2014
06.26

「Hydrangeas at Dusk」

最近ちょっとバタバタとしていたんですが、何とか出来上がりました!!今月の季節ものエジリディです♡



「Hydrangeas at Dusk」





6月のエブラーナは梅雨入りし、雨の降る日が続いていた。雨のおかげで先月までの暑さは和らいでいるものの、この島国ならではの雨季という自然現象の中、エブラーナ城外に出て気分転換もあまりすることができず、リディアは執務室の窓から外を眺めては小さくため息をついていた。

(エッジ…きっとびしょ濡れで帰って来るだろうな。)

夫は今朝からこの国の食生活を支える米農家達の元を訪れている。以前梅雨にあまり雨が降らなかったがために米が育たず、食生活にも税収にも多大な影響が出て王族も国民も皆苦しい生活を強いられたことがあり、それ以来エッジはこの時期になると彼らの元を訪ねて生育状況を確認したり、労いの言葉をかけに行くのが習慣となっていた。

国王でありながらそのフットワークの軽さで一般国民との関わりを大事にするエッジ。エブラーナがどんなに栄えようともその伝統は失いたくない、いつだったか夫がそう言っていたことを思い出す。リディアはエッジのそんな情に厚いところが大好きだった。




数時間後…




夕方近くになり、雨は上がっていた。雨に濡れて帰ってくるであろう夫のために寝室で着替えとタオルを用意していると、ドアが開く音がした。


「ふ~、何で城近くまで帰ってきた時に雨が上がるんだか。」
「エッジ!お帰りなさい。」

用意していたタオルをびしょ濡れの夫に渡すリディア。

「おぅ、ただいま。ありがとな。」

渡されたタオルでゴシゴシと頭を拭いていると、リディアが着替えを差し出してきた。

「はい、着替え用意しておいたわよ。」
「そうか…ありがとな。気の利く嫁さんをもつと幸せだな~。」

エッジは着ていたびしょ濡れの服をあっという間に脱ぎ、下着姿になったため、リディアは思わず目を逸らす。

「ちょっ…何で一気に脱ぐのよっ!」
「あ?お前が着替え渡したからじゃねぇか。」

リディアが恥ずかしそうにする姿が可愛くて、エッジの中に悪戯心が湧いてくる。

「ほらほら、パンツ一丁マンがやって来たぞ~。」
「いやっ…!早く服着てよっ!!」

下着姿でニヤニヤしながらリディアに近付くエッジ。夫の悪戯に目を背けていると、何やらごそごそと布が擦れる音がした。服を着たのかと視線を戻すと…

「ハッハッハ、全裸マンにクラスチェーンジ!!」
「もうっ、エッジのバカッ!!!」

堂々と腰に手を当てた全裸のエッジに目を向けていられず、真っ赤な顔のリディアは背を向けた。

「リディア、こっち見ろよ~。」
「いやっ!!」

背を向けたままのリディアが可愛くてますます悪戯心が高ぶり、背後から抱きついた。普段は威厳のある国王のエッジだが、リディアが相手となるとすっかりリラックスしてエロ忍者ぶりか遺憾無く発揮される。

「つかまえたぞ~、ぐふふふふ。」
「もうっ、離してっ!早く服着てよっ!!」
「そんな嫌がるなよ~。雨も上がったことだし、デートに誘ってやろうと思ってたのによ。」
「へ…?」

リディアがエッジの方を向くと、優しい笑顔。

「紫陽花見に行かねぇか?たくさん咲いてる場所があるんだ。」
「そ、そうなの…?」
「おぅ。こっから歩いて行ける距離にあるからよ、どうかと思ったんだ。」

思いがけない誘いに、リディアの胸が高鳴った。雨も上がったことだし、外出するにはいいタイミングである。

「うん…行きたい。」
「そうか、なら今から行こうぜ!」

エッジは満面の笑みだが、何やらリディアが俯いている。

「リディア?」
「…行くから、早く服着てよ…。」
「もう着ていいのか?ほら、後悔しないようにしっかり見ておけよ。」
「バカッ!!!」






*****





「お、すっかり晴れたなぁ。」

服を着たエッジはリディアと手をつなぎ、エブラーナ城の門に続く屋外の通路から日が傾きつつある空を眺めていた。

「ふふ、雨上がりって、何か清々しいわね。」

雨でどんよりとしていた空気も夕暮れ近い太陽の光で澄み渡り、城壁から滴る雨水の雫はそれを反射してキラキラと光っていた。雨が降っている間は気分がどんよりするものの、晴れた時の爽やかさを感じると雨も悪くないものだ。





