2015
08.16

「Jealousy」

かなり久しぶりの更新です!こんなこともエッジとリディアにあるんじゃないかな~と思って書きました。但しお館様の過去を捏造&R-18です。苦手な方は御遠慮下さい。






「Jealousy」








「あ~、リディア…どうしたら許してくれるんだよ…。」
「何故にこんなものを残していらっしゃったのですか!奥方様がご覧になったらご立腹されることぐらい予想できたでしょうに!」
「んな事言われたってよ…まさか残ってるなんてよ…。」





執務室で家老に窘められるエッジの机の上には、男性用のエブラーナの御守りと1通の手紙。







昨日のこと―――







「リディア、行ってくるぜ。」
「うん…行ってらっしゃい。」


今日はエッジが朝から公務で他国へ赴くため、城を1日留守にする。見送りに城門まで来たリディアは、彼の顔を見上げながらじっと見つめていた。自分を少し寂しげな表情で見つめる妻が愛おしくて、エッジの手は自然と彼女の背中と腰に回る。


「やだぁ…エッジ。」
「んだよ、お前がこうしろって顔するからじゃねぇか。」


家臣や衛兵達がいる前でぎゅっと抱き寄せられ、恥ずかしくて思わず夫の胸に顔を埋めるが、その姿がまた初々しくて、これから仕事だというのにエッジの胸は高鳴ってゆく。


「リディア…勘弁してくれよ。仕事行けねぇじゃねぇか。」
「バカ。」


自分への想いを耳元で囁かれ、愛される女の悦びと羞恥心が入り混じる。


「…行かなくていいの?」
「行くけどよ…」


もう出発しなければ仕事に間に合わないというのに、リディアを抱きしめるエッジの腕の力は弱まらない。リディアは思い切ってエッジの胸から顔を離し、彼を仕事へ送り出そうとする。エブラーナ王妃として、国王である夫への他国からの信頼を壊すわけにはいかない。



「リディア…。」
「早く行かないと…遅れちゃうよ?」


早く仕事に行けと促され、頭を掻きながらふーと大きく息をつくと、ついさっきまで愛する妻を胸に抱いて緩んでいたエッジの表情は、精悍な忍びの国の王のものに切り替わる。


「…じゃあ、行ってくる。」
「うん。気を付けてね。」
「おぅ…。そういや昨日言った仕事、頼んだぜ?」
「大丈夫よ、こないだちゃんと教えてもらったから。」
「そうか。…夕方には帰ってくるから、夜は覚悟しろよ?」
「もうっ…。」



エッジが仕事で城にいなかった日の夜は、そうでない日と比べると一層熱いものとなる。今夜もそうなることを想像してしまい、リディアの頬は赤みを帯びる。そんな姿を見たエッジの口元は緩み、ふっと笑う声が漏れる。


「じゃあ…行ってくる。」
「うん…。」







仕事へと向かう夫の背中を見送ったリディアは執務室の椅子に座り、仕事を始める。しかし、少し進めたところで必要な資料が揃っていないことに気が付いた。


「えーと、ここだったかしら?」


執務室にある本棚を覗いたり、引き出しをいくつか開けてみるが、目的の資料は見つからない。



「ん~、どこだったかしら…エッジにちゃんと聞いておけばよかったなぁ…。」



資料の在り処をあやふやにしか把握していなかったことを後悔しながら探し続けるリディア。そして大きな本棚の下部にある引き出しを何となしに開けてみると…



「あ!あった…!はぁ…見つかってよかったぁ。」


やっと目的の資料を発見し、これで何とか夫が帰ってくるまでに仕事を仕上げられそうだと安心するリディア。すると…



(この箱は…?)


引き出しの資料の間に、挟まるように入り込んでいる小さな木箱。濃紺の絹の紐で括られたその箱は、おそらく桐でできているのだろう。安物の木箱には決してない重厚さと気品が漂っているように感じられる。


木箱を手に取り、紐を解いて蓋を開けてみると、そこには深みのある青色の布地に金と銀の刺繍が入ったエブラーナの御守り。


(この色は…エッジの御守り?)


