しぐらいエッジが背負ってるもの、私に分けてよ!」



リディアの言い方は感情的で、棘があった。だがエッジは心の中の一国を背負う者として避けられない重苦しさが消えていくような気がした。今やもう自分は独り身ではなく、自分を心配し、苦楽を共にしようとしてくれる愛しい妻がいるのだから。



「…私、そんなにエッジの奥さんとして頼りないの?」
「よく言うぜ。俺の事ばっちり尻に敷いてるくせによ…。」
「じゃあどうしてなのよ!!」



やり切れない思いと共に、リディアの翡翠色の瞳から一旦止まっていた涙が再び溢れ出す。




"もうこれ以上死んじゃうのは嫌よぉっ!!"



リディアの涙が、初めて出会ったあの時のことをエッジに思い出させる。



こいつのためなら、何でもしてやりたい。


望むようにさせてやりたい。









(そうか…簡単なことじゃねぇか。)











「…っとに、お前は何を言っても聞かねぇんだな。」
「何よ…。」


エッジは大きく息をつく。

「…ツキノワの言ってた通り、お前がいなかったら救護の手は回らなかった。それにお前が俺の汗を拭いてくれた時、すげぇ嬉しかった。もう俺にはこうしてそばにいてくれる嫁さんがいるんだからな。」

「…うん。」

「ありがとな、リディア。」

急にエッジに感謝され、リディアが照れ臭くなって視線を逸らすと、エッジは彼女の両肩をそっと掴む。


「…次回の訓練の時は、準備するの手伝ってくれるか?」



その言葉と一緒に、肩から伝わってくるエッジの体温がリディアの胸のやきもきした気持ちを晴らしてゆく。



「エッジ…。うん!!」


満面の笑みを浮かべるリディアを見て、エッジは穏やかな表情を浮かべて頷いた。




「ただし、だ。」

リディアは急に真顔になったエッジにビクッとする。




「訓練の場所には来るんじゃねぇ。城の出口で俺を見送ってくれ。」






しばしの静寂。





リディアの表情は、明らかに何か考えている様子。エッジはリディアがどう反応するかとドキドキしながら彼女を見つめていると…






「…はい。」



リディアの身体が、再びエッジの体温にふんわりと包まれる。

「ありがとな、リディア。」

リディアの頬にちゅっとするエッジ。

「…エッジのバカ。」
「ちゃんとお前の意思を汲んでやったんだぞ~?感謝しろよ?」
「何よ、こっちだってエッジに怪我させちゃったし妥協したんだからね!」
「…っとに口の減らねぇ奴だな。」



リディアの顔を見ると、不満げながらも明らかに先程よりかは落ち着いた表情。




「リディア…俺はお前が俺のことを気にかけてくれるだけで幸せなんだぜ?これ以上のもんをもらったら、俺バチが当たっちまうよ…。」
「…何言ってるのよ。私が訓練の場所にいないからって、無謀な事するんじゃないわよ?」


厳しい一言に、苦笑するエッジ。

(俺、完全に尻に敷かれてんなぁ…。)



こうやって素直に相手への気持ちを伝えれば、ぶつかることもなかっただろうに。リディアを大事に想っていたとはいえ、高圧的になってしまった自分は幼かったかと思うエッジだった。



「エッジ。」
「ん?」
「私、すごく嬉しいの…。」
「…そうか。」


「これで少しはエッジの奥さんらしくなれるかな?」



自分のために何かしたいと必死になってくれたリディアの言葉に、エッジは照れ臭くなる。


「お前は最初から俺の嫁さんだってーの。」


エッジが目を少し逸らしてそう言うと、リディアの唇がエッジのものと重なった。

「!!」
「ありがとう、エッジ…。」
「ん…ありがとな、リディア。」


エッジは自分の胸に顔を埋めてきたリディアをぎゅっと抱きしめた。




何かあったら、一緒に乗り越えて行くのが夫婦。辛いことは全部自分が背負えばいいと思っていたエッジだったが、その言葉の意味が、何となく分かったような気がした。




エッジの思惑を感じ取ったのか、リディアが顔を上げてにっこりと微笑んだ。


(くそ~、こいつはマジで小悪魔だぜ…。)


普段は冷静さと闘志を併せ持つ忍びの長も、ベタ惚れの妻には敵わない。


そしてふと、エッジは自分の身体が汗で汚れ切っていることを思い出した。

「リディア、俺は風呂に入ってくらぁ。昨日入ってねぇからな。」

「あ…私もお風呂入ってないや。」
「ん…あぁそうか。ならお前は先に入って来いよ。俺は後から入るからよ。」


それを聞いたリディアは、何やらもじもじしだした。


「…あの、エッジ。」
「あ?」

「よかったら…」


















「む、あれは…!」

ザンゲツの声で、ゲッコウ、イザヨイ、ツキノワが振り向く。

「どうした?」
「あれを…!」

エブラーナ四人衆の視線の先には…





「お館様と奥方様が…!」

「何だかんだ言って、2人は仲良しですねぇ~。」




四人衆に見られているとはつゆ知らず、2人仲良く地下にある王族用の風呂に向かうエッジとリディアだった。







「リディア…入るか?」
「うん…。」


服を脱いだ2人は、寄り添いながら湯気の中へと歩いて行った。





喧嘩して、危険な野外訓練を終えてまた喧嘩して絆を深めた2人の疲れを癒したのは、甘い甘~い朝のバスタイム…。




―完―

トラックバックURL
http://al0908.blog.fc2.com/tb.php/22-ef4cfbb7
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top
web拍手 by FC2