城から雨に濡れた道を歩いていくと、立派な寺の門が見えてきた。

「ここだぜ。毎年すげぇたくさんの紫陽花が咲くから皆ここに来るんだ。」

エッジの言う通り、2人の周りには雨上がりを見計らってやってきた多くのエブラーナ国民達。エッジがリディアの手を引いて門をくぐり、坂道を登って本堂の近くまで来た2人の眼下には、見渡す限りの紫陽花園だった。

「わぁ…すごい!たくさん咲いてるわね!」
「だろ?梅雨の時期はお前をエブラーナに連れてきたことなかったし、今年は絶対連れていってやろうと思ってたんだぞ?」
「そうかぁ、そうだったよね…。」

雨がひどいとエブラーナ上空を飛空挺で飛ぶのは危険な上、エッジの仕事の都合と天気のいい日はそうそううまく合致するものではなかったため、梅雨の時期はいつもエッジの方からリディアに会いに行くのがお決まりだった。


「エッジはいつも『この時期はエブラーナじゃ雨が多くて飛空挺乗るのは危ないから俺がここに来る!』って言って、ミストに来てくれてたよね…。」
「そうだぞ?俺がどんだけお前のために気を遣ったと思ってんだ。」
「うん…ごめんね。」

リディアはエッジの腕にきゅっとつかまって身を寄せ、長い間甘えさせてくれた夫への想いに瞳を潤ませながら上目遣いで彼を見つめた。

「…そんな顔すんじゃねぇよ。」
「だって…。」

見つめ合う2人の頬はほんのり赤らみ、エッジの指がリディアの色白の滑らかな頬をそっとなぞった。そのままゆっくりと唇同士の距離が縮まっていくと―――




「きゃー!お館様とリディア様がチューしようとしてるー!!!」

現場を見ていた幼い少女の声で、紫陽花を見に来ている国民達が自分達に注目していることに気付いたエブラーナ国王夫妻の顔は真っ赤だった。

「こらっ!大声出すんじゃありません!…お館様、リディア様、お邪魔しちゃってすいません、ほほほほ…。」

母親がさぁ続きをどうぞと言わんばかりの態度で少女の手を引いていった。国民達はエッジとリディアが熱々なのを知っているため、2人が仲良くしているのを微笑ましく見守っていたが、さすがに恥ずかしくて身体を離して気まずそうにする。

「あー…悪りぃ、リディア。」
「う、ううん…私こそ…。」

少しの間身体を離していたが、2人の手は徐々に近付き、自然に指と指が触れ合い、ゆっくりと絡み合う。

「んじゃ…行こうか?」
「うん…。」

しっかりと手を繋いだ2人は石段を下り、紫陽花園に足を踏み入れた。

「…きれいね。」
「おぅ、きれいだな。…けどよ、よく考えたらミストにも紫陽花咲いてたし、お前にしたらそんなに目新しくはねぇかもな。」

何と無く決まりが悪そうな表情のエッジは頭を掻いていたが、リディアは満面の笑みだった。

「ううん。ミストにも紫陽花は咲いてたけど、ピンクや紫っぽいのがほとんどだったから、こんなにたくさんの青い紫陽花見るの初めてよ?」
「あ、そうだっけ?なら良かった。」

この花のような可愛らしい笑顔が自分を虜にしているのを、理解していない様子がエッジにはまた愛らしい。

(くそ~、ドキドキさせやがって…。)

自然とリディアの手を握る力が強くなり、透き通るような翡翠色の瞳が不思議そうにこちらを見つめてくる。

「エッジ…そんなに強く握らないで。ちょっと痛い…。」
「…お前が悪いんじゃねぇか。」

リディアはエッジの言っている意味が分からず、怪訝な顔をするが、その顔がまた愛らしい。

「お前は本当に反則ばっかだな。」
「…何が反則なのよ?」

はぁ、と溜息をつきながら呆れた顔でリディアを見ると彼女はますます意味が分からず、何となく不機嫌な表情である。

「私…何か悪い事した?」
「いや、何も。」
「…意味分かんない。」

顔を背けて少し頬を膨らませるその姿は、エッジのお気に入りの表情。指でそっとその色白の頬をつつくと、リディアはピクッと反応して大きな目をぱちぱちとさせながら夫を見つめる。

「…やっぱりお前は卑怯な女だよな。そんな可愛いことして、俺がどんなにドキドキしてるのか分かってんのか?」
「そんなの、分かんないわよ…それより紫陽花見ましょうよ。」