エブラーナでは御守りを持つことで神の加護を受けることができ、悪しき事から守られると信じられている。近年はそういった信仰は薄れているものの、少し前までは多くの者たちが御守りを所持し、身の安全を祈っていたのだ。



木箱からそっと御守りを取り出し、それを眺めるリディア。何と無く高貴な白檀の香りがしてくるようである。そして箱の蓋の裏側には三つ折りにされた高級な和紙。



「手紙かしら…。」



蓋の裏にある切れ込みにセットされた小さな文をそっと取り出し、広げてみると…



『親愛なるエドワード様

いつまでも貴方様と御一緒できることを願い、この守りを贈ります。』




文章の終わりには、リディアの知らない女性の名前。




寒気のような衝撃が、リディアの全身を走り出す。とても整った字で書かれたその文は、上品なエブラーナの女性が書いたのだと思わせるのに十分だった。文を持つリディアの手が微かに震え出し、胸の奥からふつふつと不快な感情が湧いてくる。









*****



「お館様、お帰りなさいませ!」

「おぅ、ご苦労さん。…あれ、リディアはいねぇのか?」

「奥方様にはお館様がもうすぐお戻りだとお伝えしたのですが…。」

「ん…そうか。」




エッジはリディアがいるであろう執務室へエッジは執務室へと向かう。そしてドアを開けると、愛しの妻の後ろ姿が目に入って来た。


「リディア~、ただいま~。」


甘えた声を出して後ろから妻をギュッと抱きすくめ、柔らかな緑の髪から香る優しい匂いを堪能する。


「あぁ~、いい匂い…たまんねぇなぁ~、ぐふふふふ。」


執務室に家臣が誰もいないことをいいことに、エッジは手をするするとリディアの胸のふくらみへと伸ばしていった。


「…何するのよ。」

「ん~?」


低い声で発されたリディアの一言は、何やらただならぬものを感じさせるには十分だった。しかし仕事を終えた後の妻の温もりの格別さに支配されたエッジの思考はあまり機能せず、そのまま柔らかなふくらみを撫で回す。



「…リールって、誰?」

「…へ?」



聞き覚えのある女性の名前を聞き、エッジの手は漸く動きを止めた。







(リールって…まさかあの…?いや待てよ、何でリディアが知ってるんだ?)







思いがけないリディアからの一言に、何があったのかとエッジの思考は急速に回りだす。



「えーと…リディア、お前何で…」
「これ、どういうこと?」
「?」



やっとエッジの方を向いたリディアの手にある御守りと手紙。手紙を手に取って読んだエッジは突然ハッとして切れ長の目を見開いた。



「こ、これは…!」



リディアの方を見ると、普段は愛らしい翡翠色のぱっちりとした瞳はエッジを睨みつけていた。彼女がそうしている理由を察したエッジは訳を話そうと口を開く。


「これは昔付き合ってた女がくれたんだけどよ、決して未練があるとかじゃねえぞ?リールは…」


リディアと出会う、何年も前の昔の彼女。やや気まずい思いをしつつも何もやましいことはないのだから、堂々と説明をしようとするエッジだが、リディアが先ほどよりも殺気立っていることに気付き、思わず話を中断してしまう。




「…何黙ってるの?」

「いや、その…そんな怒るなよ…。リールはさ、俺に…」



さらに殺気を増す妻を前に、話ができなくなるエッジ。やましいことがないのなら、何故スムーズに説明できないのかと勘繰るリディアの表情は険しく、ますますエッジは委縮し、言葉が出なくなってしまうという悪循環に陥っていく。



「あ、あの…リディア?」
「…。」


リディアは黙って俯き、エッジから視線を逸らすと身体の向きを変えてしまった。さすがに危機感を感じたエッジは、恐る恐るリディアを背後からそっと抱きしめる。




「リディア…あのさ、聞いてくれ。リールと付き合ってたのは事実だけどよ、もう20年以上も前の話で、お前と出会う前に関係は終わってたんだ。だから…」


だから何らやましいことはないのだが、現実は彼女がくれたものが残っている。いくら何もないと言われようと、その事実はリディアに不快な感情を呼び起こさせてしまう。





「…だから何?」


可愛い声がすっかり威圧感を含み、エッジは思わず後退りする。幾多の戦火を切り抜けてきた忍びの一族の長が唯一恐れている爆弾が、今まさに爆発しようとしている。


「え、えーと…いや、すまねぇ、リディア。」


エッジにしたら、妻を怒らせてしまったことを詫びるしかない。だがリディアはそんな夫とは視線を合わせず、自分の仕事道具をさっさと手に持ち、執務室を出て行ってしまった。



「お、おいリディア…!」




自分の名を呼ぶ夫には目もくれず、執務室から遠ざかっていくリディア。今までに何度も喧嘩はしてきたが、他の女性が原因となったことはなかったため、リディア自身もどう思いをぶつければいいのか分からない現実。エッジの方も、若かりし頃は多くの女性を見てきたものの、リディアと恋仲になってからは彼女一筋。本気で惚れ込んだがためにすっかり不器用になってしまい、どう対処したものか分からず、右往左往する始末。













その夜―――









(リディア…まだ起きてるよな?)



早めに仕事をひと段落させ、湯浴みを済ませて妻のいる寝室へと急ぐエッジ。夕食もリディアが別室で食べたいと申し出ていたため、話すチャンスがないままこの時間となってしまった。




(あれ?)


部屋の中はすっかり暗い。いつもならエッジが遅くなってもついているはずのベッドサイドの明かりすら消えている。忍びとして暗い中でも見えるように訓練はされているから困ることはないのだが、普段とは違うシチュエーションがエッジを何となく身震いさせる。



大きな音を立てないようにベッドに上がると、リディアはエッジに背中を向けた状態だった。特に指示されたわけでもないのに、正座してしまったエッジは、妻の背中と向き合う。そして…





「リディア…もう寝ちまったか?」


絶妙に張り詰めた雰囲気の中、思い切って声をかける。何とかして仲直りするきっかけを作りたい。





「あのさ、今日の昼間のことだけどよ、例の手紙と御守りは別に残そうと思って残してたわけじゃねえし、ましてお前以外の女と遊んでるなんてことは一切ないからな?あんなもんが残ってるなんて俺もびっくりした。もう俺には必要ないし、処分する。それでよ…」




何の反応もないリディアの背中を前に、何をどう言えば分からなくなってきたエッジ。徐々に語気が弱まり、言葉に詰まってしまった。暫し正座したまま首を項垂れた後、どうしようもなくなって布団の中に潜り込むしかなかった。




(そうだ!明日は公務でトロイアに行くから…)









******




「ではエドワード陛下、お気を付けてお帰り下さいませ。」
「おぅ、また次回よろしくな。」



翌日正午前、早々に外交の仕事を終え、トロイアの神官達に見送られて城を後にし、城下町を歩くエッジの足は、トロイアで1番の品揃えを誇るジュエリーショップへと向かう。



「いらっしゃいませ…あら、これはエブラーナのエドワード陛下!」
「よぅ。…あのさ、大陸の女の人の間で流行ってるアクセサリーがあったら見せてくれねぇか?」
「ありがとうございます。こちらはいかがでしょうか?バロンの御婦人達にも人気ですのよ。」









(よーし、これで準備万端だ…。)



帰りの飛空挺に向かうエッジの手には、ジュエリーショップで購入したネックレスが入った箱に、大陸産の紅茶とクッキーが入った紙袋。すると…




「きゃー!エブラーナのエドワード様よー!!」



俗にいう黄色い声が耳に入り、何事かと振り向いたエッジの目の前には、昼間から客引きをする、かの有名な会員制パブ・「王様」の女性店員達。エッジに群がる女性達からは、強烈な香水の香りがプンプン。慣れない女の香りに、忍びの長は顔を顰めてしまった。


「エドワード様ぁ、せっかくトロイアにお越しになったのに、もう帰っちゃうんですかぁ?」
「私達とお茶でもいかがですか?うふふ…」



バッチリ化粧に露出の多い服装の若い女性達に擦り寄られ、逃げ場を失うエッジ。男ならば普通は喜ぶシチュエーションだが、今のエッジには非常に困る状況。一刻も早く帰ってリディアと仲直りしたいのに、ここで時間を食ってしまっては余計な疑いを招きかねない。













「あー…気持ち悪りぃ…。」


何とか女性達を振り切り、全力疾走でトロイアの郊外にある飛空艇まで辿り着いたエッジは疲労困憊状態。息切れに加え、まだ鼻に残る香水と化粧の匂いの相乗効果でエッジは吐き気を覚えた。あまりに顔色が悪いので、主君を待っていた家臣たちは何事かと心配げな表情である。


「お、お館様…いかがなされました?ご体調でも悪いのでは…。」
「!い、いや大丈夫だ!それより早く出発してくれ…。」
「???はぁ…では離陸いたします。」









(ふ~…)


飛空艇のプロペラ音が響き、空高く飛空艇が舞い上がると、鼻からすっと入ってくる上空の空気がエッジの全身を晴れやかに浄化してくれるようだった。最早リディアの優しい香りに慣れたエッジに、こなれた女の匂いは耐え難い。昔ならば女の匂いがする場所へと繰り出していたというのに、自分も落ち着いてしまったものだと、飛空艇の甲板でしみじみとするエブラーナ国王の脳裏に浮かぶのは、リディアの花のような笑顔。





(リディア…待ってろよ。)


トロイアのジュエリーショップで買ったのは、エメラルドのネックレス。ダイヤモンドのネックレスを勧められたが、リディアが気に入るものをと考えたエッジは、エメラルドを選んだ。きっとリディアは喜ぶに違いない、そう確信するエッジの足取りは軽く、エブラーナ城に着くと挨拶する兵士や家臣達を尻目に颯爽と妻の元へと向かう。