深い色の目にじっと見つめられたリディアは恥ずかしくて思わず顔を背け、紫陽花に視線を移す。
エッジはやれやれといった表情で妻の手を握っていた力を緩めた。



2人を囲む雨上がりの紫陽花は雨水の雫に濡れ、活き活きと咲いていた。白から橙色に変わりつつある太陽の光がその雫をキラキラとさせ、見る者の目を惹きつける。青色の紫陽花は緑の葉との組み合わせが何とも涼し気で、自分の故郷ではあまり見かけないその色彩の美しさにリディアはすっかり見入っていた。

「何か心が落ち着く色合いね。ピンクや紫もいいけど、青の紫陽花って爽やかだわ。」
「だろ?紫陽花といえば青なんだ。雨が多くてじっとりする季節はこういう爽やかな色を見て楽しまねぇとな。」

自国ならではの美を誇らし気に語る夫。そうね、と頷きながら話を聞いてやるリディアの顔はニコニコしている。


「お館様、リディア様、本日はお足元の悪い中をかような場所まで足を運んでいただいてありがとうございます。」

紫陽花を見ている2人の元に、寺の住職が挨拶にやってきた。

「よう、今年も大人気じゃねぇか。」
「えぇ、お陰様で。そういえばお館様、ハート型に咲く紫陽花はもう見つけられましたかな?」
「ハート型?そんな紫陽花あんのかよ?」
「はい。何年も前に咲いているのが見つかって以来、それを見つけたカップルはずっと仲良しでいられるという言い伝えができたんですよ。」
「そうなの?見つけたいな…。」

話を聞いていたリディアの目が輝き出し、エッジをじっと見つめた。

「ったく、女はすぐそういうのに乗るよなぁ。んなもん見つけなくったって、俺はお前一筋だってのによ。」
「いいじゃない!そういうのも楽しみたいの!ねぇ、どの辺りに咲いてるの?」
「はっはっは、それは秘密にございます。どうぞお館様とご一緒に見つけて下さいませ。」

住職は笑顔でそう言うと、その場を去っていった。

「さ、リディア行くぞ。」
「もうっ、待ってよぉ!ハート型の紫陽花見つけたいからゆっくり見たいのっ!」
「はいはい、そうですか。」

リディアは夫の素っ気ない返事にムッとし、繋いでいた手を離すと紫陽花園の中をゆっくりと歩きながらハート型の紫陽花を探し始めた。エッジはリディアのペースに合わせ、両手を頭の後ろで組みながら彼女の後ろからついて行くように歩いていった。