「リディア、ただいま!」



意気揚々と執務室のドアを開けるが、そこは無人だった。肩透かしを食らったような気分になるエッジだが、妻と仲直りするためにはこの程度で気落ちするわけがない。おそらくリディアは気まずくて、自分とあまり顔を合わさないように別室にいるのだろう。すぐさま執務室を出て、そこから数部屋離れた書斎へと向かう。







(よし、あいつの気配がするから間違いない。)


部屋の前で深呼吸し、ドアをノックすると…


「はぁい。」


昨日からまともにリディアと会話ができていないエッジの耳に、彼女の可愛い声は大きく響く。



「リディア、ただいま!」


ドアが開き、リディアの姿が見えた瞬間、満面の笑みを浮かべるエッジは両腕で彼女の華奢な背中を包み込み、自分の胸元へと抱き寄せる。エッジにとって一番落ち着く香りがすっと全身を駆け巡り、色白のおでこや頬、瞼や耳の後ろにちゅ、ちゅ、とキスを降らせた後、ゆっくりと息を吸い、愛する妻の香りを堪能する。


「リディア、お前が好きだって言ってたクッキーと紅茶買ってきたんだ。丁度3時回ったとこだし、一緒に食おうぜ。それと、これはお前にプレゼントだ。大陸で流行ってるデザインなんだってよ。着けてやるから、後ろ向い…」

「…の匂いがする。」
「んっ??」




小さいが、怒りのこもった声に、エッジは一瞬にして固まった。


「エッジ、女の匂いがする…。」



(あの女どもの香水の匂いか…!)




リディアの言っていることを理解したエッジの全身からは、冷や汗が吹き出す。服に付いていた匂いの原因にもちろんやましいことはないが、またしても妻が機嫌を損ねる失態を犯してしまったエッジの全身に寒気が走り出す。事情を説明しようと考えたものの、激しく回転するエブラーナ国王の思考回路には、余計な疑いを生むかもしれないという懸念が浮上し、結局何も言えずに黙ってしまった。



「…トロイアに行ってたんだもんね。」



完全に自分の行動が裏目に出てしまっていることを物語るリディアの一言。石のように固まってしまったエッジからすっと離れるリディアは俯いており、表情を窺い知ることができない。







(あぁ…何でこうなるんだよ…。)



違う部屋へと移動してしまったリディアを追う力もなく、とぼとぼと執務室に戻ったエッジ。そこにいた家老に事情を聞かれ、お説教をくらったのである。



「長年お想いだった奥方様とやっと夫婦になったというのに…離縁にでもなったら、じいは自害いたしますぞ!」
「おいおい、気が早いって!何とかするから大丈夫だよ…。」




とは言ったものの、リディアはあからさまに自分を避けている。どうにかして話し合うチャンスをもてないかと思案したエッジが思い付いたのは…




(くそ~、こうなったら強行手段だな…。)














「ふー…。」



湯浴みを済ませ、ゆっくりと寝室への階段を上るリディア。今夜も夕食は別々に食べたため、エッジが今どうしているのか分からない。彼は必死で仲直りしようとしているようだが、簡単に許したくないという嫉妬心からか、今はまだあまり口を聞く気になれない。エッジが寝室に来る前に寝てしまおうと思いながら寝室のドアを開けると…



「よ、リディア。待ってたぜ。」


ベッドに寝そべっていたのは、いつもはリディアより遅く寝室にやって来るのがお決まりのエッジ。



「ほら、早く来いよ。寒いだろ?」



顔を背けてその場に立ち尽くしていると、夫は身体を起こし、腕を広げてリディアを優しく招く。



「リディア、こっち来いって。」



エッジの行動に、嫉妬で頑なになっていたリディアの心身は少し緩んだ感があった。しかし簡単に許したくないという気持ちがまだ働いていて、なかなかリディアの足はベッドへと向かおうとしない。



「…ったく、手のかかる奴だなぁ。」


エッジはドアの近くから動こうとしないリディアの元へと行き、さっと横抱きしてベッドへと戻り歩いた。



「ちょ、ちょっとエッジ…!」
「あんなとこに突っ立ってたら風邪ひくじゃねーか。布団あっためてあるからよ。」



ベッドにそっと下ろされると、目の前に座るエッジの深い色の瞳がじっと見つめてきた。





「…。」



気まずくて、リディアは顔を背けると同時に、座ったまま身体の向きも変え、エッジと目を合わさない姿勢を取った。エッジがふー、と息をつくのが聞こえたと思ったその時…



「リディア…。」





背中がエッジの体温にそっと包まれ、大きな両手がリディアの身体の前で緩く交差する。いつもならきつく抱き締められ、熱く深い口づけのひとつでも交わされるが、リディアが動こうと思えば動けるほどの優しい力加減。決して自分の気持ちを無理強いしない、そんなエッジの気遣いが伝わってくるようで、全身が温かい何かでふわりと包まれ、嫉妬と疑いの鎖で縛られていた心は確実に解放されてゆく。



「リディア…。」




再び名を呼ばれ、耳にエッジの穏やかな吐息がかかる。その微かな温もりに反応するように、リディアは僅かに視線をエッジに向けた。



「んっ…。」



色白のきめ細かい頬に、エッジの唇がそっと触れる。ほんの数秒ののち、リディアはようやく肩越しにエッジと視線を合わせた。



「…やっとお前の顔が見れた。」


リディアの視界に入ったのは、嬉しそうに微笑むエッジ。





「…身体ごとこっちに向いてくれよ。」



少し俯き気味に、いつもより弱めの声で妻にお願いするエッジ。その様子からは、今回の1件を許してもらえるのか不安な彼の心情が見て取れる。黙って少しずつリディアがエッジの方に身体を向けると、忍刀のような切れ長の彼の目は、しっかりとリディアの翡翠色の瞳を捉える。そして数秒間の沈黙を破ったのは…



「リディア、俺は断じて、浮気はしてねぇ。」



先程とは全く異なる声のトーンでそう言い切るエッジの表情は、とても真剣。その疑う余地のない正々堂々さに、リディアはたちまち釘づけ。見つめ合うふたりの瞳は一寸のずれもなく、ぴたりと視線が合わさっていた。



「確かに俺はリールと付き合っていた。けどそれはお前と出会うずっと前の話で、20年以上前の話だ。あの御守りと手紙は、もらったことも忘れていたし、残っているのも俺は知らなかった。…まぁ、お前にしたら単なる言い訳に聞こえるんだろうけどよ。」



エッジのしっかりとした口調に、リディアはただ黙って頷いた。



「それと、今日帰って来た時に女の匂いがしたのは、トロイアのパブの姉ちゃん達に絡まれたからなんだよ。ほら、あの王様って名前のでっかいとこ。仕事でトロイアにはちょくちょく行ってるから、どうやら顔を覚えられちまったみたいでさ。逃げるの大変だったぞ~。」



苦笑するエッジに、リディアは何となく口元が緩むような気がした。女の扱いに慣れているであろう夫が、こんな不器用な一面を見せるなんて、何となく愛おしく感じられる。





「…もう1つ言っておくと、リールはもうこの世にはいねぇんだ。」




予想外の夫の言葉に、リディアのぱっちりとした翡翠色の瞳は驚きを隠せなかった。



「…そう、なの?」



「あぁ。付き合って1年ぐらいたった頃、めっきり姿を見せなくなったんだ。あの子はエブラーナ貴族の娘だったし、その一族の関係者に聞いたら、病で伏せっているって。見舞いに行った時は、もう長くはないって聞かされてよ。あの時はまだ若かったし、そんな真剣に付き合ってたわけじゃねぇけど、さすがに一大事だって思ったな。」



全く知らなかった夫の過去に、リディアは驚きつつも耳を傾け続ける。



「見舞いに来た俺の姿を見た途端、病気で苦しそうな表情が一変してすげぇ嬉しそうな顔してたな。」





“エドワード様、私はいつまでも貴方様の幸せを祈っています―――”









その2日後、リールが亡くなったという知らせがエッジの元に届いた。















「…こいつが残ってたってことは、病気で死にそうになっても俺の事を気にかけててくれてた子にもらったもんを捨てるのはさすがに気が引けちまったのかもな。」




そう言ってエッジが懐から取り出したのは、あの桐の箱。



「…持ってきたんだ。」
「おぅ。…お前の手で、こいつを焼いてくれよ。」
「え??焼くって…」



エッジの言っている意味がよく分からずに戸惑っていると、桐の箱がそっとリディアの手に乗せられた。


「こないだ神社で破魔矢を焼いてたの見ただろ?あーいう縁起物は捨てずに焚き上げるんだ。…こいつを神社に持って行くのは大袈裟な気がするし、お前の手で焚き上げてもらったらいいかなって思って。」