「ん~、ないなぁ…。どこにあるのかしら。」

真剣にハート型の紫陽花を探す妻の姿を呆れ顔で眺めるエッジ。彼としてはリディアと手を繋いで一緒に紫陽花を愛でたいのに、彼女は最早それどころじゃないようである。

「なぁリディア、そんなに必死になることねぇじゃねぇか。」
「え~、だって見つけたいんだもん。ねぇ、エッジはそっち探してよ。」
「へいへい…。」

適当に返事をして紫陽花を眺めるエッジ。すると彼の目に留まったのは…

「!おい、リディア!」
「え、見つけたの!?」

嬉しそうに駆け寄るリディアの目の前には…

「ほら、見てみろよ。こんなでけぇナメクジ珍しくねぇか?」
「…。」

ニヤニヤする夫を無視し、リディアはハート型紫陽花を再び探し始めた。

「何だよ、そんな怒るなよ~。」

これからも仲良くしたいからハート型の紫陽花を見つけたいという女心を理解していない夫の悪ふざけに腹を立てたリディアは、彼の呼びかけに知らん顔を決め込んだ。

エッジが後ろからゆっくりと近づき、そっとリディアの細い肩を抱いてやると、華奢な身体はピクリとした。

「…そんなにハート型の紫陽花見つけてぇのか?」

囁くように尋ねてくる、いつもより低めで、甘いようなエッジの声。思わず身を少し竦めると、俯き気味にコクリと頷くリディア。

「…だって、エッジとずっと仲良しでいたいもん。」
「ん…そうか。」

自分とずっと良好な関係でいたい、10年以上も想い続けた愛しの女性にそう言われては、エッジの頬は赤くなる以外なかった。

「じゃあ、一緒に探すか。」
「うん!」



2人は手を繋ぎ、一緒にハート型の紫陽花を探した。







「んー…見つからないなぁ。」

紫陽花園の半分ほどを探したものの、ハート型の紫陽花は見つからない。リディアはやや元気がなくなった様子で、エッジの肩にもたれかかった。

「ちょっと休憩しねぇか?そこに茶店があるしよ。」
「うん…。」

2人は紫陽花園の中にある、簡易喫茶へと入った。そこは紫陽花を見に来た国民達で賑わっている。

「これはお館様に奥方様!いらっしゃいませ。」
「あれ?ダンカン、お前ここに店出してたのか?」

昼間訪れた米農家の主人に出迎えられ、エッジは目を丸くした。

「そうなんですよ!うちと緑茶農家の共同で特別なエブラーナ菓子を作ってましてね、この場を借りて売り出しをさせてもらってるんですよ。さぁさぁこちらへお掛け下さいませ!」
「へぇ、そりゃまた。どんな菓子なんだ?」
「はい、すぐにお持ちいたします!」

そう言ってテーブルに並んで座った2人にダンカンが出してきたのは、涼しげな透明の硝子の器に盛られた白玉団子と粒餡が乗せられた緑茶色をしたアイスクリームだった。

「これ…アイスクリーム?緑色なんて初めて見たわ。」

リディアの言葉を聞いたダンカンは笑顔で説明し始める。

「奥方様、これは粉末の緑茶を混ぜて作った、抹茶アイスクリームでございます。アイスクリームの甘さと抹茶の苦味の組み合わせが絶妙で、今年この紫陽花園で出店してからずっと若い女性を中心に大人気なんです!その白玉団子はうちで作った米を原料にした米粉で作ってあるので、白玉粉で作ったものよりもずっとコシがあって美味ですよ!」
「へぇ…じゃあいただくわね。」

リディアが抹茶アイスクリームと白玉団子をぱくりと食べると…

「美味しい!」

さっきまで少し疲れた顔をしていたのに、特別な菓子の甘さにあっという間に満面の笑みを浮かべたリディア。愛らしいその姿に、エッジの表情はみるみる緩む。するとそれを見たダンカンがクスクスと笑い出した。

「お館様、またそのような締まりのないお顔をなさって…。」
「あ?」
「昼間うちに来た時、奥方様の話になった途端同じ顔をなさってたではないですか。」
「え?」

ダンカンの話を聞いたリディアがエッジの方を見ると、彼は顔を背けた。

「昼間お館様がうちに来た時、私が奥方様はお元気ですかと尋ねただけなのに、お館様は笑顔で奥方様の自慢話を始められましてねぇ。挙げ句の果てに『うちの嫁は世界一いい女だ!』と仰ってたんですよ。」
「ダンカン!余計なこと言うんじゃねぇ!!」

エッジの顔は真っ赤だった。国王だというのに、リディアの事となると威厳も何もない弄られキャラと化す夫。

「んもぅ、エッジのバカ…。」

頬を赤く染めて食べかけの抹茶アイスクリームの硝子の器を持ったままもじもじとするリディア。

「はっはっは、これは余計な事を申しましたかな?ではお2人とも、どうぞごゆっくり。」

笑顔で仕事に戻るダンカンを見届け、2人が顔を見合わせると、相手の真っ赤な頬がそれぞれの目に映る。どう会話を始めたら良いのか分からず、お互い口をもごもごとさせた。

「ん…エッジ。」
「へ?」
「ダンカンが言ってたの、本当なの…?」
「…おぅ。」


リディアの顔はすっかり火照り、今にも火が出そうなくらいに赤くなっていった。



「…ダメだったのかよ?」
「ダメじゃないけど…恥ずかしいよ…。」

エッジが頭を掻きながら言葉を選んでいると、リディアの色白で華奢な手がそっとエッジの手に触れた。その手がきゅっと彼の大きな手を握ったので、エッジの深い色の瞳はリディアの翡翠色の瞳を見つめた。



何も言葉を交わさずとも、お互いへの想いが手の温もりと見つめ合う瞳から伝わり合っているような気持ちになり、目を閉じた2人の唇の距離がぐんぐん縮まっていくと―――



「あ!お館様とリディア様がまたチューしようとしてるー!」

さっきと同じ少女の声が響き、我に帰りとっさに身体を離す国王夫妻。またしても周りの国民達は微笑ましそうに2人のことを眺めていた。

「これっ!こっちに来なさい。お館様、リディア様、本当に邪魔ばっかりしてしまって…ほほほほ。」

少女の母親は今回もさぁ続けて下さいと言わんばかりの態度だった。


「あ、いや…その…あぁ…リディア、すまねぇ。」
「ううん、ごめんね…皆見てるのに。」

2人はしばし無言になり、出された抹茶スイーツを平らげる。エッジが食べ終わった硝子の器をテーブルの上に置くと、同時にリディアが自分の器を置く音と重なった。

「あ。」

2人の声まで重なり、自然に笑いがこみ上げてくる。

「ははは。」
「ふふふ。」

笑顔で見つめ合うと、離れていた手と手がそっと触れ合い、2人の体温がゆるりと溶け合っていった。心地良い温もりがエッジとリディアの身体を包み込み、自然と頬が紅潮する。