今の俺には、お前がいる



だからリディア、その手で焚き上げて欲しい







「…いいの?木と紙だし、焼いちゃったら何も残らないよ?」


大陸育ちのリディアにとって、まだまだエブラーナの文化は理解できない部分があるだけに、何となく怖気付いてしまう。


「いいんだ。そうすりゃリールも浮かばれるだろうしよ。俺は今すげぇ幸せに暮らしてる、ってことでな。」


エッジの太陽のような笑顔は、今まさに彼が幸せ真っ只中であることを物語っていて、リディアは照れ臭くて少し目を逸らした。


「エッジ…?」



さっきと同じぐらいの力で、緩く優しくエッジの腕がリディアの身体を包み込むと、両頬とおでこ、鼻先にちゅ、ちゅ、と小さな音を立ててエッジの唇が触れてくる。じっとリディアを見つめる夫は、切れ長の目のせいで少し威圧感があって、真面目だけれど優しい表情。



「…焼くから、窓辺に行かせて。」



ベッドから下りて寝室のバルコニーへと向かい、窓を開けると、リディアの手のひらの桐の箱は月の光で白く照らし出された。一歩外に出たリディアが目を閉じて3秒も経たない内に、小さな火が桐の箱の端に灯る。



みるみる橙色の光に包まれた箱は原型を失い、小さな灰となって細い煙と共に天へと登っていく。その様子を見ながら、エッジはリディアの元へと歩み寄って行った。



燃えるところが無くなって、自然と橙色の光は消え去り、リディアの手のひらに残ったのは、数片の残骸。


「エッジ…焼いたわよ。」


リディアが背後にいるエッジの方を向いた途端、緩やかな風が華奢な手のひらの上をひゅうっと通る。


「あっ…。」


あっという間に風に攫われていった残骸。決して強くない、ふわりとした風だったが、燃え残った木と紙の欠片を吹き飛ばすには十分なものだった。


「…飛んでっちゃったね。」
「あぁ。」


喧嘩する原因となった過去の思い出は、風と共に天に召された。やや複雑そうな表情で見つめてくるリディアを、エッジは両腕でしっかりと抱きしめる。どう反応して良いか分からず、エッジの胸に顔を埋めると、大きな手がリディアの緑の柔らかな髪を撫でてくる。


「…そうだ、肝心な事を言ってなかったな。」


そう言って髪を撫でる手を止め、リディアの顔をじっと見つめる。夜の帳の中、月の光が優しく降り注ぐバルコニーで、エッジがゆっくりと口を開く。


「リディア、嫌な思いさせちまってごめんな。」


まだいくらかリディアの中に残っていた不快な感情は、エッジの真っ直ぐな言葉と視線を前に、すっと消え失せていった。代わりに何かとても心地良く、むずかゆい様な感情が湧いてきて、頰は少し薄紅色を帯びる。彼に対する言葉も浮かばず、ただ小ぶりの唇を微かに動かす。



エッジの腕に力が入ったのを感じた直後、優しくほっとする柔らかい感触が唇を温かく包み込んでいるのに気が付いた。ついさっきまで口を聞きたくなかった夫の口づけに、全身の力が忽ち抜けていってしまう。だんだんとリディアの唇を吸い上げるような力が加わってきて、鼻で呼吸していると、エッジの抱き寄せる力がぐっと増した。それとほぼ同時に、リディアの細い手はエッジの胸元にきゅっとしがみつく。


「はぁ…。」


長い長い口づけを終え、息を整えながら見つめ合っていると、お互いに口元が緩み、自然と笑い声が漏れ出す。


「もう~、苦しかったぁ。」
「何だよ、いいじゃねぇか。」


文句を言うふたりの表情は笑顔でいっぱい。エッジもリディアも、両腕を相手の背中に回し、しっかりと身体をくっつけて、愛おしい体温を感じ合う。


「…そうだリディア、今日トロイアで買ってきたネックレス、着けてやるよ。」


ベッドサイドのテーブルの上には、昼間見せられた箱。リディアが小さく頷くのを見たエッジは、彼女の肩を抱いて、夜の光で青白く照らされるバルコニーからベッドへと移動した。


「リディア、後ろ向いてくれ。」


エッジに背を向け、ネックレスを着けやすいようにと、長い緑の髪を束ねて左肩へと流した。緑の髪と色白のうなじがベッドサイドの明かりに照らされるその光景は神秘的で、尚且つ妖艶な雰囲気を醸し出す。


「…綺麗だ。」


まだネックレスを着けていないのに発された言葉に、リディアはふっと笑みをこぼす。箱からネックレスを出し、金具を留めると、エッジはリディアのうなじを舌でべろりと舐め上げた。


「やっ…!」


エッジの舌の感触に、思わずビクリとして軽く跳ね上がるリディアの身体。耳元でくくっと笑われたので、振り向いて文句のひとつでも言おうとしたら、背後から回されたエッジの両手がリディアの寝間着の襟元を大きく広げていた。


腰紐を緩めると、リディアの寝間着は華奢な肩に沿って、きめ細かく滑らかな肌をするすると滑り落ちる。


「やぁん…。」


リディアは両腕で胸元を隠したが、肩から背中はエッジの削ぐような視線に晒され、すぐさま彼の唇が肩に触れてくる。


「あっ…や…。」


肩から背骨に沿ってキスが次々と落とされ、その度にリディアの肢体は小さく跳ねて、艶かしい吐息が漏れる。腰の方へとキスが下りてゆき、リディアの寝間着はエッジが少し引っ張るだけでするする滑り落ちていった。


腰と脇腹、二の腕にもちゅ、ちゅと小さく音を立てて、隈なくキスをしていくエッジ。優しく刺激され続け、リディアは脚の間の奥が熱くなるのを感じていた。その間、エッジの器用な指が緩んでいたリディアの腰紐を解き、隠されていた色白の素肌を露わにする。そのままベッドに横たわるよう、エッジの手がリディアを促す。うつ伏せと横寝の間に近い状態となったリディアは、胸元とベッドの間にプレゼントされたエメラルドのネックレスのチャームの硬く冷んやりとした感触があるのを感じながら、脹脛から爪先に向かってちゅ、ちゅと音を立てる柔らかな刺激が与えられているのに気付く。


爪先の後は足の甲、脛、膝、太腿へとキスが上ってゆき、だんだん下腹部にエッジの顔が近付いて来て、身体の奥がいよいよ疼き、リディアは思わず身を竦めて彼を見つめる。視線に気付いたエッジは口元が緩み、リディアを仰向けにして覆い被さるように体勢を変えた。


「何隠してんだよ?」


ちょっと意地悪そうな表情で見下ろしながら、指を絡めた両手をベッドに押し付けてくるエッジ。エメラルドのネックレスは、ツンと上を向くリディアの胸のふくらみの間で色白の肌によく映える、緑の光を湛えていた。双頭の桃色の柔らかい蕾には、刺さるようなエッジの視線。もう彼からは逃れられない。一種の危機感のようなものを感じながらもぽかぽかと心と身体が温まる様な幸せな気持ち。男女の悦びを分かち合う瞬間がもうすぐそこまで来ているのだと感じながら、リディアは彼を見つめていた。


「リディア、ネックレス似合ってるぜ。すげぇ綺麗だ…。」
「ほん、と…?あッ…!」


リディアの首筋を這い回るエッジの舌と唇。温かいような熱いような刺激に、甘い声が上がる。敏感な部分に対する刺激が堪らず、リディアはイヤイヤと言うかのように首を左右に動かす。


「リディア、嫌か?」


問いかけには答えず、悦びの世界へと近付いているいやらしい女の顔で見つめるリディアを前に、エッジはもう理性を保つ余裕がなかった。


「あんッ…!」


柔らかな胸のふくらみがエッジの大きな手で揉みしだかれ、桃色の蕾は舌で弾くように舐められる。全身が甘く淫らな快感で満たされ、それに反応して蕾は硬く立ち上がる。


「お前も限界なんだな…。我慢することねぇよ。」


何度も感じる部分を揉みしだかれ、鎖骨から下腹部まで余すところなくキスをされている間、リディアは両脚を何度も捩っては、愛撫を続けるエッジを切なげな表情で見つめ続ける。彼と目が合うと、大きな手がリディアの下着の中に入り込み、秘所を覆う小さな茂みから柔らかい裂け目に器用な指が辿り着いた。


「すげぇ…ぐっしょりだ。」


誰のせいでこうなったのか、リディアはエッジを責めてやりたい気分になる。つい小一時間程前までは彼と口も聞きたくなかったというのに、今リディアの身体は愛する男性を一刻も早く受け入れたいと言わんばかりの反応。


「あっ…やだぁエッジ…!」


下着の中で花弁を指で開かれ、露わになった花芯が指の腹で何度もなぞり上げられた。溢れ出す蜜が滑りを良くしており、快感が増してゆく。


「リディア…脱ぐか?」


自分の手業に悶える妻を、さらなる悦びの世界に導こうとするエッジの言葉。その表情は優しそうで、けれど卑猥な笑みが見て取れる。度重なる愛撫で、すっかり気怠くなってしまったリディアは少し視線を反らせたが、エッジにするりと下着を脱がされ、両脚を開かれた。



エッジもすぐに着衣を脱ぎ去り、熱く張り詰めた自身の先端をリディアの花弁に触れさせる。微かにくちゅ…という花芯が割られる音がした後、自身をしっかりと包み込む、熱く潤った道を滞りなく進んだエッジは、リディアと奥深くで結合した。