「美味しかったね。」
「おぅ。リディア…そろそろ行くか?」
「うん。」

椅子から立ち上がり、代金を払うと、2人はまたハート型の紫陽花を探すべく歩き出した。

「ハート型の紫陽花、見つけたいなぁ…。」
「ん、そうだな。まだこっちにたくさん咲いてるし、ありそうだけどな。」
「うん!」







*****



「あーぁ、見つからなかったなぁ…。」

結局ハート型の紫陽花を見つけられずに紫陽花園を後にしたリディアは、夕暮れ時の空の下でガッカリした様子で呟いた。

「そんなガッカリすんなよ。来年また行こうぜ?」
「うん…。」

エッジが歩きながらリディアの肩を抱いてやると、まだ赤みの残る空の光に染まる緑のふわふわとした長い髪がエッジの肩にかかってきた。エブラーナ城に近付いてきても、リディアはまだ浮かない顔をしている。

「…そんなに見つけたかったのか?」
「…うん。」
「ったく、しょうがねぇなぁ…。」

呆れた様子でそう言うエッジは、自分の懐から何やら取り出した。リディアの目に入ったのは…

「…!!エッジ、これは…!」

エッジの手には、昼間の明かりが無くても明らかにそれだと分かる、ハート型に咲く紫陽花。

それを手に持たされたリディアは、一瞬、驚きで思考が止まってしまった。

「エッジ…見つけてたの?いつの間に…。」
「…あのでかいナメクジの横に咲いてたんだよ。」




―――興味なさそうにしてたのに、本当は私の気持ち、ちゃんと汲んでくれてたんだね


どうしよう

嬉しくて胸がドキドキして、苦しいよ―――





速まる鼓動を落ち着かせようと、胸に手を当てるリディアは少し俯き、この気持ちをどうしたらいいか必死に思案していると、エッジの腕が優しくリディアを包み込む。

「…!エッジ…。」

黄昏時の空の色を背景にするエッジの顔を見上げると、薄暗い中でもふわりと温もりを醸し出すその表情はとても穏やかで優しくて、リディアの全てを受け入れてくれるような、そんな安心感を漂わせていた。

「…ありがとう。」

エッジの胸に思わず顔を埋めてそこに頬をすりすりさせると、彼の匂いと体温が心地良くって、リディアの顔が綻ぶ。

「何やってんだよ~、お前犬か猫みてぇだな。」
「だって、あったかくていい匂いがするから…。」

エッジのふっと笑う声がしたかと思うと、彼の大きな手がリディアの柔らかな髪を撫でる。ハート型の紫陽花の茎を握りしめたまま、ぎゅっと彼の背中にしがみつく。今の自分の気持ちをどう言葉に置き換えれば伝えられるのか分からなくて、ひたすらエッジの温もりに身を寄せた。



どんなわがまま言っても、優しく応えてくれるあなた

これからもずーっと、私と仲良くしてね?


寄り添って咲く、紫陽花のように―――





「…これで、俺とお前はずっと仲良しだな?」

エッジの問いかけにはっと顔を上げると、さっきと変わらない、優しい笑顔。彼への愛おしさがこみ上げ、翡翠色の瞳はみるみる潤んでゆく。

「…うん、ずっと仲良しだよ。」
「じゃあ…。」

きょろきょろと周りを見渡したエッジ。何をしているのかと不思議に思っていると…

「よし、誰もいねぇし今なら…」



ちゅっ。



「へへ、やっとキスできたな。」
「もう…恥ずかしい。」

エッジから少し視線を逸らすリディアだが、その表情は好きな男性に愛されて、幸せいっぱいな艶っぽい女の顔。



端正なエッジの唇と、小さな花のような瑞々しいリディアの唇が再び重なり合うのを見ていたのは、リディアの手に握られた、黄昏色に染まるハート形の紫陽花だけ…。

―完―
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