「エッジ…。」
「リディア…!」


結合したふたりは互いの名を囁き合い、唇を重ね合わせると、自然と舌が縺れ合った。熱い吐息と、ちゅぷちゅぷと淫靡な音が静かな寝室内に響き、月の光で青白いはずの夜の帳は、悦びを共有する男女の色に染まる。


「気持ち…いい…。」
「…すげぇな。」


高ぶる感情の影響か、少しでも動くと、そのまま達してしまいそうなほどの快感を伴う結合に、ふたりの鼓動が少し早まり、体温はじわりと上がった。


「んッ…ふぅ…。」


細くて白い両腕がしっかりとエッジの背中に回ると、さっきよりも濃く、熱い口づけが贈られる。角度を変えながら、もっと欲しいとばかりに唇を吸い上げ、器用に舌を口腔内に侵入させてくるエッジに、リディアは自分のそれをエッジの舌の動きに沿わせ、精一杯応えた。


「リディア…愛してる。」


いつもなら恥ずかしくて目を逸らしてしまうが、肌を合わせながらの愛の言葉は、素直に受け入れる気分になる。


「ごめんな…嫌な思いさせて…。」


真っ直ぐに見つめながら再び発される詫びの言葉。エッジの手がリディアの髪を撫で、頬を優しく擦り寄せてくる。心も身体もしっかりと繋がって、胸は高鳴り、結合部がますます熱くなるのを感じるリディアは、エッジの頬にそっとキスをした。


「リディア…!」


しっかりとリディアの細い身体を抱くと、腰を揺らして温かい彼女の内部を行き来し始める。


「あっ…あ…エッジぃッ…!」


まだ激しく動かれていないのに、いつもよりエッジのそれを感じてしまうのは、自分に対する彼の想いがそうさせているのか。秘所の奥から脳髄へ、そして全身へと快楽があっという間に支配していく。身体を揺らされ、眉間に眉が寄り、眦からは涙の粒が零れてきそうな表情が、ますますエッジの征服欲を増長させる。もう妻は自らの腕の中で乱れているのに、まだ足りない。もっと強く突き上げて、2度と出られない快楽の檻の中に閉じ込めてしまいたい。


「ひ…あぁっ…い、やッ…。」


自分の意思も何も言葉にできないぐらいに、エッジの熱く硬いそれがリディアの奥を突き上げる。激しさを増す腰の動きに、リディアは自らの思考も理性も何もかもが壊れてしまいそうだった。リディアが息絶え絶えに猥らな女の声を出すたびに蜜がエッジの動きを助長し、くちゅくちゅといやらしい音が立つ。


「はうッ…あぁぁぁぁ…ッ…!」


絶え間ない刺激でリディアの意識が快楽の園へと旅立とうとしている中、律動するエッジへの締め付けが強くなる。もっと乱れさせたい、こんなあられもない姿は自分にだけ見せてほしい。支配欲に駆られるエッジのそれが、狭くなる内部を執拗に擦り上げると、エッジは締め上げが急にきつくなるのを感じた。



「あ…ッ…!あぁぁぁっ…。」


柔らかい体内が不規則な収縮を起こし、身体をびくびくとさせてリディアが達するのを見届けると、エッジはギリギリ抑えていた欲求と熱をそのまま一気に解放した―――。










リディアはすっかり体力を消耗し、エッジに寄り添いながらウトウトとしている。乱れた緑の髪を直してやると、そこにはエッジがプレゼントしたエメラルドのネックレス。
愛し合ってる最中はリディアの胸元で激しく揺れていたが、今はリディア同様、静かにその場所で落ち着いている。おでこと頬に軽くキスをすると、リディアは目を開け、エッジを見つめてきた。


「リディア、ネックレス似合ってるぜ。」
「ん…。」


恥ずかしいのかお世辞だと思ったのか、あまりはっきりとした反応がない。優しく髪や頬を撫でてやると、心地良さそうに微笑んでくる。


「何だよ~。」
「うふふ…。」


やっと見せてくれた笑顔に、エッジは安堵の気持ちでいっぱいになる。リディアの表情一つで自分の心理状態が左右されてしまうなんて、いかに彼女に惚れ込んでしまっているかを物語っている。一国の王として、忍びの一族の長としてはあるまじきことではあるが、こうして一人の男でいさせてくれるリディアは、唯一無二の大切な女性。


「…ネックレス、大事にしてくれよ?」


リディアへの大きな愛は、どんな言葉を使っても表し切れなくて、ただそう言って自分の胸に抱き寄せる。


「うん…ありがとうエッジ…。」




温かい体温に包まれるふたりの唇は夜の帳の中、優しく、そっと重なり合った。






―完―

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